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コネクト・ザ・ワールド  作者: てんぞー
序章 New Eden
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第十一話 先行く道は苦難ばかり

 職員からさらに話を聞き、詳細を伺って色々と準備を始めてもらっている中で、休憩中だったクライドとソフィーヤの所へと戻ってくる。此方が満面の笑みを浮かべている事を理解してか、ソフィーヤの頬は若干引きつっていた。


「―――というわけでダンジョンアタックすんぞ」


「うん、解った」


 素直に頷いたクライドとは違い、ソフィーヤの方はちょっと焦ったような、困ったような表情を浮かべながら手を振り、指をダンジョンの入口の方へと向けた。利用者の姿はなくなったが、その代わりに完全に封鎖されるように軽いテープによる封鎖が施されており、外に中にいる存在が出てこないように魔法での結界の維持も行われている為、目に見えて入れないように対応が施されている。


「いや、ちょっと待ってください。どう見ても入れないんですけど―――」


 いいか、と言葉を置いてソフィーヤの話そうとしていた事を遮り、そして話を割り込ませる。


「俺は超偉くて、そして超強いから問題ないんだよ。俺が黒と言えば黒、白でも黒となる。まぁ、そこまで凄い訳じゃないがこの国では権力というものを俺は持っているからな。大体なんでも白黒できるぞ」


 これぞ努力の賜物―――と、軽く自慢をするもの、初心者にそれを語ったところで凄い、という事程度しか伝わらないだろうという事に気づき、何をしているんだろうと、一瞬だけ正気に戻りかける。だがダメだ。ゲームのロール、キャラクターなんて正気でやれるわけがない為、即座に頭の中から追い出す。


「えー……いや、でも、ほら、なんか危険らしいですし専門家に―――」


 その言葉を遮ったのはクライドだった。以外にもこの男、割と乗り気の様子を見せている。


「―――僕らで殺せないようなもんだったら多分本格的な討伐とメタでの編成チームが必要になるから考えるだけ無駄だよ? というか僕たちがダメだった場合とかちょっと想像したくない。どんなレベルの相手なんだそれ」


「せめて私だけを置いていくことには」


「何事も経験だぞ!」


「に、逃げられない……!」


 絶望するような表情を浮かべるソフィーヤに比べ、比較的身近なイベントとして認識している分、自分とクライドにとってはこの世界での日常の延長線上でしかない―――まぁ、基本的にはメタチームを派遣し、それでもどうにもならない場合は最高戦力で容赦なく踏み潰すのが恒例なのだが、今回はその逆のパターンとなってしまっている。ともあれ、


「まずは突入前に着替えるか。スペアなら持ち歩いてるし、俺のスぺを今回は貸すぞ」


「……ん、装備?」


 そうだ、と答えながら左手のスワイプでメニューを出現させ、そこからインベントリを表示させる。そこからアイテムを取り出そうとする―――このゲーム、インベントリからアイテムを取り出すのに”数秒”という時間が必要となってくる。そのため、戦闘中に消耗品の類を使いたければあらかじめ取り出してどこかに装着するか収納しておかないと即座に使うことが出来ないというめんどくさい仕様なのだ。故に、取り出される装備、アイテムが形となって表れるのに四秒程経過する。


 そうやって出現させるのはヘルメットの様に頭全体を覆うガスマスクだ。それを見てソフィーヤがはぁ、と息を吐く。


「なんか、なんか納得いかないです」


 段々とソフィーヤの目に映る”夢と”希望”の二文字が濁って行くのが幻視できる。


「気持ちはわかるけど顔を保護できるし、新鮮な空気を地上から運び続けるよりもガスマスクを装備している方が簡単に、そして安心して呼吸できるからね。あとはまぁ、セットで―――」


 クライドもインベントリから装備品を取り出す。グローブ、ブーツ、スーツ、と完全に体を密閉し、肌を欠片も露出しない事を意識した装備のセットだ。クライドは取り出したそれをソフィーヤへと見せている。


「完全に外に肌を露出しないようにこういう服装だね。基本的にウィルス型は空気感染だからガスマスクが必要だし、寄生生物型も原則として皮膚に直接触れるか、体内に侵入する必要があるからね。そういう連中を相手するにはこういう装備が必須だよ」


 それを見てソフィーヤが首をかしげる。


「魔法で保護とかできないんですか?」


 じゃあ、と言葉を送る。


()()()()()?」


 その言葉にソフィーヤが一瞬詰まる。意地悪をしている自覚はあるが、人間、適度に厳しい方が物覚えが良くなるというものだ、と自分に言い訳しておく。


「……いや、私には解らないですけど、あるんじゃないですか?」


 まぁ、無い訳ではない。だが、


「風を操って新鮮な空気を送り込みながら戦闘の準備と戦闘をしてなおかつ探索の為に注意を払って、状況に応じて魔法を使い分けるのか―――ずっと自分を保護する魔法が途切れないように維持しつつ、剥がされないことを警戒しながら」


「む……」


 ソフィーヤの頬が少し膨れる。その表情に小さく笑いを零す。


「ちと言い方が意地悪だったな―――まぁ、つまり労力に見合わない、ってのが答えだ。俺は余裕あるけどな、基本的に効果を魔法で持続させるものってのはある程度の意識を割くもんだから。それに維持し続けるならリソースの管理もあるし、そういう事を考えていると無駄に疲れてくるからな」


「それなら装備だけで解決するのが凄い楽でしょ? それに装備で解決できるなら魔法が使えなくても、使えない状況でも一切問題ないし。誰でもできる、ってところが一番重要なんだよね」


「うーん……言っていることは解っているんですけど、やっぱり私が思っているファンタジーなゲームとは違う」


「諦めろ、そういうゲームだ。ちなみにもっとファンタジーっぽいのはあるけどクソ高いし今は持ってないからやっぱり諦めろ」


「救いがない……」


 インベントリからスペアの装備を取り出し、そのセットをソフィーヤへとまとめて放り投げる。少し焦ったような様子で抱きとめるのを確認知ってから無言で更衣室のある方向へと指を向ける。それを見たソフィーヤは数秒間、露骨に嫌そうな表情を浮かべ、そのまま動きを止めるが、此方が無言で指を更衣室の方へと向け続ければ、諦めの溜息と共に装備を着替えへと向かって歩き、向かった。その姿を眺めていると、横からクライドの声がかかる。


「……まぁ、言う事でもないし、いっか」


「言いたいことは素直に言えばいいんだぞ?」


 そう伝えながら視線をクライドのほうへと向ければ、クライドはいや、と言葉を置く。


「君も僕も少なくともこの世界では八年は付き合いがあるんだし―――それに見た目がまだ二十代の青年だとしても、こうやって電脳に触れている以上、その三倍は生きているかもしれないんだ。だったら言うだけ無駄だろうし、中身が大人だったら言わなくても勝手に解るもんだろ? だから僕からは特に言う事はないよ」


「……」


 頭の裏を掻きながら無言でクライドの話を聞き、そして帽子の鍔に触れ、軽く被りなおしてから視線を背ける。


「んじゃ、さっさと着替えちまおうか」


「ん、そうだね。育ち切る前に殺すならなるべく早く行動したいしね」


 それ以上クライドが何かを言ってくることはなく、そしてこちらも言葉を付け加える事もなく、それよりもやるべきことがあるため、さっさと着替えられる場所へと向かい、これからダンジョンへと乗り込むための準備に移った。



                    ◆



 ―――三人全員の着替えが終わる。


 着替えが完了すれば、突入用の装備姿が見える。基本的に全身タイプの水着の様にピッチリと体に張り付くインナー、その上から戦闘想定の為のいくつかのプロテクター、完全に頭を覆うヘルメットの様なガスマスク、そこからさらに肩から下、体を隠す様にマントを装備している。スーツとガスマスクの間には隙間が存在しないのを相互にチェックしてあるし、ブーツや手袋にも損傷がない事はチェックしてある。ここからさらに個人の装備で、機械的な機構を持っているハルバードをクライドは、そして己は少々ゴツい長銃(ライフル)を二丁、腰裏に装着する。マントが武器の動きを邪魔する為、自分だけはマントを外し、代わりに軍服のコートを方から先ほどまで通り羽織っている。


 ソフィーヤの視線が自分へと、クライドへと、そしてそこから此方へと向けられる。


「ハイドラさん、なんか若干ダサイです」


「お前、ストレートに言う様になったな」


「えー……だって、そのー……何というか、冷静に着替えながら考えてたらアレ? これ、私必要なくないですか? という考えに―――」


「え、もちろん必要ないけど?」


「……」


「必要ないけど?」


 返答にソフィーヤが無言になり、動きを止め、そして片手を持ち上げる。


「では私はそこのカフェで―――」


「必要あるかないかと、行くかどうかは話が別だけどな」


「……」


 何かを言おうとする気配がするが、途中で動きを止め、そして解りやすく両肩を揺らし、”がっくりのポーズ”とも言える格好を取る。その姿をとるのを確認し、心の中で優越感を少しだけ補給し、視線をソフィーヤからダンジョンの入口の方へと向ける。その前ではこちらの侵入を待って、いつでも入れるように待機している協会の人間の姿がある。


「ファンタジー系だと聞いていたのに……なんで……なんでこんなことに……」


「割と真面目に総帥(バカ)に頼ったのが悪い」


 そう伝えると再び無言となるので、もはや遠慮する事もなく背中を押してダンジョンの前へと押し出す。嫌がるその姿を無視しつつ、視線を職員の方へと向け、片手で合図を送る。それに反応するように頷きが返ってくる。


「手遅れだった場合は好きなようにやってください。責任はこっちでとりますので」


「あぁ、任せろ。絶対ぶっ殺すから」


「暴れる事だけなら超得意だからね、僕たち」


 いい笑顔で答えれば、少しだけ職員の頬が引き攣るのが見える。まぁ、どうせ冒険者協会の方はたんまりとお金を貯めこんでいるのだから、たまにはそれを消費させるのも悪くはないだろう。


「帰りたい……」


 だが帰さない。


 ダンジョンを封鎖していた結界が部分的に解除される。中の者が外へと出てくる前に、速足でダンジョンの中へと進む。ソフィーヤの足はやや重かったが、それでも最終的にはついてくる為、三人全員が抜けたところで再び魔法によって入口が封鎖される。視線を入口の方へと向け、軽く手を振れば向こう側からも手が返ってくる。


 視線をダンジョンの奥へと向ける。その先には光が一切見えない。当たり前だが元々ランプや松明の類は持ち込まない限りダンジョンの中には光源が存在しない。本来の仕様であれば少し頑丈なランタンでも持ち込めばそれでいいのだろうが、手っ取り早く進みやすくするためにも魔法の照明を生み出す事にする。


「【(ライティング)】・【球体(ボール)】」


 光源となる球体型の光を掌の中に精製し、それを軽く投げ、クライドの横へと浮かべる。片手でありがとうのサインを確認しつつ、右手を腰裏へと伸ばし、そこにバツの字に交差するように装着した武器に即座に手が伸びるのをもう一度だけ確認し先頭にクライドが、ソフィーヤを挟み込むように自分が後ろに隊列を組む。


 これで綺麗に前衛、無能、そして後衛と並んだ形になる。ダンジョン自体の難易度的にそこまでする必要はないのだが、内部が変質しているらしい今、ある程度の注意はしておく―――というよりは、必然的に肉体に染み込んだ習性、クセの様なものである。少なくとも九年も遊んでいれば誰だって自然に警戒することぐらいできるようになる。


「あ、ソフィーヤちゃんは僕たちの間の中央から動かないでね、一番安全な場所だから」


「一番安全な場所は外だと思うんですけど」


「だけどその選択肢はないんだよなぁ、残念」


「なんでこうなったんでしょうか……」


 それに対する答えを与える事は出来ない―――それ故に、やる事は一つ、


 ダンジョンの攻略の開始だ。

 現在帰国中。やはり日本のメシは美味いですな。あ、大方の予想通り次回からバトルの関係で今回若干短めでした。よーやっとスキルやら魔法やら虐殺ですよ虐殺。

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