現の夢の中で死神に恋した
いや、もう何だろう途中から乗りと気合で書き始めた。
蝉の鳴く声が聴こえる。
夕暮れの何処か知らない場所、蒸し暑さの中のさらに暗い闇の中で眠っている男がいた。
「暑い……。」
そして彼は目覚めた。
充分な眠りを得て目覚めたのか、それともこの蒸し暑さの中で眠り辛かったのか、それとも蝉の声の騒がしさで起こされたのか。
どうやら、彼は自分の腕を組み作り自分専用の暗闇と枕を作っていたようだ。
「ここは教室、学校か? もう放課後か、俺は寝てたのか。」
目覚めた彼は周囲を見回し自分のいる場所を確認してみた、見ると机と椅子が整列され点々と並んでいる学校の教室の中だった。
夕陽が差し込む窓、風がそよぎカーテンが揺れ動く、辺りには誰もいない。俺だけだった。
「なんだよ、誰か起こしてくれれば良いのに。まぁ、いいや帰るか。」
男は席を立ち、机の横に掛けてある鞄を取っては教室を出ようとした。
「おはよう、やっと目が覚めたんだね。」
教室の扉の前で同じ制服を着た、女の子が佇んでいた。
不思議な面立ちをしている、年下にも見えるが年上にも見える誰だか知らない人。
「ああ……おはよう? お前ってだ――――」
「私だよ、寝ぼけてるの? 君の彼女のわったっし!」
「はあ、俺には彼女なん――――」
何故だろう、俺には彼女なんていない、こんな女も知らない。だけど俺は彼女をすぐに認識した。
「おおー、何だお前か、待っててくれてたのか。なんだよ、起こしてくれれば良かったのに。」
「うーん。折角、気持ちが良さそうだったからね。ちょっとゆっくりさせてあげようかなって!」
とても可愛らしく、気遣いのできる自慢の彼女だ。
「そっか、ありがとうな。それじゃあ、一緒に帰るか!」
「うん、そうだね。」
二人は教室を出て歩いた、校舎内はとても静かでまるで自分達の二人だけの空間のようだった。
「何だ、今日はやけに校内が静かだな。部活とかやってる人もいないのか?」
「まーだ、寝ぼけてる。今日は朝に学校の近くで交通事故があって学校がおやすみになったんでしょ!」
「はあ? だったら何で俺とお前がここにいるんだよ。」
彼女の言っている意味がわからなかった。
休校になった校内で何故か俺と彼女が二人きりで、俺はさっきまで教室の自分の席で眠っていた。
「それは君が学校まで来たんだからちょっと中で遊んで行こうって誘ったんでしょ! そしたら疲れて寝ちゃうしさ。」
「あはは、そうだったのか、ごめんごめん!」
俺は朝に学校へ来たけど休校になったのを良い事に、学校に入って遊んでたのか。
だけど何をしていたんだ? 何故か思い出せない。
朝に学校へ向かって俺はこいつと初めて出会って……初めて出会った?
「うっ、痛って頭が……」
「あはは、寝すぎたんじゃないの? ほらしっかり、もう帰るんだから家でゆっくりしなよ。」
「あ、ああ、そうする。」
俺達は学校を出て、いつもの帰り道で帰ろうとした。
とある曲がり角で彼女が俺を制止させた言葉を掛けてきた。
「ああ、駄目だよ、そっちは交通事故があって通行止め! 遠回りになるけど、こっちの道から帰ろう。」
「おお、そうだったのか、わかった。」
交通事故……。そんなのあったか記憶にない、朝からどうも曖昧になっている自分の頭の中が煩わしい。
「なあ、交通事故って何があったんだ?」
「んー、そういう不幸のタネの話は嫌だなぁー。ねね、商店街に寄ってさ、少し遊んで行こう! でーとだよ、デート!」
彼女は事故の話を嫌厭とした様子で、すぐに別の話へと切り替わった。
思い返して見たが彼女と遊んだ記憶があまりにも無さすぎたように思えた、そして俺は商店街へと彼女と共に繰り出す事にした。
「そうだな、デートするの楽しそうだな!」
商店街に着くと普段は活気付いてるはずの場所が、人一人も居らず静まり返っていた。
日暮れの夕陽が映し出す静まり返ったその街並みは、世界が終わったかのように思わせる演出を奏でていた。
「なあ、何かおかしくないか、人が誰もいない……ぞ……?」
「んー、そういう日もあるでしょー。ゲームセンターに寄ろうよ、射的ゲームやろう!」
何かがおかしかった、だけど彼女の明るい雰囲気に感化され不思議と気にならなくなった。
俺達は時間を忘れて遊んだ、何をしていたかもわからないくらい楽しい時間を過ごして。
「ふうー、楽しかったな。そろそろ暗くなってきたし帰るか、送ってくよ。」
「うん、途中までで大丈夫だよ。一緒に帰ろっか。」
商店街を抜けて、本来の帰り道である場所に戻り少し遠回りだが帰路に着いた。
「私はここまで良いよ、君はあっちでしょ?」
「ん、でも夜道は危ないから最後まで送るよ。えっと、お前んちって何処――――」
俺は彼女の家を知らない、何故だろうわからない。
「むふふ、送り狼なんて許されないよ。だから私の家はまだ教えてあげなーい!」
どうやら俺達は付き合い始めたばかりなのか、俺は彼女の家を知らなくて当たり前だった。
「なにぃー、なら今、狼に変身してやろうか! がおー!」
「きゃー、食べられるぅ~。」
二人は他愛の無いやり取りをして、別れ前のお互いの時間を深め合った。
「まあ、いいか、それじゃ気をつけて帰れよ! 今日は人が何かいない気がするからさ。」
「うん、君も気をつけて帰ってね! それじゃあ、また明日おやすみなさい。」
――また明日おやすみなさい――
蝉の鳴く声が聴こえる。
暗闇の中で眠る男がいた、彼は自分の腕を組んで自分の枕と暗闇を作り出していた。
「暑いなっ……」
彼は目覚めた。
楽しい夢で見ていたのだろうか、熟睡していた彼の額には腕を枕にした跡がはっきりと残っている。
「ここは教室、学校か? もう放課後か、俺は寝てたのか。なんだよ、誰か起こしてくれれば良いのに。まぁ、いいや帰るか。」
男は席を立ち、教室を出ようとした。
「おはよう、目が覚めたんだね。」
教室の扉の前で同じ制服を着た女の子が佇んでいた。俺の彼女だ。
「よっ、悪いな。折角遊んでたのに眠っちゃったよ。」
遊んでいた? 何故、遊んでいたのだろう。今日は学校がある日、休校な訳でも無かったのに。
昨日は交通事故で仕方が無かったのだろうけど、今日も休校なのか?
「ううん、別に良いんだよ。何だか気持ち良さそうに寝てたから、良かったよー。」
俺には勿体無いくらいの気遣いのできる最高に可愛い彼女だ、彼女を見ていると考え事なんて吹き飛んでしまう。
「それじゃ一緒に帰るか!」
「うん!」
俺達は学校を出て、いつもの帰り道で帰ろうとした。
とある曲がり角で彼女が俺を制止させた言葉を掛けてきた。
「あー、そっちは駄目だよ。交通事故があって通行禁止ぃ~!」
「えっ、まだ通れないのか? 何でだよ。」
交通事故と言っても様々だ、人と車が衝突しあう人身事故や車同士の接触事故。
昨日今日と通れないとしたら、恐らく人が死んだような事故だったのだろう。
「うーん、わからないけど、別にいいじゃん。今日もどっかに寄って遊びに行こう!」
「まあいいか、わかった。何処か良くかー。」
二人はまた昨日と同じくして時間を忘れ、遊びに行った。
「それじゃ、気をつけて帰れよ!」
「うん、また明日おやすみなさい!」
――また明日おやすみなさい――
俺は繰り返した、彼女との日々を楽しい毎日を。色々な場所を行き、色々な事をした。
だけど何かがおかしかった。彼女を見ているとその異様な変化にすら気づかないでいたが、ある日の事だ。
俺はどうしても確認しなくてはいけないと思った。
「何でまだ通れないんだ、もう何日経ったと思ってるんだ?」
「うーん、わからないけど。まぁ別に何処か遊びに寄って帰るんだし。この道は通らなくていいよ!」
彼女は必ず俺を通そうとしない、そして何があったのかも何も教えようとはしなかった。
だから俺は自分の目で確認しようと思った。
「ちょっと、どうなってんのか見てくるはちょっと待ってて!」
「ああ、駄目だよ! 勝手に! ねえ、待ってってば!」
彼女の制止を振り切り、今まで俺は通れなかったいつもの通り道を歩いて行った。
「なん……だよ。これ…………。」
そこにあった物は何故かそのままだった、交通事故の当時の現場であろう状態。
壁に衝突する形で車は止まっており前部分が大破していた、その間に人が挟まり血だらけになっていた。
「おい、何でまだ交通事故が起きたばかりの様なままなんだよ!?」
「見ちゃったんだ、ならもう思い出すのも時間の問題か……」
思い出す……?何を思い出すんだ、そうだ事故にあってる人を助けないと。事故にあってる人?
あれは誰だ、俺。俺が事故にあってる? でも、俺はここにいる。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああ」
何もかも思い出した自分は気が狂いそうになった。
そうだ、交通事故にあった日に俺は朝の通学路で車と壁に挟まれるように事故にあって……。
死んだ。
「その通りだよ、君はもう死んでるんだ。だから私がお迎えに来たの!」
そうだ、あの朝に彼女と初めて出会ったのはそういう訳だったのか。
俺が事故に遭い死ぬ事で彼女が迎えに来た、つまり彼女は死神の代わりって事だ。
「君が自分の死を理解してなかったから、どうにか優しく連れてってあげようと思ったんだけどね。私ってどうも嘘付くの苦手だからさ、結局君の事を騙し切れなかったな。」
彼女は彼女なりの優しさで俺を連れてってくれるつもりだったのだろう。
同じ時を繰り返していたとしても、彼女との時間は俺にとって最高の優しさだったのがわかる。
「もしかして、現実を受け入れられなくて魂が壊れちゃったかな?」
「――に――――ください……」
「え?」
「俺と結婚を前提にお付き合いしてください!!!!!!!!!」
俺は何をとち狂ったのか彼女に告白をした。
「こ、こんな壊れ方、死神やってたのに始めてだよ!?」
「君の優しさに俺は救われました、こんなのを最初に見せられたら俺は自分が壊れるのを我慢できなかった! 君との日々が俺に取って死よりも大きい物になったお陰で、俺は生きてる!」
「い、いや、君は死んでるんだって……」
彼女は困惑している様子だった。
「というか、君って死んでるし魂のままだし私と付き合う事自体無理だよぉ。」
「気合でなんとかする、それより今まで君といた時間はあったんだ。これからだって続けていける。」
俺はもう止まらなかった、自分の死に直面してやけを起こしているか。それとも、真実の愛に辿り着いたが故の暴走なのか。
「た、確かに君と一緒にいるの楽しかったけど……」
「それなら俺も死神の仲間にしてくれ。そうすれば君とずっと一緒にいられる!」
「えぇぇー……。でも、試験とか適正があるかどうか……」
「大丈夫!!!!」
何が大丈夫かわからないが、君といられるなら俺は何でも大丈夫な気がした。
そして俺は彼女の案内を経て死神になる為の適正訓練と試験を行い、無事に彼女と一緒の死神になった。
「ほ、本当に死神になったんだ……」
「ああ、君のために俺は死神にだって天使にだってなってやるさ。」
「えぇぇっぇー、よく死神になれたねぇ……」
こうして二人は死神夫婦としてたくさんの仕事を成し遂げた。
子供は……。 死神じゃできないので、不運に巻き込まれた小さな子供を養子としてとった。
死神家族は今日もとても幸せに暮らしました。
そして勢いで終わらせて何の作品かもちょっとわからなくなったwww