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1999remember  作者: 板空六花
空のむこうに
46/48

「兄さん、どうして泣いてるの……」

 そして、僕は目を覚ました、

 くすんだ天井が見えた、背中には硬いベッドの感触。それにつんと鼻をつく独特の匂いから、どうやら自分は病室にいるらしいと悟った。身を起こそうとしても力が入らない。仕方がなしに首だけを動かすと、そこにはシーツに伏せて眠る女の姿がある。

「クロ……」

 いや。

 そんな甘い夢はもう見るな。

 そうだろ、オズ。

 彼女の横顔は幾分か大人びて見えた。それもそのはずか。十年だ。十年で過去一度しかここに帰ってこなかった。今回だって、彼女の結婚を聞かなければ、戻るつもりはなかったのに。

「兄さん……?」

 どうやら起こしてしまったらしい。

 妹の美咲はゆるゆると面をあげて、腫れぼったい目をこすった。

「兄さん、どうして泣いてるの……」

 長い夢を見ていたんだ、と呟いた。

 それから美咲が事態を把握し、ナースコールを押すまでのわずかな間、声を押し殺して泣きつづけた。十年経って、ようやく忘れられたのに、どうしてあんな夢を見てしまったんだろう。

 クロエはもういない。

 そして、僕もあの日、錠剤を呑むことはなかった。

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