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コネクト・ザ・ワールド  作者: てんぞー
序章 New Eden
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第六話 レベルアップと

「―――ウィンドセイバー!」


 風が剣の様に腕の動きと連動し、振るわれる。ターゲットに対して横からなぐようにふるわれた風の剣はターゲットに叩き込まれ、そして衝突して砕け散る。その結果は魔法の方の敗北だが、魔法はちゃんと発動し、そして命中している為、成功だ。最初は魔法の発動、特にその名を叫ぶことに羞恥心を持っていたようだが、幾つかの魔法を試し、それを放っている内にだんだんとだが羞恥心は薄れていた。何より、周囲へと視線を向ければ同じように鍛錬に打ち込んでいる姿があるのだ、そこまで恥ずかしがるものではない。それに気づけば集中力は上がり、


「アクアニードル!」


 こんな風に恥ずかしげもなく魔法名を口にし、発動させることができる様になる。そうやって鍛錬をしている姿を見ると自分も軽く体を動かしたくなってくるが―――さすがにこの近辺に、自分レベルの存在が体を十全に動かせるような場所はない。王都に戻ったとき、その時に誰か組手の相手でも頼もうと、そう思い諦めたところで、ソフィーヤの動きが止まった。


「どうした?」


「あ……レベルアップしました」


「お、レベルアップおめでとう」


 このNew Edenでのレベルアップは非常に地味になものだ。レベルアップを達成しても特に回復する訳ではないし、エフェクトやファンファーレが鳴るわけでもなく、ただホロウィンドウが出現し、”レベルが上がりました”、と表示され、ステータスウィンドウ等が出現するだけだ。スキルを習得した場合はスキルを習得しました、という知らせのホロウィンドウも表示される。それだけだ。


「レベルアップするとステータスウィンドウが表示されるわけだが―――5SPってのが追加されてるな? それは所謂ステータスポイントってやつだから、好きにステータスに割り振るといい。ステータスの説明とか公式を見ていればする必要ないだろう?」


 その言葉にソフィーヤが頷き、ステータス画面へと向き直る。


 ―――New Edenでのステータスは非常に簡単なものだ。HP、MP、STR、INT、VIT、そしてAGIの四つ。これがプレイヤーがSPを使用して割り振る事が出来る能力となっている。器用さで有名なDEXはシステムアシストが存在しない事、そして器用さを数値的に表現するのはおかしいのではないだろうか? という運営の判断で排除されている。故にこの六つの数値が基本的なステータスとなっており、解りやすい強さの指針となっている。


「とりあえずレベル100で一度、ステータスのリセット……所謂”再振り”が出来るからそんなに悩む必要はない。個人的には魔法メインならINTをメインに、近接ならSTR上げろって程度だな。遠距離で戦うなら逃げやすくするためにAGI、マゾならVITな。それを気にしなくてもレベルが上がるごとに全ステータスが+1される。初期がオール5だからカンストして300レベルになるころには全ステータス最低で304だ、そこまで行かなくても無振りでも戦えるようにはなってる……困ってんなら一旦保留にするのも悪くはない」


 指針程度ならいいだろう、と判断しながら口を出していると、ソーフィーヤが入力し終えたのか、ホロウィンドウを消すような動作を取り、別のウィンドウを引っ張って来る動作を取る。おそらく習得したスキルを確認しているのだろう。


 スキルは選択できない。


 スキルは勝手に習得するものである。


 そしてスキルは鍛錬や経験を通して”進化”するものである―――それがNew Edenにおけるスキルという存在だ。要約すると”進化”というシステムを独自に保有しており、システム側がプレイヤーの行動を監視しており、その行動傾向、戦術、経歴、鍛錬、経験等を参照してプレイヤーに相応しいスキルを習得させるようになっている。だから自分が楽しむように遊び、鍛えていればそれにふさわしいスキルを習得出来る様にシステムとしては完成されているのだが、


 稼働から9年も経過している―――ここまで来るとプレイヤーの方でも検証を行い、パターンやアルゴリズムというのは解析されている。ある程度であればWIKIの方を見れば解ってしまうのだが、ソフィーヤはホロウィンドウを見たまま、動きを止めていた。


「どうした。なんか変なスキルで覚えたか」


「ッ!」


 ビク、という反応に対して図星だったと察する。その姿を少しだけ眺めてから、聞いてみる。


「……何を習得した?」


「え、えーと……あー……そのー……言わなきゃ、だめですか……?」


 言わなくても別に良いのだが、ここまで来たら知りたいだろう―――ネタにもなるし。そう思って笑顔を浮かべ、そして威圧する様にまっすぐ、笑顔のまま視線をソフィーヤへと向ければ、ぴぃ、なんて鳴き声を零しながら半歩後ろへと後退し、小さく、気圧される様に呟いた。


「……ち……です」


「あぁん! 聞こえないなぁ!」


「超……です……」


「聞こえないんだよぉ!!」


「<超美形>! です!」


 そこまで言わせた所でソフィーヤが恥ずかしさのあまりに崩れ落ちた。その姿に軽くげらげらと笑い声を零しながら、そうか、<超美形>か、と声を零す。


「まぁ、悪くはないんじゃねぇか」


「えっ」


 意外そうな表情にソフィーヤが崩れ落ちた姿から顔だけを持ち上げ、向けてくる。そうだなぁ、と呟きながら知識を頭の中から引っ張り出す。


「そのスキルは一般基準からして容姿が整っている者に対して与えられるスキルだからな。可愛い、美しい、かっこいい、それらのどれかにシステム的に判断されて”美形”だって判断されたんだろうな。現実でも仮想でも基本的に就職とか交渉とか、話すだけでも美形ってのは凄い有利だぞ? 笑みを一つ浮かべるだけで安くしてくれたり、相手が油断してくれたりするからな。ウチの組織(ネーデ商会)でも基本的に<超美形>持ちは優先してスカウトか雇用しているしなぁ……」


「なんか、嫌にリアルですね。ネットにいる事を忘れそうなほど」


「最近のVRゲーは大体どこもそんなもんよ」


 現実と仮想の境目なんてほとんどなくなってきている。企業だって商品の宣伝のために仮想世界、VRゲームやバーチャルシティに出店しているし、どっちが現実でどっちが仮想かなんて―――そんなもの、今更だ。だから心配する必要はない、とソフィーヤに言う。


「<超美形>だからってなにも恐れる必要はないんだよ。<超美形>だからってな。うん、<超美形>だからな……<超美形>だもんな、<超美形>。うん? なんだ、顔を赤くして。せっかくの<超美形>が台無しだぞ。いや、羞恥の表情でさらに際立っている……これが<超美形>の効果なのか……?」


「ワザとですよね! ですよね!? も、もう! イジメないで下さいよ!」


 笑い声を零しながら謝る。


「あまりにもからかいがいがあったもんで悪いな……。ま、次のスキルの習得は確か5レベだった筈だ。それまでに可愛い可愛いやってないで、冒険者としての活動をしていれば、それに合わせたスキルを習得する筈さ。まぁ、<超美形>を習得したのは当たり前っちゃあ当たり前なのかもな」


 本人は全く気付いていないのだろうが今のところ、高レベルプレイヤー男性に指導され、アイテムを与えられる姫プレイ真っ最中なのだから。


 ただそれを口に出して説明する程性格は悪くはない。困る表情は見ていて楽しいのだが、ずっとそればっかりでも飽きる。こういうのは適度に遊ぶべきものなのだから。だからとりあえず、と心の中で呟き、思考を切り替える。この女―――ソフィーヤは割と早めに情報を飲み込んで学習している感じがある。ここであと半日程訓練したら初心者用の”人工ダンジョン”へと放り込んで実戦経験を与えたら最低限のシナリオ進行が可能になるかもしれない。まぁ、初心者用ダンジョンのクリアまではおそらく数日かかるが、そういう成長を含めて考えて、


 三か月でギリギリ、少し余裕が出来るレベルでシナリオをクリア出来るだろう。


 さすがに、訓練の”く”の字も経験した事がない人間がクリアできるほど簡単ではない。いや、そもそもゲームに戦闘訓練などを要求している方がおかしいのだろうが、このゲーム、New Edenは基本的に極限までリアリティを追求したスタイルになっている。だからまともに戦闘をしようとするなら、必然的に戦闘訓練が必要になって来る。だからこの街、ヴェーデを出るのは少なくとも数日後になるなぁ、なんてことを考えていると、訓練場の方から急ぐ気配を感じ、そちらへと視線を向ける。


 片耳を傾ければ話の内容が断片的に聞こえてくる―――どうやら災獣(さいじゅう)が発見されたらしく、偵察隊が編成されるらしい。


「―――珍しいな」


「何がですか?」


 口に出してしまったか、と軽く失敗を恥ずかしく思いながらそうだな、と魔法の練習を続けるソフィーヤへと視線を向けつつ答える。


「災獣の偵察を冒険者に任せるのがなぁ」


「……サイ……ジュウ?」


 あぁ、そこからか、と声を漏らす。


「災獣ってのはボスモンスターみたいなもんだよ。モンスターは一定の確率で変異を起こして進化するんだわ。所謂”ボスモンスター化”する訳だが―――この災獣って連中はちぃと普通のボスモンスターとは違う訳だ」


「そうなんですか?」


「おう、人間を間引きする事に特化した怪物だからな」


 その言葉にソフィーヤが首を傾げる。間引き、という言葉を使ってもイメージが伝わり難いらしい。まぁ、その気持ちは解らなくはない。だから逆にソフィーヤに質問を返す。


「お前からして、ボスモンスターってのはどういう連中だ?」


 魔法を放つ動作をそこで止め、ソフィーヤが軽く首を傾げる様な動作を取り、視線を返してくる。


「えーと……”強い”モンスターですね。攻撃力が高くて、体力がたくさんあって、プレイヤーを困らせてくるイメージです」


 まぁ、そんなもんだろうと思う。基本的にRPGに配置されるボスモンスターというのはそういう生き物だ。決して勝てない相手ではない。対策し、準備すれば勝てるようにできている。体力が高く人数で削っていけば勝てる。それがボスモンスターだ。RPGの引き立て役、お約束的存在。


 だが災獣は違う。


連中(災獣)には殺意しかない」


「殺意?」


「言っただろ? 間引きする事に特化してるって。基本的に人間―――純人種でも獣人でも魔族でもそうなんだが、それを効率的にぶっ殺すために生まれてくるのが災獣だからな。基本的に性能のすべてが殺す為だけに組み合わさっているからな」


「はぁ……? イメージが、その、ちょっと……」


 まぁ、具体的な例を出さないと少々伝わらないか、そう思って過去に討伐した事のある災獣を一体思い出す。


「あー……三年ぐらいにぶっ殺した奴かな? 常闇の渓谷で【血晶峡谷】って環境そのものが吸血鬼のような場所が存在するんだけど、そこに迷い込んだヴァンパイアと峡谷の一部そのものが融合して生まれたクソの塊のような災獣が生まれてなぁ―――」


 軽く戦闘内容を思い出し、その性能をやんわりと説明する事にする。


「皮膚が僅かにでも露出していればそこから一瞬で水分を蒸発させて吸収する、体自体が結晶で構成されているから日光を体の結晶内で捕まえて束ねてレーザー化して跳ね返す、環境の属性そのものを上書きして属性を染める事で光に変換して捕獲する―――まぁ、とりあえずクソの様な連中ばかりだったんだ。しかも人間に対して偉く敏感で。人間を察知すればその方角へと一直線に突き進んで殺しに来る」


 感度の良い奴だと数キロ先からでも人の気配を察知し、殺しに来る。


「放っておくとそのまま街にでも突撃して地図から街を消し去るから最優先討伐対象。連中にはセオリーも削り殺すとかいう概念も通じない。あっちは一撃必殺で殺しに来る。だからこっちも頭か心臓をブッ飛ばして一撃で殺さないと殺される―――そういう類の相手だ」


 殺意の塊という言葉は伊達じゃない。殺せば二度と蘇らないし、似たようなのは出現しても全く同じ災獣は二度と出現しない。もう二度と会いたくもないからそれでいいとも思う。


「まぁ、国民と領土の安全を守るのは国の義務だからね? 災獣が出現したら基本的に国の仕事だからウチの国だと騎士団が出動して10、20人ぐらいの精鋭で囲んでハメて一気にぶち殺すのが普通なんだが……冒険者に任せるのはちと珍しいな」


「こういうのって普通、冒険者の仕事じゃないんですか?」


 イメージ的にはそうだろう。あくまでもイメージ的には、だが。他国は冒険者に狩る事をある程度任せているが、少なくともこの国では積極的に騎士団が狩り殺す事を義務としている。だから冒険者の方に偵察依頼が回ってくるのは珍しい。そう考えるとなると今、この街に駐屯している騎士兵の方が何か忙しくてそっちに人員を割いているのだろうとは思う。


 まぁ、呼ばれでもしない限り、自分には関係のない話だ。


「安心しろ、連中は300レベでも即死させるような生き物だからな。お前とはかなり長い間縁のない相手だろうよ」


「……レベル低いのは解るんですけど、なんかその扱いには若干不服を感じるというか……」


 ソフィーヤの言葉に笑い声を零す。


「だったらさっさと戦えるようになるしかないな。強くなりたいって願い、訓練すればそれにシステムが応えるからな」


 ―――少なくとも、ゲームの世界は現実よりも優しい。


「つぎ込んだリソースだけ確実に反映されるのがゲームだ。どんなに頑張っても数値に反映されない現実とは違って、一分間素振りをしているだけでも経験値が溜まるのをこっちでは確認できるんだ。どんなに苦しくたって進んでいるってわかる分、遥かに楽だろ?」


「それは……」


「と言う訳でガンガン魔法をつかえ。MP切れたら休んで深呼吸。瞑想するのも悪くはないぞ。そしてそれを繰り返し続けて疲れを感じたらそうだな―――メシにするか」


 それぐらいには昼時になっているだろうな、と軽く一日の計画を頭の中で立てながら考える。初心者にものを教える。ちょちょいとやればいいと思ったが、予想外に教えるべきものは多い。これはやっぱり、想像以上の面倒を背負ったか、


 そんなことを考えつつ、魔法訓練は続く。


 結局のところ、


 ネットで投げ出すようならリアルでもそうなのだ。だったらこの世界にいる時ぐらいは投げ出したくはない。

 ネットでダメなやつはリアルもダメとかいう言霊の強さ。しかしVRMMOは普通のMMO以上にコミュ能力を要求して来るところが多く感じられる。実際顔を見て相対しているところがあるし。ところでみなさん殺意の高いモンスターは好きですか。私は大好物です。単純な数値の暴力よりもギミックや性質に凶悪性を込めるのが結構楽しい感じが。

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