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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
7さい:アカペラ第1初級学校の夏
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5-2.合宿に行こう!         

                                            



 勉強会をするに当たって、クレアちゃんに解いてもらった練習問題のテスト答案には何と言うか、その…うん、吃驚しました。

 なんか、はじめてみる点数が………

 え、なんで採点したら-4点なんて点になるの?

 どんなミラクルが起きて、加点どころか減点されたというのでしょう。

 あれ…これって減点方式じゃなくって、加点方式のテストだったよね……?

 採点を行ったドミ君がテーブルに突っ伏して轟沈しちゃったよ!


「うわ、これ酷いね」

「ミヒャルト、もっとオブラートに包みなさいよ…」

「そういう君も引いちゃってるみたいだけど? ソラ」

「そ、そんなことはないわ…っ」

「………声、裏返ったね」

「……………」


 あからさまにドン引きしているミーヤちゃんには、もう笑うしかありません。

 どこがわからないのかクレアちゃんにテストを流しながら聞こうと思ってたんだけどー…この答案を見る限り、どこがわからないのかもわかってないっぽい。

 精々が2桁の乗算除算のテストで、この点数。

 クレアちゃん、本当に1年生2回目なのかな…。


「みんな、ごめんねぇ~算数ってちょっと苦手で」

「………これで、ちょっと? クレアちゃん、足算と引算の記号の意味理解できてないってはっきり良いなよ」

「ウィリー君にはっきり言われちゃった…」

「クレアちゃんも、自分でまずいとは思ってそうね」

「思ってても、克服できないんだろうなぁ…」

「だから僕らを頼ったんでしょ」


 今回の勉強会には、オリエンテーリングで一緒に巡った面子が参加しています。

 あれ以来、なんだかんだ一緒に行動する機会が多くって、いつの間にかグループ化しちゃった気がしなくもない。

 でもお勉強とか、そういう目的だったらこの面子で集まるのはとっても合理的だと思うよ。

 だってドミ君とミーヤちゃん…学年1・2トップが揃ってるし。

 え? メイちゃん?

 ――私も成績上位に名を連ねてはいるけど、ちょっぴりズル(前世の下積み)しちゃってるから、胸を張って成績上位!っていうのは気が引けちゃうなぁ…。


「………駄目だ。クレア従姉さんのお勉強、生半可じゃ終わりそうにないよ。もっと根詰めて、本格的にやんないと」

「ミヒャルト君の言い方は酷いけど…同感かな。僕も準備が必要だと思う」


 先生役を率先していた2人が匙を投げ…というか、準備の必要性を訴えてきて。

 長時間密着状況でお勉強を教える必要があるというのが2人の意見。

 それ自体には、うん、異論はないんだけど…


 所詮、教える方もお子様。

 やっぱり同じ学習レベルだから、教えるにしてもそこまで上手い訳じゃない。

 理解していることも、口で説明ってなるとあやふやになっちゃう人いるよね。

 ミーヤちゃんとドミ君は、この年齢にしたらびっくりするくらい理路整然と説明してくれるんだけど…

 それでもある程度は基礎を理解していることが前提に要求される説明になってる気がする。丁寧な説明なんだけど、ね。

 理路整然としている分だけ、基礎の基礎から理解できていないクレアちゃんには難しそう。

 そもそも「足す」「引く」の理解も怪しいし。

 

 ………悄然と項垂れる、クレアちゃん。

 だけどクレアちゃんの算数って、なんというか…もっと根本的に、概念というかイメージというか想像力がちょっとおかしい。

 それにお勉強だーって構え過ぎちゃってるような気もする。

 お勉強だって難しく考え過ぎて上手くいかない…のかもしれない、し。

 ここは…発想を変えてみる方が良いかも!

 

 難しいことは言っていない筈なんだけど、と。

 クレアちゃんの手強さに逆に混乱してきた2人に座学はお任せしちゃおう。

 私はちょっと考えたことを試してみたくて、一緒に机を囲んで自分の課題をやっていたカルタ君の手を引っ張りました。


「メイちゃん?」

「カルタ君、お手伝いしてほしいの」


 職人の見習いとして働く、手先の器用なカルタ君にこそ適任だと思ったので。

 私はカルタ君にお願いすることにしました。

 手にはじゃらりと、色とりどりカラフルな木製ビーズ。

 全部均一な大きさなのが、またお手頃だよね。

 本当は弟妹へのプレゼントを作る材料に買ったモノだったけど…うん、お友達の為です。ここは一肌脱ぎましょう!


「あのね、このビーズでね――」


 お願いしたアイテムの完成は、3日後。

 それはクレアちゃんの家庭教師に準備が必要だって言ったミーヤちゃん達の指定日と、同日で。


 そして私達の、水泳鍛練実習が始まりを告げる日でもありました。



 

 水泳鍛練実習、略して水練実習。

 水泳って聞くと何だか涼しげなのに、水練って聞くと何だか武骨な印象を受けるのはなんでだろう?

 まあ、あまり違いはありません。あまり。

 もう何度も言っていますが、私達の住むアカペラの街は湖岸都市です。

 水上貿易の要である大運河の、絶妙の場所にある大きな湖に面していて、商業の都として発展しました。

 必然、商売関係の職に就く人を中心に…船に乗る機会が多くなります。

 ほとんどの船は大運河を渡るので、河船とは思えないくらいに大きい船を使うんだけど…それでも、大きかろうが何だろうが事故に遭う時は遭います。

 事故らなくっても、水棲の魔物に襲われて大破することもあります。

 つまり何が言いたいかというと、簡単です。


 船に乗るんなら、泳げないと生死に関わるんだよ!


 船に乗らなくても、私達の生活の場は水辺…事故って馬鹿に出来ないよね。

 毎年池ぽちゃならぬ湖ぽちゃをやらかす子って結構いるんだって。

 子供の健全な育成と必要な教育の場である初級学校。

 そこで生活するのに必須の技能として水泳の技を伝授するのは…まあ当然だよね? だって最近じゃ戦闘訓練しているくらいだもんね?

 戦闘以前に必要性の高い水泳だって、当然訓練するよね?


 という訳で、水泳訓練の授業が始まります。

 しかも短期で、集中的に身につけさせようという無茶ぶり。

 中には水と戯れたことのない子もいるのに、相変わらず命に関わる分野に関しては凄まじいスパルタです。

 でも誰も文句を言いません。

 むしろ普通の授業より意欲が高まるくらいです。


 身につけないと、死ぬんだよ…

 そりゃ必死でみんな授業にも身を入れるよ……。


 そんなシビアな訓練は、どうやら水上交通の兼ね合いとか色々な都合によって短期合宿という形になっているようです。

 ほら、いつもは絶好の鍛練場である湖が行き合う船で占められてるから。

 子供達が泳いでいる傍で、大きい船が行ったり来たりなんて危険だもんね?

 それこそ事故が起きたって仕方ないもんね?

 

 ちなみにこの世界、プールなんていう洒落たモノはありません。

 泳ぐなら、それ即ち場所は天然の水場です。


 風呂はあるのに、それを泳げるくらい大きく広くっていう発想がないんだよ。

 集団浴場はあるけど、そっちで泳いだら罰則ものだそうです。

 公共の施設で他人への迷惑行為は絶対に駄目、ってこれは普通に常識だよね。


 まあ、それらの事情がありまして。

 でも子供達に水泳の基礎を叩きこんでおかないといけなくて。

 結果、毎年大々的に水上交通を短期間だけストップさせて、その間に訓練をするという大がかりな日程が組まれているそうです。

 だから街中…アカペラの街にある全初級学校(全部で8校)が一斉に水泳訓練を行うそうです。

 あ、ちなみに水上の交通規制がされるのは昼間だけなんだって。

 昼間は動けない代わりに、夜に街の出入りを急いでやるみたい。

 私達の水泳訓練の為に、皆さん有難うございます。


 湖上に浮かぶ小さい島に集う、子供と先生とインストラクター的な助っ人の大人達。万が一に備えて軍、警備隊の混合部隊に護衛や監視をしてもらいながら、一週間の水泳訓練。

 この街って本当に軍と警備隊の連携が密接で、こういう時には率先して協力関係を結んで作戦に当たってくれます。

 彼らが真面目にお仕事してくれるので、私達は練習に専念できる訳ですね。

 私達も初めての…学校行事でのお泊りに、興奮が抑えられません。

 なんだろ? なんで皆でお泊りって思うと、こんなにわくわくするのかな?

 前世でも覚えのある感覚だけど、こっちでもそれはあんまり変わんないのかも。

 特に今回は、みんな小さな子供だからわくわく感が半端ない。

 …まあ、中にはお家やパパママを恋しがって鬱になってる子もいるっぽいけど。

 まだ1日目の朝で、ホームシックになるには早いよ?


 ちなみに我が家では、私よりもパパの方がはらはらしてました。

 お家を出るって段階になって、いつもだったらとっくに出勤している筈のパパがしつこいくらいに「やっぱり行かなくっても…!」とか往生際の悪いことを言っちゃうんだもん。

 子離れしろとか言わないけど、たった一週間ばっかり離れるだけだよ?

 パパだって、お仕事で一週間帰らないとか…1ヶ月帰らないとか結構あるのに。

 それでもパパがいないのと、メイがいないのとでは何かが違うんだって。

 こんなんでパパ、大丈夫なのかな…?

 ………うん、なんでかこれから訓練を受けるメイちゃん自身のことより、パパのことが心配なのは何かが間違ってる気がするの。


 うちはパパが過保護(というより親馬鹿)なこともあって、今まで余所にお泊りしたことってありません。

 ママがユウ君とエリちゃんを産んだ時以外。

 だからまあ、パパが不安を覚えるのも仕方ないのかもしれないけれど…

 

 だけど今、メイは使命感に満ち溢れていました。

 

 だって、クラスのみんなとお泊りです。

 ミーヤちゃんやドミ君も、この日を狙っていました。

 つまり、門限の時間が迫ってはい、さようなら――ってことがないんです!

 流石に就寝時間は守るけど…水泳訓練が終わった後は、ご飯とお風呂を除いてまるまる自由時間も同然です!

 班行動の義務はあるけど!

 でも私達は今回も一緒の班なので、問題なし。

 更に言うなら、担任のミルフィー先生も同じ小島の宿舎に泊まるので、いつでもわからないところを質問に行けます。

 これぞまさに長時間、集中的にクレアちゃんのお勉強を見るチャンス…!

 というかもう、この時間しか残されていません!!

 

 何故なら、この訓練実習が終わってから3日のお休みを挟んだら…

 ………そこで即、2回目のテストなんです。


 もうこれ以上は後がないと思い詰めている、クレアちゃん…じゃなくて、何故かミーヤちゃんとドミ君。

 親戚として、学級長としての責任感がそうさせるのでしょうか。

 2人は何とかこの合宿中にクレアちゃんの苦手を克服させようと…熱く、それはもう熱く燃え盛っておりました。

 自分達のお勉強を、そっちのけにするレベルで。

 ………次のテスト、もしかしたら大幅な順位の変動があるかもしれません。


 …あ、ちなみに合宿中のお部屋はクラスで1部屋。

 つまり、雑魚寝です。

 何だかその状況にも、うきうきわくわく。

 ちょっとだけ不謹慎だけど、楽しみも抑えられないメイちゃんでした。






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