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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
8さい:これもひとつの酒場デビュー
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幕間 本当の後片付け




 主にヴェニ君に多大なる心配をかけつつ。

 何とか盗賊の集団を残らず縄につけた、その夜。

 近年では稀な盗賊の大規模集団だったということもあり、街の治安を預かる警備隊はアジトの入念な捜査を行っていた。


 領地の外敵に対する備え、アルジェント領軍。

 アカペラの街の治安を守る、警備隊。

 互いに折り合いをつけながら、方針の違いによって時に共同捜査を行い、時に完全に切り離されて行動する2つの組織。

 盗賊への防衛は街の治安維持に関する領分として、主に警備隊が受け持つのだが……

 

 アジトの裏に位置するソレ(・・)を捜査員達が見つけたのは、割と早い段階で。

 アジトの奪還を意図した襲撃を仕掛けたという、残存勢力が気になる動きを見せたという報告から入念な調査が行われたからだったのだが。

 アジト裏手に隠されていた下り階段の先には、当然のように隠し部屋があり……立ち入った捜査員は、眉をしかめた。


「やばいな……誰か、伝令を。アルイヌ総長にご判断がいる」

「間違っても副総長の方じゃないぞ、総長だぞ。副総長に……あの女傑に任せたら、大雑把に全部破壊して終わりそうだからな」

「入念な調査が必要だな。総長が駆けつけて下さるまでに、少しでも作業を進めよう」


 少し部屋の様子を探っただけで、不審な点は数多く見つかった。

 いや……不審ではなく、不穏な点が。

 早期に伝令の必要を悟り、捜査員は鳩を飛ばす。

 温厚ながらに頼りがい抜群な、


「これ、軍部の管轄に被るんじゃないか?」

「街の大規模爆破に、騒ぎに乗じた略奪計画か。分不相応に馬鹿げた計画立てやがって」

「実行不可能……とは言い切れない装備が整えられているところが不自然だな」

「これだけの準備がぽっと出の盗賊団に整えられるはずないだろ」

「もっとおかしな点がどっかに…………見つけた」


 部屋の中の不審個所を調べていく内に、上がる声。

 見つけたとの声に調査員達は頭を寄せる。

 何が見つかったのかと、取り囲んだ先には1枚の紙切れ。


「契約書類だ! 証拠能力は怪しいが……事実関係は探れそうだな」

「正式な書類の体裁を惜しいところで外してますね。わざとでしょう」

「あとあとしらばっくれる為に書類の定型から外したんだろうな。おまけに見ろよ、契約印がどう見ても偽物だ」

「形式を見るに貴族の家紋でしょうが……本当に偽造印ですねぇ」

「この家紋の貴族に濡れ衣着せたかったんでしょうなぁ。こっちの調査能力舐めてやがんぜ」

「こりゃ背後に誰かしらの思惑があるのは明らかか」

「魔法使いが身持ち崩して盗賊に……なんておかしいと思ったんだよ。他に働きようはいくらでもあるんだしさ」

「たぶん、盗賊団に派遣されたどっかの子飼いだったんでしょうね」

「子飼いにしても、捨て駒程度に見られてたようだがな」

「……わざわざ逃げずに向かってきた理由は証拠の回収があると思ったからだろう。切り捨て前提の派遣だったんじゃないか?」

「証拠能力を満たしてない……証拠が証拠じゃないって知らされてなかったんでしょうね」

「恐らく。罪を擦り付ける予定の家に信憑性を持たせるため……ってところかね。少なくとも魔法使いを使い潰せる家の仕業ってことにしときたかったんだろ」


 まだ状況証拠だけで何も確定していないというのに、各々が自分の予想を並べたてながら勝手に状況推理を進めていく。

 このくらいの楽しみがなければ退屈だとばかり、彼らは好き勝手に予想で話を作り上げていく。


「……貴族、ですね」

「貴族だろうな。手口と手の込みようを見るに」

「アルジェント伯の政敵だろう、どうせ」

「前々から貿易と学問で繁栄しているアルジェント領、目の敵にしてるとこは多いですからねぇ」

「時期的に見て、あれか。伯爵のお嬢様に縁談が持ち上がってただろ。もう半ば整ったも同然のやつ」

「ああ、確かに時期的に思い当たるのはお嬢様への縁談、かねぇ……伯爵様が南部貴族と結びつくのが面白くない誰か、ってか」

「ありそうな話だ。特に南部といがみ合ってる北方の陰険共がやりそうな手口じゃね?」

「あっはっはっはっは、やりそうやりそう!」

「やりそうだ、確かに! もう北部貴族の仕業とかで良いだろ」

「まだ何の物的証拠もねえがな!」

「このくらいの予想を立てて笑っとくくらい、別に良いだろ」

「まあ何にせよ……軍部の、特に諜報部に引き継ぎかね。これは」

警備隊(オレら)は手を引いた方が良さそうですねぇ」

「街に危うく大惨事が起きかけてたんだ。諜報部の方々には徹底的に洗い出してもらうとしようぜ」

「ついでに調査結果が出たら情報横流ししてくれやしませんかねぇ……個人的な興味と怒りからの希望ですけど」

「あいつ等は職務上口が堅いから無理だろ」

「そこはアルジェント伯爵の今後の対応で勝手に予測を立てとけば。伯爵様の態度を見てればわかるだろ」

「それもそうだな……」


 こうして、人知れず。

 賞金稼ぎ達が早期に盗賊を補縛したお陰で未然に防がれた陰謀と惨事があった。

 それは公に知られることなく、秘めやかに終息した。

 何事もなく終わったことに、当然ながら賞金稼ぎ達の功績は大きい訳だが……。

 広く告知されるようなことではなかったので、やはりその功績は人知れず闇に消えていく。

 盗賊達を補縛した、賞金稼ぎ達すらも知らない間に。



 だけどこんなものだ。

 本人達すらも知らない間に、功績は埋もれていく。

 賞金稼ぎの持つ役割など、所詮はこんなものだった。

 どれだけ大きな役割を果たしたのかなど、誰にも知られない。

 何故なら事件は起きる前に潰えてしまったのだから。


 後日。

 事件を洗い終わり、誰も知らない内に黒幕は特定された。

 ここから先は政治の領分だが、十分な証拠をゲットしてアルジェント伯爵はほくほくだ。

 改めて賞金稼ぎ達の功績を鑑みたアルジェント伯爵から、関わった者達に賞状と勲章代りに記念品のメダリオンが贈られた。

 事件は秘密裏に処理されたので、与えられる報償などそんなものである。

 ついでに依頼料の上乗せ金として賞金稼ぎ達は臨時ボーナスを得ることとなった。

 十分喜んでいたので、賞金稼ぎ達もハッピーなことだろう。


 事件も防がれ、アルジェント伯爵は政敵の尻尾を掴み、街は今日も平和で賞金稼ぎ達は(たくま)しい。

 伯爵の政敵以外は誰も不満を持っていないので、恐らくこれで良いだ。

 アカペラの街は、今日も平和に営まれている。



 この時から、街の襲撃……対外的には魔物からの襲撃に備えて、という名目でアカペラの街では定期的に避難訓練が実施されることとなった。

 数年後、神託の年。

 繰り返された避難訓練が実際に魔物の襲撃にあった際、功を奏したのだから物事の功罪は何に由来するかわからぬものである。






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