表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
番外編 7さい:一致団結した運動会
80/164

~石臼で粉にするように~

前回の後書きにも書いたように、ミーヤちゃんがひでぇっス……

 


 完膚なきまでに、って言葉があるけど。

 私達はその言葉が似合う光景を1つ、この目にしました。

 わかりやすく感想を言うなら、これです。


 ――ミーヤちゃん、ひでぇ……!


 きっとこの言葉は、アレを目にした全員に共通した感想だったと思うよ。

 みんながそう思っちゃうほどの、鬼がそこにいました。


 

 取敢えず、結構後味の悪い事態になっちゃったので。

 先にロニー君の悲運ではなく、障害物競走の顛末をお話しようと思います。

 最終的にロニー君と一緒に走った組で1着を勝ち取ったのはマナちゃんでした。

 次点がダニー君。

 色ボケ系の行動札を取り揃えた組で、行動指示をこなすにも右往左往する他クラスの子達。

 そんな中で1・2着を独占したのには訳があります。

 何故って理由は簡単。

 クラスの皆に対応策をきっちり伝授済みだったからだよ。


 即ち、色ボケ系の行動指示が出たら、子供の武器を使え……と。


 子供だからこそ、嘘じゃないけど本気にもされない相手を選ぶ余地が私達にはあります。

 うん、つまりこういうことだよね。

 色ボケ系の行動指示が出た時には、だからこそ選べる答えがあります。


 狙い目は親、もしくは先生です。


 私達の年齢層(カルタ君除く)だったら、微笑ましく見られる上に確実に却下にはなりません。

 むしろ保護者達の心象良くなるよね!

 親達も良い気分になれて、レースも征せる。

 まさに一石二鳥!


 マナちゃんは理想の異性に抱きつく、ダニー君は好きな異性のほっぺにちゅーというとっても可愛らしい行動札を引きました。


 そしてダニー君は一切の躊躇無く、迷いの無い足取りでミルフィー先生の下へ直行しました。


「せんせー!」

「あらダニー君? どうしましたか?」

「これ見て、先生」

「まあ……」

「ほっぺにちゅーして良い!?」

「ふふ……仕方ありませんね。さあどうぞ?」


 奴は凄まじい役得だったと思われます。


 うん、サリエ先生の刺し殺しそうな眼差しが……まさに殺人級。

 他にも妬ましさを隠さない視線がびしばし刺さってましたが、子供の特権をフル活用したダニー君は気付かなかったよ……。

 身の危険に直面する前に、奴は周囲への注意力を養った方が良いと思う。

 ダニー君、夜道には気をつけよーね……。


 一方、マナちゃんは恥ずかしそうにてこてこと保護者席へ走りました。

 小走りっぽい駆け方でも、足の速さは流石の豹獣人。

 すぐさま保護者席へ辿り着くと、一直線にどうやらお目当てらしい人物の元に向かいました。

 細身で身長の高い……魔人のお兄さん?

 ええと、隣には豹獣人の美人さんがいるし、マナちゃんの身内かな?

 魔人のお兄さんは自然な動作で両腕を広げ、飛びついてくるマナちゃんの小柄な体をキャッチしました。

 マナちゃんも、当然のようにお兄さんの足にぎゅぅっと抱きつきます。


「パパー……」

「マナ、どうしたんだい?」


 お、おおっと?

 あの魔人のお兄さん、マナちゃんのパパさんだったんだね。

 ということはお隣の豹獣人の美人さんがママさんかな?

 魔人と獣人だったら獣人の方が出生率は高いから、あの2人が夫婦なら子供は高確率で獣人のはず。だから多分、そういうことだよね。


「ん? なになに……『理想に近い異性に抱きつく』?」


 マナちゃんが行動札を見せたら、マナちゃんパパは一瞬ででれっでれになりました。

 凄いね、骨抜きだね!

 そりゃ可愛い娘(7歳)に理想=パパってやられたら無理もないよね。

 ……なんか我が家の親馬鹿が羨ましそうに見てる気がする。

 うん、気のせいだよね!



 ……と、こんな風にして最後の障害である行動指示を早々とクリアした我がクラスの尖兵。

 他のクラスの子達が戸惑っている間に、ゴールテープもぶっちぎりです。

 うん、これは良かったんだよ。

 文句なしに皆で喜んだの。


 引き換え、ミーヤちゃんの徹底振りにドン引きしたけど。

 ……そう、ロニー君はミーヤちゃんのところに向かったから。

 ミーヤちゃんの予想通り、彼は手を(こまぬ)いている小悪魔の方へ行っちゃいました。

 この時点で、彼の命運なんて決まったも同然。

 共犯である私達は、責任もって顛末をしっかりと見なくっちゃ駄目だよね。




 動機から言うと、ロニー君が引いたのはこの札でした。


 ・好きな異性に跪いて手にキッス(いなければサリエ先生)


 そうして今、私達の目の前で。

 ロニー君だけが知らない可哀想な光景が広がっています。

 スタートライン手前の、順番を待つ1年生の場所で。

 気位の高い少年が、白猫さんの前に跪いておりました。

 他人を陥れる時に活き活きと輝く、白猫獣人さんの前で……

 

 ロニー君、そいつ(ミーヤちゃん)は男なんだよ。


 知らぬが仏とは言いますが、彼もすぐに事実を知ることとなるでしょう。

 だってミーヤちゃんが喜色満面で暴露しようとしていますから。

 ずっと効果的にダメージを与える機会を虎視眈々と狙っていたみたいだし。

 なるべく派手に、効果的にばらす気だ。

 だから事実を知る私達としては、目の前の構図が蜘蛛と巣にかかった犠牲者の図に見える……。

 ああ、しかも追い打ちまで……っ


 ロニー君は言いました。

 全校生徒と教員と、保護者の皆様という大観衆の前で。

 言っちゃったんだよ。


「君のことが、好きなんです。どうか僕と建設的に未来を考えてくれませんか……っ!」

 

 あ、あぁあぁぁぁあああ……っ

 ミーヤちゃんの、ミーヤちゃんの顔が輝かんばかりの笑みで彩られてる!

 なんてことでしょうね!?

 ロニー君ってば、何も自分から敢えて地雷を増やさなくっても良いのに。

 見える……彼の周囲を取り囲む、爆弾の山が見える気がするよ!

 ここまでくると、流石に可哀想な気もしてきます。

 ミーヤちゃんはやる気だよ。

 徹底的にやる気だよ!


 にっこりと麗しく慈愛に満ちた微笑みを浮かべるミーヤちゃん。

 その綺麗な笑みに何を見たのか、幻想に絡め取られたのか。

 ロニー君は恥ずかしそうに頬を染め、はにかみながらミーヤちゃんを見上げます。

 そうして、震えるお声で言いました。


「あ、あの……返事をもらえるかな」


 滂沱です。

 もう、涙なしには見守れない。

 別にメイちゃん自身は泣いてないけどね!

 ただセージ組の皆は不憫そうな、気の毒そうな眼差しでロニー君を見ています。

 気が済むどころか同情の眼差しでいっぱい。

 ある意味で見えている先を期待しているともいえます。


 ロニー君の醜態を引きずり出しきったところで、ミーヤちゃんが上機嫌に目を細めます。

 そしてミーヤちゃんの畳み掛けるような攻撃が始まりました。


「なに妄言ほざいてるの? 節穴野郎」

「え?」

「ごめん、僕は君が嫌いなんだ」

「えっ……」


 振られるとは思ってなかったよね、ロニー君。

 無意識に君って自意識過剰に自信満々だもん。

 だけど直球で嫌いなんて言われて、彼の精神は揺らいだのでしょう。

 体までショックで大きく揺れました。

 顔が、信じられないと言っています。

 事実を認められないのか、思考停止したのか。

 唖然とした顔で、表情が固まっているロニー君。


 そして更に追い打ちをかけるミーヤちゃん。


「それに僕は変態じゃないから付き合うなら女の子が良いな」

「っ!?」

「ああ、それから君? 僕は異性じゃないし。指示札のクリア条件満たしてないから。さっさとサリエ先生のとこに行けば?」

「え? え、えぇ!?」

「僕は男だって言ってんだよ、この節穴野郎」

「!!!!!?」


 言葉と同時に、ミーヤちゃんが自分の手を捧げ持っていた、ロニー君の手を逆にひっ掴みました。

 そしてそのまま自分の服の中に無理やり突っ込む、って……

 ああ、うん、徹底的に疑う余地を潰すつもりなんだね。

 だけどなんて大胆っていうか潔いっていうか思い切ったねミーヤちゃん!?


 ロニー君の心を折る為なら手段を選ばないミーヤちゃんが、なんだか男らし過ぎるくらい男前に見えました。

 だけど全然憧れはしないなぁー……


「ミヒャルト、そこまでするのか……恐ろしい奴」

「ペーちゃん、ミーヤちゃんってこわいね……」

「大丈夫だ、メイちゃん! メイちゃんには俺がいるからな!」


 あまりの光景に、ペーちゃんと2人で身を寄せ合ってぶるぶると震えながら見守ります。

 ……うん、ミーヤちゃんならそのくらいしそうな気もしたけどね。


 硬直するロニー君。

 彼はいま、地蔵の演技をさせたらきっと世界1だと思う。

 あまりの石像ぶりに涙が禁じ得ませんね。

 ミーヤちゃんは逆に表情豊かに侮蔑の嘲笑を浮かべ、ロニー君の手をぺいっと投げ捨てて言いました。


「せめて性別を見抜けるくらいに見る目を磨いてから出直してくれない? 男は趣味じゃないから、いくら出直したって応える気はないけどね」


 それからミーヤちゃんは自分の長い髪の毛を引っ掴むと、隠し持っていたハサミを使ってその場で短くしちゃいました。

 バッサリ切った髪の毛は、今まで髪の毛を結んでいたリボンのお陰でばらけることもなく。

 ゆっくりとミーヤちゃんは、切り落とした自分の髪の毛をロニー君の手に握らせました。


「せめて告白の餞別くらいにこれあげるよ。これ見てしっかり現実を認識しなよね?」


 硬直するロニー君に沁み込ませるように、じわっとした声音で告げるミーヤちゃん。

 公衆の面前でこの仕打ち。

 鬼がそこにいました。


「う、う……うぅっ…………」


 おや、ロニー君の様子が……

 ぶるぶると、全身が震えているよ。

 無理もないと、憐みの眼差しで見守ろう。

 やがて。


「う…………うわぁぁああああああああああああんっ」


 ロニー君、狂った……!

 い、いやいや、まだ狂ってはないよね!?

 ……嫌な現実に耐えられなかったのかな。

 ロニー君は絶叫すると、そのまま頭を抱えて何処とも知れぬ場所へ走り出してしまいました。

 あっちの方向は……北校舎の裏かな。

 人気のない方向を目指す辺り、まだ理性は残ってると思う。

 ロニー君、現実は辛いと思うけど……がんばれ。

 今はゆっくりお泣き、少年。

 君が立ち直る日を待っているよ。


 共犯という重い楔を背負い、私達セージ組の一同は……

 なんというか、物凄く後味が悪いというか。

 ちょっと忘れられないくらいの罪悪感を味わいました。

 加担しといてなんだけど、ロニー君が可哀想に思う気持ちは本当だもん。

 一時の衝動で悪魔に手を貸すと、とんでもないことになるんだね。


 今後はロニー君のことも敵意ではなく哀れみをもって接せられそうです。


 微妙に高い授業料を払って、私達は大切なことを学びました。

 思いやりって、大事。

 いくら苛々と嫌な気持ちが募ってたからって、酷いことはしちゃだめ。 

 今後は嫌な相手でも、思いやりをもって接しようっと……。

 特に、ロニー君とか。


 心に重い(トラウマ)を背負ったであろう少年の社会復帰を願い、私達はお説教する為にミーヤちゃんを引きずっていくサリエ先生の背中を見送りました。

 頑張れ、学年主任。

 恐らくどれだけ説教して道理を説いても、その猫ちゃんは更生しないと思う。

 うん……きっともう、矯正するには手遅れじゃないかな。


 ミーヤちゃんを敵に回した時の恐ろしさ。

 彼が徹底的に相手の心をへし折り、粉砕する様を見て、沁々と思いました。

 ミーヤちゃんから恨みを買うのは止めておこう、と。

 確実に勝算がある時でもないと、敵には回せない。

 味方で良かった、腹黒子猫。






ミーヤちゃんの鬼ッ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ