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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
5さい:修行開始の鬼ごっこ!
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1-5.バロメッツ家の夜




 敵を知り、己を知れば百戦…なんとか。

 なんかそんな名言を残した偉人が、前世の世界にはいたような気がします。

 つまり、戦う前に相手の弱味と自分の強味を見つけなさいってことだよね!

  →自己解釈

 ヴェニ君は私の5歳も年上で、素直に向かっても太刀打ちは出来そうにないし。


 ………というかもう、既に何度か真っ向勝負を仕掛けた後です。




「ヴェニ君、かーくごーっ!」

「ばぁか。敵に向かってく時にわざわざ声かけるトンマが何処にいんだよ。

不意打ちの意味から考え直して、出直して来い!」

「きゃーっ!?」


 ヴェニ君は、お子様5歳児にも容赦のない10歳児でした。

 それでも私が怪我をしないように気をつけている………の、かな?

 そのあたりは体術に自信があるだけあって、華麗に鮮やか。

 いつも無謀な突進を繰り返すメイちゃんは、毎回毎回いなされて、地面に転がされちゃうんだけど………ころりん、と回転するだけで。

 未だに、1回も怪我らしい怪我をした記憶がありません。

 そしてそれに、いつも逃げられた後で気付いて、なおさら悔しさが募ります。


「はっ ざまぁねえな。そんな様子で俺に弟子入りなんて無理無理!」


 いつも、私のことを鼻で笑ってから悠然と去って行く、その後姿。

 うん、やっぱり悔しさが募ります。


「――うわぁああんっ また逃げられたー!」



 ここ1ヶ月ばかり、ヴェニ君の場所を探し当てるたびに突撃(アタック)しました。

 それはもう、いつも一緒に遊んでいるミーヤちゃんやペーちゃんよりも最優先で向かっていきました。

 しかしその攻撃は悉くかわされ、あっさりと逃亡され…

 おまけに放置したことで幼馴染達にはむくれられ、拗ねられました。

 宥めすかすの、ちょっと大変だった…。


 何にしろ、このままでは埒が明かないことは確かです。

 馬鹿正直に真っ向勝負を挑んでも、効果が全くないことも認めざるをえません。

 流石は私の師匠(無認可)、おいそれとは目的を遂げさせてくれません。

 でも、華麗にかわされればかわされる分、私の意欲も鰻上りです。

 あの見事な身のこなしと逃走手腕、絶対に私も手に入れてやる…!

 そのために、是非ともヴェニ君を捕まえなくてはいけません。

 でもこのままでは、確実に堂々巡り。

 ここは絡め手か、もしくは…

 何にせよ、相手のことをもっとよく知るべきです。

 ペーちゃんの兄弟に聞いた以上の、更なる情報収集が必要でしょう。

 あと、作戦も練らなくちゃ。

 

 取り合えず、ヴェニ君と知り合いっぽい父に話を聞いてみることにしました。



「パパ、まだ帰ってこないの…?」


 …が、初っ端から躓きました。

 父、帰ってくるの遅い……

 子供を待たせるパパさんなんて、反抗期が早めに訪れても文句は言えないよ!?

 こんなに待たせるなんて、良い父とはいえません。


「メイちゃん…寂しいのね。パパは今日も遅いみたい…明日の朝、起こしてあげるからメイちゃんはもう寝なさい」

「やだ、メイ、起きてる…」


 う、うぅ…5歳の体が恨めしい。

 貪欲に睡眠を求める幼い体が、私の瞼に加重してきます。

 で、でもここで負けるわけには…っ


「やだやだ、起きてる! だって、だって、朝じゃあんまりお話できないもん!」

「まあ、メイちゃん…でももう遅いわ。ねんねしましょう?」

「やだぁ…ぱぱぁぁ……」

「夜泣きは卒業したと思ってたけど、やっぱりメイちゃんもまだまだ赤ちゃんね」

「メイ、赤ちゃんじゃないもん…!」


 母………5歳児はとっくに「赤ちゃん」と呼ばれる時期を卒業ですよ。

 し、しかし…本当に眠っ

 瞼が今にも世界にさよならをしろと…

 う、うながして…


 父の仕事は、帰りが遅い。

 本当に仕事で遅いのか、帰りに一杯やっているのかは知りませんけれど。

 でもあの愛妻家&子煩悩ぶりを思うと、やっぱり仕事で遅いのでしょう。

 私だって本当はちゃんとわかっています。

 父が夜遅くまで頑張っているのは仕事で、それは引いては父の養う家族…母や私のためだってこと。

 でもこうも遅いと、いざ父との対話を望んだ時に本当に面倒です。


 だからって朝にお話しようと思っても、今度は出勤前のばたばたでやっぱり碌にお話できないし…本当は私がもっと早起きをすればいいのでしょうが、今生の体はまだ5歳児のためか、結構…うん、寝汚い。

 ようは私がお寝坊さんなのが悪いんですけどね。


「ぱぱぁ…ぱぱぁぁ…っ」

「あらあら、本格的に泣き出しちゃったわ。メイちゃんはパパが大好きなのねぇ」


 いえ、この体(5歳)の涙腺が弱いだけです…。

 本当に緩々なのか、割と簡単にどうでも良いことでも泣けます。

 父のことは愛してくれている分、本当に大好きですが。

 それでも帰ってこないからって泣くほどではない…はず。

 うん…? そのはず……だよね?

 ………ちょっとわからなくなってきました。

 えっと、やっぱり父が帰ってこないことが悲しくて、泣いているんでしょうか?

 泣いている内に、自分の感情も引きずられちゃって…



「メイちゃん…っ!」



 ばぁぁあんっ と。

 そんな派手な音つきで。

 泣いていたらいきなり、吹っ飛びそうな勢いでドアが大開き。

 吃驚して、涙も止まりました。

 私を慰めていた母も、肩をびくっと一瞬震わせました。

 母子揃って音の発生源…ドアの方に目をやると。


 そこには、待ちかねた父がいました。


 一体どうしたことか、いつも綺麗に整えられていた黒髪が乱れています。

 荒い呼吸と共に上下する肩も、衣服の僅かな乱れも。

 いつもと違う様子に、思わず心は冷静に。

 父よ…何があった。

 思わず、素で「何事っすか」と言いそうになりました。


「あなた…? どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、メイちゃんはどうしたんだい!? 外までメイちゃんの泣き声が聞こえて…慌てて駆け込んだんだけど」

「あら」


 母、苦笑。

 そっか…家の外の道にまで、私の声が………。

 私は恥ずかしくなって、思わず顔を隠すように丸まってしまいました。

 そして娘の泣く声が聞こえたからって、こんな取り乱すなんて…

 先程の悪態を訂正します。

 父は、素敵な良きお父さんです…。


「あなた、メイちゃんはね? パパに会いたいって泣いていたのよ」

「え、本当かい…?」


 柔らかく、おかしそうに微笑む母。

 わ、笑わないでー…!

 そして母の言葉に、嬉しそうに口元を綻ばせる父。

 ち、父…そんな顔しないで! メイは別に、ファザコンじゃありませんからー!

 しかしまさか、そんなことを口に出せるはずもなく。

 拗ねて床の上に丸くなってしまった私に、父がゆっくりと接近してきます。


「メイちゃん、絨毯がひいてはあるけど…床に転がっていると、体が痛くなるよ」

「うゅー…」

 

 おかしそうにくすくすと笑いながら、くすぐったそうな顔をしています。

 父は私をいとも簡単にひょいっと抱き上げました。

 そうですよね、私、5歳ですからね…。

 力の強い獣人の父にとっては、本当に軽い荷物でしょうね…。

 

 父は私の頭を自分の胸にもたれさせ、ぽんぽんと私の背中を撫で叩きます。

 や、止めてください…っ

 ただでさえ眠いのに、睡魔の猛威が…!


「メイちゃん、明後日ならパパもお仕事お休みだから、その時にいっぱい遊ぼう。だから今日はお休みなさい」

「やぁ…パパとおはなしするの」

「困ったな…でもメイちゃん、眠たいだろう?」

「ぱぱぁ………めい、おきてる、もん…」

「でももう半分以上、夢の中じゃないかい?」

「ねむくない、もんー……」


 く、くそ…っ

 流石、パパ暦5年…! しかも実家じゃ長男(4人兄弟)!

 父の寝かしつけテクが、半端じゃありません。


「マリ、今日はメイちゃんも一緒に寝ようか」

「ええ、そうね。こんなに寂しがっていたんですもの。今日は親子で河の字ね!」

「………河は難しい気が」

「? 川だったかしら」

「あ、うん、それ…」


 結局、この日は父の脅威のテクにより、早々に就寝させられてしまいました。

 眠気を押して粘ったのに、結局目的達成ならず…。


 でも諦めることはありません。

 だって明後日、父はお休みだって言っていましたから!

 これはばっちりメモ帳を用意して待機しておきましょう。

 明後日はじっくりねっとり、父からヴェニ君のお話を聞きだすことに決定です。

 大人視点と大人故に知っている裏事情を合わせ、師匠(無認可)の隙をがっちり掴みますよ!



 ――明後日。

 さあ娘と遊ぶぞ、と張り切っていた父。

 しかし当の愛娘から唐突に他所の男(10歳)の話を根掘り葉掘りと聞きだされる羽目になり、彼の期待は大いに外れた。

 それどころか妙な焦りと緊張に曝される羽目になり…

 テンションだだ下がりです。


「ぱぁぱ❤ もっとヴェニ君のこと教えて?」

「あ、ああでも、もう十分じゃないか? ほら、パパと遊ぼう? 積み木でお城だって作れるよ。メイちゃんのためにパパがカッコイイお城を…」

「それじゃあ、お城作りながら教えて?」

「め、メイちゃん………メイちゃんは、ヴェニ君のことが好きなのかい…?」

「えー? 好きとか嫌いじゃなくて、メイの…」


 ………いきなり師匠とか言い出したら、父も吃驚するかな。

 ええと、師匠って親の心臓を痛めつけないように何ていったら良いんだろう…?

 ちょっと悩みましたが、自分でも納得できる単語が見つかりました。

 その晴れやかさのまま、満面の笑みで私は言いました。


「あのね、ヴェニ君にね、メイのお父さんみたいなひとになってもらうのー!」

「め、メイちゃん…っ!?」

「……あ」


 しまった。

 勢いで言ってしまいましたが、これ実父を前にまずかった………ですよ、ね?

 私は慌てて取り繕った笑顔で、父に訂正を入れます


「まちがえちゃった! メイね、お兄ちゃんみたいって言いたかったの!」

「メイちゃん………」


 父の背中には男親の悲哀、哀愁が漂っていましたが…

 私は、そっとそんな父の背中から目を逸らすのでした。



 後日、父のヴェニ君に対する風当たりがいきなり強くなったのは……

 ………完全なる余談です。


 うん、ヴェニ君ごめん。




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