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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
番外編 7さい:一致団結した運動会
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~新しく変わること~


 

 そこからの運動会は、ちょっと気まずい感じもしたけれど。

 それでも誰かが退場したからって、進行が滞ることはありません。

 プログラム通り、進んでいくしかない訳で。


 学年主任のサリエ先生に連行された、ミーヤちゃん。

 でもきっと、これで懲り……ないんだろうなぁ。

 ちなみに逃走したロニー君のことは、慈悲深い校長先生がダッシュで追い掛けました。

 是非、是非とも彼のブロークンなハートの修復をお願いします。

 でも慰め方を間違えて、彼の高い鼻っ柱まで復活したら嫌だなぁ……

 その辺り、教育者として名高い校長先生の手腕にかかっていると思う。

 だからお願い、校長先生!

 絶妙な塩梅で、ロニー君の人格の再構築を頼みます!


 ちょっと、関与した1人として無責任かもしれないけど。

 私にはもう何も出来ないので校長先生にお任せするしかないと思う。


 苦い気持ちを忘れることはできないけど。

 今は途中で退場となった彼らの分まで運動会を戦い抜きましょう。

 きっと、それが彼らの為でもあるよね!

 ……ロニー君は敵対クラスの級長だけど!


 障害レースの走る順番は、メイちゃんとペーちゃんが同じ組。

 一緒に走る時も、私達は仲良く障害を乗り越えました。

 うん、そう、仲良く。


「ペーちゃん!」

「よしこい、メイちゃん!」

 

 3歩先行したペーちゃんが、こちらにくるりと振り返って。

 腰を落として差し出されたのは、しっかり組まれた両の掌。

 私は躊躇うことなく、ペーちゃんの手を踏み台に馬用の障害よりも高く跳びました。

 そのまま跳び越えることも出来たけど。

 敢えて障害の上に着地して、ペーちゃんを引っ張り上げます。

 それから2人揃って、強く跳びこえた。


 私達の姿を見て、既に走り終えた子達がちょっとざわめきました。

 多分、協力するって発想がなかったんだと思う。

 だって普通は個人競技だもんね。

 さわさわと、「あんな手があったんだ……」なんて声が聞こえてきました。

 身体能力に優れる身軽な獣人はともかく、人間や魔人の子は跳馬用の障害を乗り越えられずにリタイヤ……ってことも多かったしね。

 だけど外野を気にしている場合でもないし。

 私達は第2、第3の障害もコンビプレーで駆け抜けました。


 ちなみに、第3の障害。

 サリエ先生のお顔を模した、的当て。

 サリエ先生がいる間は……うん、みんな気まずそうだったけど。

 ミーヤちゃんのお説教の為に先生が姿を消してからは、みんなから遠慮のえの字も消え失せました。

 むしろ、力の限り。

 そこまで?って言いたくなるくらい、力の限り。

 あの先生、嫌われてるんだなぁ……ちょっと、しみじみ。

 サリエ先生って気難しいもんね!

 あの先生が帰ってくる前に、障害レースが終わることを祈りましょう。


 まあ、祈るまでもなく。

 サリエ先生とミーヤちゃんは閉会式まで帰ってこなかったけどね!!


 そうして、私達は1番に指示札を手にしました。

 ええと、なんて書いてあるかな……


「――メイちゃん!」

「め? どうしたの、ペーちゃん」

「これ……見てくれ」

「うん?」


 首を傾げながら、ペーちゃんが差しだしたモノ……

 ペーちゃんが引いたらしい、お題を見ます。

 そこには間違えようもなく、くっきりしっかりとした字でこう書かれていました。

 ――『大好きな子とゴールイン』

 これまたベタなもの引いたね、ペーちゃん。


「メイちゃん、俺と一緒にゴールしてくれ……!」

「うん、良いよー」

「え、ほんと!?」


 自分で聞いておいて、肯定したら疑うってどうなんだろ。

 小首を傾げながらも見つめると、ペーちゃんがてれてれと笑っています。

 んー……? 改めて『大好き』って男の子は恥ずかしいのかな?


「じゃ、じゃあ……その、一緒に」

「あ、ちょっと待って」

「え?」

「ミルフィー先生ぇ、一緒に走ってー!」

「え゛……っ!?」

 

 あれ? なんかペーちゃんにビックリされた。

 でも手軽なところで済んだペーちゃんは良いだろうけど、メイちゃんだって走者なんだからお題はこなさないと。

 メイちゃんが引いたお題はズバリ、こちら!

 ――『憧れのあの人と手を繋いでゴールする』

 ペーちゃんのお題と何か似た感じだよね。


「メイちゃん? 先生(わたし)と一緒で良いの?」

「うん! ミルフィー先生、だいすき!」

「まあ……!」


 とことこやってきたミルフィー先生に、思いっきり抱きつきます。

 優しい、やさしいミルフィー先生。

 夏の水練合宿で見たミルフィー先生のダイナマイツ☆ボディは女の子の憧れを一身に背負って不足はないと思う。

 先生のふっくらお胸には、みんなの憧れが詰まってるんだよ!

 それに先生は中身もとっても可愛らしいし。

 うん、やっぱり先生には憧れちゃう。

 メイちゃんも将来は先生みたいな女の人になりたいなぁ……

 

 そう、ストーカーとは、別の方向性で。

 『女の子』として先生は憧れの集大成だと思うの。

 だからさ、父よ……そのショックを受けた顔は止めよう?


「先生、メイとペーちゃんが手を引くから真ん中に入ってー」

「え!?」

「う? ペーちゃん?」

「あ、あう~……」


 ミルフィー先生は泳ぎがすっごく見事な人魚さんだけど。

 ……うん、水中だと俊敏だけど、陸だとそうでもない。

 むしろ人魚だからなのか、陸の上だと足が遅い方です。

 だから私達が左右から手を引っ張った方が良いんじゃないかって提案したんだけど……なんでか、ペーちゃんに「驚愕した!」って顔で見られた。

 あれぇ……? なんか変なこと言ったかな……。

 ちょっと首を傾げちゃったけど、でも今は勝負が先!

 闘争本能全開で駆け抜けるよ!


「メイちゃん、いっちばーん!」


 何となく納得していなさそうな雰囲気だったけど、ペーちゃんはちゃんと眉を寄せながらも一緒に走ってくれました。

 うん、ミルフィー先生の手を2人で引いて、1着ゴールイン!


 ……ゴールした後のことだけど。

 何故かペーちゃんが膝を抱えて落ち込んでいた。

 ??? いったい、どうしたんだろ……?




 それからも、ミーヤちゃんが欠けたことでちょっと不備はあったけど、大体は順調にプログラムも進みました。

 1番困ったのもクラス対抗選抜リレーくらいだしね。

 各クラスから5人の代表者を出して、順位を競うこのレース。

 セージ組からは私と、ミーヤちゃんとペーちゃん、それからマナちゃんとアドルフ君が参戦予定だったんだけど……ミーヤちゃん、いないし。

 そこで急遽組み合わせを変更して、カルタ君に入ってもらいました。


「……僕が走るのは、ちょっと反則じゃないかな」

「でも他にいないんだよ、カルタ君!」

「ミヒャルトの奴、説教部屋から帰ってきそうにねーし!」

「いや、でも年齢差がね……?」


 カルタ君は、14歳。

 対して1年生の主な年齢層は7、8歳。

 大人げないと言いたければ言えば良いと思います。

 でも学年縛りのクラス対抗。

 カルタ君だって同じ1年生です。

 年齢差別は駄目だよね!


 ……発育の良いカルタ君は、身長が年齢平均よりもちょっと高め。

 当然、足の長さ(コンパス)にも差があるんだけど……

 人間・魔人・獣人を一緒くたに走らせているんだから、このくらいの年齢差はあんまり気にしないでも良いと思うよ!

 カルタ君が列に並んだ時、ちょっと保護者席がざわ…ってしたけど問題ないと思う。うん、ないない。


 ちなみにレースはうちのクラスのぶっちぎりでした。

 


 

 運動会は他にも色々なプログラムが盛りだくさん。

 午後の競技は武術の型とか演武とかで、ほとんど1年生よりも3年生メインって感じだったけれど。

 それでもメイちゃん達はめいっぱい楽しみました。

 玉入れ競技に、綱引き。

 100m走に、棒倒し。

 それから自由参加の親子ふれあい競技なんてものもあったよ!


 ……ちなみに騎馬戦でした。


 父が張り切って参加を表明。

 いや、それは個人の武力差的にどうだろーと思ったんだけどね……?

 やる気満々で参加に乗り出したお他所(よそ)のパパさんやママさんを見るに、どうも……その、我ら武闘派!って感じの歴戦の勇士ちっくな人が多いような…………

 後で知ったんだけど、初等学校のパパさんやママさんって……というかアカペラの町って賞金稼ぎの親御さんが多いんだって。

 だから自然と、親子ふれあい競技の競技人口も強そうな人がわんさか……

 ……あ、うん。

 これ父に自粛を求める必要なさそう。

 それに気付いて、メイちゃんは色々諦めたよ!

 ちなみにペーちゃんのところはペーちゃんの保護者枠でママさんが、ダイヤ君の保護者枠でパパさんが参加するそうな。

 ミーヤちゃんのところだけは、当のミーヤちゃんが帰ってこないのでママさんが歯噛みしていました。

 というか、ミーヤちゃんのママさ……息子さんがお説教から帰ってこないのに心配しないって凄いね。

 それどころか怒ってすらいないってどうなんだろう……。

 むしろ自分のとこの息子さんよりも、メイちゃんの応援に熱が入っているような気がして仕方ありません。

 だって、すごい笑顔で応援してくれるんだもん……。

 ミーヤちゃん、ぐれないかなぁ……って、もう半ばぐれてるのかな?




 楽しい楽しい運動会も、瞬く間に時間は過ぎておしまいの時間。

 あっという間に終わってしまった気がします。

 優勝したかったんだけどな……

 結局、メイちゃん達のクラスは総合3位の成績止まりでした。

 1・2位は3年生のお兄さんやお姉さんたちに取られちゃった。

 最終学年、流石の貫録です。

 ついでに言うと優勝したのは鹿の……アドルフ君のお姉ちゃんのクラス。

 ……後日、腹いせに鹿さんをおちょくりにいこうということで、私とペーちゃん、それから閉会式になってようやっと戻ってきたミーヤちゃんの意見が合致しました。

 鹿先輩、角を洗って覚悟してろよ……!


「あ、3位も表彰されるみたいだね……代表はドミ君行ってきなよ」

「え、でも僕……目立ちたくないし」

「今日のMVPはミー……ミヒャルトだと思うよ! だからミヒャルトが行ったら良いんじゃないかなぁ? きっと盛り上がると思うの!」

「え……っ?」

「め?」


 私は思ったままを言ったんだけど。

 なるべく自然な流れで言えたと思ったんだけどなぁ……

 ミーヤちゃん……ミヒャルトが、びっくりって感じに丸く見開いた目で私を見ました。


「ミヒャルト、って……メイちゃん、僕の名前?」

 

 わー……瞳孔が、丸い。

 これは心底驚いた顔、だよね。

 彼がこんなに驚くのも、わからなくはないんだけどね。


 私がミーヤちゃん、ミヒャルトのことを愛称じゃなくって本名で呼び捨てたのは、これが初めてなんですから。

 幼馴染みの2人のことを、私は物心つく前からいつだって愛称で呼んでいました。


 でも、ね。


 明日からまた、変わらない日常が戻ってきて。

 明日からまた、いつもの毎日が始まるって思った。

 だけど、さ……


「あぅー……メイね、ちょっと反省したんだよね」

「え? 反省?」

「うん、反省したの」


 変らない毎日って、平和って意味では素敵だと思う。

 そんな日常は、きっとみんなが大歓迎。


 でも、変わらないものがあるのは素敵だけど。

 変らなきゃいけない……変った方が良いものだってあるんだよ。


 例えばそう、ミーヤちゃんっていう呼び名とか。


「メイね、思ったの」

「うん、思ったの……何を?」

「そう……ロニー君がミーヤちゃんのことを女の子だって勘違いしたのは、メイの『ミーヤちゃん』っていう呼び方にも問題があったんじゃないかって!」

「って、そっちかよ!!」


 あれ、なんかペーちゃん……スペードから、ツッコミが。

 

「うぅ……でもでもだって、だってね! ほら、ロニー君がミーヤちゃんに遭遇した時って、いつもそばにメイがいたから! いつもの調子でミーヤちゃんって呼んでたけど、冷静に考えてみると女の子と勘違いしても不思議じゃない呼び方だなぁって。そうすると、ロニー君が被災した原因の一端が、メイにもあったんじゃないかなって!」


 思うでしょ?

 思うよね?

 メイちゃんはそう思っちゃったんだよぅ!


「だからね、メイは決めたの! これからはずっと、2人のことミーヤちゃん・ペーちゃんじゃなくってお名前で呼ぶって!」

「決意した、みたいに言っているけど……僕にとっては今まで通りで何も問題なんてないんだけど。…………むしろメイちゃんだけの特別、って感じで大歓迎だったんだけどね」

「っていうかメイちゃん、俺も!? え、俺もなのか?」

「うん。だってメイにとっては2人とも同じくらい大切な『お友達』だもん。メイちゃん、贔屓や差別はしない子なのです!」

 

 だから差がつかないよう、呼び方も統一しますとも。


「その信念は立派だけども! ……できれば、差があってほしかったような、そうでもないような」

「うゆ? 後半なんて言ったのか聞こえなかったよ?」

「あー……メイちゃん、気にしなくっても大丈夫だぜ☆」

「??? ええと、とにかく、『ミーヤちゃん』ならともかく『ミヒャルト』なら女の子だって勘違いもなさそうでしょ? だからメイは今日から、2人のことを名前で呼びます!」


 そう、もうロニー君の二の舞が発生しないよーに!!


 ……うん、今回はね。

 メイちゃんもちょっと反省したんだよ。

 そもそもの根本は女の子と勘違いされたミーヤちゃんの意趣返しにあると思ったから。

 だから、ね……もう彼の様に、ミーヤちゃんの地雷を踏む人が出ないようにメイちゃんも気をつけようと思ったの。

 それが地雷なら地雷と分かりやすくしておいてよって、ミーヤちゃんに思わないでもないけどね。

 女の子にしか見えない外見詐欺の癖に、女の子に間違われるのが嫌だなんて不思議だよねー……


「メイはね、メイは……もう2人のことをちゃん付けで呼んだりしないもん!」

「「えぇー……」」

「しないったらしない、の!!」


 一大宣言。

 そんなつもりで高らかに言い張りました。

 閉会式の最中だってことも、まあ忘れちゃって。

 ……閉会式の最中で騒いだのがバレて、ミルフィー先生が涙目になってたけど…………気付かないふりで、そっと目を逸らしました。


 





運動会編はこれにて終了。

次回からは、新たな展開に入ります。

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