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1999remember  作者: 板空六花
あの一九九九年をもう一度
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〝人喰いジャック〟の事件から一年が経った。

 〝人喰いジャック〟の事件から一年が経った。

 僕らは高校三年生になっていた。季節は夏、もう受験にむけて追いこみをかけなければならない時期だ。クラスは理系と文系に別れ、レオやロリ子とは自然と顔をあわさなくなった。僕はよく図書室へ行き、あの窓際の特等席で数学の問題を解く。大体がひとりだった。日没後となれば図書室はひどく静かで、まるで時間がとまっているようで、今さらながら在りし日の七不思議を身近に感じた。

 どこにいても息苦しさを感じていた。

 まるで閉鎖された街に囚われているようだった。たまに空を見あげる。曇り空が多かった。僕はここからどこにも行けないのではないかと、しばしば不安が胸を襲った。逃げだしたくてたまらなかった。でも――どこへ? どこへ行けば、あの日々に帰れるんだ?

 雨の日には具合が悪くなり、学校を休んで街にでた。傘とカセットテープを持って、制服を着たまま、あてどなく歩いていた。きっと教師たちからは、どうしようもない不良だと思われているに違いない。だけど、本当にどうしようもなかったんだ。

 できれば、知らないところへ行きたかった。しかし、金がなかったのでバスも電車も使わず、ひとりで時間をつぶせる場所も多く知らなかったので雨宿りもせず、ただ下をむいて同じところをぐるぐるとまわっていた。耳にはイヤホンをして、カセットにはアース・ウィンド・アンド・ファイアのヒットナンバー。いつかレオに教えてもらった曲だ。覚えているかい、僕らが踊ったあの日のことを。黄金に輝いていたあの日々の夢を。聴いていれば不思議と時間が経つのが早くなった。A面からB面に変わり、再びA面に戻ってきたところで自販機のコーヒーを買う。飲みながら少し空を見あげて、雨の中をまた歩く。それを繰りかえしているうちになにも見つけられないまま帰るというのが、お決まりであった。

 あれからしばらくして、クロエはおかしくなった。

 授業にはあまりでてこなくなり、まれに顔をだしたと思っても、短くなった髪をぼさぼさにしたまま、おばけみたいに教室の隅でずっと座っていた。

 目はミイラのごとく乾いていて、視線は定まらず落ちつきなく宙を彷徨う。独語空笑も目立った。時には周囲にも聞こえる声で、レコードを逆まわしにしたような言葉を漏らした。

 ……それは怨嗟の声だったのかもしれない。

 新しいクラスメイトたちは、はじめこそ面白がって彼女にちょっかいをかけていたが、そのうちに気味が悪いと距離をおくようになった。

 それは僕も同じだ。僕も例外ではなかった。

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