表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
8さい:これもひとつの酒場デビュー
92/164

7-11.後片付けもしっかりと!




 前世での、遠足の話です。

 小学校の遠足で定番だったのは、学校近くの山の上。

 普段は閉ざされているようなマジな山道(ただし短距離)で、足を滑らせながら登って、てっぺん目指すの。

 普通に登ったら苦労もせずに目的地に着いちゃうから、わざわざ遠回り。それが家の裏山だったりするから、真っ直ぐ行きたくなっちゃうのが毎年のことだった。

 そうして見慣れた山頂の公園でご飯を食べて、おやつを交換したりして、皆で遊んで。

 人が餌付けするからまったり我が物顔でくつろぐ野良猫を数えて、抱っこして撫でなでして。

 帰りの予定時間が来たら、大きなゴミ袋が各クラスに分けられて、みんなでゴミ拾いして回るの。

 自分達が使った場所は、自分達が綺麗にする。

 当然のことだよね?

 だって汚いままで放置したら、方々に迷惑かけることになっちゃうし。


 うん、そう……方々に迷惑かけちゃうの。


 だから後片付けは大事だという話。

 

 今日の朝、メイちゃんは『ほどほどに』って言葉を学習しました。

 うん、言葉はもちろん知ってた。

 知っていたけど、今日ほど実感したことはないよ……!


 私に知っていたはずの言葉の意味を教えてくれたのは、昨夜はりきって私と幼馴染みの3人で設置しまくった罠の群れでした。


 オジサン達が思ったよりも、強くって。

 盗賊団は間を置かずにきっちり殲滅されました。

 残党がいないか、朝になって戻ってくる者がいないか確認のため、私達は緊張の中で朝を迎えます。

 一応、捕まえた盗賊からも他に仲間がいないか聞き出すけど。

 本格的な尋問は犯罪者を取り締まる警備隊の仕事なので、たぶん最終的には警備隊の詰め所で本格的に口を割るんじゃないかな。

 ……スペードのママさんの指導(しごき)を受けて腕を磨いた、警備隊の尋問官は凄腕だって噂だから。

 状況を確認して、盗賊達はひとまず片付いたと判断出来たところで魔人のお兄さんが鳩を飛ばしました。くるっぽー。

 え、魔人のお兄さんってそういう意味でも『魔法使い』だったの!? どこから出したかわからない鳩の存在に、私は目を丸くした。

 でもそれは、早とちりで。


 こういう補縛対象が組織的な動きを取る不特定多数なお仕事の時には、賞金稼ぎに携行義務のあるマジックアイテム。

 その効能はそのものズバリ、『伝書鳩』。

 しかも使い捨て。

 あらかじめ指定された場所に、伝えたい情報をマッハで伝えてくれるっていうアイテムだったみたい。


 鳩は鳩とも思えない、信じられないスピードで☆になりました。

 夜空にキラン☆って一筋の光を残して一直線にアカペラの街までまっしぐら!

 伝書鳩はメリーさんの酒場に飛んでったそうです。

 そこで伝書鳩から情報を受け取ったメリーさんが、軍か警備隊か判断して相応しい方に報告するんだって。

 軍と警備隊で管轄が違うもんね。状況によっては警備隊で足りるし、場合によっては軍に出動を要請しなくっちゃいけないし。

 でも賞金稼ぎが個人で判断すると、間違うこともあるから。

 それに個人的な嗜好で本来報告すべき方とは違う場所に報告を上げることもある。

 だから伝書鳩による情報は一端メリーさんの元に届けられて、そこで報告先を分けられるらしい。

 メリーさんってやること多くて忙しそうだよね、大変だよね。

 今度会った時には、お疲れ様って言ってあげようっと。

 

 今回みたいな盗賊団は、捕まえて終わりって訳じゃないみたい。

 被害報告と照らし合わせて、色々と事後調査もしないといけないんだって。

 押収品に関してとか、裏の繋がりについてとか、公的機関が調査することは盛りだくさんだよ!

 さっきも残党が戻ってくるかも、って言ったよね?

 でも賞金稼ぎもずっとここで残党を待つ訳にもいかないし。

 組織的な行動をする犯罪者は、捕まえた後の方が大変。

 事後調査や取り逃がしがないかとか、面倒が多そう。

 単独犯とかだったら、さっさと捕まえて突き出して終わりなのにね。

 

 『伝書鳩』を飛ばしたら、今度は『返信』っていうアイテムが飛んで来ました。

 わあ、このアイテム、返信機能付きなんだね……。

 それに書いてあること曰く、アジトの捜査と残党の殲滅を引き受けてくれる交代要員が警備隊から出されるそうな。

 昼頃には到着するそうで、その人達とバトンタッチしたら私達の仕事は完了みたい。捕まえた盗賊も、その人達が後を引き受けてくれるんだって。

 交代要員で来る警備隊の人達に仕事の完了手続きと報酬を受け取る為の割符を貰ったら、街の詰め所にも行かなくって良いんだって。

 賞金稼ぎさん達には脛に傷持つ人や警備隊とか軍を忌避する人もいるらしいけど、こういう作戦行動中は賞金稼ぎに何か気になることがあっても詮索しないのが暗黙の了解。

 何か不安を抱えた人もすっきりきっちりお仕事完了です!


 ……と、それで終われたら本当に良かったんだけどな。


「……だからやり過ぎんなって言ったろ」

「言ってない! 言ってないってヴェニ君!」


 いま、私達は。

 物凄く苦労しながら、額に汗して重労働の真っ最中。

 何をしているのかって?

 

 罠の撤去作業だよ!


 ……うん、マジでやりすぎた。

 後先考えない行動がどんなにお馬鹿な目に陥るか。

 いま、メイちゃんは我が身を以て学習中です。

 あうぅ……身に染みるー!


 何しろこれから、警備隊の交換人員が来るそうで。

 それってつまり、この盗賊のアジト(元)に来る訳で。

 ……つまり、罠を撤去しておかないと、警備隊の人がひっかかります。

 スペードとミヒャルトが無駄に気合いの入ったアレコレを設置しておいてくれたお陰で、メイちゃんまで大変だよ!

 うっかり事故って自分も引っ掛からないように注意しながら作業するのが、物凄く地味に大変です。

 うっかりアドルフ君のパパさんの二の舞にならないように注意しないと……!

 木の間に張り巡らされた縄なんかは、まだマシです。

 だってお日様が昇ったら、どこにあるかわかるもん。

 草を結んで作ったわっかも、結び目を切って回るだけなのでまだ危険はない方。

 ……危険なのは一目でわからない落とし穴の類と、連動型のヤツ。

 なのに無作為に作り過ぎて、どこに残っているのか不明状態。

 一応、ミヒャルトが大まかな位置を覚えてくれていたから、何とかなるけど……厄介なのは即興でスペードが仕掛けたブツ。

 もう、ちゃんと自分が罠を仕掛けた場所くらい覚えておこうよ!


 自分達が作った罠なんだから、自分達で責任を取れと。

 厳しいスパルタ師匠のヴェニ君は手を貸してもくれません。

 メイちゃん達に厳しくしているというより、面倒なだけじゃないよね……!?

 疑惑は募るけれど、考える暇もなく。

 私達はひたすら、罠が残っていないのか丹念に、念入りに足下を見て回ります。

 だからと言って足下にばかり注意が行くと、注意が逸れた頭上から何か襲ってくるけどね!


 何にしろ、私達は作業に集中し過ぎていました。

 迫るタイムリミットの存在が、夢中といっても良いくらいに私達を作業に没頭させて。

 そのせいで、普段なら持っていて当然の警戒心が(おろそ)かになっていた事実は否めません。

 そのせいで、気付くのが遅れました。


「――っ!」


 最初に獣人の性能よろしいぴるぴるお耳に届いたのは、ヴェニ君のハッと息を呑む声。

 盗賊達のアジト前から、呆れ顔で私達を見守っていたはずのヴェニ君。

 息を吐く間もなく、ヴェニ君が私達に向けて叫んだ。


「屈め、馬鹿(ちび)共!!」


 いまあの人、私達のこと馬鹿って言わなかった!?

 あまりな言い様に憤慨するより早く。

 それより、ずっと早く。

 『師匠(ヴェニくん)の指示は絶対』という刷り込みに近い条件反射が、私達の身体を地に伏せさせた。

 丈の長い草叢に、顔面から突っ込む勢いで。

 

 その瞬間。

 私達の頭上を何かが駆け抜けていった。

 何だかとても熱い……熱気の塊のようなものが。


「!!?」


 獣人の動物的本能に訴えるモノ。

 それはどうしようもない危険警鐘。

 神経を逆撫でされるような気持ちの悪い危機感に突き動かされる。私は咄嗟に草叢に隠れるようにして、左斜め前方へと勢い任せに転がった。

 草に紛れて、自分の位置情報を紛らわすように。


 運の悪いことに。

 私がいたのは森の中でも木が(まば)らで視界の開けた一画。

 明るい木漏れ日が降り注ぐ、気持ちのいい場所。

 なるべく体を動かさないようにしながら、視線だけで周囲を窺って……私はあまりに苦々しい感情に突き動かされて顔をしかめた。

 やっばい……ヴェニ君達のいる盗賊の元アジトから、どうも作業に集中するあまり離れ過ぎていたみたい。

 獣人の脚力を以てしても、瞬時に駆け付けるのは無理がある。

 そもそも罠がまだ全部撤去できてないしね……!!


 危険な状況に落された私達。

 私だけでなく、ミヒャルトとスペードも身を伏せて草叢に身を隠す。

 そうする必要が、あったから。


「くそ、あの餓鬼どもどこ行った……っ」

「おいイヴァン! 生け捕りにして人質にすんじゃなかったかぁ? あの威力で燃やしたら死んじまわね?」

「はん……虫の息でも命さえありゃ良いんだ。最初から重傷を負わせておいた方が賞金稼ぎどもだって焦って言うこと聞くだろ」

「違いねえ! アカペラの賞金稼ぎ共は、餓鬼にゃ甘いからな」


 なんということでしょう!

 一応用心しとけって言われてたのに!

 ……出かけてたらしい盗賊の残党が、帰ってきちゃったよ。


 しかもどうやら先程の謎の熱気は、盗賊の1人が放った魔法だったっぽい。

 盗賊の癖に魔法使いが混ざってるとか、どうなってるの!

 魔法を使いこなせるんなら、他に働き口ぐらいあったよねぇ!?

 それとも本人の人格の問題で、盗賊ぐらいしか糊口をしのぐ術がなかったんでしょーか……。

 寄りにも寄って、盗賊(残党)達から一番近い位置にいるのがメイちゃん達で。

 盗賊さん達はどっからどうみても賞金稼ぎの弱点(オマケ)にしか見えないメイちゃん達を捕まえるつもりのようです。

 捕まえて、ヴェニ君や他の賞金稼ぎさん達と何かしらの交渉をしようって目論見のようなんだけどー……それはわかるんだけどね?


 もう1つオマケに気になることがあります。


 アジトは既に占領されて、仲間の大多数は既に補縛(冷凍保存)済み。

 この状況で見つからずに接近できる位置まで帰って来ちゃった盗賊(残党)さんの取る道なんて、メイちゃんからしてみれば1つしかないような気がするんだけど……。

 

 折角、見つからずに済んでいたのに。

 なんでこの人達、見つかる前に逃げなかったんだろ。


 彼らの存在がヴェニ君に見つかったのは、明らかに私達への攻撃を仕掛けたことがきっかけだと思う。

 だってヴェニ君は、師匠らしく弟子の私達を気にかけて、それを第1にしてたんだもん。

 つまり攻撃さえしなければ、まだ見つからずに済んでいた目算が大きいと思うんです。

 逃走、不意打ち、見つかりさえしていなければ選択の幅が広がるよ?

 なのに彼らが選んだのは悪手としか思えない、見つかるリスクが見え見えの一撃。

 どう考えても見つかるって。

 例えメイちゃん達を人質に取ることに成功しても、やっぱりあまり良策とは思えない。

 この人達、一体何を考えてるの……?


 考える余裕なんて微塵もない、危機的な状況下。

 私は疑惑にすぐ蓋をして盗賊(残党)達に注意を向けたけれど……

 それでもやっぱり、胸中に何だか釈然としない思いが巡っていました。







メイちゃん、盗賊(残党)とエンカウント!

果たして彼女たちはどう切り抜けるのか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ