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○○な異世界の魔女

理想叶わぬ異世界の魔女

作者: 純太

『婚約破棄された異世界の魔女』からの続編第4弾です。

王宮魔術師になって2年目の年、王国近郊に凶暴な竜が現れ、国家に存亡の危機が訪れた。

国を守る為、国の精鋭を集め、竜討伐作戦が決行された。

その竜討伐隊に私も魔術師として出陣した。

しかも最前線。治癒魔術師なのに。

結婚を控えた私は、ここで死んでなるものか、と最前線の場で必死に戦い、必死のあまりほぼ単騎で竜を仕留めてしまった。


こうして私は、『竜殺し』とあまり可愛げのない渾名を付けられたのだ。


「竜殺しの剣を俺に鍛えてくれないか?」

「は?」

「最近、剣がすぐに壊れるんだ。俺の腕が上がった証拠なのだろうが、いくつも駄目にするのは虚しくてな。ニーナの剣の様に、丈夫な竜殺しの剣が欲しいんだ。」


そう言って、ロダンは私の腰にある『魔法の杖』を指し示した。


「何度も言うけど、これは魔術に用いる杖で、剣ではありません。」

「いや、どう見ても剣だろ。」


ロダンは首を傾け、何言ってんだコイツ、とでも言いたげな顔で私を見やった。


「それで竜に止めを刺してたじゃないか。鋼鉄よりも硬いと言われる竜の鱗を貫いて。」


そんな使い方もできる、『魔法の杖』なのです。


魔術師は魔術を行使する場合、術の発現を円滑にする為、魔術媒体を用いる。

その多くは、大小様々なサイズの木を削って棒状にした、如何にもな魔法の杖だ。

そして、魔術学園の入学準備物として、魔法の杖が入学の手引きに書かれていたのだ。

しかし、こう言った魔術的道具は総じて高額で、同じく高額だった魔術学園の学費を払う事が出来なかった私には、とてもではないが買える代物ではなかった。


そこで鍛冶屋の父が杖の代わりにと、剣を一振り鍛えてくれたのだ。

その剣に母と装飾を施し、私が魔術効果を付与し、魔術使用にに適した仕様にしたのが、私の『魔法の杖』だ。


余談ではあるが、先日の夜会でロダンに投げ渡したのは、私の『魔法の杖』だ。


「まあ、それはいい。それで、鍛えてくれるのか?くれないのか?」


私にとっては大事なことではあるが、ロダンは本当に気にも止めていないようで、特に表情も変えることなく話を続けた。


「一応、父に訊いてみるわ。折角入った注文だからね。」


王都に引っ越した今でも父は鍛冶屋を続けている。

始めは、私も中々の高給取りだし、臨時収入もあったし、隠居みたいなスローライフを送ってもいいと思っていたのだが、生涯現役、を信条にする父は、結局、王都でも鍛冶屋を始めた。

「王都で一旗上げてやる。」とは父の言。

工業区の一画にある、鍛冶屋の店舗兼住居が今の私の住処だ。

何はともあれ、新生活には何かとお金がいるもの。

新しい注文が入るのは有難い事だ。


「それに、ロダンなら金払いも良さそうだしね。」

「それ、心の中で言わなくてはならない台詞ではないか?」


呆れたように割り入ってきた殿下の言葉に、ここが殿下の執務室であった事を思い出した。


今日は殿下に分析依頼を受けた薬品の報告に、殿下の執務室にやって来ていた。

殿下直属の部下と言えども、私は、あくまで魔術師なので自分の研究室で業務を基本行う。それに対し、ロダンは殿下の近衛騎士であるため、常から殿下の執務室にいる。

そのため、殿下の執務室へ行けばロダンと必然的に会うわけだ。

殿下が私の持って来た分析結果を読んでいる間、ロダンは私に剣の話を持ちかけてきたのだった。


「ニーナの剣はお父上が鍛えられたのか?」

「ええ。」

「素晴らしい腕をされているな。先日、ニーナの剣を借りた際、刃の滑らかさに惚れ惚れし、振り心地に爽快感があった。今まで出会った中で、最も素晴らしかった。」


ロダンの惜しみない称賛に私は嬉しくなり、自然と頬が上がった。

そうなのだ。父は町一番の鍛冶師だったのだ!凄いだろ!大事な事なのでもう一度言う。

凄いだろ!

声を大にして言いたい!


「父は町一番の鍛冶師だったのよ。」

「そうなのか。」


しまった。声に出てた。

ロダンは感慨深げに何度か頷く。

そして私の顔を見て、ん?と首を傾げた。


「ニーナは異世界から来たのだろう?」

「そうよ。」

「ご両親も一緒に異世界から来たのか?」

「いや、違うけど。」


何でそうなる。

私の両親の容姿は、髪も瞳も顔も、こちらの世界の平均装備の西洋系で、日本を代表する容姿の私とは似ても似つかんだろうが。

“ロダン”という良い名前をご両親から貰ってるんだから、もう少し考えんかい。


あ、ロダンは私の両親を知らないんだった。


「そうなのか。まありにもニーナが自慢気にお父上の事を語るので、血を分けた家族なのだと思った。」

「・・・・・・。」

「本当の我が子として、とても大事にしてもらったんだな。」


ロダンは天然ド素直なので、本当にそう思ったのだろう。

ロダンからそう言われて、私も素直に嬉しい。

ニヤけてしまう。

ロダンなりに考えて、“血を分けた親子”と言ってくれたんだな。


もう少し考えろとか言ってスマン。


「ありがとう、ロダン。」

「?」


ロダンは「良く分からない」と顔に書きつつも、取り敢えず頷いとけと、一度大きく首を縦に振った。


お礼も兼ねて、ロダンには良い剣を父にお願いしてやろう。


「ところで、どれくらいの強度の剣が欲しいの?」

「そうだな。技を最低でも5つ耐えられる位がいいな。最近は1回で刃がこぼれてしまうからな。」


それはもう、オリハルコンでもないと無理なのではないか?

どんな化け物じみた秘奥儀を繰り出しているんだか。


「君達、青春するなら他所でやってくれ。」


その殿下の言葉に、再びここが殿下の執務室である事を思い出した。

それと殿下の存在も。

殿下が薄いのはアレだけでなく影もだったか。


「青春なんかしてませんが。」

「ニーナ。」

「はい。」

「落ちたか。」

「はい?」


いやいやいや。

そんな流れでは・・・・・・あった気もするが、確かに何か芽生えそうなシチュエーションだったが、ロダンに落ちるとかないから。


「殿下、ニーナは床に足を付けているし、落下などしている様に見えませんが?」

「ロダン、その“落ちる”じゃない。」


真剣に私の足元を見ながら言ったロダンに、殿下は眉間を押さえた。

殿下の言葉にすっかり考え込んでしまったロダンの姿を見て、夜会であんなにモテていたのに、今だに浮いた話がない理由を理解した。

押しても引いても揺すっても、反応はイマイチなんだろうな。

こんなやり取りを毎回されたら、よっぽど気長でないと諦めてしまう。


此奴には、当分春は来ないな。






@@@@@@@@@






「今日はやけに機嫌が良いと思ったら、そんな事があったんだ。」


今日も今日とて、いつもの酒場へ彼と呑みにやって来た。

さて帰ろうか、と研究室で帰り支度をしている所へ彼から誘いがあったのだ。

特に予定の無かった私は、快く承諾したのだが、そんなに顔に出ていただろうか?


「ずっと笑顔だよ。」


何それホラー。


私は思わず両手で頬を覆い、いつもの顔に戻そうと捏ねくり回してみた。

そんな私を見て、彼はクスクスと笑った。


「ニーナをそんなに喜ばせるなんて、本当に良いご両親なんだね。」


私は彼の言葉に、また頬が緩んでしまうのを感じた。


「はい。両親は私の理想なんです。」


鍛冶師の父と主婦の母は、中々、子どもに恵まれなかった。

現代日本を生きた私としては古めかしい考えにしか思えないのだが、この世界では未だに、嫁にいった女性の一番の仕事は子どもを産むことなのだ。

子どもが出来ないことに当時の母は悩み苦しみ、離縁も考えたそうだ。

しかし、そんな母に対し、父は言ったのだ。


「それでも君がいいんだ。」


子どもを産めるとか産めないとか、そういう理由で君に結婚を申し込んだ訳ではない、と父は言ったそうだ。


普段、無口な父が言った熱い言葉に、母は涙した。


それから二人はより一層、愛を育み深めていき、幸せに暮らしていたそうだ。

そんなすったもんだから数年、母が川で洗濯をしていたら、ドンブラコドンブラコ、と私が異世界から流れてきた訳である。


勿論、私にはあちらの世界に両親がいて、普通の家族仲であったのだが、あちらの両親を「理想の夫婦」などと感じたことは無かった。

ある程度年齢を重ねてから出会ったためか、こちらの両親のことを客観的に見ることができ、お互いに支え合いながら愛し合う二人は、いい夫婦だとすんなり思えたのだ。


私も、こちらの両親のように、いつか支え合える素敵な夫婦になりたいと、あの人となりたいと、思ってたんだけどな。

それは、もう、叶える事が出来なくなってしまった。


「それで?」

「それでとは?」

「ニーナは結局、ロダンに落ちたの?」


少ししんみりとなりながらお酒を飲んでいると、いきなり彼から爆弾を落とされた。

飲んでいた酒を吹き出すところだった。


「何でそんな話になるんですか。」

「いや、結局ロダンに落ちたのかどうか、ニーナ言ってないからさ。」

「それ、今日の話において重要じゃありませんよ。」

「いいや、とっても重要だよ。」

「えー。」

「で?どうなの?」


彼はグッと身を乗り出して迫り聞いてきた。

私は、そんなに重要じゃいと思いつつも、答えなければ、ずっと聞かれるんだろうな、と不承不承「落ちてません。」とだけ答えた。


「本当に?」

「え、何故そこで疑うんですか。」

「だって嫌々言ってる感じがしたから。」

「何か面倒くさいと思っただけで、他意はありません。」

「じゃあ本当に、ロダンに惚れてない?」

「惚れてません。」

「本当に?」

「本当に。」

「本当?」

「本当。」


友達としてはロダンはいい奴だが、正直、結婚相手としてはピンとこない。あんなに好物件なのに。

それに、彼奴のボケに毎回突っ込む体力も私には無い。


彼はキッパリと言い切った私の回答に満足したのか、笑顔で酒を飲み干し、新しい酒を追加していた。

軽く手を挙げて店員を呼ぶのだが、その姿すら品良く様になっている。

また、笑顔で店員を呼ぶものだから、女性店員の間で誰が彼の注文をとるのか水面下の争いが起こっているでは無いか。

私が見ていた事に気が付いたのか、彼が不意にこちらを向いた。


「どうしたの?」


何か頼むか、と問う彼に、私は首を横に振り食べ物へと手を伸ばした。


前の私は元婚約者しか眼中になく、周りの男は一纏めに『霊長類(中略)ヒト(オス)』くらいにしか思っていなかった。とんだミソッカス扱いだ。

だからか、ロダンという世間一般では良い男に分類される男にもピンときにくい所はある。


だが、それだけが理由で無いような気もするのも事実。


「ニーナ、それ少し頂戴?」


己は女子か、と突っ込む暇も与えないくらい、流れるような動作で私がフォークに刺した唐揚げ(のような食べ物)を、私の手ごと引き寄せ、そのままパクリと彼は食べてしまった。


「うん。美味しいね。」


はあ、左様ですか。


私は戻って来たフォークには、一口囓られた唐揚げが残っていた。

半分くらい食べられた。全然チョットじゃないじゃん。

ショックを感じながらも、戻って来た唐揚げを食べるべく、私は口を開いた。

そして、唐揚げを食べる瞬間、少し躊躇う。

しかし、それも一瞬で、私はそんなこと無かったかのように、開けた口を思いきり閉じ、残りの唐揚げを一口で頬張った。


思春期の少女の様に、恥じらってしまった自分が恥ずかしい。

大体、唐揚げの時点で色気もクソもないだろう。


新緑の瞳が笑った気がした。








翌日、分析を終えた薬品を殿下へ返却しに行くと、殿下が待ってました!とばかりに飛び付いてきた。

笑顔満開の殿下を、気持ち悪い、と思いつつも私は殿下に薬品を大人しく渡した。

薬品を調べるにあたり、人体に害があるか否か、の依頼内容だけ聞かされており、それ以外、薬品の効能等についても聞いていなかった。

だから分析の結果は、確かに人体に害は無かった、とだけ私は殿下に報告したのだ。

つまり、どんな薬品か私は知らない訳だが、これだけは親切心で教えてあげるべきかな、と思うのです。


「それ、効き目は無いと思いますよ?」


私の呟きに殿下の動きが止まった。


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