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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
8さい:はじめての護衛依頼(強制)
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8-1.強制依頼発生

このエピソード、削ろうかとも思ったのですが……

新展開、いっちゃいます。



 メイちゃん達の修行も徐々に段階を進んでいます。

 ヴェニ君のお得な修行理論で修行になりながらお金も稼げるお得な賞金稼ぎ稼業(アルバイト)にも段々慣れてきました。

 メイちゃん達が慣れるのと同じく、他の賞金稼ぎさん達もメイちゃん達の姿に慣れてきたみたい。

 あからさまにお子様だけど、私達が情報を求めてメリーさんの酒場に出入りしても、不審げな顔をする人が何だか減ってきたような気がします。


 賞金稼ぎ(バイト)を始めてから、早半年。

 メイちゃん、8歳の冬が訪れようとしていました。


 ちなみに今のところ仕事の達成率は8割をキープしています。

 無理な依頼をヴェニ君が撥ねているところも大きいけど、同じ標的を狙う商売敵だって多いこの稼業。

 狙った獲物は逃がさない、と……そう上手くはいかない。

 横取り、妨害、情報の攪乱。

 性質の悪い同業者から、嫌がらせめいた横槍もある。

 そんな中で仕事の達成率8割っていうのは、駆け出しにしてはまあまあ良い成績……みたいだよ?


「……まあまあどころか、かなり良い成績だっての」

「ヴェニ君、なにか言ったー?」

「なんも言ってねぇよ! ただ師匠の苦労を知らねぇ馬鹿弟子に溜息ついてただけだ」

「ヴェニ君ひどい!」


 何故か私のことを胡乱な眼で見る師匠のお耳は、今日も真っ白で触り心地が良さそうだった。

 あうー……。

 早くヴェニ君の耳を鷲掴みに出来るくらい、強くなりたいなぁ。



 そんな感じの毎日の中。

 メイちゃんとミヒャルト、スペード。

 それから師匠であるヴェニ君。

 この4人で組んで賞金首を追っかけるのも定番の放課後になりつつある今日この頃。


 メイちゃんの家に、召喚状が来ました。


 領主である、アルジェント伯爵様から。

 伯爵領軍の軍人さんであるパパ……じゃなくて、何故かメイちゃんに。


「め、めいちゃぁあああん!?」

「ママ、どうしたの?」

「め、メイちゃん! どうしたの、はママの台詞ですよー……メイちゃん、貴女はいったい何したの?」


 使者の人から手紙を受け取った、ママ絶叫。

 動転した声に何事かと、庭で遊んでいた双子(おちび)ちゃん達がわらわら集まってきます。

 双子って言っても猫さん家の双子もプラスなので、合計4人のおちびちゃんが母のエプロンドレスに纏わりついて何事かと身体を揺らしています。

 ……うん、不覚にも和む光景でした。


「まぁま、姉たんどーったの?」

「ねえね。まぁま泣きそーなの……」

「えぅー……? いや、メイもわかんない」

 

 体によじよじと登ってくるチビッ子ちゃん達も怪訝そう。

 そんな中で渡された召喚状。

 でも伯爵家の紋章とか早々見る機会ないし。

 封蝋に押されたマークの意味なんてわからず首を傾げていたんだけど。

 そんな暇も惜しいとばかり、あれよあれよという間に拉致られました。

 書状を届けてくれた、使者の人に。


 ……うん、状況説明の時間くらいは設けてくれても良かったと思うんだ。

 いきなり馬車に押し込まれて、状況はさながら誘拐現場。

 連れていかれる私の姿に、何事かとご近所さん達も目を丸くしていたよ。

 でもそれ以上にね?

 メイちゃんが連行されるという初めての事態に、ちびちゃん達の動揺が凄まじかったんですけど。

 混乱して馬車に追いすがり、泣き喚いてたんですけど……。

 な、なんという心痛む光景……!!


 途中でママが4人を抱き止めていたから、危険はなかったけれど。

 中々に胸の痛む光景だったと思うんだけどね?

 むしろ伯爵家の風聞が悪くなりそうな光景じゃないのかな?

 それでも動揺を見せない鉄面皮な使者さんの仕事人ぶりに戦慄しました。

 ……仕事が早いのは良いと思うけど、もうちょっと周囲を気にした方が良―よ?


 ちなみに馬車の中には、先に拉致られたらしくスペードとミヒャルトの姿がありました。

 これって何事?

 目を見交わしても、2人も何も知らないことしかわかりません。

 困惑する私達が顔を見合わせる中で、最後の1人……とヴェニ君が追加で馬車に放りこまれました。

 目を白黒させたヴェニ君が正気に戻る前に、馬車は再発進!

 ……使者さん、意外に腕力強いね!


 そうして私達はがたごとがたごと。

 まるで子牛のようにドナドナ……って訳じゃないけど。

 何故かいきなり、ご領主であるアルジェント伯爵様のお城に連れてかれちゃったのでした。

 毎日遠目に見慣れた建物ではあったけどさ……自分があのお城に踏み込む日が来るなんて思いも寄らなかったよ。



 連行された先、伯爵様のお城の中。

 存外、丁重な扱いを受けて通されたのは応接室っぽいお部屋。

 わあ……家具が猫足だぁ。

 調度品が物凄く高そうでした。


「……おい、チビ共。頼むから大人しくしてろよ」

「ヴェニ君、お顔が青いよー……」

「大人しくしてるのなんて当然だよ、ヴェニ君。その台詞はスペードに言えば?」

「なっ……お、俺だって暴れたりしねぇよ!?」

「このテーブル1つ傷つけただけで、俺ら借金生活確定だからな? 絶対に、ぜっっっっっったいに家具に傷つけたりすんなよ?」

「「「Yes, Sir……!!」」」


 出されたお茶にも手なんて出せるはずがなく、私達は4人で身を寄せ合って硬直しとりました。

 いや、だって……カップ、高そうなんだもん。

 五感に優れた獣人だからこそわかる、馥郁たる香りにも恐怖しか感じないよ!

 ロキシーちゃんが稼いでくれているお金も余裕で吹っ飛びそうだもん。

 一般市民のお子ちゃまには色々と刺激が強すぎるよ、ここ。


 我ながら見事に委縮していた、この状況。

 私達、一体何の為にお呼ばれしたのー……?

 そんな疑問にお答えしてくれたのは、ふんわりとした砂糖細工みたいな女の子でした。

 年齢、ヴェニ君よりちょっと上……14,5歳くらいかな?

 ひらひらしたお嬢様が2人、メイドさんの先導でお部屋に入って来たんです。

 なんだかとっても、目をキラキラさせて。


 メイちゃん達のお顔は多分、引き攣ってたけどね!

 座って待ってたけど、慌てて立ち上がりましたよ!

 

 緊張感漂うメイちゃん達に、お嬢様は小さく苦笑を溢して。

 それから安心させようとしてか、優しくふわっと微笑みを浮かべて。

 メイちゃん達に、優雅なお辞儀を見せてくれました。


「急にお呼び立てしてごめんなさいね。わたくし、アルジェント伯爵家の次女ジゼルと申します。この子は三女のエマ」

「はじめまして、エマです」

「あ、はい! メイファリナ・バロメッツです!」


 慌てて名乗って、メイちゃん達もぺこりとお辞儀。

 でも作法なんて全然知らないから、なんだかぎこちない……。

 上流階級のお嬢様を前に、メイちゃん達は困ってしまいました。

 ひらひらした砂糖菓子みたいなお嬢様達。

 絵本の中の住人にしか見えないよ……。

 これ、一体どんな状況?

 メイちゃん達の困惑は深まるばかりです……。


「そんなに緊張なさらないで。わたくし達が無理を言っていらしていただいたのですもの。まずは楽になさって下さいな」

「は、はあ……」


 壁際に控える3人のメイドさん。

 それからお嬢様の背後に立ったまま控える侍女さん。

 綺麗だけど人間っぽさの感じられない無表情・お仕着せのお姉様達にずらりと囲まれた異様な空間。

 お嬢様は侍女さんが新しく入れた紅茶をゆっくりと傾け、やっぱり優雅に微笑みを浮かべて切り出してきました。


「本来は父がお話させていただくところなのですが……ごめんなさいね、父は忙しいものですから。今回の招聘に関して、当事者の1人であるわたくしからご説明させていただきます」

「いやいや伯爵様ご本人からお話とか困るからー……」

「こ、こら馬鹿メイっ」

「はっ 思わず本音が!」

「ふふ……お噂通り、楽しげな方々ですのね。わたくし、ずっと気になっていましたのよ? 貴方がたのことを耳にしてから、ずっと」

「「「「えっ」」」」


 あう。師弟4人で驚きの声が揃っちゃった。

 でも驚いても仕方ないと思うの。

 ご領主のお嬢様がメイちゃん達の何をお聞きになったっていうのー……


「貴方がたのことは、かねてより耳にしております。わたくしよりも年若い身でありながら、凄腕の賞金稼ぎとして名を上げる『白獣』……年齢が近いということも興味を持つ切欠でしたが、何よりも貴方がたの仕事達成率の高さ、それを裏打ちする戦闘の実力をわたくしは買わせていただいております」

「ヴぇ、ヴェニ君! これって人違いのパターンじゃないかな!」

「いや、名指しされたろ……召喚状、もろに名前書いてあったろ」

「でも『白獣』って? 心当たりないんだけどそんなチーム、この街にいた?」

「……自分が何と呼ばれているのか、疎い方はいるものですけれど。まさか当の本人達が御存知ないなんて」


 さもおかしいとばかり、お嬢様がころころと笑っておいでです。

 これ、状況から見てメイちゃん達が笑われてるんだよね?

 でも『白獣』って……確かにメイちゃん達、偶然の一致で4人とも毛皮真っ白系の獣人だけど!

 白羊と白猫と白いn……狼と、白兎の4人組だけど!

 ……あれ? やっぱり『白獣』ってメイちゃん達のことでしょうか?


「自覚があまりお有りではないようですけれど、白い獣人だけで構成された貴方がたのことを、賞金稼ぎの方々は『白獣』と呼び称していらっしゃるようです」

「は、初めて知りましたー……」

「ふふ? バロメッツ大佐のお嬢さんはとても素直な方のようですわね。微笑ましいです」

「お姉様、そのような世間話は後でもよろしいではありませんか。ご本人達が目の前にいらっしゃるのですもの。もっと皆様のご活躍に関するお話が聞きたいです」

「まあ、エマったら……それよりも伯爵家からの依頼のお話の方が先ですよ」

「……『白獣』の皆様にお会いできると聞いて、楽しみにしていましたのに」

「それこそ後になさい。先にするべき話を済ませておかなくては、ね?」


 仲良しさんな、お嬢様(×2)。

 だけど台詞の端々に、何か聞き捨てならない単語が挟まってますよー……。

 不躾かもしれないけれど、お子様の年齢特権でここは聞いてみよう!

 お優しそうなお嬢様達だし、たぶん無礼討ちにはならないと思うし!


「あの、ご依頼……ですか?」

「ええ、依頼です。ごめんなさいね? つまらない話で痺れを切らせてしまったかしら」

「お姉様とわたくしからご依頼です。ひいては伯爵家からのご依頼ですの!」

 

 なんだか先程までにも増して、お嬢様達の目がキラキラしてきました。

 どうやらメイちゃん達がまだまだお子様なのに賞金稼ぎとして頑張っていることで、話に聞いて興味を持った……ってことみたいだけど。

 でもまだ年若い私達に、依頼?

 それも伯爵家からって……どういうことなんでしょうか。


「それほど難しいお話ではありません。実はわたくし達、少々遠方まで足を運ばねばならなくなってしまいまして……勿論、その間は伯爵家から護衛が出ますのよ? アルジェント領軍から精鋭が派遣される予定です。ですがそれとは別に、わたくし達の個人的な護衛兼お話の相手として、貴方がた『白獣』を雇わせていただいてもよろしいかしら……?」


 にっこりと、優雅に小さく首を傾げて微笑むお嬢様。

 でもね、うん。

 お話を聞く分に、まだまだ小さいメイちゃんでも分かります。


 ご領主様である伯爵家から……ってことは。

 そのご依頼、つまりは強制依頼ですよね――……?


 ご領主様には逆らえない。

 それが封建社会に生きる領民の、世知辛い庶民事情でございます。

 アルジェント領のご領主様は無茶を言わない部類のご領主様で、中々良心的ってお話だったけど……お嬢様のお願いにしても、平均年齢10歳そこそこの賞金稼ぎチームに護衛をお願いするって、結構無茶苦茶なんじゃないかなー……?






メイちゃん達、通称ですがチーム名がつきました。

本人たちは知りませんでしたけどね!


いつの間にやら酒場で噂のやり手新興チーム『白獣』。

自然と呼ばれ始めたので、誰がその名を付けたのかは不明。

この通称にするためだけにヴェニ君とスペードの毛皮が「白」に決定したようなもんです。

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