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コネクト・ザ・ワールド  作者: てんぞー
序章 New Eden
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第十三話 冒険者の道行き

「本当ならここで一回給水挟んでもいいんだけどな。今ので酸素を一気に燃焼させたからな。ガスマスク外した瞬間肺に熱だけが入りこんで苦しみを味わうぞ」


「新しい拷問かなにかですかそれ」


「敵をぶっ殺すには効率的だろ?」


 その言葉にソフィーヤが頭を抱えて殺意しか存在しない、なんて言葉を呟くが、殺意であふれていて当然だ。殺意のこもらない攻撃なんて遊んでいるようなレベルのもので、重度のネットゲーマー、中毒とも言えるような人間はゲーム内もまた現実の一環として捉えている。そうなってくるとそれだけ”本気”になるのだ。まぁ、それはそれとして、戦うときは絶対的な殺意を攻撃に込めている方が遥かに殺しやすい。


 ぶち殺す、と口に出してしまうのはキメ癖というよりは殺意が漏れているだけである。


 ともあれ、いったん足を止め、ソフィーヤの様子を軽く伺う。ここに来るまでは恐怖を感じていたように見えるが、今はその恐怖の様子が薄らぎ、呆れや安心感という面の方が強いように感じる。18禁制限のかかっているソフィーヤ側から見ればおそらくポリゴンの様に砕け散って消える敵の姿が見えたのだろう―――その制限がない此方から見た場合、内臓とかが普通に見えたので、ここら辺、本当に制限解除しなくてよかったな、と思う。耐性のない人間がこういうモツがばらまかれるのを見て吐くのは良くある話だ。


「まぁ、これだけ派手にやれば確実にボスが―――いたとしたらの話だけど、此方を完全に警戒するだろう。ハイドラ、ある程度は見抜いたんでしょ? 何かなかった?」


 スキルの話だろうから、即座にクライドに言葉を返す。


「<擬態>と<侵食>は言ったよな? ちょろっとほかにも見えたのは<自己改造>と<学習進化>と<生存本能>だな。今回は一気に焼き払ったけど、たぶんあと何回か繰り返せば不熱体質化してくるんじゃねぇか。昔、そんなのいたし」


「あー……懐かしいなぁ……僕、操れる属性はもっぱら炎と雷だけだから不熱体質化されると一気に攻撃手段が減るんだよねぇ。うーん、今回は本当に役に立たなさそうな気がする……」


「まぁ、実際戦闘ってのは経験もあるけど相性が重要な部分があるしなーまぁ、今回は俺との相性が良すぎるから、深部に到達したら一気に焼き払って終了と行きたいところだが―――」


「まぁ、それで終わらないよね」


 そうなんですか、とソフィーヤが首をかしげながら聞いてくる。その言葉にそうなんです、とクライドが答えながら頷く。


「基本的に寄生、感染型ってのはメインとなるコアがいるのが通例なんだけどね、一部、そういうセオリーを無視した奴もいるんだよ。完全な”群体型(タイプ・レギオン)”だね。こいつらの特性としてまずこいつらは尖兵、或いは環境構築を役割としているから”本体という概念が存在しない”んだよね。環境を構築し、地獄級ダンジョンの生成を目標としてなるべく被害を生み出しながらテラフォーミングするのが役割だったりするんだよね」


「え、じゃあ、どうするんですか。というか災獣じゃないんです?」


 そうだなぁ、と言葉を置く。


「環境を構築している間に強い個体に寄生、進化して完全な個体が確立されれば災獣化だな。このままダンジョンをのっとってテラフォーミングを進めれば最上級ダンジョン、つまりは地獄級ダンジョンの生成に繋がるな。地獄級では災獣の発生率が一気に上昇するし、結果として、まぁ、どっちも一緒なんじゃねぇか? 最終的には災獣発生なんだし」


「なんかもう投げやりですね」


「潰した傍から生えるからな。慣れるわ。それにここでぶっ殺しておけば事前に活動を停止できるし」


 まだ個体を確立していないし、環境へと完全に根付いてもいない。その前段階だ―――若干めんどくさい状態でもある。ダンジョン化すればダンジョンコアが出現するからアタリをつけてひたすら範囲殲滅魔法で崩壊するまで爆撃を続ければいい。災獣化すれば個人としての命が生み出されるから。それを破壊すれば絶命させられる。その前段階、或いは群体としての生命。全部が一であるために、すべてを完全に消し飛ばさないと話は終わらない。一番めんどくさいタイプだが、


「まぁ、やりようはある。ヒントはすでに出てるしな」


「えーと……ヒントって?」


 ソフィーヤの疑問に対して答える。


「<自己改造>と<生存本能>のスキルだよ。つまり奴は”死にたくない、もっと強くなりたい”って考えているわけだ。群体型だと確固たる意志が薄いからそこらへん、ほぼ無我に近いから<生存本能>が存在しないしな―――となるとどちらかというと災獣化の途中ってわけだ」


「つまり此方から適度にプレッシャーを与えて、成長と改造を促進させて、完成したところを容赦なくぶっ殺す、と」


「まぁ、一番楽な方法かな。相性によっては詰む可能性が出てくるけど俺とお前ならそんな事もないだろう」


 基本的に範囲殲滅、対巨大生物や群体に適している所謂”虐殺型”の己とは違い、クライドが得意なのはベヒモスやドラゴン等の単体で完結された凶悪な性能を保有した生物相手だ。攻撃範囲の狭さから群体型相手にはやや相性が悪いものの、相手が単体としての存在を保有するようになれば、クライドであれば一切の慈悲もなく惨殺できるだろう。あとはそこに自分が逃がさないように陣を敷きつつ援護爆撃でひたすら殺し続ければそれで完了だ。


「改めて話を聞いているとなんで私がここに来ているのが解らない……経験値も入りませんし……」


「まぁまぁ、見るだけでもいい経験になるしね。この国にいるなら遅かれ早かれ経験する事だろうし、先に安全に地獄めぐりが出来るならいいんじゃないかな」


「どんだけ酷いんですかこの国」


「運営想定だと本来は滅んでいたって話。そして滅ぼした土地を利用して色々とシナリオとかイベントとかを展開する予定だったらしいんだけど―――」


 クライドの言葉を引き継ぐ。


ネーデ・レドアヴニ(俺達)が来たからな」


 苦笑した。実に懐かしい話だ。


「ウチの大将―――アイツ、クッソ馬鹿でな、”ゲームの中でなら世界征服ぐらいできるだろ!”なんてことを言い始めてな。そんでどっからかぎつけたのかは知らないけどこの国がシナリオとイベント的に滅ぼされる事を知ったらなんていったと思う? ……”この世界は俺のもんになる予定だぜ? んなの許すわけねぇだろ”とか言い出してなぁー……」


「楽しかったねぇ、あの頃は。毎日プレイヤー主催のイベントが開催されて、世界が物凄い活気で溢れていたね。まだカンストしているプレイヤーなんていなくて、必死にレベリングや戦闘スタイルを探して、新しく追加される要素にずっとワクワクしながら冒険していたっけ。一回目のインヴェイジョンも士気が凄い事になってたよねー」


 その言葉を口に出してからクライドが言葉に詰まる。


「……あの時よりも人口は増えたけど、あの時代以上にプレイヤーが集まる様な事もないだろうなぁ」


「ま、長く遊んでいればそれだけ飽きるもんだからな、ゲームは」


 主義や主張はそれぞれだ。だが忘れてならないのは”所詮はゲーム”であるという事実だ。ログインしっぱなしになればリアルの方で体がぼろぼろになるし、ネット代が払えなければアクセスする事も出来ない。レベルをカンストさせれば満足して引退する奴がいれば、もう一つの世界として認識して半ば永住している奴だって存在する。だけどゲームに終わりはあるのだ。どれだけ頑張っても終わりが存在している―――だからどこかで引退してしまう。


 それに、現実でのVR産業は進化し続ける一方だ。今使っている、遊んでいるゲームのデータを利用してこの先、もっと面白いVRゲームが生み出されるだろう。そうすればひっそりとこの世界は消えて、そして新しいゲームに移住してしまうのだろう。仕方のない話だが、寂しい話でもある。どうしようもない―――ゲームとはそういうものなのだから。


「む……なんか羨ましいですね。そういうワクワク、私はあまり感じたことがないです」


「じゃあ……楽しめばいいよ? 結局のところこれも冒険の一環なんだ。死んでもデスペナ食らうだけだしねー。―――まぁ、NPCは死んだら二度と蘇らないけどね?」


「なんで最後に脅すようにそんな言葉を挟むんですかねー……」


「基本的に僕たちの思考は”死んだら負け、死なせたら負け”って感じだからね。死ぬ前にぶっ殺せ、死なせる前にぶっ殺せ、何かさせる前にぶっ殺せ、何かを察したら探して見つけてぶっ殺せ―――基本的に敵には容赦せずデストロイ&デストロイの精神だからね。というかそれが僕らの日常(<闘争こそが日常>)


「まぁ、そこの勇者君はちょっと慣れすぎた結果戻れなくなっちゃったタイプだけどな」


 そこで二人で視線を合わせ、一瞬だけ無言になり、


「Ha、Ha、Ha、Ha!」


 揃ってアメリカンな笑い声を響かせる。特にクライドのほうはネイティブな発音であって、良くエンタメ番組で聞くようなあの笑い声に似ていてこれ、ちょっとした宴会芸になるのではないか、と思わなくもない。


 少しだけ、息を吸い込んで新鮮な空気を肺の中へと送り込む―――ガスマスクの内部には新鮮な酸素を圧縮し、それを結晶化させたアイテムが設置されてある。錬金術によって生産する事の出来るこのアイテムは少量の水を与え、濡らす事によって徐々に溶け、酸素へと変わって行く。そういう仕組みになっている。だが結局のところそれは溶けて、総量を減らしているのだ。つまり、こうやって新鮮な空気を吸っていられる時間にも普通に制限がある。


 とはいえ、数時間分の余裕はある―――無駄にさえ使わなければ。


「うっし、とりあえず方向性としては災獣化を促して個体化されたら一気にぶっ殺す方向で問題ないな……?」


「たぶんそれが一番確実だろうね。そうじゃなきゃここら一帯すべてぶっ飛ばさないといけないし、その場合胞子のいくつかが爆風に押し出されて拡散しないとも言えないしねー……まぁ、となると危機感を植え付けるレベルの攻撃を連打すれば進化を促せるかな? ……うん、君の得意な分野だね」


「まあな」


 視線をダンジョンの奥の方へと向ける。そこから敵の存在を感じる―――が、それは奥の話だ。先ほどの様な雑魚が出てくるような気配はない。今の一撃で二百メートル先までは完全に焼き切ったからその範囲内の敵性体は当然ながら全滅している。それで攻撃する事の無駄を理解したのだろうか。


 あるいは恐怖が芽生え、自己改造の真っ最中なのだろうか。どちらにしろ、殺せる瞬間にぶっ殺すという事実だけは確定しているのだが。


「うっし、軽く確認取って休んだし進むか―――あぁ、ソフィ子。お前にゃあ何も期待してないから死んでもいいぞ」


「そろそろ殴ってもいいんじゃないかなぁ、って思い始めてるんですけど……なんか、こう……私の扱い、雑くないですか」


「女の子はそこにいるだけで意義があるから」


 それだけではさすがに納得しない様子なので、真面目な表情―――マスクで見えないのだが―――を作り、極めて真面目な声色でソフィーヤの疑問に答える。


「本音を言うとこれを見るだけで勉強になるし、天井というか天上を一回目撃しておけばある種の覚悟が出来上がるからな。ほら、一回俺のぶっ放す魔法を見ればこれ以降、大規模な魔法を見ても”あぁ、前見たわ”って程度の認識で終わるだろ? 基本的に戦いってのはセンスや才能も問われるが、それ以上に重要になってくるのが基礎と経験と相性だからな」


 見たことがあるなら既知の範囲内だ―――怖くない、対処法が解る。


 だから一回災獣という生物を見て、経験した事があるなら二回目以降は怖くないし、それ以下の存在と戦うときだって恐れを抱きはしないし、土壇場で戸惑う事もなくなるだろう。経験は”数値にできない力”だ。これが鍛えるのが一番難しく、そして一番時間がかかる。


 そうなるとやはり、連れまわすのが一番の近道になる。


 連れまわして、見せて、そして経験させてやる―――これだけで知識という宝物が生まれるのだ。


 知ってさえいれば、それを想定して戦術も組み上げられる。故に経験、そして知識は必要になってくる。レベルアップするわけでもないし、能力が生えてくるわけでもない。だがこれ以降の戦闘に対する理解が生まれるのであれば、時間を食ってでもやるべきだろう。


 少なくとも自分はそう思う。


「―――あと最後に付け加えると打算濡れだったり無駄に男前だったり、ヨゴレ系じゃない女子がそこにいるってだけで割と俺たちのモチベーションが上がるんだ―――いや、これは真面目な話な」


 クライドが頷く。


「VRMMOを遊んでいる女子って基本的にまともなのがいないからね。ソフィーヤちゃんはそのまま、染まらずにそのままでいてね……ほんと……そのままで……うっ、嫌なことを思い出してきたぞ……!」


 クライドが頭を加えて蹲る。その姿をみてソフィーヤが首を傾げるので、その横へと移動し、小さい声でどうしたのかを伝える。


「アイツ、恋人がいたんだけど最初は大人しいタイプの子だったんだけど、NE紹介して一緒に遊び始めたらアイツ以上に適応して完全にバーサーカー化しちゃってな……そのまま野生に帰っちゃったんだ……」


「うわぁ……」


 虚空に向かって元恋人の名を叫ぶ勇者の姿を眺め、軽く溜息を吐いてから再び視線を奥へと向ける。


「―――ま、難しい話じゃねぇんだ。とっとと終わらせに行くか。これが終わったらランチタイムにしたいんだ」


 気楽な言葉を吐きつつ、予定外の馬鹿騒ぎを終わらせる為に休憩を終わらせ、先へと進む。

 という事でお待たせ、次回はボス戦という事で。日本にいる間はネトゲが遊べたり焼肉食べに行けたりで色々と楽しくてどうしても執筆が遅れがちなのが反省ですかねー。

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