「兄さんは、黒田さんって人と仲がよかったの?」
結局、クロエがドアを開けることはなかった。
以降、僕らが集まる日は二度とこなかった。
※
あまりにも長くこの時間にいるものだから、すっかり忘れてしまっていたけれど。
僕はこの先の未来を生きていた。彼女の結末についても知っていた。
年をとってから考えてみると、道外や東の方からきたわけでもないのに、高校生の彼女が親と離れて暮らしていたのは実に異様であった。
当時浅慮だった僕は「そういう話もあるのだろう」などと考えていた。だけど社会にでて、十代半ばの子どもが安アパートでひとり住むなんて小説か映画の中でしかありえないと知った。
元気だった頃の彼女は寂しそうなそぶりなど欠片もみせなかったけれど、夜、僕らが帰ったあとで、色々と考えていたのだと思う。今ならそれがわかる。わかるような気がする。
就職して間もない頃、北海道に帰る機会があって、偶然彼女の背景を聞くことができた。
「あの子のお母さんって、ずっと精神病院に入院してたそうね。それで、お父さんも最後には首を吊って死んじゃったみたい」
あんた知ってた?と世間話のように母に尋ねられ、僕は「そんなに親しくなかったから」と答えた。
「あの子、今はどうしてるのかねぇ」
――暗闇の中、実家の布団で膝を抱えていると、いつのまにか隣に妹がきていた。
「兄さんは、黒田さんって人と仲がよかったの?」
頷いたが、明かりをつけないままではわからないと気づき、「ああ」とだけ声にだした。
「黒田さんのこと、訊いてもいい?」
答えられずにいると、妹はそっと僕の肩に触れた。
「兄さんは大丈夫だよ。離れていても、私たちがずっとそばにいるから」
そうだろうか。よくわからない。
今でもよくわからないんだ。




