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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
7さい:アカペラ第1初級学校の夏
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5-3.泳ぐのも大変…!



 麗しの担任、ミルフィー先生の明るい声が響きます。

 文字通り水を得た魚とばかり、いつもよりずっと活き活きした声。

 ミルフィー先生は良い声をしているので、こっちの気分も明るくなります。

 ミルフィー先生の溌溂とした笑顔が、合宿を楽しみに思わせて。

 私達は、初めての水泳訓練にどきどきしていました。


「はい、みなさぁん! まずは膝まで湖に入ってお水に慣れましょうね」

「「「「「はーい!」」」」」


 元気な1年生、セージ組のみんなは恐る恐ると湖に足をつけました。

 大多数の子は、靴を履いたままで。

 あと、靴下もそのままで。

 私はお手製の蹄カバーを愛用してるけど、これもやっぱりつけっぱです。

 …うん、なんでこうなっちゃったのかな!




 この世界に生まれ変わって、ファンタジー世界ってシビアで世知辛いなって…そう思ったことは1回や2回じゃないけどね?

 うん、今回もちょっと痛感した。


「み、みるふぃーせんせぇ!!」

「あ、あ、メイちゃん落ち着いて? まずは力を抜いてみて!」

「あうぅぅぅ…っ」

「先生ー! ミヒャルトの奴がー!!」

「う、うっさい馬鹿犬…! わざわざ先生を呼ばなくっても、僕は大丈夫だ!」

「浮木を離せない奴が何言ってんだか…」

「犬掻きしか出来ない奴は黙ってろ!」


 ゲームの中でも、水着イベントってあったんだよ?

 それこそもうファンタジーRPGでもお約束でしょ?って当然さで。

 コスチューム的な水着を、南の島のイベントで入手できちゃいます。

 その時に主人公が水着の感想を伝えた相手の好感度が…って、それは良いや。

 でもその時に、水着のこと「珍しい発想」とか「こんなの初めて見た」「ちょっと恥ずかしくて照れくさい」とか言ってたんだよねー………

 そのことを、しみじみと思い出しちゃった。

 いくら新しいモノや珍しいモノが絶えず流入する商業の町でも、限度があるってことだよね。

 遥か南方の孤島の習慣は、ここまでやって来ていなかった…!

 ………率直に、結論から言いましょう。


 この国に、『水着』なんていう便利なモノはない…っ!!


 つまり、どういうことかというと?

 服を着用したまま泳げという、水泳初心者には中々難易度の高い無理ゲーが発生しました。

 しかも水難事故に遭遇したことを前提とした延命の為の水泳訓練なので、泳ぎの速度やフォームは二の次、三の次…

 求められているのは、体力の消耗を最小限に抑えること。

 取り乱さない心構えと共に、普段着(・・・)で湖に転落しても乗り切る力。


 …つまり、服を着たまま浮くことが私達1年生の最初の課題でした。


 何とか一週間で服のまま立ち泳ぎ…可能ならそのまま移動が出来るようになるのが目標なんだって。

 水泳の指導とともに、いざ水の事故に遭った時の対処方法やらなんやらを説明されながら、私達は必死にあっぷあっぷしていました。

 男の子はまだ良いよ。ズボンだもん!

 す、スカートが足にまとわりつく…!!

 しかもなるべく女の子は足を隠しましょうね、って危険すぎるよ!?

 ここで乙女の常識を語るのは止めよう、諸先生方!

 前世の私が会得していたのは、精々がクロール・背泳ぎレベル。

 でも他の子よりは前世の下積みがある分、他のお勉強と同じく今回も余裕だと思ってたんだけど…

 これが必要最小限の身軽な服装だっていうならともかく、普段着。

 ええ、普段着。

 …街の子供の格好で泳ぐのが、こんなに難しいなんて。

 パニエやペチコートが思いっきり足に絡みつくよ…!!

 とりあえず1年生は、まず自力で浮ける様になったら上等。

 泳ぐ方法を考えるのはそれからだ…!という状況です。


「みるふぃー先生…めい、ちゃんと泳げるようになるかなぁ………」

「大丈夫ですよ、メイちゃん。みんな最初は誰だって泳げないの。頑張ればメイちゃんはお魚さんみたいにだってなれるわ」

「………ミルフィー先生みたいに?」

「ええ、もちろん!」

「いや、無理だろ…先生、人魚(魚の獣人)じゃん」

 

 前世の感覚を覚えてる。

 だから大丈夫、なんていうのはただの気のせいだったことが発覚しました。

 なんでって?

 ………うん、メイちゃんの足、 (ひづめ) なんだ。

 普段から自然に馴染んでるから忘れちゃいそうになるけど、蹄なんだ…。

 足の形が違うって、こんなに泳ぐのに影響するんだね…。

 足の甲の部分で水を蹴って、掻いてとしていた前世。

 今世はその足の甲がないんだよ?

 運動は得意な私ですが、前世の癖が足を引っ張って泳ぐのに難航しています。

 ちなみに服を着用したままという状況にはもう諦めて見切りをつけました。

 ヴェニ君がよく言ってるけど、不利な条件でも慣れるしかないよ。

 実際に事故に遭った時、丁度水着だったなんて都合よくはいかないんだから。

 あっぷあっぷと一所懸命。

 こんな状態で、夜にクレアちゃんのお勉強を見る体力が残るかなぁ…


「ミルフィーさん、大丈夫ですか? 何かお手伝いが出来ることがあれば…」

「あ、あ、ありがとうございます…でも、大丈夫ですから」

「おい、何抜け駆けしてんだコルベスタ。ミルフィーさん、そいつなんかよりどうぞ俺のことを頼って下さい! 水泳はちょっと得意なんです」

「馬鹿か、エドガー殿。何をどうやったら抜け駆けなんて発想が出てくるんだ。これは真面目な仕事なんだぞ。お前ももっと子供らに気を配れ、子供らに!」

「その言葉、そっくりそのまま返してやんよ! さっきからミルフィーさんにべったりひっつき過ぎなんだよ、お前! あと俺はエディガルドだからな、エディガルド! 幾ら言っても覚えないなんて、お前馬鹿じゃねーのか!?」

「は? 名前なんて興味がないから覚えないだけに決まってるだろ。それに誰がミルフィーさんにくっつき過ぎだって? それを言うならお前は…」

「もっ…もう! 子供の前で喧嘩は止めてください…!!」

「「………すみません」」


 ……………あるぇー? 今日って、初級学校の水泳訓練だよね?

 なんで目の前で愁嘆場が繰り広げられつつあるんだろう。

 なんだか見覚えのある顔が2つ、いつの間にか先生の背後に追加されてるよ!?


 ミルフィー先生は、湖に入るに至って本来の姿…魚の獣人として、それこそ絵本で見るような人魚の姿になっていました。

 水泳を教えるにも、溺れた子を救助するにもこっちの姿の方が効率的だからと、みんな平然と受け入れています。

 でも受け入れているのと、見惚れないのは別問題。

 普段から泣き虫で気弱なところのある先生だけど、ミルフィー先生は男性に人気があるって聞いたことがあります。

 あの人魚の姿は、その理由の一端を見せつけるものでもありました。

 だって、目に眩しい…!!

 泳ぎの邪魔にならないようにとノースリーブのワンピース姿なんだけど、剥き出しの二の腕は日焼け知らずでうっとりするような細さ白さを見せつけます。

 濡れて体の線にぴったりと張り付いた服はミルフィー先生の華奢だけど一部極端にふっくらした素晴らしい体型を強調するよう。

 ミルフィー先生ご本人は気付いていないみたいだけど、あのボディラインは乙女予備軍として拝んでおきたいくらいです。だってなんか、御利益ありそう!

 スカートから生えた大きな魚の尾っぽは光を弾いてキラキラ☆

 銀色とオレンジの線が入った青い鱗は宝物にしたいくらいです。


 そこには、とびきり素敵な人魚(マーメイド)がいました。


 なんか、ミルフィー先生にだったら湖に沈められても良いって言う信奉者が現れてもおかしくないよ?

 実際に、他校の先生や上級生のお兄さんにもミルフィー先生に見惚れて動けなくなっている人とか、うっとり溜息ついてる人とかいるし。

 ………サリエ先生は物凄くガン見してて、正直ちょっと怖いけど。

 ミルフィー先生が異性に人気っていうのは本当みたい。

 色んな男の人…女の人まで、人魚姿のミルフィー先生を見つめていました。

 わあ、先生大人気ー!


 そんな状況だから、無言の牽制が飛び回ってたんだけどね?

 何を思ったのか、そんな中から他を押しのけるように台頭してきた2人。

 それは私にとっては、どっかで見た顔で。

 他の先生達は自分の受け持ち生徒の面倒を見ないといけないから自由に動けないという中、目についた子供を見守るという己の職務を良いことに、ナンパまがいのことをしている2人。


 ………片方は、アレだ。

 パパの部下のルッツ君だよ………。

 メイのパパに大分苦労させられてるらしくって、度々パパを呼びに来たり、お世話をしたりと忙しく立ち働いてた軍人のお兄さん。

 もう片方は…やっぱりどっかで見たような?

 思いだすのに時間がかかったけど、思い出したらすぐでした。

 …前、ヴェニ君と一緒に魔物『切り裂き鼬』の死骸を持ち帰った時に応対してくれた、警備隊のお兄さんです。

 それ以外でもペーちゃんママに顎でこき使われてる姿を、そういえば何回か見たことがあるような気がします。

 なんであの2人、都合よくこんなとこにいるんだろ?

 知り合いだと思うと、ミルフィー先生に対してあからさまな態度が恥ずかしくなりました。


「………お兄ちゃんったら恥ずかしいわ」

「あれ、ソラちゃん。ルッツ君とお知り合いー?」

「メイちゃんこそ、知ってるの? あの人、私の従兄のにいさんなんだけど」

「うん、知ってるよ! ソラちゃんの従兄さんなの?」

「ええ、そうなの」


 今日は、子供達の水泳訓練。

 学校の大人だけじゃ手が足りないし、万が一に備えた警備という意味でも、子供を大事にする領主様の方針を大いに受けて軍と警備隊から人員が派遣されます。

 半分監視しつつ、半分は水泳訓練の講師に加わってる感じかな?

 その中に、何やら物凄く、物凄~く見知った顔がちらほらはらり…。


「メイちゃん、頑張って…っ」

「仕事しろ、バロメッツ大佐」

「く、くそ…! 離せ、クルシュシュ!」

「東の方の監視が手薄だな。私達が行くとしよう」

「め、メイちゃん…」

「仕事だ」

「………チッ仕方のない。メイちゃん、パパはあっちでお仕事してるから、メイちゃんも気をつけるんだよ!」


 ………うわぁ。

 どうしよう、すっごく恥ずかしいよ!

 なにこれ、なにこの羞恥プレイ?

 なんで我が家の恥がこんな衆人環視の中で晒されてんのかなー!?


 ………うん、わかってる。

 わかってはいるの、よ?

 考えてみれば、パパが私に関われそうな行事を逃すとは思えません。

 むしろ積極的に掴みに行くよね…。


 ちょっと前まで、パパの所属する部署は難しい案件を抱えてばたばた忙しかったそうです。

 うん、ヴェニ君も加わってた、アレ。

 街の周辺で異常発生した魔物の対処と、討伐隊の派遣とか。

 それもある程度魔物を討伐した辺りで落ち着いて、大禍なく無事に作戦は終了!

 責任者だったらしいパパは後始末で本当に忙しそうだったんだけど…パパの担当部署は魔物の対策だったって初めて知ったよ!

 魔物の異常発生に際して、パパは過労で足下がふらつくぐらいお仕事に打ち込んでいました。

 それで安全が保障された今、臨時で休暇が下りたんだって。

 魔物が一気に減ったから暫く暇だっていうのも休暇の理由みたい。


 関わった軍人さんや警備隊の人はちょこちょこ休暇が出て、それ以外の人はバカンス代りに今回の初級学校の訓練への派遣担当になったとか?

 普段の業務が滅茶苦茶激しくってキツイらしく、実は毎年のこの訓練はただ周囲の警戒と子供の相手をしていればいいってことで、軍人さんや警備隊員さんの間じゃちょっとした骨休め的位置づけにあるみたい。

 子供達の水泳訓練を見守るのも結構大変だと思うんだけど、それが骨休めになるってどんだけ普段の業務がハードなんだろ?

 考えると怖くなりそうなので、そっと思考を閉ざします。

 考えてみると警備隊の1・2トップはペーちゃんのパパとママ。

 ………あのアマゾネスが仕切ってるってだけで、うん、大変そう。

 その苦労は推して知るべし…かな?


 普段の厳しい訓練を免除されて、穏やかな湖で遊ぶ子供達を見て、和む。

 子供の練習を見てやるという口実で、自分も一緒に遊ぶも良し。

 索敵している風を装い、ぼうっと遠くを見ているも良し。

 そんな美味しい任務という認識なんだとか。


 ……………パパ、休暇だった癖に、その枠に自分を捩じ込んだ?


 過保護なのは構わないし、メイも愛されてるって重々承知してるけど…。

 程々にしてほしいなぁって、思わず溜息を吐いちゃう。

 パパのあまりの親馬鹿ぶりに、ついつい頭を抱えちゃうメイちゃんでした。





話の進行に必要なさそうなので没って削った箇所 ↓


 水泳訓練は、最早カオスと化しつつありました。

 いや、うん、1年生がこんな混乱に陥るのも、既に恒例っぽい雰囲気が学校関係者の間に漂ってるけど。

 私達を見て気まずそうに…恥ずかしそうに顔を逸らす先輩方も通った道と見た!

 生温い視線に晒されながら、泳いでいるのか溺れているのか…


 でも、メイちゃんは獣人で。

 この身体の高機能(ハイスペック)ぶりを久々に実感しました!


 運動性能だけは他の追随を許さない!

 それが獣人のお約束。


「ひゃっほぉぉおおおぅ…!」


 現在、メイちゃんは絶賛はしゃいでおりました。

 え? はしゃいで何やってるかって?

 実は泳いでいる訳じゃありません。 

 というか泳ぎはとうにマスターしました!

 私と同じく水泳という未知の修錬に苦戦していたミーヤちゃんが、ちょっと離れたところで「はやっ!?」とか言っていましたが。

 今の私は、そんなこと気になりませんよ!

 余裕が出てきたせいか、楽しみたいという欲求に支配されています!


「ペーちゃん、ぺーちゃん、次はあっち! あっちー!」

「あっははは! 任せろ、メイちゃん!」


 私とミーヤちゃんと、ペーちゃん。

 仲良し3人組の中で最初に泳ぎをマスターしたのは、ペーちゃんでした。

 というか朝の段階で既に匠の域に達してましたよ。

  犬 掻 き の。


 現在はそんなペーちゃんの腰に、紐を結びまして。

 その端っこを、私が掴みまして。

 そして、何をやっているかと言えば。


 水に浮いた木板をボードに見たて、なんちゃって水上スキーに興じていました。


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