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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
8さい:これもひとつの酒場デビュー
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7-7.きっちり分担!



「え? 良いのか、ヴェスター」

「これが純粋に稼ぎに来たんだったら譲ったりなんざしねぇがな。今回は別だ」

「別っつうと? なんだ、他に理由でもあるってのか?」


 前評判では「8人以上」だったはずの、盗賊さん。

 でもなんか、残された痕跡と熊のおじさんが持ってきた目撃情報から分析すると、少なくとも18人以上いるっぽい。

 うわぁ……確かに「以上(・・)」っていっているから、人数が前情報より多くても間違いはないんだろうけど。

 増えたよ、倍以上に。

 その情報も、効果があったのかな。

 熊のおじさん達から話を聞いてヴェニ君が下した結論は、私の予想を穏便な方向に裏切る『共闘』というものでした。


 うん、『共闘』なんだって。

 

 つまりこのオジサン達とは刃傷沙汰に発展しないってことだよね!

 うんうん、了解しました!

 メイちゃん、ちゃんとわかったよー。

 ……ミヒャルトとスペードはどうか知らないけど。

 ちらりと目をやったら、なんだか感情の読めない顔でうっすら微笑むミヒャルトがいた。

 うん、怖い。

 怖いけど『これが通常運転』って感想しか出てこない時点で、ミヒャルトは何かが終わってる気がするの。

 なにが終わってるんだろうねー……


「今回はチビ共に対人戦闘のイロハ仕込みの一環で来てんだよ。前段階ってことで、人と人の戦うとこ見せんのが目的だ。……で、観察するにも例のパターンは多いに越したことねぇだろ」

「チビ共1号、メイだよ!」

「どうも、2号のスペードだ」

「僕はミヒャルト。3号かな」

「お、おうよろしくな……正直ヴェスターがいんのは助かるんだがよ」


 そう言って、困ったように苦笑を交わすオジサン達。

 呆れたような顔をする魔人と豹獣人カップル以外の3人が、見事に似たような表情でお顔を合わせているよ。

 なんか、ヴェニ君も魔人さんや豹獣人さんと同じ表情(かお)してるんだけど。


「……また、なんで今回も壁役が1人もいねぇんだ。オッサンら」

「最近つるんでた盾持ちが腹痛でなー……」

「おっさん3人もいんだから、誰か壁役に戦闘スタイル変えてこい」

「おっさんらが何歳(いくつ)だと!? この歳で今更戦闘スタイル変えるとか、無茶言うな!」

「だったらまともな壁役連れて来いよ」


 後で知ったことだけど、オジサン達の面子。

 超前衛の戦斧使い、戦鎚使い、大剣使いのおじさん達と、魔法剣士の魔人さん、それからレンジャーっぽい感じの豹獣人のお姉さんという……とっても攻撃的な組み合わせだったみたいで。

 うん、バランスが極端に偏って、凄い押せ押せ姿勢なのは気のせいかな。


「ヴェスター、お前ひとのこと言えんべ? お前こそ修行だなんざ言って、そんなちびっこ3人も連れてきてよ……」

「そうだそうだ! 危ねぇだろ!?」

「相手はガチの盗賊だってのに、何考えてやがる! 殺しも厭わねぇ犯罪者の前に出してみろ、攫われて売られんぞ」

「こいつらはそんな柔な鍛え方させてねぇよ。戦い方はまだ下手糞だけどな。正直、追跡とか捕獲とか逃走の技術にゃ異常なもんがある。前に出させ過ぎねぇ限り、そこまで心配する必要はねぇよ」

「おいおい、それをどこまで信じろって?」

「つうか戦い方について『下手』なんざ言われるようなチビ共じゃ余計不安しかねぇっつの」

「誰も彼もがお前みてぇに特別な才能を持ってる訳じゃねぇんだぞ、ヴェスター」

「……才能が有ろうが無かろうが、この俺が3年以上みっちり見てきたガキ共が、足手纏いになるかよ」


 メイちゃん達はまだ10歳にもならないし。

 そんなちびっこちゃん達を連れてきたヴェニ君に、オジサン達は苦い顔。

 ヴェニ君が自信に満ちた顔でニヤリと不敵に笑うから、

 正直、まだ13歳のヴェニ君だって子供って点ではそう変わらないと思うんだけど。

 でもヴェニ君の実力を知っているらしいオジサン達は、私達とヴェニ君を明確に区別して考えているみたい。

 それに対してヴェニ君が反論かまして、メイちゃん達を連れてきたことに対する文句を撃ち落としていくんだけど……

 もしかしたら大目に見て、言ってくれている、のかもしれないけど。

 何だかさっきから随分と嬉しいことを言われている気がして、メイのお顔が自然と笑ってしまいます。

 わぁーお、もしかしてメイ達って思ったより、ヴェニ君に認められてる!?

 もしもそうだったら、今の言葉が口だけじゃなくって本音なら、とってもとっても……本当にとっっっても嬉しいんだけど!

 でも1つ、気になるの。


「ヴェニ君、ヴェニ君。メイ達がヴェニ君にお弟子さんにしてもらったのは6歳の時だから、2年前だよ?」

「ばぁか。なんだかんだ追いかけっこの1年間もてめぇの技量向上に貢献してやってんだろうが。お前らの作戦立案・潜伏・捕獲の実力が上がったのは誰のお陰だと思ってやがる」

「えっと、ヴェニ君かな!」

「ヴェニ師匠一択」

「ヴェニ君っていう獲物(ししょう)のお陰だね」

「っておいこらちょっと待て、ミヒャルト(そこ)。今、獲物と書いて師匠って呼びやがらなかったか、おい」

「やだな、ヴェニ君。被害妄想は見苦しいよ?」

「……くそ、腹黒い笑顔浮かべやがって」


 最近、ミヒャルトの黒さにより磨きがかかってきた気がするの。

 それってメイちゃんの気のせいかな……。



 

 戦闘への直接的な手出しはしないこと。

 また大人の言うことは絶対に聞くこと。

 そして戦闘中は森に身を潜め、絶対に出てこないこと。

 結局それら3つのお約束を交わして、私達は無事同行と相成りました。

 何だかとっても見縊られている気がするけど、仕方ないよね。

 この上は私達の働きを見てもらって、印象を覆さないとね☆



 森歩きは得意だという、豹のお姉さんと熊のオジサン先頭に。

 楽出来てやったね♪と私達は盗賊の痕跡を辿ります。

 メイちゃん達はスペードの嗅覚頼りだったけど、オジサン達は豹獣人のお姉さんを頼りにしてるみたい。

 物凄い洞察力で……って、洞察力なのかな? メイちゃんの目には見えない何かが明らかに見えていたとしか思えないの。

 ……なんで、草地の上を歩いた足跡とか、地面の下から張り出した木の根っこの上を辿った足跡とか、肉眼で発見出来るんだろう。

 森の下草も既に復活していて、どこを踏み躙ったのか全然わからないのに。

 もう洞察力とかの問題じゃない気がするよ。

 それでもそうやって、克明に状況の変化を視認できる人がいると効率が全然違った。

 でも足跡を見つけられるのも、匂いに気付くことができるのも。

 全部、(おか)の上だからこそ出来ること。

 私達は幾らもしない内に、難関に辿り着きました。


 川です。

 それも、結構大きい川。


 ちかくに巨大運河と、大きな湖がある立地なのでほとんど当然だけど。

 水場が豊富なのは良いことだよ? うん、本来なら。

 だけどね?

 うちの狼っ子と豹のお姉さんが、揃って痕跡の行き着く先として川を指さしてくれちゃってるんだけど。

 これ……追跡を警戒して、川を渡って痕跡を潰したってことだよね?

 川には上流も下流もある。

 川の何処から上がったのかも、わからない。


 どうしましょう。

 途方に暮れてしまいそう。

 メイちゃんでは手も尽せず、八方塞がりとしか言えません。

 ……メイちゃんが、ひとりなら(・・・・・)


 だけど今ここには、メイちゃんより頭の回る子がいるんだよ。

 こういう……誰かを追いかけ、追い詰めるのが得意な子が。


 私とスペードは、そろっと身を寄せ合ってミヒャルトの方を窺いました。

 私達の間に共通するのは、ある種の期待と恐れ。

 不思議なことに、不安はひと欠片もない。

 あの子ならやってくれるって、妙な信頼があるから。

 ……うん、これも今までの実績のお陰って言うのかな。


「ねえ、オジサン達」


 果たして、ミヒャルトは。

 私達の信頼に応えるが如く、得体の知れない薄笑いで。


「ちょっと3人揃ってあの川にダイブしてきてくれない?」


 ……そう言うミヒャルトの顔は、女顔の本領発揮とばかり、とても可憐な微笑を浮かべていたのでした。

 怖っ!

 私の幼馴染ながら、なんか怖かった。





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