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ご退場

や、やつは!

「ようこそ、炎の勇者さん。訳あってあんたの偽者をさせてもらってるぜ。よろしく」


いきなり偽者宣言をした目の前の男は炎の剣を持っているものの隣にいるダンボール君とまったく似てなかった。

ダンボール君外見普通。特に特徴も無い茶色の髪の毛をしている。

でも向こうは赤い髪にイケメンの顔。さらに赤い鎧に赤いマントといういかにもな勇者っぽい格好をしている。

ぶっちゃけダンボール君が勇者だと言い張っても絶対信じてもらえないレベルで印象に差が出てる。


「あ、はいどうも。本物の炎の勇者のダン・ボルケインです。以後よろしくってなるかボケ!よくも俺の猿真似なんかしやがって!俺に似て顔だけはカッコいいけどな!」

「似てないけどな」

「似てないね」


僕とお姉さんが同時に否定する。

いやどう見ても向こうの方がカッコいいよ。ダンボール。


「いやー、この辺で活躍してる炎の勇者ってのがいるんで出来るだけ自分なりのイメージで外見作ったけど。あんた何それ?炎の勇者が髪の毛茶色とか、格好も普通の冒険者とか。無いわーマジ無いわー」

「分かる」

「おい、納得してんじゃねぇ!」


は!ついうっかり本音が


「質問なんだが」

「お、なんだい姉ちゃん?」


お姉さんが偽者に話しかける。


「なんでこいつの真似なんてしようと思ったんだ?」

「そうだ!どうせ強そうな俺を先に罠に嵌めて汚い手で倒そうとしたんだろ!卑怯者が」

「いやいや、あんたこの辺じゃ最弱だろ?大物狙うならまず『正義』の野郎だが生憎あいつは今この都市に居ないもんでね」

「最弱なんだ・・・」


可哀想に


「哀れむな!」

「つーわけで、まぁ俺の『能力』がどれだけこの状況で効果があるかどうかってのを試してただけだ。そいつの名前をつかって」

「ふむ、能力・・・か。またどこぞの勇者を名乗る転生者か」

「その通り。どうせバレてるだろうし名乗らせて貰おうか。俺は『偽り』の勇者。嘘、偽りがこの俺を輝かせ、目立たせる。くー!このダークヒーロー感最高だわ」


「「「・・・」」」


空気が凍った。

なんだ偽りの勇者って。

というかいいのか勇者がそんなんで。

いいんだろうな。

ダンボール君でもなれるもんな。

冷めた目でダンボール君を見ていたら気づかれた。


「俺をあれと同じような目で見るな!俺はあんなに痛くない!」

「少しは自分が痛い奴だという認識はあったのか、驚きだ」

「ち、ちが!姉御、マジ違うって!やめて!アレと一緒にしないで!」

「随分と人を馬鹿にしてくれてるようだけど。そんな余裕あるのかな?」

「何のことかね?嘘つき君」

「偽りの勇者ですよ、姉御」

「・・・嘘つき君では駄目なのか」

「駄目じゃないです」


相変わらず名前というか固有名詞てきなのまで覚えられないのか。

この人今までどうやって生きてきたんだろう?


「というか偽りの勇者とか姿変えるだけっぽいけどどうやって火を放ったんだろ?」

「炎の剣に見せた松明でそこら中に放火してやったぜ」

「うわぁ...」


ここ最近での僕の勇者のイメージがどんどん下降していく。


「ふん、余裕でいれるのも今のうちだ。わざと逃がした連中が今頃憲兵隊を呼んでる頃だろうよ」

「憲兵隊?警察みたいなものか。いちいち表現が分かりづらいな。現代用語で話してくれ」

「姉御。駄目ですよ。そこは、な、なんだってー!って驚くのが賛美式で」

「そうなのか、知らなかった」

「都会っていろいろ凄いんだね」

「余裕ありすぎだろてめぇら。状況分かってるのか?憲兵隊が来たら俺は姿を変えて憲兵隊の奴らに縋りつく。そしてお前が炎の勇者だと証言する。後はお前に名前を名乗らせればお前らはお尋ねものさ。ゲームに乗った馬鹿な賞金首になるって寸法よ」

「ふむ、やることは姑息だが考えてはいるんだな、で?」

「で?ってなんだよ。お前らの立場をどんどん悪くしてやるぞ」

「いや、そこにいる本物の炎の勇者を倒さなくていいのか?」

「え?」

「他の勇者を殺すのが一番ポイントが溜まる方法だろう?その方法では罠に嵌めたことで何かしら貰えるかもしれんがそんなことすると私達は逃げるぞ?」

「っていうかもうこの場でこの偽りの勇者殺しちゃった方が早いんじゃ・・・弱そうだし」

「そうだね。強かったらこんなことしてないだろうし」


すごい周りくどいよね。

なんか画策してるけどようするに自分で倒せないから他の人に倒してもらおうってことでしょ。


「せこいな」

「あー、せこい」

「むっちゃせこい」

「せこいせこい言うな!違うしー!マジで他の勇者と戦うためにわざといろいろ試してるだけだしー!」


いろいろわめきだした。


「なぁ、姉御、アレもうやっちゃっていいっすかね?」

「いいんじゃないか?正当防衛だと思う。法律とか良く知らんが」

「大丈夫でしょ。死体隠せば」

「お、落ち着けよ。俺を殺せばもっと状況が悪くなるだけだぞ。どうせ憲兵隊に見つかって指名手配だ」

「だったらとりあえずこいつサクッと殺っちゃってポイントにしてから逃げるか」

「クソ!殺されてたまるか!逃げ切ってやる!」

「「「あっ、逃げた」」」


本当に逃げたよ。

あれも勇者なのか。

泣けてきた。


「へ、、へーんだ。この偽りの勇者様の策略に嵌りやがった馬鹿共なんかに殺されてやるわけねぇだろうが」


「そうか、お前が勇者か」

「へ?」


本当に逃げられても困るので追いかけたら別の男が偽りの勇者の背後に立っていた。

いつの間に。


「あ、憲兵隊の人っすか?違うんですよ。あの後ろから追いかけてくるやつらが」

「問答無用」

「何を言って」


男の腕が偽りの勇者の頭を抉り取った。


「南無阿弥陀仏」


何かを唱えたように聞こえたが

元勇者の体から噴水のように湧き出る血が衝撃的で思わず見入ってしまった。


はい、ということで一話でご退場でした。

当初は彼を能力コピー系の勇者にするつもりでしたが

あまりにも緊張感が無いキャラでしたので空気を変えるための雑魚として登場させました。ごめんね。偽りの勇者君。

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