1-7.共同戦線!
1人じゃ太刀打ちできない困難にぶち当たった時、どうする?
うん、そういう時こそ、友達に頼るべきだよね…!
持つべきものは、身体能力に優れた機敏な友達です。
そして幸いなことに、私の友達はソレに該当するわけで…
「ミーヤちゃん、ペーちゃん、おねがい…!」
私がこういう時に頼る相手は、結局この2人以外にいないんだよね。
師匠(無認可)との約束から、既に半年近くが経とうとしています。
私は、盛大に焦っていました。
ちなみに師匠(無認可)相手の戦果は、未だ惨敗。
最近自作するようになった蹄カバーで私の特徴的な足音を極力殺そうとしても、無駄だと嘲笑うかのように効果のなさを見せ付けられる日々。
……服にかすりもせずに逃げられているという無様なものですよ。
師匠との鬼ごっこ、文字通り鬼レベルですよ。難しいよ…。
未だ、一向に師匠(無認可)を捕獲できるヴィジョンが想像できません。
ここまできたら諦めて、他の道を模索し始めるべきなのかもしれません。
ですが私は逆に、ここまで来たんだから何が何でも捕獲してやる…っという熱意が灼熱の炎の如くめらめら燃えていました。
この熱意が、身のこなしにも反映されれば良いのに…
………でも、かなり格上のヴェニ君相手に鬼ごっこを執念深く、諦めずに続けていたお陰でしょうか?
最近、ちょっと身のこなしが前より良くなったような気がします。
うん、敏捷性が上がったのかな?
なんか体が軽くなってきた気がするんです。
…いえ、元から5歳児なので大した重さはなかったけど。
あとヴェニ君の身のこなしを観察しているうちに、効率的な体の動かし方ってヤツがわかってきたような気がします。
勿論、見てわかった気になっているだけだけど。
なんとなく理屈がわかっても、やっぱり指導して伝授してもらわないことには実践できそうにないことが物凄く悔しい!
ああ、もう!
絶対にあの身のこなしを習得してやるんだから…っ!
…と、そんな具合に熱意は更に燃え上がっています。
燃え上がっているだけに、物凄い空回りぶりを発揮しているけど。
本当に悔しい話だけど、意欲に体がついていかない…!
明らかに格上のヴェニ君は、私一人が小細工してどうかなる相手じゃない。
………なら、私だけじゃなくて『みんな』で小細工したら?
そんな発想から、お友達を頼った次第です。
近頃、ヴェニ君を追い掛け回して蔑ろにしていた、ミーヤちゃんとペーちゃん。
こんな困った時だけ頼るなんて、都合の良い女だと軽蔑されるかも…
そんな不安で胸をドキドキさせながら、私は彼らの元へ向かいました。
まずは、どちらの家から行こうかな…?
「いってきま~す」
「いってらっしゃい、メイちゃん。お夕飯までには帰りましょうね?」
「はぁい!」
考える前に、出かけることにしました。
取り合えず道に出て、なんとなく気の向いた方の家に行こうっと。
…けど、そんな暇もなく。
私は道に足を踏み出した第一歩で声をかけられました。
「「メイちゃん!」」
「あ、ミーヤちゃん、ペーちゃん」
飛んで火に入る夏の虫…じゃない、ナイスタイミング!
彼らは今日も仲良しさんなことに、異口同音。
全く同じタイミングで私に声をかけてきました。
丁度良いので、私もてこっと彼らに近づきます。
…まあ、実際にはポックポックという音が響いたんですけど。
「こんにちは、ふたりとも!」
「こんにちは、メイちゃん」
「メイちゃん、おっす!」
「おっすー!」
「…こら、スペード。メイちゃんに野蛮な言葉遣いしちゃ駄目」
「あ、わりぃ…つい」
「まったく! メイちゃんは女の子なんだから気をつけてよね」
「悪かったって…そんな怒るなよ。尻尾の毛、逆立ってるぜ?」
「誰のせい!?」
「ミーヤちゃん、怒っちゃやー」
「…っメイちゃん、君に怒ったんじゃないよ!?」
「でも、メイが悪い言葉遣い、したから…」
「っああもう、スペード!? 君のせいでメイちゃんが落ち込んだ!」
「え゛!? 俺のせい?」
うんうん、この調子!
いつもと変わらない2人です。
最近は何故か、私がヴェニ君に突撃するのを妨害してくる(多分気のせいじゃない)ので、ついつい避けちゃってたけど…
やっぱり赤ちゃん時代からずっと一緒にいる大切なお友達だもん。
なんだかんだ、一緒にいると落ち着きます。
…というか、常に2人が傍にいる状況が長かったせいか、隣にいるのが自然。
これも慣れなのかな?
いつも通りの2人を見て、私は自分の気持ちが和むのを感じました。
…やっぱり、気付かないだけでちょっと緊張していたみたい。
私の身勝手で我儘な、2人に何の利点もないお願い。
厚かましくもそんなお願いをしようとする自分が、ちょっと恥ずかしい。
だけど。
「あのね、メイね、2人にお願いがあるの」
大事で、信頼しているお友達じゃないと、頼めないこと。
大事で、信頼しているお友達だからこそ、頼めること。
赤ちゃんの時からずっと知っている、2人にしかこれは頼めない。
そんな気持ちを込めて見上げると…
「なぁに、メイちゃん!」
「なになに、メイちゃん!」
……なんだか子供とは思えないギラギラした目の2人。
あれ? なんか凄くうれしそう。
尻尾ぱったぱった振ってるけど、それって犬の反応じゃない?
こ、これはあれですか…?
今まで避けてた分、いざ構ってみると反動で反応が大きくなった、とか…?
頬を紅潮させた子供は可愛いけど、勢いがあり過ぎてちょっと怖…
「あ、あのね、2人にしか頼めないのー」
「うんうん。メイちゃんが僕らを頼ってくれるなんて!」
「最近ずっっっとヴェニ君ヴェニ君で俺ら寂しかったんだぜ!?」
「何でも言ってよ、メイちゃん!」
「期待には絶対に応えてみせるぜ、メイちゃん!」
………感激したように、ギラギラおめめをウルウルさせながら叫ぶ、2人。
そ、そんなに寂しかったんだね……
自分の夢に夢中になって、メイちゃんお友達を蔑ろにし過ぎたよ…。
うん、ちょっと反省した……。
でも、折角なんでもお願い聞いてくれるらしいし。
この機に乗っちゃう方がお得だよね?
という訳で、遠慮無用に言ってみよー!
「あのね! 2人に、ヴェニ君つかまえるの手伝ってほしいのー!」
「「え…っ」」
わあ、2人の声がぴったりハモったよー…。
2人は、私のいつも一緒にいたお友達。
私の行動を邪魔するようになったから、ちょっと避けてたけど…
でもそれまでは、本当にいつも一緒にいたお友達です。
隠しておくようなことでもなかったので当然、私とヴェニ君の約束のことも2人は知っています。
それが達成されれば、私がヴェニ君の弟子にしてもらえることも。
「あのね、2人にしかお願いできないのー…」
「め、メイちゃん………でも…」
「………スペード、ちょっと待って」
「ミヒャルト?」
露骨に嫌そうな顔の、ペーちゃん。
でも何かを思案するような顔の、ミーヤちゃん。
………えっと、ペーちゃん凄く嫌そうだね。
でもミーヤちゃんなら、もしかしたら説得次第で脈はあるかなぁ。
どうやってお願いを捻じ込むか、ここが勝負の為所?
…と、そう思っていたんだけど。
私が話を切り出すよりも、先に。
ミーヤちゃんが顔をあげました。
その顔に、とっても素敵に爽やかな笑みを貼り付けて。
私の気のせいじゃなかったら、だけどー…
………ミーヤちゃーん…その笑顔とっても薄っぺらいよー?
思わず一歩を引いちゃう私に、でもミーヤちゃんは麗しの笑顔で。
喉を鳴らしそうなほど、御機嫌に言ったのでした。
「任せて、メイちゃん。君のお願いは僕たち2人がちゃんと聞き届けるよ。この僕とスペードの全力で、完璧に叶えてあげる!」
「そ、そう…? ありがとー…」
私は、それ以外に言うべき言葉を見つけられません。
何はともあれ、こうして。
私は心強い味方を2人も得ることが出来たのでした。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「お、おいミヒャルト!? おま、何勝手に…」
「しっ! よく考えて、スペード」
「え、何を?」
「現時点で僕らがメイちゃんの行動を邪魔しまくった結果、鬱陶しく思われてるのはわかるよね? あんなに何度も何度も、避けられたもんね」
「う、うっとうし…」
「…ショックを受けてる場合じゃないよ」
「あ、あ、あれはお前の段取りが悪い!」
「スペードの態度も露骨だったよ!」
「………まあ、両方がヘマしたんだよな」
「そう、結果として僕と君の立場は危ういところに立たされている」
「ミヒャルトって難しい言葉使うよな。お前んとこの父さん母さんに似て」
「それ家風ってやつ…って、それはどうでも良い。今、僕らがやるべきは1つ」
「………メイちゃんの信用回復、か」
「その通り。それに、まだあるよ。今回は点数稼ぎだけじゃなく、僕らにはとっても良いチャンスなんだ」
「おお、チャンス! 詳しい話を聞かせろよ」
「もちろん、君の助けも必要なんだから。良いかい、スペード。メイちゃんの強くなりたいって気持ちは僕らの予想以上に強い。それはわかるよね」
「ああ、この半年を見てたら嫌でもわかるって。メイちゃんはもう、俺らが何をどうこう言ったって、俺らが邪魔するなら切り捨ててでも強くなる気だ」
「そう、つまり。つまり、だよ? 今回のメイちゃんとヴェニ君の約束に敗れても、それでメイちゃんは諦めないってことだ」
「…でも、約束に敗れたらヴェニ君につき纏うのはやめるよな?」
「そうしたら、今度はもっと僕らにとって都合の悪い人間を師匠にしようとし始めるかもしれないじゃないか。メイちゃん、道場に入る気はないって話だし、そうなると個人間での師弟関係を目的に動くよ」
「それって、俺らを傍に寄せ付けない奴のとこに弟子入りしたら………」
「その時点で、僕等は1日の大半をメイちゃんから引き離される」
「うげっ なにそれ、マジ勘弁…」
「そしてメイちゃんは、僕らでなく師匠とやらとほぼ2人きりで過ごすことに…」
「………男だったら、殺しとかないとまずいな?」
「それ以前に、メイちゃんが師匠に選ぶ相手だよ。ヴェニ君に断られるとなれば、妥協せずに更なる高みを目指しちゃうよ…。僕らに太刀打ちできるとは思えない」
「……………阻止、しないとな」
「そう、そこで僕からの提案だ。
――メイちゃんのヴェニ君への弟子入りを、全力で支援する」
「ごめん、なんでそこに繋がんのか全然わかんねぇ」
「利点を上げよう。まず、メイちゃんの為に全力を尽くすことで信用が回復する。これはさっきスペードも言ったよね。でも他にもあるんだよ」
「他? どさくさに紛れて、ヴェニ君を3人がかりで思いっきりぶちのめせる?」
「それは素敵な提案だけど、勝利条件は『ヴェニ君の捕獲』。無用な暴力はかえって不信を招くし、そもそもあのヴェニ君に僕らの拳が通用するとは思えない」
「じゃあ、他の利点って?」
「うん。それはね…僕らの助力があった、そのお陰とメイちゃんに思わせること」
「恩を売るのか?」
「そうじゃないよ。………此方の要求を、受け入れやすくする下地を作るんだ」
「おい、ミヒャルト。何かお前、すっごい性悪そうな顔してるぞ」
「喜ぶと良いよ、スペード。上手くすれば僕らこれからも、メイちゃんがヴェニ君に弟子入りしてからも、ずっと近くに居続けられるから」
「………お前がそう言うんなら、そうなんだろうな?」
「当然だよ」
「じゃ、深いとこまで知らなくったって十分だ。信用してるぜ、ミヒャルト」
「任せてよ、スペード」
………こうして、男の子同士の友情を2人が育んでいる間。
メイちゃんは微弱な悪寒に襲われ、首を傾げていました。
ストーカー(常習犯)×2が仲間になった!
ミヒャルト(LV.3)
職業:ストーカー
HP20 MP3
攻撃力7 防御力5 敏捷20 幸運5
スペード(Lv.3)
職業:ストーカー
HP35 MP1
攻撃力13 防御力6 敏捷18 幸運4
メイは様子をうかがっている…!