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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
8さい:これもひとつの酒場デビュー
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7-5.新装備



 頭が痛いな、と。

 そんな顔で額を押さえるヴェニ君。

 まずは人を相手にした時の力量を図る為。

 そんな様子見の仕事(食逃げ犯補縛)をあっさりとこなしちゃった、メイちゃん達。

 今まで人を相手にした実戦的な戦い方は、本格的に教わっていなかったのに。

 にも関わらず、メイちゃん達の力量がヴェニ君の予想の範疇をちょっと超えていたようです。


「俺の予想じゃ、もっと手こずるかと思ってたんだがな……食逃げっつっても犯人は成人(おとな)で、しかも逃走に長けたガゼルの獣人だったんだぞ?」

「いぇーい、易々と捕まえちゃったー! メイ、すごい!」

「いぇーい、メイちゃんお疲れ!」

「おつかれさまー!」


 捕まえた食逃げ犯を最寄りの警備隊詰所に引き渡し、賞金と換える為の割符をもらって。これにてミッションクリア!

 後は賞金の引換窓口に行けばお金が手に入ります。

 ハイタッチを交わす私達を見て、ヴェニ君は微妙に疲れたような顔。


「こりゃ予定も前倒しにしねぇとダメだな」


 予定が狂った、とヴェニ君。

 どうやら綿密なメイちゃん達の育成計画を立てていた模様。

 予定が崩れるのに比べたら、予定が早まることくらい別に良いんじゃないかな!

 そう思ったんだけど。


「……じゃ、次。お前ら、これ狙ってみっか?」


 そう言ってヴェニ君が提示したのは。

 最近森に潜んでいるんじゃないかと推測されている……ガチな盗賊さん達の手配書でした。

 うわーお、一気に本格化したよ。


 賞金稼ぎのターゲットとして、食逃げ犯なんて序ノ口も良いところで。

 ピンキリ幅広い、手配書の数々。

 いきなり難易度が上がった気もするけれど。

 ヴェニ君が私達に出来るって信じてくれたんなら、それに応えるのも弟子のつとめ……だよね?


 顔を見合せて、ちょっと不安を互いの目に読み取って。

 戸惑う私達3人を、ヴェニ君は引きずるようにして連行する。

 連れて行かれたのは、えーと……武器屋?

 

 校長先生が営む、武器屋さん。

 メイン商品は武器だけど、そもそも校長先生は『鍛冶師』。

 金属製品は大体置いているし、モノによっては防具も置いている。

 だからこのお店に来るだけで、武器と防具は大概が揃うんだけど。

 この流れで来たってことは、装備を整えろってこと?

 でもどうせだったら、食逃げ犯の賞金を回収してから来たかったな……!

 お買い物をするには軍資金が必要なんだよ、ヴェニ君!


 ……と、そう思ったんだけど。

 結果として、私達がお金を使うことはありませんでした。

 だってヴェニ君が払った……というか、既に前もって払い済だったんだから。


「おっさん、例の品……受け取りに来たぜ」

「おお、なんだ? お前さんの弟子たち、もうそのお眼鏡に適うようになったのかい」


 成長の速いことだ、と……含み笑うウォルターさん。

 ええっと、どういうことなのかな?

 なんだか意味ありげー……

 首を傾げるメイちゃん達の前に、ウォルターさんはカウンターの裏から何かの包みを取り出した。

 ヴェニ君は躊躇いもなく、その布包みをさっさか開いていく。

 やがて出てきたのは、金属片による補強がされた革製の防具。

 素人のメイちゃんから見ても、中々良さそうに見える子供用の防具がカウンターの上に並べられました。


「ヴェニ君、これはなぁに……?」

「見てわかんねぇのかよ」

「ううん、そうじゃなくって。なんで最初っから用意してあるの?」

「ああ、そこ引っ掛かったか」


 なんだかいつもよりもぶっきらぼうに。

 ちょっと、どことなく素気なく。

 明後日の方に視線を逸らして、憮然としているヴェニ君。

 ……え、なんで照れるのー?

 メイちゃんはますます首を傾げました。


 理由はすぐに、そんなヴェニ君に苦笑するウォルターさんが教えてくれたけど。


「お前さん達、1年と少し前ほどかな……森で獲物を狩らなんだか」

「え?」


 唐突な質問に、でも答えが考えるまでもなく湧きあがる。

 1年以上前なら、7歳になるかならないかって頃合いで。

 そんな頃に、狩った獲物?


 心当たりは、ばっちりありました。


 っていうかそれ、初の野外修行の時のことだよね?

 メイちゃんが魔物との初遭遇・初狩りを達成した時のことです!

 そういえばあの時、獲物の毛皮はヴェニ君がどっかに持って行ったけど……?

 え、あれ。もしかして?

 

「ヴェニ君?」

 

 窺うように見上げたら、ヴェニ君にふいって視線を逸らされました。

 照れてる! このひと、照れてるよ!

 今までになく露骨に照れるヴェニ君に、私達は目を丸くしました。


 直後、ウォルターさんが教えてくれたんだけど。

 このアカペラ地方には昔から、初めて自分の力で狩猟に成功(殺害までワンセット)した獲物の一部を身につける風習があるんだそうです。

 魔除とか、何かそんな感じで。

 加工したり用意するのは父親や師匠の仕事で、どんな形で身につけられるようにするのかで子供の将来の栄達を願うんだって。

 

 ヴェニ君が私達の為に用意してくれたのは、それぞれの獲物から取った皮を滑し、加工し、金属で補強した防具。

 最後の金属補強を校長先生の武器屋に依頼し、それからずっと預かってもらっていたそうです。


 本当はメイちゃん達の初狩達成のお祝いにくれる予定だったんだって。

 だけど、さ……ほら。

 直後にヴェニ君、うちのパパからの要請(・・)で大規模な魔物討伐作戦に参加する羽目になっちゃったから。

 それで完成した防具を渡す機会を見失い、以来ずっと切欠が掴めずそのままになってたんだそーな……。

 ヴェニ君、メイちゃんのパパがごめんね!


 幸い、防具は最初から日々成長中のメイちゃん達に合わせられるよう、ベルトと金具でサイズ調整が出来るようになっていたので……暫くはすぐに渡せなくても猶予があって。

 それで色々考えた結果、賞金首を初めて自分達の力だけで補縛することに成功したら、お祝いに渡そうと思ったんだって。

 ……だけどヴェニ君の予想よりも、あっさりとメイちゃん達が成功しちゃったから。

 何となく釈然としない気持ちみたい。

 でもその気持ちが嬉しいんだよ、師匠(ヴェニくん)


 用立てたのは『師匠』としての義務だって不機嫌そうに言った。

 だけどヴェニ君のその不機嫌そうなお顔が、拗ねているみたいに見える。

 自分の計画通りに渡せなかったことが、不機嫌さの原因だよね?

 ヴェニ君が『賞金首』を捕まえた懸賞金で、既に防具を用立てるのに必要だったお金は全て支払済みなんだって。

 だったら……

 私はミヒャルトやスペードとそっと目配せを交わしました。

 だったら、私達が初めて捕まえた『賞金首の懸賞金』は、ヴェニ君の為に使うべきだよね。

 本当に、気持ちがとっても嬉しかったから。

 予想もしていなかった、防具のプレゼント。

 これに代わるお返しを、今度3人で何か選ぼうと思います。

 弟子が師匠に感謝の気持ちを込めて、何かプレゼントするのはとっても自然な流れだと思うから。

 その時はヴェニ君、ぶっきらぼうな態度でも構わないから、ちゃんと受け取ってくれたら良いなぁ。

 

 後日、私達はヴェニ君にフード付きのベストを贈りました。

 いつもヴェニ君が使っている装備に合わせて、改造済みの。

 大した付加効果もない、ただの防刃ベストだったけど。

 それでも我らが師匠は、ソレをずっと何年も使ってくれました。

 ちょっと恥ずかしいけれど、それがまた嬉しくて。

 私達は誇らしげに、ヴェニ君を『師匠』として慕ったのでした。




 ヴェニ君が私達に用意してくれた、防具。

 ミヒャルトが殺した兎は、グローブに。

 スペードが殺した子鹿は、脚甲に。

 そしてメイちゃんが殺したイタチの魔物は、胸当てに変貌を遂げました。

 ……ねえ、ちょっとメイちゃんだけ防御力高くない?


「ヴェニ君、贔屓は駄目だと思うの」

「別に贔屓じゃねーよ。毛皮の面積考えろ」

「おおう……メイの獲物だけ、確かに大物だったけど」


 獲物のサイズ的な問題で、メイちゃんだけ優遇された防具をゲットしちゃったんだけど。

 これ、ミヒャルト達にずるいって言われないかな……?


「これでメイちゃんの安全がちょっとは保障されたってことで良いのか?」

「やっぱりあるとないとじゃそもそも違うし……これで僕達も少しは安心できるかな」

「何なら俺の防具もメイちゃんに……」

「僕もメイちゃんになら渡しても良いけど。でもヴェニ君とメイちゃんが納得しないんじゃない? これは僕らが大人しく使うことにして、メイちゃんにはまた別の防具を用意することも考えないと」

「おお! そうだな。メイちゃんの安全のため……! その為なら俺だって、素材を狩ってくるのも厭わないぜ? 金だって賞金首をいくらだって捕まえてやる!」


 あれ、全然そんなことなかった。

 むしろ何だか満足げな空気が感じられます。

 え、2人とも何の疑問もないのー……?

 それで良いのかと、私の方がむしろ疑問を感じてるっぽい。

 どうやら私は、思う以上に幼馴染達に大事にされているようです。





 ウォルター爺さんの態度が前より軟化しているのは、ここ1年で賞金稼ぎのバイトをしていたヴェニ君が通いつめたお陰です(笑)

 いつの間にか常連さん♪

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