5-11.合宿の結末1 ~水泳大会とは名ばかりでした~
さてさて、商売の顛末(メイちゃん10~12歳の騒動)から立ち戻りまして。
7歳のメイちゃんたちが受けたシビアな水泳訓練合宿の続きでございます。
合宿初日の夜に、算盤に食いついたロキシーちゃんによって謎の商談が始まるという事件はありましたが、それ以降に大した異変もなく。
私達の水泳(遭難)鍛練実習は終わりを迎えました。
……ごめんなさい、嘘付きました。
あったよ、異変。
色々あったよ……。
それも最終日と、その前日。
合宿のフィニッシュを飾る、華々しい異変が。
初級学校の水練実習は、学年ごとにメニューが違います。
うん、ふざけた話だと思ったけどね?
1年生は船が転覆しても救助を待つことが出来るよう、徹底して水に浮く、沈まない、溺れない為の訓練。
前提として近くの小島まで辿りつけるだけの水泳技術と体力を伝授されます。
2年生は船が転覆して湖の真ん中に取り残されても、生き延び、何なら自力で生還する為の努力を重ねる訓練。
それもう水泳関係ないよね? という勢いで小島に辿り着いた後の水の確保だの、寝床の確保だの、自然から採取した恵の調理法だの、生きて帰る為のイカダの作り方だのを叩きこまれます。
楽しかったとはペーちゃんの兄弟、ハート君やクローバー君の言。
君達、大物だよ……。
そしていよいよ最終学年、3年生。
彼らのやってることは初日の夜にちょっと触れたかな?
狩りです。
わあ、原始の匂いが漂うね……。
水上で遭難しても強く正しく逞しく生き延びる為に、湖に生息する大型生物を協力して狩り、自力摂取の難しい動物性蛋白質を確保する為の訓練なんだって!
それもう絶対に水泳じゃないよね!?
え? 水中の大型生物を狩り出す為にやたら素潜りする?
激しい水上の格闘の為、基準値以上の水泳能力が必須?
でもそれって学校で学ぶ事じゃないと思うんだ……!
いつか水上で遭難することに備えるにしても、本格的過ぎるよ!
3年生の実習は危険すぎるとのことで、1年生や2年生とは別の場所でやるらしいんだけど……1回、参考がてら皆で見学したことがあります。
勿論、先生や軍人さん達の引率で邪魔にならないようにね?
でもね……うん、激しい。激しいよ。
やってることが本格的過ぎるっていうか……大型生物は本当に大型でした。
メイちゃん、初めて見たよ……。
人間なんてぺろりと丸呑み!って規模の、オットセイ……。
あんなの、この湖に生息してたんだね。
想像以上に気性の荒い野生動物に、現地調達したっていう前提で準備した原始的なつくりの銛を片手に立ち向かっていくお兄さんやお姉さんたち……。
どっかで見たことのある鹿と、優しい熊のお姉さんが大活躍でした。
そんな、初級学校の水泳鍛練実習。略して水練実習。
私は合宿って内心で呼んでたけど、うん。
合宿っていうより、鍛練実習って呼んだ方がしっくりいく現実に直面しました。
見事に学年ごとにハードさが上がっていくよ。
メイちゃん、来年・再来年がすっごく心配だな……。
銛1本でお化けみたいな魚やカモノハシに立ち向かえるようになるのかな。
ううん、それができる様に頑張ってならないと!
そのくらい出来なきゃ、ストーカーの道は険しいよね!
さらさらってこなせなきゃ、ゲーム主人公の追っかけなんて出来そうにないし。
うん、メイちゃん……頑張る!
……と、そんなこんなな水練実習。
その成果を見る為の、水泳……水泳?大会が日程に組まれてました。
前にも言いましたけど、水上交通の規制に関する事情により、合宿は初級学校全8校が同じ時期に合同でやります。
宿泊場所は、学校によって違うけれどね!
そんな状況なので、訓練に張り合いを出すため……なのかな?
学校対抗の、水泳大会が開かれたんだよ。
……とはいっても、全員を競わせる時間はありません。
なので、学校ごとに各学年から代表者5名を選出。(先生達の審議の元)
選ばれた5名が、各々の訓練の成果を披露する演目になっているそうな。
その代表者の中に、なんとペーちゃん達四つ子が全員食い込んでました。
凄いね、アルイヌさん家!
これも普段の、ペーちゃんママの薫陶のお陰でしょうか……
どうやら普段からアマゾネスに扱かれている四つ子ちゃんは、中々に生存能力が高いようです。
……ん? どうして生存能力に言及するのかって?
そりゃ……水泳大会で競うのが、水泳能力だけじゃないから。
何をするのか、それは簡単だよ。
うん、合宿中に何をやったのか……その成果だから。
まず第1スタートは1年生。
湖の真ん中で、船から水中に投げ込まれます。先生の手によって。
……サリエ先生が嬉々として放りこんでました。
とりあえず湖に放り出された子供達は、それぞれ学校ごとに指定された目的地……湖の上に点在する、それぞれの小島に向ってGO!
泳げ、と。
速度よりも重視されるのは、確実性。
1年生のスタートから5分遅れて、2年生も動き出します。
ちなみに彼らは一切泳ぎません。
じゃあ、何をやるのか?
イカダ作りです。
それもう水泳関係ないよね! 関係ないよね!?
そんなツッコミも、無駄とばかりに一心不乱にイカダ作りです。
出来たイカダの性能が3年生に思い切り影響するので、手抜きはできません。
2年生がイカダを作っている間にも、2年生がいる島へと1年生は泳ぎます。
だけど1名脱落するごとに、2年生も1人ずつ失格になっていきます。
うん、そんな運命共同体、嫌だよね……。
どうやら1年生が泳げなくなった時点で、対応する2年生も作業を抜けなきゃならないらしく。
いつ作業を中断しなきゃいけないのか、2年生もドキドキです。
嫌なドキドキだね!
そして彼らの本番は、1年生が島にゴールした瞬間に始まるそうな。
島に自力で到達した1年生と同数の2年生が、その時点で問答無用で旅立たなきゃいけないんだって。
1年生はゴールするにも、早過ぎず遅過ぎないタイミングを要求されるのでかなりのプレッシャーだろうなって思います。
あまりに早く着き過ぎると、イカダが未完成なんだよ?
それで湖に漕ぎだせって、鬼だよね!
だからといって遅すぎてもいけないんだから、調整が難しい。
どうするんだろうって、応援する私達はハラハラ。
だけど今回は、アルイヌさん宅の四つ子ちゃんがいました。
泳ぐ1年生と、イカダを作る2年生に、均等に。
……うん、流石は四つ子!
普段はバラバラに単独行動のイメージが強いけど、やっぱりママさんのお腹の中から一緒だった絆ってのがあるのかなぁ?
ペーちゃん達は、これ以上ないくらいにタイミングばっちりだったみたい。
規則で1年生と2年生は連絡を取り合っちゃいけないんだけど、テレパシーみたいなものでも通じ合ってんのかなって思っちゃった。
早く島に辿り着き過ぎた1年生に有りがちなんだけど、ゴールする時間を稼ぐ為にペーちゃん達は島の回りをぐるぐる泳いでいました。
島の林の中でイカダを組むハート君達の姿は、完全に見えなかったはず。
ずるっこしないように監視の先生がそれぞれの側についているんだから、絶対です。それも1年生の監視はサリエ先生だったので、本気で有り得ません。
なのに、ね?
「――はっ! 今だ!」
いきなりペーちゃんがそんなことを言い出し、猛スピードで浜に向って泳ぎ出しました。(犬掻きで)
他3人の代表者が「えっ!?」と戸惑う中、疑問を差し挟むこともなく無言で追従したのがダイヤ君。彼も負けじと爆泳したそうな。
アルイヌさん家の四つ子は、片割れ君達がイカダを完成させる時間がわかったのかな? 私達は首を傾げるしかないけれど、ペーちゃん達がゴールしたのと丁度同じ瞬間、2年生のイカダが完成したんだって。
1年生は泳ぎつかれた子もペーちゃんが積極的に牽引したお陰で、1人も欠けることなくゴールの小島に辿り着きました。
泳ぎ疲れて砂浜にへばる1年生の元に、イカダを担いだ2年生が駆けてきます。
ニヤッと笑うペーちゃんと、にんまり笑うハート君。
普段あんまり一緒にいるところを見ないけど、やっぱり兄弟仲は良いみたい。
四つ子はそれぞれにハイタッチを交わし、1年生は2年生が湖へと漕ぎ出す背中を見送りました。
漕ぎ出して、どこに行くのかという話。
また別の小島に待機する3年生の元へ、彼らは行きます。
そこには狩りの準備を万端整えた、3年生。
だけど移動手段を持たない彼らに、2年生が作ったイカダを届けに行くんです。
3年生のいる小島で、2年生と3年生が入れ替わる。
だけどここでも、2年生と同数の3年生しかイカダに乗っちゃいけないんだって。
イカダに乗れる数の3年生が、それ以外の生徒を島に残して湖へ。
そうして始まる、水棲大型生物の狩り。
そこから制限時間いっぱいまで、彼らは狩りを続けます。
制限時間になった時点で、各校の3年生が狩った獲物の大物度や数やらを競うんだってさ。大物狙いで行くか、数量を稼ぐか……学校によって作戦も様々。
そこで1~3年生の総合順位が出て、1番になった学校にはトロフィーとご領主様からのお祝いのお言葉。
それら優勝の証を授かって、水泳大会は終わりです。
……うん、まともに泳いでるの1年生だけだよね!
そんな疑問も、うやむやに。
やがて夜の帳が降りる頃、8つの初級学校合同で、バーベキュー大会が始まります。ちなみに具材は3年生が大会で仕留めた獲物だよ。
たまに毒のある生物が出てくるのは玉に瑕。
あ、大会に有毒生物を獲物として提出したら減点らしいよ。
そんなこんなで、合宿の夜は更けていき……
とうとうやってきた、合宿の最終日。
それこそ、皆が楽しみにしていた瞬間。
先生が合宿の始まりに、私達に教えてくれていました。
1週間の実習、よく頑張りましたねって慰労を込めて。
――最終日は、自由時間。
厳しく辛く苦しい本気の水泳訓練も、何もなく。
ただストレスを発散せよとばかりに。
シビア過ぎる合宿で募りに募ったあれやこれやの鬱憤を晴らせとばかりに!
帰宅時間が来るまでの間、私達は大いに遊び、はしゃぎ、騒ぐ。
そんな楽しい楽しい、水遊びの時間がやって来たんです……!
楽しい筈の、自由時間に。
あんなイキモノが出てくるなんて、思いも寄らずに。
……ちゃんと働こうよ、軍人さん。




