5-4.お風呂も大変!?
結局、やることにしました。
*後半、男子どもによるのぞき行為を示唆する文面があります。
そういうのちょっと…という方はご注意ください。
1日目の水泳訓練が終わると、案の定みんなは生ける屍化しました。
今は夕御飯を終えた、まったりタイム。
でもみんな、まったりというよりぐったりという感じだよ…。
軍と警備隊が共同で管理している訓練用の宿舎が、私達の滞在拠点となる小島には点在しています。
なんか軍人さんや警備隊員さんは泳ぎながら延命レベルじゃなく、泳ぎながら戦えるようにならないと湖上の実戦配備に耐えられないんだって。だから新入りはこの小島で徹底的にしごかれるとか。
軍人さんって大変だね………
メイ、将来は絶対に軍人にも警備隊員にもなりたくないな。
そんなスパルタ精神溢れる訓練で使用する宿舎は、意外に快適。
訓練の予定がない時は一般にも開放しているそうだし、今回の合宿に際して事前に各学校の先生方が手分けして掃除や準備に手を入れてたんだって。
ちなみにお夕飯は3年生のお兄さんお姉さん達が軍人さんの指導のもと挑みかかって見事打ち取った湖の巨大魚でした。
目測だけど全長、およそ6m強…。
最終日には12mに挑むって話だけど、それ前世で言う抹香鯨サイズじゃ…。
………初級学校も3年生となると、そのレベルが求められるんだね。
どうやら最高学年の訓練目標は『水難に遭ってもすぐ死なない』から『水難に遭っても強く生き抜く』にランクアップしているようです。早い話が湖上で1人ぼっちになっても狩猟採集を駆使して自力で生き残れってことですね。野生の掟が目に染みる…!
水泳訓練が実用的、実践的すぎて今から2年後に戦慄を覚えます。
自分達だけならまだしも、クラス全員で挑むってどうなんだろ。
体力のない子が弾き飛ばされないか、メイちゃん心配…!
ちゃんとその時にフォロー出来るか大いなる不安を抱えながらも、私達は目先の物事に一所懸命に挑戦するしかありません。
せめてこの合宿中に怪我人が出ませんように…。
宿舎の1つに第1初級学校の面々は押し込められ、それぞれクラスごとに部屋を振り分けられました。
クラスで使う大部屋の中、見回してみれば見事に墓場と化しています。
メイちゃん含め、みんな超ぐったり…!
お勉強しようにも、机に突っ伏してドミ君が寝ちゃいそう!
何だかとっても…目が死んでいます。
…合宿をするにあたり、今回も定番メンバーで班を組んだんだけどね。
その中で1番体力がないのが、お勉強のできるドミ君だったという……。
ドミ君だけじゃなく、魔法特化で体力値低めの魔人さん達はみんなグロッキー状態です。うちの犯だと、ドミ君、ソラちゃん、ルイ君がそうかな。
ちなみに1番体力があって辛うじて余裕を残しているのは、当然の如く私とミーヤちゃん、ペーちゃんの3人です。
その次が人間だけど14歳のカルタ君と、豹獣人のマナちゃん。
人間のクレアちゃんとウィリーは、グロッキーとまではいかなくってもやっぱりお疲れの様子で机と仲良くしていました。
クレアちゃんは2年目だからか、ちょっと体力を温存してるっぽいけどね。
クラスのみんな同じ部屋にいるけど、他の班の子達も内訳は似たような感じ。
辛うじて元気なのが獣人、普通に疲れ果てているのが人間、普通に死にかけた半死半生状態の魔人。
こ、こんなんでお勉強できるのかな…?
ちょっとどころでなく、凄く不安になりました。
「これは…今日は早く寝て、明日の朝早くから取りかかるしかないよ」
体の辛そうなドミ君の言葉に、異論を唱える人はいませんでした。
幸い、私達にあと残されている予定は入浴のみです。
それが終わればまだ大分早い時間帯ながらも自由時間。
なんでこんなに早く?って訓練が始まる前なら思っていました。
………つまりこれって、訓練が終わったら皆が早々とダウンすることを見越して組まれたスケジュールってことだよね。
点呼すらないあたり、その余力すら子供に残らないのが慣例なのかも。
クレアちゃんも言っていましたし。
「点呼はないけど~、皆が寝ちゃった後に先生がお布団確認して、全員ちゃんといるのか数えてくれるのよ~」
…うん、やっぱり余力も全て搾り取る勢いの訓練だったってことだよね。
無駄な体力を全て奪い取って強制的に就寝に追いやる。
好奇心旺盛で無駄に行動力のあるお子様の集団だってことを思えば、そっちの方が先生的には効率的なのかもしれない。
脱走する余力なんて欠片もないしね☆
「それじゃお風呂でよく温まって、体をほぐしたら明日に備えて寝よう」
「ちゃんと揉んでおかないと、筋肉痛になりそうだね…」
「明日痛い思いをしないよう、しっかりコンディションを整えてから眠ろう?」
班長であるドミ君の言葉に、全員が無言でこっくりと頷いたのでした。
先ほども言いましたが、私達の宿泊先は軍人さん達用の宿舎です。
つまり、日中に滝の如く汗を掻き、筋肉迸る暑苦しい集団ですね。
そんな彼らを少しでも清潔に保つ為、快適な宿泊環境を提供する為、宿舎には大きな浴場があります。
ちゃんと男女別に分かれた、立派な大浴場です。やったね♪
その様式は前世で言う古代ローマ様式…ではなく、古き良き銭湯スタイルを踏襲していました。
タイル張りの大きな浴場を、真中に分厚い壁を配置して遮って。
壁に堂々と存在を主張する、素敵な壁画。
それらを貸切です。
貸切、です…!
クラスごとに分かれての、入浴タイムの始まりだよ!
女子全員見事にまったいらだから、恥ずかしさなんかは皆無です。
私はきゃーと叫んでお風呂に突撃しました。
前世では銭湯なんて行ったこともありませんでした。
だからこんなお風呂、初めてです!
「ちょっバロメッツさん! 前くらい隠しなさいな、はしたない!」
怒られた…!
気まずい思いでくりっと振り返ってみると、苦々しい顔のロキシーちゃん!
メイ達と同じクラスで、入学したあの日にミーヤちゃんと揉めた商家の娘さん。年齢は私より1つ年上の8歳だったかな。
まだお子様体型なのは私と一緒ですが、ロキシーちゃんはしっかりと体をタオルで隠しています。
乙女だ…乙女が、此処にいる!
育ちが良いんだろうなぁとは思っていましたけれど、8歳にしてしっかりとした貞淑さが身に付いているようです。
………私の方からしたら、ついつい7歳とか8歳の身体なんて扁平お子様体型だから気にする必要もないよね!とか思っちゃうんだけど。
あれ? 私、もしかしてこっちの世界基準だとかなりはしたない?
「う…ごめんなさい、ロキシーちゃん。ちゃんとメイも体隠すね」
「あの、馴れ馴れしく呼ばないでくれます? 前々から言っていますけど、ロキシーではなくロクシアーヌです」
「ロキシーちゃんの方が言いやすいし可愛いよ!」
「半分は自己都合でしょう!?」
…私はロキシーちゃんと仲良くなりたいんだけどな。
入学したあの日、ミーヤちゃんと一緒にいたことで目をつけられたのかな?
ロキシーちゃんは私やミーヤちゃん、ペーちゃんにはかなり釣れない御方です。うん、なんかすっごくツンツンしてる。
でも言っていることはまともだし、こっちが非常識な行動を取ると放っておけないのか言葉は棘だらけながらも構ってくるし。
実のところ、私はロキシーちゃんがかなりお気に入りです。
だってなんか、この精一杯虚勢を張ってツンとしているところなんて突っつきたくなってくるし…!
裸の付き合いで女同士の親睦を深められないものかと、そう思ったメイですが。
私はまだ知りませんでした。
体力的にまだ余力のある獣人…つまりメイ達が、お風呂の中で寝落ちしそうになる他のクラスメイト達の面倒を見る宿命にあったなんて…!
基本は一緒に入浴する形で監督してくれるミルフィー先生と、もう1人他クラスの女の先生がお世話してくれてたんだけど、やっぱり2人じゃ手が足りないよね。
仕方がないので、メイちゃん達もお世話にパタパタ忙しなく過ごすことになりました。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
――その頃、男子風呂の方では。
失敗した時のことを考えない、後先知らずの英雄が起とうとしていた。
彼の名はアドルフ。
御年8歳の、熊の獣人である。
「おい、お前ら! そんなへばってて情けないと思わねーのか!?」
「そうは言っても、疲れてるんだよ、アドルフ~」
「チッ…情けねぇ。お前らに、俺が男のロマンってモノを見せてやる!」
「お、男のロマン…?」
根が単純である彼を今回突き動かす魔法のお言葉は、『男の浪漫』。
誰に仕込まれたかと問われれば、彼の父親としか言いようがない。
賞金稼ぎをしているというアドルフのパパさんは、息子に余計なことばかりを教え込んでいた。
「そうだ、俺がお前らに男のロマンが何なのかきちっと教えてやるよ!」
「………とても嫌な予感しかしないんだけど、僕の気のせいかな、スペード?」
「いいや? 俺も嫌な予感がするし、気のせいじゃないんじゃね?」
「…チッ なんだよミヒャルト、スペード」
本来クラスのガキ大将として君臨していてもおかしくない、ヤンチャな彼。
そんな彼の蛮勇を今まで結果的に防いできたミヒャルトとスペードが、今回も彼の前に立ちふさがる…!
「今から俺らは男のロマンを探しに行く。参加しない腰抜けなら、そこどけよ」
「どいてあげたいのはやまやまなんだけどね」
「まず、お前の目的を俺らに教えて貰おうか。俺らにどけって言うが、この先には女風呂との間を隔てる壁しかねーだろ」
「っていうかまず、男のロマンってなに?」
「お、男のロマンは男のロマンだろ…っ」
「それってまさか、『のぞき』じゃないよね…?」
「メイちゃんの肌を勝手に見ようなんて、そんな馬鹿なこと考えてねーよな?」
「なっ…悪いか!? お前らだって見たいんじゃねーの!?」
「うわ…当たりだよ」
「っつうか、この歳で覗きとか馬鹿じゃね?」
「う、う、煩い! 父さんが合宿の醍醐味は女湯の覗きだって言ってたんだよ!」
「発端はこいつの親父か! っつうか下種いなお前の親父!」
「品性最悪…! アドルフ、君、本当にそんな下劣な蛮行に走る気?」
「大体、クラスの女どもなんてまだお子様体型で男も女もあんま変わんねーだろ。そんなもん見て、楽しいか?」
「メイちゃん以外、ね」
「そう、メイちゃん以外」
「お前ら本当にぶれないな…!!」
実際、アドルフは雰囲気だの思い込みだのに流されている。
本音を言えば、女子の裸にそれほど惹かれている訳ではない。
スペードの言う通り男女の性差は然程表れていない年齢だ。
おまけに色気のない年代でもある。
異性に仄かな感情を抱くことはあっても、そこから先に発展しない年齢だ。
彼らにとって同級生は『女の子』ではあっても、『女のひと』というには何かが違うのである。
その違いなど、漠然としかわかっていなかったが…
つい最近までお母さんにお風呂に入れてもらっていたようなちびっ子揃い。
何しろ、未だ公衆浴場の女湯に母親と一緒に入って許される見た目をしている。
彼らにとって、女の子の裸を見たところで特にどうということはないのだろう。
それが素晴らしい女体であれば、呆然と見蕩れもするだろうが。
再度言おう。
アドルフ他、その一味は雰囲気と『男の浪漫』という素敵な響きの言葉に流され、踊らされているだけであった。
この中で本当の意味で女子の覗きをやって洒落にならないのは、14歳のカルタ君くらいである。
しかしカルタ君は良い意味でへたれだった為、アドルフに賛同して覗きを敢行しようなどとは思わない。
そもそも、カルタ君にとってツルぺた7~10歳児など、見ても見られても特に何とも思わない年代だったので気にもならなかった。
隣でぼそっと、ルイ君が呟くまでは。
「女子風呂って、そう言えば今………ミルフィー先生も入ってるんじゃ」
ずざっ!…と。
その小さな呟きに、学級6割の男子が反応した。
嘆かわしいことに、ウィリー及びカルタ君も思わず肩が跳ねる。
男子風呂の監督はサリエ先生だったが…彼は今、脱衣所でサボっている。男子の面倒を見ながら、3学級分の入浴に付き合えるほど、彼に熱意はない。
しかしミルフィー先生なら真面目に取り組み、ちゃんと一緒に入浴していることだろう。そしてそんな彼女だからこそ、価値が…意味のあるものがある。
男子達の脳裏に蘇ったモノは、昼間見たモノ。
さり気無くガン見して、目に焼き付いたものは…
たわわな胸元。
きゅっとくびれた細い腰。
細くて白い腕と、魚の尾っぽ。
ミルフィー先生の素晴らしく芸術的なナイスなお身体。
「……………覗きなんてやったら、先生泣いちゃうんじゃないかな?」
困った顔を引き攣らせたドミ君の言葉で、反応した男子の半数は踏み留まる。
しかしもう半数…4人の男子が、鬨の声とともに腕を突き上げた。
「お、おおぅ…っ予想以上の同志が!」
アドルフ君も、正直ちょっとドン引きしていた。
だが、相手が扁平な同級生ではなく素敵ボディのミルフィー先生なら話は別だとばかり、アドルフ君への賛同者が新たに加わった。
「く…っ まだ10歳そこらの癖に、エロ男子め!」
風呂場という、全員が防御力の限りなく下がる空間。
足場は悪く、濡れて滑る危険性が高い。
更に言えば相手に怪我をさせる訳にもいかず、勝利条件は入浴時間中ずっと敵対する男子達の行動を阻むというもの。
たった2人で、覗き行為を行おうとする奴らを止められるのか。
数に勝る相手を前に、あまりに条件が悪すぎる。
そんな勝率の悪い場所で…ミーヤちゃんとペーちゃんは分の悪い闘いに乗り出そうとしていた。
ちなみに宿舎の部屋は新兵用の大部屋が主なので、士官用の部屋は少なめ。
学校の先生方が今回はそこを使う為、規則として監督を任された士官以外は日暮れとともに家に帰るのが鉄則です。
………元々休暇で、強引に参加していたパパは未練を残しながら渋々帰りました。家は家で嫁とちっちゃい赤ちゃん2人がいるので強引に泊ってまで参加するのは無理なようです。
今回の没↓
「大体、女の子の裸は勝手に覗き見るんじゃなくって正攻法で見せてもらってこそじゃない」
「ミヒャルト、下種い!!」
8歳のミーヤちゃんがあまりに酷くなったのでなかったことにしました。
彼らのクラスは品行方正とまではいかないけれどお行儀のよい男子(筆頭はドミ君)と、やんちゃな昭和臭さの匂うガキ大将グループ(筆頭はアドルフ)と、彼らの対立を傍観するその他の男子に分けられているようです。
そしてお行儀のよい男子の中で好戦的かつ挑発的なのがミーヤちゃんとペーちゃん、と。
女子はちょっとお転婆なメイちゃん達のグループと、ツンと済ましたお淑やかなロキシーちゃん達、また彼らを傍観するその他の女子に分けられます。
ギャル系女子がいないのが、ファンタジー世界+お子様世界という感じ。