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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
7さい:アカペラ第1初級学校の夏
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5-17.合宿の結末7 ~明確な目標ロックオン☆~

 ちょっと中途半端に感じる部分もあるかもしれませんが、合宿編は今回で大体終わりです。

 後はちょっとだけ後始末的な逸話が幕間に出る予定。



 ママの放った矢は、弓には素人の私から見ても綺麗な軌跡を描いていて。

 見ていて、私は流星だと思った。

 それもただの流星じゃない。


 流星群だ――。


 ママの放った矢は空に弧を描き……天頂に達した瞬間、白い輝きを伴って枝分かれした。その姿は、本能的な恐怖へと通じるモノがある。


「うふふ……ママ、速射は得意なの。矢継ぎ早の名手って呼ばれたのよ?」

「当時、弓の上手と言えば『バロメッツ隊の白羊』を指したからね。今もだけど」

「でも、結婚してからずっと弓なんて取ってなかったからー……ほら、練習不足が祟ってるみたい。腕も落ちちゃったわね」


 そう言う間にもママが次々と放った矢は空で合流し……一瞬の間を置いて、圧倒的質量によって地に降り注いだ。

 こ、これゲームに出てきた高Lv.弓技に見えるんですけどー!?

 そしてきっと多分、その記憶は間違いじゃない。

 降り注いだ矢の雨は、地上の一点に殺到して貫いた!

 恐ろしいまでの、集中――


 パパの背後を狙っていた、一際大きなカニ。

 岩山のような堅固な背中に、吸い込まれるようにして大量の矢が叩きこまれる。


  どごぉ……っ


 ……うん、なんかね。なんかね?

 おおよそ弓矢によるものとは思えない衝撃音がしたんだけど。

 むしろ刺さる音とか、空気を切り裂く音じゃなくって、何と言うか……鈍器で思いっきり叩き潰したような衝撃音が……。


 カニの背中は、全力で陥没していた。


 わあ、おっきなクレーター……。

 カニは、ぴくりともしません。

 え、これで腕落ちたの……!?


 あまりのことに、他のまだ生きてるカニも戦ってる軍人さんや警備隊員さんも動きを止めちゃってるんですけど!

 畏怖の眼差しでなんかこっち見ちゃってるんですけどー!?


 ただ、3人。

 パパとミーヤちゃんママと、ペーちゃんママの3人のみが驚きの一片もなく、むしろ突然の攻撃にカニが硬直した今がチャンスとばかりに戦場を駆け抜け、カニに襲いかかりました。

 そんな最中にも、パパ達の部下さん達はまだまだ硬直していたけれど。

 ママは周囲の反応も意に介さず、困ったように首を傾げていました。


「やっぱり腕が落ちたかしら……」

「えっと、どこが? 俺の目には昔と同じくらい冴え渡った技に見えるんだけど」

「ううん、そんなことないわ。確かに昔習得した技は、今も忘れることなく覚えているけれど……鍛錬不足は否めない。こんな大技、溜めなしでもう1度は使えそうにないわ」

「……でもマリさんなら、大技が使えなくても問題はないだろう」


 そういったペーちゃんパパのお言葉は正しいと、すぐに判明しました。

 ママが一撃必殺の大技は使わず、小技と単純な弓の腕でカニ戦の援護を始めたからです。

 わー……ママ、大技なくっても反則並の腕してるんだけど。

 というかママ、これで腕が落ちたって本当に……

 何だか初めて目にしたママの弓の腕が、衝撃的過ぎてどう驚くべきかわからなくなってきました。


 後で知りましたけど、結婚前のママはアルジェント伯爵領軍に属する弓兵さんだったそうです。

 今のほわほわな専業主婦姿からは想像もつきません。

 ママは今も昔も、レースの日傘をさしてふわふわと微笑んでいる方が似合いそうなのに! 弓兵だったって、軍属だったって!

 優しく微笑むママの姿からは連想しづらくて、意外です。

 いや、まあ、うん……こうして目の前で状況証拠を見せつけられたら、否定も何もできないんだけど。

 前にミーヤちゃんやペーちゃんに弓がどうのこうのって言ってたの、冗談じゃなかったんだ……超・危・険。

 そしてここにいる戦闘職の皆さんは、勤続10年以内の若い方々が主なんだって。

 ママが引退後に入隊した人がほとんどだから、メイと同じくママのイメージにそぐわない現実に初めて直面して動揺してたみたい。

 全力で驚愕しているよ!


 木偶の坊よろしく兵隊さん達が使い物にならない間。

 同じくカニも動揺からか動きが鈍っている間に、パパが走る。

 

 真っ先に突撃していくのは、パパ。

 真正面から強く踏み込み、手に持った槍でカニのハサミを薙ぎ払います。

 そのままトドメを刺すかと思ったけど、そうはせず。

 パパはカニの最大の攻撃手段であるハサミを切り落とすと、次の獲物(カニ)へと襲い掛かります。まるで、もう用は失せたとばかり。

 その代りに、パパがハサミを落としたカニに対峙したのはアマゾネスの……ミーヤちゃんママと、ペーちゃんママの2人でした。

 ミーヤちゃんママが足を切り裂き、ペーちゃんママが背後から忍び寄って飛びかかります。2人は軽く武器を振るっているように見えるのに、あんなに重く硬かったカニの殻に鋭利な刃物傷が走り、体液の飛沫が飛び散る。

 ママは戦場の状況を俯瞰して、手が薄いところや足止めが必要と感じた所に矢を投じている模様。

 ペーちゃんの爪がびくともしなかったカニの殻。

 なのに絶妙のポイントにママの矢が突き刺さる。

 まるで縫い止める様に、足の関節の要をカニに対したら細くて小さな矢1本で打ち抜いていく。

 針の穴を通すような射撃の凄まじさに、鳥肌が立ちそう……。

 

 事前の打ち合わせも何も無かったはずなのに、まるで申し合わせたかのように戦場における役割分担ははっきりと分かれていました。

 連携していると言っても過言ではない、息のぴったり具合。

 足止めに、ママ。

 特攻をかけて相手を無力化する、パパ。

 無力化された相手のトドメを、ペーちゃんママ。

 そこまでで1つの流れが1セット。

 ミーヤちゃんママは身軽さと小回りに融通のきく柔軟さを生かして、連携の流れがスムーズに繋がるよう要所要所でサポートを中心に動いているみたい。

 こうやって上から眺めると、全体の動きが掴み易い。

 パパ達の動きは見事で、そこに戦闘における1つの理想を見ました。

 最初は親達の問答無用ぶりに唖然としていた私達だけど……鮮やかな戦士の動きに、気付けば引き込まれ、食い入るように見学していました。

 うわぁ、勉強になる……。

 やっぱり際立って強いのは、パパ。

 メイもあんな風に強くなれるかなぁ……。

 

 将来はゲーム主人公(ストーカーあいて)を追ってラストダンジョンにまで潜ることを決意しているメイちゃんです。

 いつかは……あの強さを越えなきゃいけない。

 前途は多難だし、今の私達には越え難い壁に見えるけど。

 でも、頑張らなきゃ。

 ゲームでは端っこにしか出てこないようなパパ達が、こんなに強い。

 だったらそれを超えなくっちゃ。

 だって強くならないと、(ストーカー)なんて叶えられない……!


 目の前に、新たな目標が提示されたような気がしました。

 強くならなきゃ、ならなきゃって焦るばかりの日々。

 だけど強くならないといけないことはわかっていても、ゲームの記憶じゃ曖昧であやふやで、参考にしようにもどこまで頑張れば良いのかがわからない日々。

 強くならなきゃいけないことはわかっていても、どこを目指せば良いのかよくわからなかった。

 ただヴェニ君にくっついて、体を鍛える日々でも少しは成長している実感って、あったけど……

 でも、それでもまだ足りない。

 ただ強くなるだけじゃなくって、期限がある。

 メイが15歳になる、その時までに。

 その時までに、ゲーム主人公一行並の強さを手に入れないといけないのに……!

 のんびりゆっくり、悠長にやる訳にはいかないから。

 だから余計に焦る。

 ヴェニ君が指導してくれても、メイは明確な目標を明示できていなかったから。

 だから目標年齢までに到達すべき強さの終着点はより一層曖昧で。

 修業しても修行しても、目標までどの程度近づいたかなんて全然で。


 でもいま、目の前の霧が晴れた。


 パパがゲーム的な目で見て、どれくらい強いのかわからない。

 でも一般的に見たら、遥かな高みにいる人。

 メイにはよくわからないけど、でもお友達の言葉を信じるんなら、『英雄』と呼ばれる強さを持っているんだよね?

 『英雄』なんて呼ばれる程の、高みにいるってことなんだよね?


 あんなに強い、パパ。

 もしもあの強さを、15歳までに超えることが出来たら――


 今まで強くなるって曖昧な目標の上に、明確な目標なんて明示できずにいた。

 指導してくれるヴェニ君にも目標の説明が出来ないから、適した指導計画を立ててもらえずにいた。

 ヴェニ君の今の計画ペースで、目標(ストーカー)を達成できるようになるのかわからなくって、不安だったけど。

 でも高い壁(パパ)っていう明確な目標を提示できれば、ヴェニ君だってメイの目指すところを理解してくれるはず。

 適した計画を立ててくれるはず!

 それがメイにとっても、この上ない目安になる。

 そう、『英雄(パパ)』を超えることができれば――


 その時、(メイ)(ストーカー)を果たすことができるはず……!



 この日、初めてまともにパパやママが戦う姿を目にした日。

 文字通りそのあまりのLv.の違いに、ちょっと気が遠くなりかけたけれど……でもやっぱり強くて、格好良くて。

 パパの凛々しい姿は、目標にするに足るものだと思いました。


 この日、初めてパパやママが魔物を屠る姿を目にした日。

 パパは(メイ)にとって最終到達目標……超えるべき壁になりました。

 パパ、メイちゃん負けないからねー!




 さあ、パパにとって望まぬ展開になってまいりました(爆笑)


 ちなみに他のちみっ子たちは素直に純粋に、パパに尊敬と憧れのキラキラな目を向けていたそうな。

 だけど愛娘だけ……なんだか今までにも部下や同僚から向けられた覚えのある、敵意のようなライバル心のような何なのやらな眼差しを向けてくるように!

 パパ、どんまい……。

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