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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
7さい:アカペラ第1初級学校の夏
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5-14.合宿の結末4 ~こどもの英雄(※おんぶ紐装備)~

なんだか合宿も終わりという展開になってからずるずると延びております……

でも書きたかったんです。書きたかったんです……!


今回は子供達にとって永遠のヒーローが駆けつけます! おんぶ紐装備で!!




 土壇場の隙をついて逃亡を図った私達。

 三々五々の方向に分かれて、カニの攪乱を狙おうかとも思ったけれど。

 やっぱり6匹もいると逃げるのが難しいみたい。

 それにそれをやると、木の上のウィリーを見捨てることに……。

 うん、後味がめちゃくちゃ悪いんで自粛しました。


 ただ、アドルフ君が一部熊になったお陰で、出来ることの幅が広がったよ!

 素手だと此方にもダメージが返ってくるので、カニの攻撃を弾いて逸らすってことが難しかった。

 だからただただ避け続けるだけ。

 でもそれって無駄に体力を消耗するんだよね?

 完全獣化で狼になったペーちゃんは爪を使えるけど、それでも1人だけ対処出来ても意味がない。

 そこに、同じく身体が獣化によって強化されたアドルフ君。

 彼の腕は充分に凶器になるとメイは睨んでいるよ!

 ただ、やっぱり武器は欲しいんだよね……


「……仕方ない、ね。奥の手を出すしかないかも」

「お、奥の手? メイちゃん、そんなものが!?」


 驚く仲間達を片手でいなし、私は奥の手である即席武器を用意することにしました。

 ……後で洗濯とか修繕とか大変になるから本当は嫌なんだけど。

 でもそんなこと、言ってられない……よね!

 だって洗濯の手間を惜しんで誰か死んじゃったら目覚めがとっても悪いことになっちゃうし……!


 さて、メイちゃんには5歳の頃からずっと欠かさず身に付けていた物があります。

 それというのも蹄の足じゃ足音を消すのが難しいからで……

 追跡に気付かれるような粗を残していたら、ストーカーなんて夢の又、夢。

 だから足音を殺す工夫として、ずっと身に付けていた物。


 そう、この足の蹄カバー。


 それを、とうとう……今こそ外す時が来たようです。


 私は両足を覆っていた蹄カバー(布製)をすっぽんとすっぽ抜きました。

 さっきまで泳いでいたから、良い感じに濡れています。

 さて、私はこれをどうするでしょう?


 答えは、足下に腐るほどある濡れた砂を詰め込む。

 

 それでカバーの口を縛れば……即席武器の完成です!

 打撃は効くって言ってたよね、ペーちゃんが。

 カニの撲殺は難しくっても、衝撃くらいは与えられるはず……!!

 メイの足を守り、足音を消していた蹄カバーだと思うと躊躇しちゃうけど……でもメイが持っていても仕方ないし。

 ここは、有効活用してくれる人に渡さないと!

 本気でめっちゃくちゃ恥ずかしいけど!!

 だってメイにとって靴下かブーツと同じ感覚だったし!

 使用済みのそれを他人に渡すって、本気で嫌だよね!?

 でも状況を思うと、本当に躊躇ってはいられない。

 渡す相手の選択も重要です。

 だから、私は彼らに渡すことにしました。


「ミーヤちゃん、ルイ君、受け取ってぇ!」

「……うわぁっ!?」

「っあ、あぶな……何を投げてるのかな、メイちゃん!?」


 カルタ君達は、逃げ回るので手一杯。

 ペーちゃんは狼化しているし、アドルフ君は小手先の技よりむしろ熊さんパワーで素手殴りの方が強そう。撲殺は無理そうだけど。

 更に熊の腕力に振り回される下半身の力足らずを補う手段として、今のアドルフ君はペーちゃんとドッキング状態。

 こんな状況下で武器を使いこなせる人なんて、そんな何人もいないよね?


 だから、該当者に投げつけた訳なんだけど。


 打撃武器を投げつけるのって、よく考えなくっても危険だったかな……?

 危ういところを紙一重で避けた2人は、流石だと思ったけれど。


「メイちゃん、これメイちゃんの蹄カバーじゃ……」

「……の割に、今何だか凄いスピードで飛んで来たんだけど」


 顔を引き攣らせる、2人。

 こうして見ると外見の系統似てるねー。

 クール系美少女なミーヤちゃん(雄)と、クール系美少年なルイ君(格好つけ)。

 そんな2人に、盗賊みたいな即席武器を押し付けるメイちゃん。

 でもそんな客観的事実に構っている余裕はないよ!


「2人ともー……それ、カニさん殴るのに使って? 威力は保証するから!」

「ええっ!?」

「蹄カバー……だよね、これ」

「中に濡れた砂がたんまり入っちゃってるのー!」

「「…………」」


 ものは試し、と。

 ルイ君がぶんっと振ってみたら凄い勢いを発揮しました。

 うん、棍棒くらいの威力はありそう。

 でも何だか2人のお顔がとっても微妙な感じです。

 そしてメイちゃんの顔もきっとすっごく微妙だよね!

 わかってる……わかってるんだよ、2人とも!

 だから、メイのことをそんな目で見ないで……っ


「……」

「えーと、でもメイちゃん。君が僕らにこれを渡したら、メイちゃんは……?」


 そっと気遣うように目を逸らす、ルイ君の優しさが痛いな……。

 でも気遣ってくれる気持は有難いし、言葉も嬉しい。

 だからメイは気まずさを殺して、精一杯の笑顔で言ったの。


「大丈夫! メイには、ママ譲りのこの蹄があるから……!」


 伝家の宝刀、蹄キック(羊)……今こそ、それを見せる時かもしれない。

 蹄キックはママ(羊)じゃなくってパパ(馬)の専売特許だけど、2人の子供ってことでメイちゃんが引き継いでみせるよ!

 

 いや、うん、蹴りとか割と頻繁に使ってるけど。

 でも今までは蹄カバーに包まれていた分、実は何割か威力が殺された状態だったんだよね。

 だけど今は蹄カバーも外して、私の蹄は剥き出しです。

 うん、このまま直で蹴ったら絶対痛い。

 間違っても人を相手に使ってはいけない、天然の凶器です。

 でも相手はカニだから、良いよね!

 みんなを助ける為なら、蹄が砕けるまで蹴ってやるー……っ!


 そんな決意をした瞬間が、メイちゃんにもありました。


 でも結論を言っちゃうとね?

 そんな覚悟は無駄になっちゃった。

 だって。


 私が戦う必要を見失うくらい格の違う方々が、湖から現れた訳で。

 先頭切って現れたのは、私にとって最も馴染みの相手でした。


 一陣の、疾風。

 湖からまさに風の様な速度と勢いで、黒い影が私達の前を遮り、駆け抜けた。

 こんな叫び声を、周囲に響かせて。


「子供達は、メイちゃんは無事か……っ!!」


 うん、メイちゃんにとって滅茶苦茶馴染みのある人だった……。

 当然だよね、見覚えがないなんて絶対に言えない。

 現れたのは、この世界に生まれて7年とちょっとの間ずっと付き合ってきた実の父親……メイちゃんの、パパだよ。


「ぱ、ぱぱーっ!?」


 私……というか子供達とカニの間を遮るように駆け抜けて。

 パパは手に持っていた槍?っぽい何かを、疾走する勢いのままカニの腹にぶち当てた。

 衝撃が、走る。

 インパクトの瞬間、どうしたことか盛大に火花が散って。

 まさに馬獣人の本領とばかりの速度で真っ直ぐにカニと衝突したパパは、だけど衝撃に吹っ飛ばされることもなく。

 逆にカニを弾き飛ばさん勢いで手に握っていた木の槍?を突き当て、そのままカニの腹を強い踏み込みで蹴りあげた。

 カニの至近から離脱する瞬間も、人間離れした身のこなしで。

 蹴りあげる反動で自らの身を宙に跳ね上げ、後方へと三回転。

 すたりと軽やかな着地を決めた瞬間には、既に両手に握った槍?も再び完璧な構えを見せていて。

 いつだって即座に反応できる、動くことができる。

 泰然自若という言葉を思わせるパパの立ち姿は、一分の隙もなかった。


 少しの時間差を置いて、爆音とともに弾ける、カニの腹。

 ぱ、パパ? あなた一体なにやった……?

 パパの謎技術? 何かしらの技による効果か、カニの腹に大ダメージです。

 だけどトドメを刺すには至らなかったみたいで、カニは大きく後ろによろけながらも、その体はまだしっかりと聳え立つ。


 → 親馬鹿 が あらわれた !

 シュガーソルト・バロメッツ(25) Lv.76

 装備:木槍?

     布の服

 

 でもあの、ねえ、い、いま、パパ……湖の上を駆け抜けてこなかった!?

 ちょ、水の上走ってたよね!? 間違いなく走ってたよね!?

 しかも良く見たら手に持ってるのって槍じゃなくってボートのオールだし!

 あんな物で私達の歯が立たなかったカニの腹を弾けさせたの!?

 

 私は……というか、私達は。

 突如助けに来てくれたらしい父の姿に唖然としてしまいました。


「ぱ、パパ……っどうして、ここに」

「メイちゃん! 危ないから、君達は皆と一緒にちょっと下がって!」

「いや、下がるも何も取り囲まれてるんだけど!?」

「少ししたら他の応援が来る! それまでの辛抱だ。それまではパパの背中にいなさい!」

 

 巨大なカニを前に、パパは槍?を回転させながら立ちはだかっています。そう、背後にいる私達……子供達を守ろうとするように。

 全身から闘気をオーラの如く立ち上らせて、黒い陽炎(かげろう)が見えた気がした。


 でもね、待って。

 待ってください……っ!?

 そんな諸々のおかしい点より、ずっとずっとメイにとってはとんでもない事実が付随してるんだけどね!?

 立ち止まって動きを止めた、パパ。

 その姿を冷静に見てみたら……背中にとんでもないモノ背負ってるんですけど!?


 背中に庇われた私達と、背負われてるモノは真正面からこんにちは。

 対面した私達に、ぱたぱたと手を振っているのは……。


「ねぇね、ねーね、だいどーぶっ?」

「ねぇーたーん、げんきっ? あいたかったのー」

「き、きゃぁあああああっ!? ゆ、ユウ君エリちゃんなんてところにぃ!」


 シュガーソルト・バロメッツ(25) Lv.76

 装備:ボートのオール

     白い洗いざらしのシャツ

     黒いチノパン

     おんぶ紐 ←


 ぱ、パパぁぁあああああああああああっ!?

 な、な、なんでこんな危険な場所に!

 どうしてこれまた双子ちゃんを背負ったまんまやって来ちゃったの!?


 パパの背中には、おんぶ紐で固定されたエリちゃんがいました。

 そしてパパの黒くてさらさらな髪に覆われた頭部には、ユウ君が張り付いていました。

 ……ユウ君、よくしがみついていられるね。

 パパの足はメイよりずっとずっと早いんです。

 さっきも何かやたらとアクロバティックなことをしていたのは気のせいじゃない。

 振り落とされないのは、力の強い獣人の赤ちゃんだから?


「ぱ、パパーっ! なんで双子ちゃんまで連れてきちゃったのー!?」

「あ。しまった!?」

「って、パパも無自覚だったの!? 自分の赤ちゃんの存在忘れちゃめっだよ!!」

「あー……」


 いや、そもそもパパってまだ休暇中じゃなかったっけ……?

 どう見ても軍服には見えない格好と良い、もしや。


「シュガーソルト……っ!!」

「!?」

 

 あ、新手が現れた!?

 どうも聞き覚えのある声が、したような。

 驚き振り返ったそこには……


「あ、かあさ……!?」


 ミーヤちゃんが目を丸くして、呆然と呟きます。

 うん、気持ちはよくわかる。

 よくわかるよ、今まさに同じ境遇だしね……!


 私達の視線の先。

 そこには、軍服じゃなくって私服姿のミーヤちゃんママ。

 此方もまた、見過ごせない姿で駆け付けて下さってました。

 うん、見過ごせない姿で。


「この馬鹿、気持ちはわかるが先走り過ぎだ! 部下どもを引き離してどうする!? まともな武器を取りに戻る分別すらつかなかったのか!」

「だが、クルシュシュ……メイちゃんが!他の子供達だって!!」

「せめて背負った子供を預けていく余裕はなかったのか!?」

「そういうお前も人のことは言えないだろうがっ!」

「は……? …………??? っあ!」

 

 ……パパの指摘を受けて、首を傾げていたミーヤちゃんママ。

 でも自分の背中に気付いて、ミーヤちゃんママも自分が動転していたことに気付いたんだと思う。


「きゃはははははっ! あ、にーにだぁ!」

「にぃにー! にゃはははははは♪」

「まぁま、はやーっ!」

「はやはやー!」

「「………………」」


 → 男装の麗人(off ver.) が あらわれた !

 クルシュシュ・ネコネネ(26) Lv.69

 装備:流水鉄の細剣

     麻のワンピース

     木綿のエプロン

     おんぶ紐 ←


 ミーヤちゃんママの背中には、ミーヤちゃんの妹ちゃん達。

 ユフェイネちゃんとコーネリアちゃんの双子がいました。

 エリちゃんと同じように、おんぶ紐で背負われた状態で……。


「か、かあさん……」

「パパぁ……」


 ……助けに来てくれたのはとっても嬉しいよ。うん、嬉しいんだ。

 だけど、だけどね?

 なんだろうね、この今まで感じたこともない不安感は……っ

 とってもとっても心強い助けの筈なのに!

 それも実の親となったら、これはもう窮地に1番助けに来てほしい人達だよね!?

 実力も保証済みなら、これはもう子供にとっては英雄(ヒーロー)と言っても良いと思う。


 でも、でもでも。

 だけどね……っ!?

 姿を見るからに休暇満喫中だったのはわかるよ!

 わかるんだけど、なんでちっちゃいチビちゃん達をおんぶしたまま来ちゃうのー!?


 じ、実の子供として私達、いまどんな顔すれば良いのかな!?

 こんな状況に遭遇するのは初めてのことで、正直よくわからない。

 とりあえず物凄くがっかりな感じ。

 助けに来てくれて嬉しいけど、素直に嬉しいとは思えない。

 メイの表情筋も、どんな顔をしたものかと超戸惑ってるよ!

 取るべき態度に判断がつかない、私達。

 実の子の私やミーヤちゃんだけじゃなくって、みんな戸惑ってる。

 ねえ、素直に喜べないのは駄目かなぁ。

 どの感情を前面に押し出せば良いんだろう?

 誰かわかるなら、最優先で教えてください……。




子供にとって永遠のヒーロー=父親

これってある意味、鉄板ですよね?

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