5-12.合宿の結末2 ~かに!~
嬉しい楽しい、自由時間♪
朝ごはんを食べる前からうきうきわくわくで。
私達はみんなで何しよっか、と笑顔も咲こうというもので。
……本当だったら、絶好の好機なんだけどね。
それは流石に、あまりにも可哀想ってことで。
クレアちゃんのお勉強も朝の30分で切り上げて、私達は湖に駆け出しました。
……いやだって、他に遊ぶとこないし。
ちなみに朝の30分だとまともな勉強はできないかなって思いそうだけど。
30分でミーヤちゃん、ドミ君と力を合わせて作った力作小テストをやりました。
ちゃんと事前にミルフィー先生にもチェックしてもらって、内容はバッチリ!
本当はそこで合格点が出なかったら、その子は自由時間返上でお勉強という鬼の様な訓告を出してたんだけど。
遊びたい、っていう気持ちにかける子供の執念って……凄いよね。
凡ミスは幾つかあっても、合格点を取れなかった子はいなかったんだから。
みんな平等にってことで、小テストにはクラス全員を巻き込みました。
そもそも小テストの制作者であるメイちゃん達は、試験監督役です。
自主的にお勉強しているメイ達の姿を見て、ミルフィー先生はちょっと狼狽しながらも感動している様子でした。
そうして、遊びにかける執念からか。
みんな、ちゃんと合格点が取れたから。
愁いの1つもなく、心おきなく遊べるというものです!
だからメイ達は、笑顔で駆けだしたよ。
まさかその後、あんな生物と遭遇しようとは……
そんなこと、欠片も想像しなかったから。
……そうなるってわかってたら、武器をちゃんと持って行ったのにな。
前、ヴェニ君に選んでもらったヤツ。
合宿中も最低限の鍛錬は欠かしてなかったから、荷物に入れてきてたのに。
最初に湖を軽くすぃーっと泳いで。
でも連日水泳漬けだったから、ちょっと飽きてたのかな。
私達はいつしか、浜での砂遊びに夢中!
「マナちゃん、ソラちゃん!」
「なぁに、メイちゃん」
「お砂でお城つくろー」
「お城?」
「うん、お砂遊びの定番―!」
「え、そうなの? 定番なの?」
「どうやって作るの、教えてメイちゃん」
「うん! メイが教えてあげる」
見よ……名前も思い出せない前世で培った私の技を!
今の今まで忘れてましたけど、どうやら前世の私は海岸での砂遊びに結構慣れていたみたい。どうも海辺の町育ちっぽいのでおかしくはない……よね?
「見てみてー? バッキンガム宮殿!」
うん、我ながら見事なクオリティ!
納得納得と頷く私の傍に、簡単なレクチャーの後、各々の作品を作ろうと散らばっていたお友達が寄ってきます。
私が建てた絢爛豪華な建物(砂)を見て、おお……と息を呑みました。
「うわぁ、凄いねメイちゃん!」
「見たことない建築様式だけどな!」
「メイちゃん、どこでこんなお城のデザイン覚えて来たの?」
「ひみつー」
「秘密なの!?」
「それでね、それでねー? こっちはヴェルサイユ」
「ヴェルサーチ?」
「ううん、ヴェルサイユー」
「メイちゃんって想像力豊かなんだな。こんなお城、見たこともないのにどうやって作れるんだ?」
「見たことあるのもあるよ?」
「あ……! これ、ご領主様のお城?」
アカペラの街に隣接してそびえる、アルジェント伯爵家の居城。
試しに作ってみたそれを、皆が関心の面持ちで眺めやります。
でも細部まで凝って作り過ぎたかな……
リアリティを出そうと、やり過ぎた気がします。
お城の敷地内に入れる子供なんていないのに、うっかり門の外から見えない部分まで作り込み過ぎた!
作ってる時は夢中で気付かなかったけど、これはまずい……かな?
「メイちゃん、伯爵様のお城に行ったことがあるの?」
「う、ううん? ないよー?」
「でも、凄くリアルだよね……」
「想像! 想像だから。えっと、こんなんかな?って……」
「へえ……でもなんかしっくりくるな。何か参考にしたのか?」
「それは前世で設定資料集を……ってなんでもないなんでもない」
「??? 是正で接待死霊臭?」
「あはは……目の前にいたのがペーちゃんで良かった!」
「? 俺も目の前にいるのがメイちゃんで良かったって思うぞ」
「うん!」
頑張って作ったお城を、みんなが褒めてくれました。
嬉しくなって、調子に乗って。
私はどんどん色々と砂を固めて行きます。
とりあえず、更なる墓穴を掘る前にご領主様のお城は蹴り倒しておきました。
うん、失敗☆失敗!
ペーちゃんの空耳に助けられちゃった。
もうこっちの世界のモノは作らない方が良いかも。
「メイちゃん、これは親子か何か?」
「ううん、連行される宇宙人。定番だよね!」
「うちゅー? とっても目の大きな子ね。髪の毛はないの?」
「ん、生やしちゃう?」
「この小ささでハゲは可哀そうよ」
「えーと、じゃあさっき拾った鳥の羽で……」
そんな風に、私達が楽しく砂浜で遊んでいる時でした。
その、蟹が現れたのは。
………………うん、もっかい言います。
それは、カニでした。
「うわぁぁあああああっ つべつべまんずうがにだーっ!!」
「えっ スベスベマンジュウガニ!?」
「違うよ、メイちゃん! 魔物の『つべつべまんずうがに』だよ!」
「なんて言い難いの!」
→つべつべまんずうがにがあらわれた!
メイちゃん
装備:布の服
ミーヤちゃん
装備:布の服
ペーちゃん
装備:布の服
その他大多数
装備:布の服
こ、これでどうしろと……!?
目の前に現れたのは、全長えーと、15mくらいありそうな カ ニ でした。
…………私の記憶が、確かなら。
アレはゲームの中盤で出てくる、防御力が滅茶苦茶カタい蟹さんのような。
ゲーム中盤の敵だけあって、結構……手強い感じの。
物理攻撃があまり通じてくれない、厄介な敵さん……だった、ような。
そんな感じの魔物に、似ている気が……
ちなみにその魔物の討伐推奨 Lv. 3 0 。
……気のせいだよね!
気のせいだよね!?
誰か気のせいと言って下さい、お願いします!!
そんな私の願いも、ああ無情。
カニは私達の存在にがっちり気付いたようで……
うわあ、どんどん近寄ってくるよ……!?
私達の前に突如として現れた敵、カニ。
カニと言いながら、実際には何だか蟹と蜘蛛を混ぜたような不気味な姿をしています。うん、凄く不気味。
全体的に赤黒い姿で、蟹の癖に目が6つあります。
背中にはゴツゴツと鋭い突起のたくさん生えた、亀より硬く頑丈そうな甲羅。
物凄く岩っぽいフォルムで、実際に岩よりも硬そうな気配がします。
正面に晒された腹も、まったく柔らかくなさそうだ……。
なんだか、アレに似ています。
体操の運動マット……あれよりも大分、衝撃吸収しそうだけど。
そして剛毛だらけの、奇怪に曲がって節くれだった足。
足音はがしょんがしょんがしょん……って、おかしくない!?
がっちがっちと打ち鳴らされるハサミは……まさにシザーハンズ。
頑張れば鉄だってずったずたに出来ちゃいそうだよ!
そんな奇怪なカニが、口から泡を吹きながら向かってくるという……
あんまり女の子には受け付けられそうにない姿。
あまりの異形っぷりに、ああうん、魔物……という感想しか出てこない。
というか、いきなりの遭遇過ぎて、吃驚し過ぎて言葉が出ないよ!
こういった危険が子供に近づかないように、監視して警護してるんじゃなかったの! 軍人と警備隊の混成部隊さーん!?
突然のことに、固まって、身が竦んで。
そんな私達を取り囲む、カニ(×6)。
…………気がついたら、すっかり逃げ遅れておりました。
と、取り残されたー!!
現在、カニに囲まれて逃げそびれた子供はメイ・ミーヤちゃん・ペーちゃん・ソラちゃん・マナちゃん……って、まあいつもの皆。
加えて、何故かアドルフ君達のグループ。
え、なんで逃げなかったの……!?
私の記憶が確かなら、アドルフ君達は私達からちょっと離れた所にいたはず。
それも、蟹が現れたのとは違う方向に。
何かに気を取られたりせず、一目散に逃げれば逃げ切れたのに!
……心なしか、私達に近づいてますよね。位置。
も、もしかして私達が心配で逃げられなか……って、そんなことないか。
とりあえず孤立していると危ないので、急いで手招きして呼び寄せます。
「アドルフくーん! ラッツくん、ダニーくん! そっちは危ないからおいでー!」
「ばっ……大声出すなよメイちゃん!? カニに狙い定められたらどうすんだ!」
あれ? なんか大慌て……やっぱり、心細かったよね!
私は駆け寄ってきたアドルフ君達を迎え入れると、よしよしと彼らの頭を順番に撫でました。
……うん、思った通りアドルフ君の熊耳やわらかい!
「な、なにすんだよ……」
「アドルフ君?」
「……っなんでもねーよ、馬鹿!」
「え、えぅ……っ?」
あれ、なんか馬鹿呼ばわりされた!
緊急時にそれは酷くないかなぁ!?
でも何か、アドルフ君の癪に障ることしちゃったのかな……。
アドルフ君は顔を赤くして、口元を手の甲で押さえています。
「あ、アドルフ君……」
「……」
「あれぇ……?」
ふ、ふいって顔逸らされた……!
ちょっと乱暴で我儘なところがあるけど、アドルフ君はそこまで悪い子じゃありません。ちょっと、ガキ大将気質なだけです。それも昭和の。
だけどそのガキ大将気質にこそ、メイちゃんは胸がときめきます。
ああ、なんて絵に描いたようなガキ大将……! ジャイア●ズム!
本当は是非ともお友達になってほしいんだけど……き、嫌われちゃったかなっ?
男の子達には我を張って、威嚇して、がるがる言ってるイメージだけど。
でも女の子にはちょっと優しいところのある、不器用な照れ屋さん。
基本的に弱い者いじめや、女の子への意地悪はしないんだよね。
……勝負事が絡んだときを除いて。
負けず嫌いなアドルフ君は、勝負が絡むと手段を選ばなくなるけど。
それでも、メイは嫌いじゃありません。
メイにも時々、ぶっきらぼうながらも手を貸してくれたりとかして……
良い子って訳じゃないけど、悪い子でもない。
素気ないけど優しいところのある、まさしく昭和のガキ大将。
つまりは面倒見も悪くない、そんな子なんだけど……。
こんな非常事態に、力を合わせて生き延びようって時に。
そんな顔を逸らされるなんて。
あ、あれぇ……?
この土壇場で避けられるような悪いこと、メイしちゃったかなぁ……?
私が頭の上に疑問符を躍らせていたら、ぐいっと後ろに引かれる感覚。
うわぁっ?
あまりに驚いて、声も出ない。
だけど更に驚いたのは、私がいたところを黒い何かがかすめて行ったこと。
びっくりと目を見張って、つい習慣で動きを目で追う。
そうしたら、それがカニの足だってわかりました。
あ、知らぬ間に攻撃始まってた。
「ペーちゃん、ありがと!」
「気を付けろよ、メイちゃん。こんな攻撃で怪我したら、師匠にどやされるぜ?」
「そうそう。アドルフなんて気にかけてる段じゃないよ、メイちゃん?」
色々と気になることも、あるけれど。
今はそれどころじゃないことを、メイも思い出しました。
そうだよね。
今は、生き延びなきゃ。
余所事に気を取られてたら死んでしまう。
さっきカニが現れた時、ちゃんと道徳(?)の授業で教わったように私達を置いて一目散に逃げた子達がいました。
恨みは、ありません。
それより逃げそびれて、あの子達が死んじゃう方がずっと嫌だから。
それに逃げ切ったあの子達が、きっと大人を……戦闘要員を呼んでくれるはず!
私達は軍人さんなり、警備隊員さんなりが駆けつけるまで生き延びれば良い。
必ずしも倒さなければいけない訳じゃ、ない。
生き延びること。
逃げきること。
それが勝利条件なら、まだまだずっとマシです。
こんなレベル差も馬鹿にならない相手、メイ達の手には負えないし。
倒せる訳、ないし!
でも逃げ回って生き延びるだけで良いんなら……まだ希望はあるから。
よーし、全力で逃げ惑います!
ただ1つ、不安材料があるなら……
「うおわっ!?」
「ひゃぁん!」
「わあっ」
――あ、うん、みんな逃げるの上手だね!?
いや、心配だったんだけど……。
私のお友達さん達は、意外に生存能力が高そうです。
でもあのカニ、思った以上にすばしっこいんだけど……。
応援が来るまで、なんとかなるかなぁ……?
ファンタジー系学校モノ、合宿の定番。
「親方ー! モンスターがーっ!!」
ですが活躍するのはメイちゃんたちではありません。




