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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
7さい:アカペラ第1初級学校の夏
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5-10.商売の顛末。

こちらは前回のお話の、余談にあたります。

本編の流れ的には飛ばしても問題ないので、面倒になったらさくっとどうぞ!



 これは、今のメイちゃんから見たら、未来の話。

 商売の結果として私達が得たもの、その余談。





   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 あの後、時間を設けて更に色々とみんなで話を詰めました。

 その中から派生して、とんでもないことになった案件があります。


 試用品の話ですが、ウィリーの店で陳列してもらった場所には『試用品』であることを示すポップを付けてもらいました。

 普通、試用品なんて書いてあると無料(タダ)だと思うんだけど……

 私のその考えは、前世特有……なのかなぁ?


 ロキシーちゃんは、がっつり売る気です。

 

 ただ正規料金だと売れないのはわかりきっているので、陳列棚に説明をつけることで対処するそうな。

 まず、試用品はかなり割安なことは当然として、まだ商品化前の品であることを明記。更に使用者の反応が悪ければ販売中止になる可能性がある旨と、この試用料金で売っているのは今だけだと強調するんだって。

 それでも買うかなぁって思うんだけど、ね?


 『この便利な商品は、今しか買えないかもしれない』という『今だけ感』をガンガン煽るつもりなんだそうな……


 わぁ、前世で見たなんとかショッピングみたーい……。

 更に購入後1週間以内なら返品が可能という、この世界では異例のクーリングオフ制度まで導入しちゃったよ。言いだしたの、メイだけど。

 本当に良いもので、自信を持って提供できる品なら返品されるはずがないという力強いお言葉でGOサインが出ました。

 逆に返品が続出するような品なら更なる改良点があるか、そもそも商品化に向かないって判断ができるから試用の段階ならどんと来い!だそうです。

 ロキシーちゃん、商売が絡むと男前だね……。

 

「勿論、試用なので消費者の声が還元されないといけないわ。だから、商品の感想や改良点に関して意見を集めないといけないんですけど……」

「試用品に、アンケート用紙をつけたらどうかなぁ。満足したか、してないかのチェック欄を付けて、感想欄もつけるの」

「ああ、それなら内容もある程度の特定ができるね。メイちゃん、頭良い!」

「あ、あはは……」


 前世の、お客様アンケートが頭にあったのは言うまでもないことだけど。

 こう、なんか……前世で知ってた知識を、さも私が思いつきましたという風に言うことに、微妙な罪悪感が!

 でも他にも言うけど! 付け加えるけど!


「あとね、オマケ付けるのってどうかな」

「おまけ? 試用品に?」

「ううん、お店にアンケートを提出してくれたお客さんに、交換でオマケ渡すの。非売品で、ちょっと欲しいって思えるような……なるべくコスト抑えて、何か出来ないかなぁ?」

「低コストで、ちょっと欲しいモノ……?」


 私の言葉で、皆が考え込んでしまいました。

 何かないかなぁ?

 私の戯言同然の意見にも、真剣に考えてくれるみんな。

 やがてぽつりと、小さな声が静まりかえった中で響きました。


「――ぼく、メイちゃんのパパのサインほしいかも」


 ……え?

 いま、なんか不思議な意見が聞こえたような。

 私が目を丸くして、声の発生源を見ます。

 そこにいたのはクラスメイトの男の子。

 ちょっと気恥ずかしそうに目元を赤くして、俯いちゃいました。

 えっと、どういう意味だったのかな……

 首を傾げるメイの隣で、どうやら彼の言いたいことが理解できたらしいウィリーが立ち上がりました。


「そっか! バロメッツ大佐のサイン……! 身内ならではの、強力な伝手!」

「え、え……? ウィリー、どういうこと?」

「メイちゃんは大佐のお嬢さんだから実感がないかもしれないけど、バロメッツ大佐だよ!? 10年前の英雄だよ!」

「それって別の人じゃないかなぁ。メイのパパはただの親馬鹿さんだよ?」

「ああもうっ身内の偏見! そうじゃなくって、バロメッツ大佐は姿も良いからね? だから、アカペラの街……ううん、アルジェント領全土でとっても人気なんだよ!? 憧れて軍人目指す子って多いんだよ!」

「みんな、かわいそうに……」

「なんでそこで悄然と項垂れちゃうの!?」


 いや、だって……ねえ?

 私が意見を求めて幼馴染たちに目線を送ると、そっと同情的な眼差しをくれた後で逸らされました。

 うん、目で語るってヤツだよね。

 実際の姿を嫌というほど知る私達にとっては、パパってなんか……ねえ?

 

 だけどそう思うのは、パパのことを身内目線でしか知らない私達だけみたい。


「そうですね! バロメッツ大佐……だけでなく、ネコネネお姉様のサインなども手に入ると大変よろしいかと思います!」

「あ、ここに母さんのシンパいたよ。そういえば」


 ウィリーに同調するようにして立ちあがる、ロキシーちゃん。

 その言葉にミーヤちゃんが心底嫌そうなお顔をしたよ。

 人気者の身内を持つと辛いね、ミーヤちゃん……。


「バロメッツ大佐の肖像入りサインが手に入るってなったら、買うね。きっと沢山の人が買ってくれるね! そしてアンケートを出してくれるよ! ついでにソレが手に入るってことで、僕の家も噂になって大繁盛間違いなし!!」

「うん、ウィリーも大概商魂たくましいよね……」

「いつの間にか『ただのサイン』から『肖像入りサイン』に進化してっぞ、おい」

「というか、それだと1回サインを手に入れた人は満足しちゃって、継続的な効果はないんじゃ……」

「そこは新商品が出る度に、バリエーション増やせば良いじゃない?」

「メイちゃん達の親は×2で6人だけだよ!? メイのママとミーヤちゃんのパパは一般人から意味ないし、実情4人でバリエーション!?」

「これ、親の伝手を頼って方々からサイン貰ってまわれって言われてんのか?」



 ――その後、話し合っている内に。

 何故か、話の流れはカードゲームの開発に摩り替っていました。

 いや、オマケに楽しい要素を付け加えようとしていたら、いつの間にか……。

 うん。わかってる、わかってるよ……メイちゃんが悪いの。



 最初は、定期的にオマケの絵柄を変えるとか、サイン変えるとか、そんな話で。

 やがて「そこまで凝るんなら、商品化しよう。それでオマケはレアな非売品にする」という話になりました。

 うん、カードに属性を付けるとか、ステータスを付けるとか、攻撃力がどうのとか話した辺りから路線がおかしくなったかな……!

 印刷機はないけど、版画の理論で量産が可能だと気付いたあたりからが特に酷かったよ……同じ規格の木の板に、版画を使って量産なんて話になって。

 1番上にカードのキャラ名とか、効果名とか書く欄を用意。

 オマケで配布する非売品は、そこに本人の直筆で名前を書いてもらう。

 ……つまりサインだよね。


 子供はゲームとか好きだよ、ね。うん。

 だから話している内に、夢が膨らんじゃったんだ……!


 おかしいな、メイ……前世じゃカードゲームやったことないんだけど。

 最終的に人間・獣人・魔人の人物(架空のキャラ)カードをベースに、必殺技カードだのアイテム(実際の商品)カードだのの意見が飛び交い……それらの最も基本的なカードをセット販売にして、追加のカードは何枚いくらで袋売り、等など……。

 更にルールの説明が必要なので、説明のカードをつける等々。

 どんどん話が商品化の流れをひた走ってるんだけど……!

 子供の遊びにかける情熱って、馬鹿に出来ない。

 でも、ちょっと楽しい。

 

 私は毎日、将来の(ストーカー)に向けて修行の日々。

 とても退屈している暇なんてないんだけど、目的を持って生活してる子供ってどのくらいいるんだろう?

 こっちの世界は、娯楽らしい娯楽があまりありません。

 本も学術書とかばっかりだし。

 道具を使った遊びもあまりないし。

 ……つまり、もやしっ子には辛い日々。

 ここにカードゲームなんて持ち込んだら……爆発的に売れそうな気がする。

 そしてその未来を、ロキシーちゃんは確信を持って予想できちゃったらしい。


「これは絶対に売れますよ、バロメッツさん……!」

「わあ、きょういちばんの笑顔いただきましたー……」


 商人はロキシーちゃんの天職かもしれない。






   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・




 ――この時のメイは、露とも知りませんでした。


 まさか、半ば冗談とノリと勢いで売り出したカードが、あんなに売れるなんて。

 ……大陸中に蔓延するくらい流行するなんて。 


 特にロキシーちゃん一押しの美麗な絵師さんにイラストを描いてもらったことが功を奏したのかな。『イラスト』の概念を伝えたら、めちゃめちゃノリノリで超美麗なキラキラの、すっごいヤツ作ってくれちゃったよ?

 版画の出来が良かったこともあって、子供への手軽なお土産として、アカペラの街に立ち寄った商人さん達が王国各所に広めていこうとは。

 考えてみればアカペラは交易の街だし、流行したらどこまでも広がる……よね。


 しかもメイ達のお国の、王子様(10代前半)の目に留り、ドはまりされるとは思ってもよらず……更に王子様が対戦相手を求めまくった結果、王国上層部の一流家庭のご子息ご令嬢の間に紹介されまくって 超 ・ 蔓 ・ 延 ……。

 子供だけでなく、その周辺回りの若手中心に青年層にまで流行は普及し……

 結果的に、王国全土でかなり流行するとか。

 本当に、全然、そんなに売れるなんて思ってなかったのに。

 ちょっとした娯楽程度の感覚で売り出したら、なんでこんなえらいことに。


 勿論、カードには商品名を付けて特許登録をしていました。

 なので勝手に作って楽しむ人はいたかもしれないけど、勝手に商品化できる人もおらず。正式なシリーズの列に加えるにはメイの許可が必要ということで。

 大々的に、爆発的に売れちゃったら、アカペラの街までわざわざ問い合わせ……というか注文が殺到しました。

 現地販売しかしていなかったので、もう大変なことに……

 最終的に販売するカードの見本を各種制作し、ロキシーちゃんの家を通じて各地の職人さんに量産してもらって販売……と大変な手間になりました。

 更に更に、カードの愛好者(コレクター)に名を連ねた著名人が、自分の名を前面に押し出して依頼してきたんだよ。


 自分を、カード化してくれないだろうか……と。


 自慢ではないけれど、自分はかなり名の知れた将だと思う。

 非売品のレアカードにはそういうのがあると聞いて……等々。


 ……うん、ある日いきなり自分のカードを作ってほしいなんて依頼の手紙が来て、かなり度肝を抜かれました。

 これまた気合の入った、カード化してほしい肖像付きってところが、また。

 その時はまだ流行の実情を知らなかったし……凄く売れてるってくらいしか。

 まさか王子様だの著名人だのに売れてるとは……

 それを知ったのが、この時です。

 最初に依頼書を出してきた将軍ってのが、また……

 ……うん、国王の身辺警護を担う、王宮近衛騎士の団長さんだったんだ。


 当然の如く、物凄く人気の方でした。


 でもそんな人が作って!なんて言ってるんなら、渡りに船。

 依頼を良いことに勿論作らせましたよ。ロキシーちゃんが。

 元々気合の入っていた近衛騎士団長さんの肖像を、更にキラキラにして。

 完成したカードを5枚くらい将軍に贈って、レアカードにしました。

 製作数を従来の5分の1に抑えて、無作為に売る。


 そうしたらレアカードを狙った富裕層に、より一層売れました。


 売れた売れた、飛ぶように売れたよ……。

 そしてどうやら、将軍は作ってもらったカードを周囲に自慢しまくったらしい。

 そうしたら、更に凄いことになったんだよ。うん、当然の如く。

 

 王国屈指のビッグネームの持ち主からの依頼書が殺到しました。

 我も我もといっぱい来たの。


 まず、王子。

 この時点で状況のあまりのおかしさに、ウィリーが再起不能になりかけました。


 それから有名な軍人さん達。

 似たような地位の軍人さん達の間で、どっちが先にカード化してもらえるかって競争にまでなったそうな……。

 触発されたのか、宮廷魔術師団の師団長とかからも来たし。


 ……国王様と王妃様から来た時は、ロキシーちゃんがひっくり返りました。

 あんなロキシーちゃん、見たのは後にも先にもあれっきりです。


 そして、当然の如くレアカード化しました。

 生産・販売数は著名人の人気や周知度で調整して、欲しがる人の多そうなカードは本当に幻のカード扱いになりました。特に王族のカードは本当に販売されているのか疑惑が発生するほどのレアっぷりです。

 

 でもね?

 実はそれが手に入るんですよ、ウィリーの家で。


 この頃に至ると、メイのアイデアは大概商品化が済んでたのでもう試用品販売は終わっていました。

 だけどおまけとして手に入る非売品レアカードへの人気が凄まじかったので、試用品販売を停止させる代わりに各種レアカードの販売を始めたんですよ。

 此処でだけ確実に手に入る品として、ウィリーの家で高額で。

 他の場所じゃ、中身のわからない袋詰め状態で無作為にバラ売りだけど、ウィリーのお店に限り展示販売という理不尽さ。

 その代わり、本当に凄い価格を嬉々としてロキシーちゃんがつけてたけど。

 それでも喜んで買いに来る人がいるという事実が、物凄くこわい……。


 販売は基本、早い者順。

 勿論利潤は【アメジスト・セージ】名義ですけど、実際には仲間内で商売を始める前に決めた配当割合にそって山分けです。

 それでも場所代として、ウィリーの家には結構高めに配分していました。

 ウィリーのお家もうはうはです。


 アカペラの街だけで還元するのは……と思ったけれど、【アメジスト・セージ】の本拠地でしか手に入らないという煽り文句で転売する商人さんが多数続出。

 この頃には他国にもカードが広まっていて、その地方地域独自の海賊版とかも出てたっぽい。

 そういう海賊版と差別化を図るにはどうしたら良いかとロキシーちゃんが悩んでいたので、みんなで知恵を出し合った結果。


 ……年に1度、カード名鑑的なぶ厚い本が出ることになりました。


 その為にわざわざ、和紙の作り方(大雑把な記憶)を思い出す羽目になった……けど、そのくらいの苦労をする甲斐はありました。

 最初の1冊は、それまでに出たカードの全データ(レアカード含む)。

 2冊目以降は、その年に出たカードの全データ(レアカード含む)。

 それぞれのカードの設定や、裏話など。

 あとカードで作る役のリストに、カードの組み合わせで発生する効果とか、まあ色々。ネタにできる物は思いつく限り詰め込みました。

 今後の販売を促進する為に、有名な劇作家さん(カード愛好者)に依頼してショートストーリーまで書いてもらった力作です。

 

 勿論非売品で、年に20冊しか作りません。

 1冊はローズメリア商会に置いて、1冊はメイちゃんが貰って。

 なんやかやで計5冊は内輪用に確保。

 残り15冊は抽選で当たった人にプレゼント!ってすることに。

 一定期間中に【アメジスト・セージ】の商品を買った方に抽選券を配布して、応募された中から無作為に15名を選んで贈りました。国内外を問わず。

 ちなみに裏取引はナシですよ?

 ……そうしたら某王子様が、物凄い量の抽選券を送って来ました。

 この方、何がしたいんでしょうね……?

 そういえばゲームにも出てきたんだよね、この王子様。

 「ああ、退屈だ」が口癖の、楽しいことが大好きな方だったような……。

 ………………うん、ちょっと納得した。



 アカペラの街は、わざわざレアカード欲しさに訪れる富裕層の方々がいっぱいいたので、かなり潤いました。

 うん、なんかね……観光推進に大きな功績を出したとかって名目で、うん。

 ………………ご領主様から賞状が届きました。

 これをメイに、どうしろと……?


 でもカード……すげぇ。

 きっと結論はこれにつきます。

 いや、算盤もじわじわ売れてたんだけどね?

 この頃になると、もうメイちゃんは絶句するしかなかったよ……。


 とりあえず、財産が見たこともない額になりました。

 とても危険な領域に達していたので、商業組合に迷わず預けました。

 商業組合に銀行制度があって良かった!

 預金の利息が転がって、ますますとんでもないことになってたけど……!!

 最後にはいくら預金しているのか、確かめるのが恐ろしくなっていました。


 結果的に、物凄く儲かりましたけど。

 うん、カードが流行してからは、かなり展開が早かった。

 ロキシーちゃんの身代金なんて、余裕で払いきれるくらいお金になったし。

 やっぱり娯楽って、人の心に染み込むというか……凄い力を持ってるよね?


 とは言いましても……それも全部7歳のメイちゃんにとっては数年後の話。

 カードが王子様の目に留ってからは本当に早かったけど、それまではじわじわとした人気だったし。

 とんでもないカード騒動に私やみんなが切りきり舞いするようになるのは、今からは数年後のお話ということで。

 メイちゃんが10歳を超えた、未来に起きる出来事です。


 若い内からこんなに儲けたら、働く意義を見失いそうで凄く怖い。

 でも15歳から数年をストーカーする為にふらふらする予定のメイちゃんとしては都合のいい話……過ぎますよね、やっぱり。


 これも世界を統べる竜神セムレイヤのご加護だろうかと、とても恐ろしく思った5年後の未来、12歳の夏。






メイちゃん、(ストーカーの)軍資金ゲットだぜ!

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