第三話 辺境の街
―――まぁ、人のいる方へと向かえばどうせいるよな。
総帥には不思議と人が集まってくる。それを自分は身をもってよく理解している。あの男にはどこか、人を惹きつける様な、そんな才能があるのだ―――そんなものがなければ大型ギルドの運営は正直、難しいだろう。だからどこか、騒がしい場所か人の多い所へと向かえばよい。そう判断しながら始まりの街ヴェーデを歩き始める。数時間ほど前までは歩いていた王都よりも活気が増えているのは間違いなく時間が進み、一般市民の目が覚め、一日の活動が始まっているからなのだろう。
それでもここが自分の知っている場所とは見慣れない風景になっているのは、経済が正しく国内で回っており、個人ではなく国そのものが潤っている、ということの証拠なのだろう。ならばこうやって辺境の村とも言えた場所が立派な街として栄えているのはきっと、自分たちの正しい努力のおかげなのだろう、少しだけ誇らしく感じるものがある。まぁ、その前が決して酷かった訳ではないのだが―――。
「地図が欲しい所だな」
整備された道に区分けされている街並み。目的地が解れば移動には苦労しないが、久しぶりにやってきたこの場所は大きくその様子を変えているため、以前どおりにどこに何があるか、というのは大きく変わっているかもしれない。そうなってくると色々と歩き回るハメになって、少し面倒になってくる。フェザーの背からヴェーデを見たときは、特にここがこう、という風に感じることはできなかった。もう少しだけ真剣に街並みを見ればよかった。そう思いながら歩き続ける。
別に急かされているわけではないが―――まぁ、いるなら会えるだろうという精神で歩く。
◆
中世が世界観のベースとなっている―――特にここ、第一大陸ケェツルはヨーロッパがモデルの舞台となっている。ゆえに景観や建築様式は中世ヨーロッパがベースとなっている―――が、近年は現代の建築様式や、建築技術が流入している事もあり、新しい区画を見れば現代で見る様な構造も見られる。ただそれでも、全体的に”世界観を守ろう”という暗黙の了解が存在する。東洋の建築を再現したいのであれば第二大陸へと向かえばいいし、基本的にはその世界観を守った風に街や村は拡張されている。
まぁ、誰だって現実から逃避する様に遊んでいるのに、便利にするとしても、現実的な物は見たくはないのだ―――。
故に、歩けば見えてくるのは黄色、緑、白、茶色に飾られ、色を塗られた石や木の壁であり、その上に飾られる赤い屋根の風景である。乗り物が進みやすいように整備されてある道路を商人や行商人達は抜けて行き、それぞれが商館や或いはなじみの店へとその商品を売りさばくために向かっている、王都と変わらない日常風景がここには存在している。その行動の大半はプレイヤー、つまりPCの存在ではなく、ノンプレヤーキャラクター―――つまりはAIによって動いているNPC達の存在だ。
プレイヤーは多くても数万、十数万人程度だ。だがそれをはるかに超える数の者がそれぞれの大陸に住んでおり、この世界における本当の住人たちは彼らなのだろうと思う。まぁ、設定上プレヤーも一応、同じ世界出身の人類なのだが。
それでも知らない風景を歩く事は楽しい、と思える。なんだかんだで自分の立場は割と偉い所にある。だからこうやって呑気に歩き回れる事もそうないだろう。そう思うと少しだけだが、こうやって歩ける時間が貴重なものに感じられる。
徐々にだが道路に商人以外の姿が見えてくる―――冒険者の姿だ。すぐに冒険者だと分かるのは帯剣、或いは武装を所持しているうえで、軽装に身を包んでいるからだ。中央や大規模なダンジョンの近くでならともかく、辺境で重鎧を装備しているのは体の動きを制限し、厳しい環境を進むうえでは非常に邪魔になるうえ、ここが始まりの街、つまりは初心者の開始地点だと分かっていれば、彼らが駆け出し冒険者であることも解る。
若干ふらふら、目的地もなく歩いている此方とは違って、冒険者たちの足取りは強く、そして希望に満ちている。おそらくは狩りか依頼の帰りなのだろうと思う。装備している革鎧を見てみれば、新しい汚れが見える。つまり、今何らかの活動を終えてきた、ということになる。宿屋に戻る可能性もあるが―――このまま追えば、おそらくは冒険者協会へとでも向かうだろう。ここの地理はよくわからない事だし、ついでにだが案内させてもらおうと、そう思い、こっそりと案内代わりに少し離れた距離、背後を歩く。
此方の存在に気付くことなく、仲間内で話している姿に小さく笑いを零す。防具の姿は初心者装備ではないが、挙動は初心者のものだ。しきりに腰の剣へと手を伸ばしたり、無意味に誇らしそうな表情を浮かべるのはゲームを始めたばかりのプレイヤーが誰もがやる事だ。現実で得る事のない充足感、触れる事のできない武器。それらの行動はまだ此方側に慣れていない人間のやる姿だ。自分も最初は妙に必殺技を生み出そうと剣の握り方とかを研究したなぁ、なんてことを思い出していると、
やがて、一つの大きな建物へと到着する。
木造の三階建ての建造物であり、扉の向こう側へと消えた駆け出し冒険者たちの後を追うように中に入れば、そこに広がっているのはカウンターを並べたスペースであり、そこから右へと視線を向ければ酒場が広がっている―――つまりは冒険者協会だ。基本的に国家に属せず、冒険者を支援し、最前線で土地を開拓する為の組織。究極的には”便利屋”という言葉が一番しっくり来るのが冒険者という存在だが、冒険者協会は数多くの功績を組織として残しているため、各国からの信頼が厚い……らしい。
詳細はどうでもいい話だ。理解しなくてはいけないのは冒険者協会にとって冒険者は便利な道具であり、プレイヤーにとって冒険者という身分は非常に便利なものである、ということだ。
ともあれ、ヴェーデの規模であれば冒険者協会はここひとつぐらいだろう。ここで総帥を見つける事が出来ればそれでいいのだが、そう思いながら協会内を軽く見渡せば、
奥、壁沿いに正座した状態で床に座る姿を見つける。服装は上下黒のスーツ姿に赤いネクタイ、己を一切偽らない様にリアルと同じ黒髪をしている。が。顔を隠す為にサングラスを着用している。手足を鎖によって縛られている事以外は、見慣れた総帥の姿だった。その横ではシンプルなロングパンツに白いワイシャツ姿の青年が立っていた。青年の方は直ぐに協会の職員であるのが解ったが、
問題は正座している方だ。その姿に近づき、総帥を見て、そして職員の青年へと視線を向けた。
「保護者です」
「あ、保護者の方ですか。もう、しっかりお子さんから目を離さないようにしてください。この人、綺麗に空き家にダイブをキメて粉砕しながら骨を折ってましたからね。一応応急処置で骨だけはつなげておきましたが、完治するまではまだ時間が必要になるので、治療費と空き家の修復費用と合わせてネーデ商会の方へ請求しておきましたので」
「いや、もう本当に申し訳ない。えぇ、しっかりと言い聞かせておきますから」
「しっかりしてくださいよ? はぁ、それでは確かに引き渡しましたので」
「本当に申し訳ない……」
溜息を吐きながら去って行く職員の背中に謝りながら、視線を正座を続ける総帥へと向けた。立場がギルドマスターであり、キャラクターネームそのものが”総帥”。ただ役職で呼ばれているだけではなく、そういう名前のキャラクターなのだが、
もっぱら、親しい者には馬鹿としか呼ばれていない真正の馬鹿だ。
「さあ、スーパー言い訳タイムだ」
「綺麗に着地を決めたと思ったのになぜか捕まったんだよなぁ……」
「残念ながら当然の対応というかむしろ甘いぐらいなんだよなぁ……」
溜息を吐きながらほら、立てよ、と言葉を吐くと総帥がよいしょ、と声を零しながら鎖をあっさりと千切り、立ち上がる。両腕を縛っていた鎖を無言で剥がし、捨てる姿だけを見るなら間違いなくイケメンの部類に入るのだろうが―――それ以上に性格で全てを台無しにしている。これはそういう男であり、叱ったりしたところでどうにもならないようなものだ。だからいつも通り、半分笑っているような溜息を吐きながら、自分が所属しているギルド、【ネーデ・レドアヴニ】のギルドマスターへと視線を向けた。
「メッセ送ったと思ったらチョロチョロ移動しやがって。何が会いに行くだ。結局俺が追いかけるハメになってるじゃねーか」
「いやぁ、普通に呼び出すのもつまらないしね? 人生にはイベント性が必要だと思うから多少はね?」
「バイク納品予定だって聞いたんだけど」
「代わりにハカセの魔改造バイク納品するから大丈夫」
それ、死人でるんじゃねぇかなぁ、とは思いつつもそれを”面白そう”と思ってしまった自分には止める事は出来ないな、と判断した。だからそのまま話を続けることにする。ニヤニヤと悪戯小僧が浮かべる様な笑みを張り付けた総帥の顔面に一撃、叩き込んでやろうかと思ったが、大人の矜持としてそこは何とか抑え込んでおく。
ともあれ、
「で、何か用事があるから呼び出したんだろ?」
その言葉におう、と総帥は頷きながら答える。
「特にない!」
迷うことなく右ストレートを全力で叩き込み、ひっかけるように体を半回転させ、そのまま開いている窓から外へと総帥の姿を殴り飛ばした。その行動に協会内から口笛と喝采の声が響いてくる。良し、ノルマ達成、と心の中でガッツポーズを決めながら視線を窓の方へと向ければ、壊れたサングラスを捨てながら、新たにサングラスを取り出した無傷の総帥の姿があった。
「俺に対して大概セメントだなお前! もっとデレろよ!!」
「男がデレてもキモいだけだろ」
「一理あるな。次の会議でそれを主題にしよう」
「お前、少しは考えてから発言しない? 明らかに考えずに発言してるよな?」
「バレた?」
もう一発顔面に叩きこんでやろうか、と拳を握りしめて脅迫した瞬間、窓の下へと逃げるように隠れる。拳を解いて窓の方へと視線を向ければ、総帥が恐る恐るといった様子で此方へと視線を向けてくる。そのままだといい加減話が続かないので、馬鹿に対する制裁を一旦忘れることにする。ふざけてはいるが、本当に無意味に呼び出すこともないだろう、という一種の信頼を抱いているから。だから両腕を組みながら歩き、窓の前まで移動し、そこから向こう側にいる総帥へと視線をむけた。
「で、本題は?」
その言葉にそうだなぁ、と声をこぼしながら総帥が立ち上がった。その動きにはまるで骨が折れているような様子を一切見せておらず、いつも通りの動きを見せている。そんな様子を見せながら、今度こそ真面目に言葉を吐いた。
「―――仕事だ」
◆
冒険者協会に留まる理由もなく、二人で肩を並べて外に出る。明らかにファンタジーな外観に対してスーツ姿と軍服姿のコンビは非常に目立つが、軍服に関しては自分の正装みたいなものがある為、今更ながら外す事はできない。それでも偶には違う服装もしてみたい、そんな気分もある。この軍服も結局はアバター装備なのだから、それを切り替えればそれで済む話なのだが。やはり、なんとなくそれには抵抗がある。
―――ともあれ、
冒険者協会を出ると人が活発に活動する時刻となる。外では職場へと向かおうとする人々の姿や、学校へと向かおうとする子供たちの姿が見える。風景を変えれば、現実のその光景とあまり変わりはない、ヴァーチャルな世界の風景だ。
「時折、どっちがリアルで、どっちがバーチャルなのかを忘れそうになるよな」
あぁ、と総帥が頷く。
「昔はダメだったらしいけど、俺らの世代は生まれたころからホロウィンドウ浮かべたり、ネットにダイブしてたりしたからな。仮想と現実の境界ってのはあんまり感じないよな」
少なくとも常時ネットに繋がっている自分たちにとって、この仮想世界、電脳空間に構築される世界はもう一つの現実と表現しても良いぐらいの思い入れや、なじみがある。ただ、総帥はこれ、知ってるか? と言葉を投げかけてくる。
「仮想と現実の違いは基本的にそこに物理的な干渉能力を得られるか否か、ってことにあるらしいぜ。そしてそれを決めるのはその物体としての存在、および情報の密度―――おかしな話だよな? この仮想空間の方が遥かに情報を高密度に圧縮して管理しているのに、無限の広さが存在するってのに、それでも有限の現実の方がまだ情報密度が高い、とか言われてるんだからな」
「詳しいことは解らないけど……それってつまりただ単に仮想じゃ現実には届かないって力関係があるだけじゃねぇの、法則として」
大雑把にはな、とニヒルな笑みを浮かべて総帥が答える。
「大半の人間は仮想が現実よりも優れている、ってのを信じたくないんだよ。ま、当たり前の話なんだけどな。だけどこの仮想世界は可能性としちゃあまだまだ追及が終わっていないどころか終わりが見えない。俺たちが爺になってもまだ奥底は見えてないんだろうよ。ほんと科学ってのはどこまで突き抜けていくか解ったもんじゃないな」
今、こうやってここを歩いている自分たちはしっかりと肉体の感触を感じている。足を前に出して歩けば、ブーツの裏に感じる硬い道路の感触がしっかりと感じられる。風に風の感触はあるし、強く拳を握れば爪が食い込み、痛みだって感じられる。それを設定によって排除する事もできるが、
匿名のアンケートによるとVRゲーマーの8割はこの痛覚の設定をオンにしてゲームをプレイしているとの結果が出ている。
「仮想をもっとリアルに……ってじゃなくて、究極的に仮想そのものを現実にしたい、ってのが理想かね」
「かなぁー……ま、俺が生きている間に見ることはできないだろうな。201X年に発生した技術的ブレイクスルーと似たような事が起きない限り、今の様にゆっくりと問題を起こしながら広がっていくだけだよ」
どこか、達観したような言葉を響かせながら総帥と共に街の中央へと向かって歩いていた。もう既に中央の広場の姿は見えており、露店を開いているプレイヤーや、一緒に冒険に行く初心者プレイヤーの姿も見える。その視線は自分や総帥に一瞬だけ向けられるが、そのまま気にされる事もなく直ぐに外される。王都だと割と視線を集めるコンビなのだが、辺境の方へとやってくると見ただけではパっと分からなかったり、そもそも知らないというプレイヤーがいるからだろうか、いつものような騒がしさはない。
「うーん、まぁ、この先のVR業界を考えても一ユーザーにゃあ関係がない話だな」
「違ぇねぇ」
現実にいても、仮想にいても、話す内容はそんなに変化がないな、なんてことを考えながらも、やがて広場へと到着する。街の中心点に位置する広場はプレイヤー達にとってのスタート地点となっている。ゲーム開始初期の乱立するような【魔力放出(光)】はもう見えないのは登録ユーザーが落ち着いているからだろうか。それでもまだ、新米の冒険者や初心者装備に身を包んだプレイヤーの姿を見る限り、新規プレイヤーは”国籍を問わず”参入しているらしい。
「ここはあんまり変わってないな……広くなったぐらいか?」
「ま、変りもするだろ。開始してからこっちだと九年も経ってるんだしな」
九年―――短いようで非常に長い時間だ。それだけの時間がこのVRMMO、New Edenではサービス開始時から経過している。開始時からずっと駆け抜けてきて、色々と派手にやって、有名になって、こっちで立場を得て、そしてやりつくしたという感触がある。それでもまだ超大型アップデートという言葉に対してわずかながら心を躍らせるものがあるのだから、自分も結構だめな人間だなぁ、と思ってしまうところがある。
―――一旦思考を排除して、考えをリセットする。
どうも、総帥と一緒の時は余計なことばかりを考えてしまうらしい。
「んで仕事ってなんだよ」
「まぁまぁ、慌てるなって―――」
よ、と声をこぼしながら総帥が前へと進む。三メートル程前へと進んだところで振り返り、何やってんだよ、とついてくる様に催促してくる。今日は溜息を吐く回数が多いなぁ、なんてことを思いつつまた吐き、そしてゆっくりとその姿に追いついて行く。
「世界征服目的としているんだけどなぁ、なぁーんで中々出来ねぇんだろうなぁ」
「経済抑えて栄えさせながら基盤を乗っ取るとかいうクソ面倒な手段をとってるからじゃないかなぁ……」
「お、ここ滅びそうじゃね? 乗っ取るなら最適じゃね? とか思って支援と食い込みを始めたらなんか反動で一気にインフレが始まったんだよな。いやぁ、人生何が起きるかほんと解らないわ。でもイーユーみたいにクーデーターで国をとるってのも趣味じゃねぇからなぁ」
「ま、サービスが続いている間はお前の目的の相手はしてやるよ」
「おう、俺について来い。絶対に飽きさせないからな―――っと」
そう言いながら広場の中央で足を止めた総帥がポケットの中から懐中時計を取り出し、それで時間を確認する。別に、そんな音をしなくてもホロウィンドウを出現させれば時間程度直ぐに確認できるのだが、そこらへんは個人のファッションとしてのセンスの方が強い。ともあれ、懐中時計を慣れた動作で開き、時間を確認した総帥が呟く。
「そろそろだな」
そう言葉をこぼした瞬間、総帥の前で光が発生する。
見慣れた青白い光は転送に対して発生する転送光だ。つまり、この場に誰かが出現しようとしている、ということになる。そして場所的に考えると―――。
「うっし、ジャストだ」
その言葉とともに転送光の中から人影が出現した。髪色は―――毛先がわずかに赤いグラデーションになっている金の、女性の姿だ。身長はそこまで高くなく、おそらくは百五十半ばほど、横髪が長く、シンプルな布の服装によって強調される胸にかかるほどには長く、後ろ髪はセミロング程度となっている。目の色は翠、顔立ちはどちらかと言うと可愛らしいと呼べる部類に入っており、ゲームの初期服装姿故、膝下まで伸びるブラウンのスカート姿となっている。その顔だちを見て思うのは、日本人ではない、という事だ。顔立ちに対して金髪と体格が良く馴染んでいる―――おそらくはヨーロッパ系、個人的にはフランスかイギリス系かと思う。そこまで考えたところで、
「おい、馬鹿―――」
総帥に声をかけようとし、その上から声を被せる様に総帥が声を放った。
「やあやあ、君がソフィーヤちゃんでいいんだよね? ん? もう君のお父さんに聞いているかもしれないけど、俺が総帥だ。総帥様でも総帥さんでも総帥くんでも総帥野郎でもいいよ、好きに呼んで欲しいな!」
総帥の口から放たれたマシンガンのような言葉の連続にソフィーヤ、と呼ばれた少女はあ、はい、と控えめにだが答え、頷いた。
「えっと、その……総帥さん……ですよね? もう知っていると思いますけど、ソフィーヤです。よろしくお願いします」
「うんうん、やっぱ天然ものの美少女は最高だなぁ! うん、俺が総帥だ。そしてこっちのキャラ作ってのが副長くんだ。こいつは呼び捨てでいいぞ、大した事のない小物だし」
「殴り飛ばすぞ総帥……!」
拳を握り始めたところで、小さくくすり、と笑い声がソフィーヤから漏れるのが聞こえた。そちらの方へと視線を向け、拳を下すと、
「まぁ―――」
と、総帥が声を漏らしながらするり、とソフィーヤの横を抜けて、その背後へと回り込む。
「―――頼みたい仕事ってのは彼女に関連する事なんだな。うん、もう大体解っているだろうけど」
正直、何をやらせられるのかは転送光が見えてきた時点で大体察していたし、初心者装備のプレイヤーを見た瞬間、確信すらしていた。だから総帥がソフィーヤの背後から両手をぽん、と肩に乗せ、その横から顔を覗かせ、
「という訳で、彼女の面倒は全部お前に任せた。それがお前の仕事だ」
そういわれても驚きはなく、その顔面を殴りたい、そういう衝動に駆られるだけだった。
と言う訳でようやく最低限の役者が揃った感じに。まだまだ役者は増えて行きますが、メインとなる二人が揃った事で漸く始まるといいますか。まぁ、ともあれ、やはり金髪巨乳はいいもんだよな、という願望がきっとどこかに。VRが日常にある世界の風景ってどんなもんなんでしょうねー。それはそれとして人間性の適性審査でコミュ能力を100%中1%叩き出して史上最悪の点数を出した中の人でした。




