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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
7さい:アカペラ第1初級学校の夏
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5-1.クレアちゃんのお悩み

今回から再びメイちゃんの学校編です。



「――みんなぁ、おはよー!」


 何だかみんなとお久しぶりな気がする、今日この頃。

 ちょーっっっと会わなかっただけで、なんだか随分会ってなかった気がするよ。

 今日は5連休明けの、ちょっとだけ久しぶりな学校の日。

 みんな、笑顔で挨拶を返してくれます。


「おはよ、メイ」

「おはよう、メイちゃん!」

「おっす、スペード」

「ミヒャルト君、おはよぅ」


 何だかんだ順調にクラスのみんなとも打ち解けて、仲良くなってきました。

 一部、なんだかツンとしちゃって挨拶を返してくれない子もいるけど…

 晴れはれな、ちょっと汗ばむくらいの暖かい日。

 私達が初級学校に入学してから、気付けば3ヵ月が過ぎていました。

 これは、そんなある日のこと。


「みぃちゃん、めぇちゃん、すぺーどく~ん…」


 爽やかな朝にそぐわない、湿っぽ~いお声が私達を呼びとめました。

 すっごく、聞き覚えのある声。

 ミーヤちゃんが何だか頭痛を堪えるような顔をしました。

 くるりと振り向くと、そこに居たのは…


「たすけて~…」

「く、クレアちゃん? どーしたのー!?」


 そこには情けない顔をした、クレアちゃんが立っていました。

 いっつもにこにこ、穏やかに微笑んでるクレアちゃんが…なんだか泣きそう。

 えっと、本当に一体どうしたのー!?


 そうしてクレアちゃんが泣きついてきたお悩みの内容は…

 ………クレアちゃんがここ(・・)にいる経緯(いきさつ)を思えば、納得のモノでした。



 

 私達の通う、アカペラの街の初級学校。

 前世の世界で言うところの『義務教育』に当たる教育課程ですけれど…前世の世界とは、大きな違いが1つ。

 ………こっちには、『義務教育』でも『留年』があるんですよね。

 ああ、なんという無情。

 すっごいシビアすぎるよファンタジー世界。

 いや…ちゃんとしっかり習ったことを理解できていれば留年はしない筈だけど。

 だけど、目の前にはクレアちゃん。

 …実際に留年して、1年生に残った女の子がいる訳で。

 

 その相談ごととはズバリ、お勉強がヤバいというモノでした。


 初級学校の進級事情は、こんな制度になっています。

 1年は前世を踏襲して、12か月。

 学校もその暦に合わせて展開します。

 8か月目までの2か月毎に1度、学習の進み具合に合わせた確認テストが行われて、9ヶ月目の終わりに進級テスト。

 つまり1年で合計5回のテストを私達は受ける訳です。

 その平均点が1年間の成績になり、70点以下で留年の暫定リスト入り。

 残りの3ヵ月で挽回できなかったら本当に留年します。

 残り3ヵ月の内容は、1ヶ月間が1年生の復習。

 2か月目は進級の決定している生徒はまるっと1ヶ月お休みで、留年予備軍の生徒達は更なる復習と救済テスト。

 ここで良い点を取れたら、留年予定は取り消されて無事に進級と相成る訳で。

 それから三か月目は来年度に向けての予習復習に終始するそうです。


 つまり、クレアちゃんは5回のテストで惨敗し、救済テストでも失敗した…と。

 そういうこと、だよね…?


 そして、既に私達が入学してからは3ヵ月が過ぎ去っています。

 つまり、今は4ヶ月目に入ったばかり。

 テストは既に、1回目が執り行われた後で。

 ………もうすぐ、2回目のテストが開催されようとしている頃合いでした。


 ちなみに、第1回目のテストは基礎的な算数…足し算引き算と、初歩的な国語(絵本朗読Lv.)、それから道徳的なモノや国の歴史のさわりなど、7歳児にも理解できる簡単なモノばかりでした。

 メイちゃんの成績は、全科目80点以上の平均96点。

 …うっかり前世の価値観に惑わされなかったら、道徳っぽい感じのテストでも、もうちょっと取れたのになー…。


 まさか他人を助けるより自分の命を守る方を優先するよう堂々と諭されるとは思っていませんでした。

 道徳の問題で、死にそうになっているお友達を前にしてどうするのか…っていう問題が出たんですよ! それに惑わされたんです!

 弱き者を助けるのは強き者というより職業軍人や警備隊の義務という考え方ですね。弱き者が他を助けようとしても焼け石に水な事態になる方が確率的に高いから、いざという時は真っ直ぐ逃亡して軍人さんを呼びなさい、となるらしい。

 相手がお友達という前提と、本当に前世の道徳観に惑わされました。

 緊急事態のレスキュー的な見地で言うと間違ったことは言われていませんが、道徳でそれを言われるとは思ってもみませんでした。


 自分を優先して見捨てても、それが正解だと言われるなんて…自分が確固たる力を身につけ、自己責任で問題を片付けられるようになっていない時点で助けに行ったら不正解だそうです。

 強くなったら、自己責任で関わるか否かの判断を任せられるそうだけど。

 それはそれで道徳の問題が更に難しくなりそうな予感がします。


 簡単に殺される危険性がそこらに転がっている世界だからこそ、自衛の為の判断力を子供にとっくりと教え諭すための授業が、前世でいう『道徳的なもの』の授業という位置づけになってるっぽい。

 返ってきた答案用紙の最後に、「お友達を助けたかったら、それができるくらいに強くなりましょう」と大真面目に書かれていました。

 え、それが先生の指導なんですか!?

 今は誰かを助ける力量がないから逃げろ、助けたかったら強くなれ。

 それは確かにその通りなんですけど、まさか学校で大真面目にそう教えられるとは思ってもみませんでした。

 本当にシビア過ぎるよ、ファンタジー世界…!

 流石、魔物が普通に街の周辺を闊歩しているだけあります。

 …いや、まあ、本当に普通に闊歩してたら討伐されるけどね。魔物。


 ………まあ、いくつか予想外の問題に惑わされたけど。

 それでも他のお勉強は、本当に基礎的な問題ばっかりで。

 これで低い点数を取ったら、前世の義務教育経験者として恥ずかしい…! その一念で、テストに身を入れた甲斐がありました。

 道徳は微妙な点数になったけど、他は全部100点近い高得点です。

 実際、算数は100点だったしね。

 他のテストは凡ミスで何点か落としましたけど…。

 でもお陰さまでメイちゃんの成績は学年で4位に食い込んだとミルフィー先生が教えてくれました。

 ついでに言うと1位はドミ君で、2位はミーヤちゃん。

 あの2人、正真正銘の7,8歳児で全教科ほぼ満点とか半端ないですね…。

 ミーヤちゃんも私と同じく道徳(的な)テストで失敗した口だそうです。

 ミーヤちゃん、賢いのにね………一体テストになんて書いたんだか。

 3位はコリアンダー組のロニー君だそうな。

 ドミ君とミーヤちゃんはともかく、ロニー君に負けているなんて癪です。

 うん、負けてらんない。

 次のテストはもっと頑張るんだからー!

 そんな気合充分に、熱意が燃えちゃいそうです。


 お陰様で、実績込みで私とミーヤちゃんは成績優秀な訳です。

 だからそんな私達に、お勉強を教えてとお願いするのは正しいと思うんですが…


「あの簡単過ぎるテストの、どこがわかんなかったのかわからないんだけど。クレア従姉さんの頭ってどうなってんの? 中身大鋸屑(おがくず)?」 


 ミーヤちゃんが、無情に言い放ちました。

 み、ミーヤちゃん…いくら身内が相手でも、ちょっと物言い酷いよ!?

 あら~って困った顔はしても、全然傷ついてないクレアちゃんも凄いけどね!

 ですが、実は私も内心で一部同意しています。


 クレアちゃん、足し算と引き算しかなかったテストで、なんで3点なの…?


 留年したクレアちゃんは同じ授業を受けるのも2度目のはず…

 足し算、引き算の説明は他のクラスメイトより多く聞いている筈なのに。

 見せてもらったテストの答案は、惨憺たる有様でした。

 それはもう、凄い点数でした。

 ああ…根本から理解していないんだなぁって見ただけでわかるくらい。

 

「あのね…計算、苦手なの」

「うん、このテスト見ればわかるよ」

「他の科目もちょっとごめんなさい~?な感じなんだけど、算数が1番ひどいの」

「むしろどの科目なら大丈夫なの、従姉さん…?」

「絵本の朗読は得意なのよ?」

「つまり、それだけ………と。スペードでさえ算数のテストは76点だったのに」

「ちょい待て、こら。なんでそこで俺を引き合いにする!?」

「僕にはとてもあのテストで76点なんて取れないよ…良い意味で」


 私も知らなかったペーちゃんのテスト内容を、ぺろっと暴露するミーヤちゃん。

 …だけど、ペーちゃんももしかしてちょっと危険………?

 心配の色濃い目で見たら、ペーちゃんはふいっと目を逸らしてしまいました。


 ぺ、ペーちゃんが私から目を逸らすなんて…!!


 何故か衝撃的な事態のように感じたんだけど、あれぇ?

 なんで、そう思ったんだろう…?

 ペーちゃんが私から意図的に目を逸らす事態に直面したのが、実は生まれて初めてだったとか。

 そんなことには一切、ええ一切気付かなかったよ。

 無意識的には、気付いたっぽいけど。


「100点満点で、さ、3点…」

 

 ふと、隣から呻き声が聞こえてきました。

 勉強に関する相談ということで引きずり…巻き込んだドミ君が顔を引き攣らせています。

 学年1位様には、想像を絶する生き物なのでしょう。

 クレアちゃんを見る目が、珍獣を発見した!という感じに…。

 でも引き攣らせただけで、ドミ君は放置するような子じゃない。

 むしろ、とっても責任感が強くて良い子です。


「く、クレアさん…!」

「は、はい~?」


 ドミ君はクレアちゃんの手をしっかりと掴むと、勢いよく言い放ちました。


「勉強会、しましょう! もちろんテスト対策の…!!」


 気まじめながら、どこか必死そうなドミ君の声は、教室中に反響してみんなの耳に入りました。

 そして否応なく、私達もその『勉強会』に巻き込まれるのは…

 ………これはもう、確定した未来ってヤツだよね?







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