幕間:ヴェニ君と賞金稼ぎ3
隠れ場所の外には、沢山の魔物。
獲物君達の姿を探して魔物が80頭ばかりうろうろ。←増えた。
一方、狭苦しくて長くは籠れそうにない隠れ場所には、6人の人型種族。
ヴェニ君と、賞金稼ぎの大人5名である。
ついでに言うと、ヴェニ君以外は大なり小なり負傷している。
特に1番重い怪我を負っているのが、斥候向きの能力を有する獣人であることに一同は不安を隠せない顔をしていた。
事前に情報収集できるか否かで、明日の命運が変わる。
そんな生活を送ってきた男達だ。情報の貴重さは身に染みている。
「さて、そんじゃまずはお互いに何ができるか報告し合うか。あ、出来ることは自己申告制で良いからな」
メンバーの平均年齢、32歳。
そんな中で何故かヴェニ君が彼らを仕切る羽目になっていたのは、やはりその子供らしからぬ戦闘能力故なのだろうか。
「――俺は破壊が得意だぜ」
「――俺はこの戦鎚で粉砕するのが得意だ」
「――暴力なら任せろ☆」
「少し黙ってろ、社会不適合者のオッサンども」
「「「………ちぇーっ」」」
「しかし実際問題、あの我が物顔で我らを探して右往左往している魔物どもを何とかせねばどうにもならんな」
「籠城するにここは不安だし、あんなに一杯いられたら逃げるのも難しいし」
深刻な顔をする、賞金稼ぎ達。
本来、たかが10人足らずで相手を出来る数ではない。
大規模な作戦を必要とする数を相手に、隠れる以外で何をどうしろというのか。
「だからといって、いつまでも此処に籠っていて助けが来る保証はねーしな………そもそも、いつまで隠れてられるか」
ヴェニ君の遠い目は、なんだか諦念の色を宿していた。
子供がする目ではないと、子持ちの賞金稼ぎ達が焦りを浮かべる。
「そうだ、狼煙…狼煙を上げるのはどうだ!?」
「それもうんと派手に、な!?」
「狼煙ぃ…?」
「ついでに幾らかの魔物を減らすことができれば、救援まで持ちこたえられるかもしれない」
「無駄に刺激しねぇ方が良いんじゃねーの?」
何もせずに怯えて縮こまり、隠れて時が過ぎるのを待つか。
それとも我・此処にありと声高らかに叫ぶような事態になったとしても、積極的に救援を望んで動き始めるか。
どちらにしても詰んでる気がするのだが、どちらが良いとも言いきれない。
彼らの判断には甘いものが多分に含まれているだろう。
それでも、何もせずに怯えて身を丸めているだけでは精神が保てない。
過度のストレスによって、精神が圧迫されて時に人が狂気に走ることを、彼らはよく知っていた。
自分が狂わない為に、ただ只管に動くべきなのだということも。
それが自分達の心を守り、被害を抑えることになると信じて。
「この中で魔法を使える奴は?」
「そんなんてめぇしかいねーよ、ソクラテス」
「獣人舐めんなよ? マッチ棒レベルの火すら付けられねーんだからな?」
「魔力自体はあっても、放出系の使い方は本当に適正ねぇからな。獣人」
「自己治癒力上げたり身体強化したり、獣化したり自分の肉体干渉に魔力全部取られちゃうのよ。知ってるでしょ、ダーリン」
魔法の適正皆無という定評のある獣人達が、魔人の魔法戦士を軽く睨みつける。
魔法が得意な種族に間違っても、「魔法が使える」などと彼らが言う筈もない。
この場にいるのは、ヴェニ君を入れて6人。
そしてその半数が、実に何かしらの獣人で。
おまけに残った3人の内2人の人間は、完全なる肉体派。
頑張っても凄い魔法なんて使えそうには見えない。
よって、遠隔からの殲滅に向いた特殊技能を有しているのは魔人の男ただ1人。
1人1人の地道な駆除では、どう頑張っても一溜りもない圧倒的な数を前に、魔法という技能への期待は否が応にも高まって。
面識がないから実力も知らないヴェニ君は、魔人の青年に何気なく尋ねていた。
「ちなみに、アンタの得意魔法の系統は?」
「………土と風。でもあの数を一気に殲滅なんて出来ないから」
「80匹はいるしな。小型と中型ばっかりで、大型が少ないのがせめてもの救いか」
「飛行タイプの魔物がいないことも救いよ~。それだけで、上空に備える必要がなくなるもの」
「まあ、森の中で上空に完全に不注意で良いってことにもならんけどな」
「前、リス型の魔物に木の上から襲いかかられたことあるだろう、嫁さん」
「そうだけど、気持ちの問題よー?」
「それでも80匹もいて、囲んで跳びかかってきたりしたら頭上がどうのとか意味ないけどな」
「80匹………ピンキーは足怪我してっし、1人ノルマ…何人だ?」
「おい、オッサン………80÷5で1人16匹だろ」
「おお! 即座に計算できっとか、やっぱアカペラっ子は違ぇな!」
「………そうか、余所はそのレベルなのか」
「おい、坊主? この中年は特に酷ぇ部類だからな? コイツ基準にすんなよ?」
「ダーリン、あたし、足は動かせないけど弓ならイケるわよぉ。木の上に運んでもらえたら、そこから魔物を射殺すわぁ」
「嫁さん、その足で大丈夫なのか? 場所を突き止められて追い詰められたら、逃げられないだろ」
「だからってこの隠れ場所に1人残されても、それはそれで見つかったら大変よぉ。だったらみんなの側にいたいわ」
「嫁さん………無茶はするなよ」
「ええ。何かあったら守ってね、ダーリン❤」
「ああ、勿論だ…!」
「………なあ、あいつ等、今の状況わかってんの?」
「そっとしておいてやれ、な? 坊主、そっとしといてやってくれ」
「チッ…ソクラテスもピンキーも、ガキの前で目の毒だぜ」
「いや、濡れ場に突入しないだけまだマシだろ」
「………まあ、ピンキーがやれるってんなら一応頭数に入れて…ええ、と」
「…80÷6で13ないし14匹、だろ」
「そんでもピンキーは負傷中だし、ピンキーの取り分に関しちゃソクラテスがカバーするってことで」
「つまり、1人当たり13匹、ソクラテス・ピンキー夫妻が共同で28匹、か?」
「オッサン………13に2を掛けたら26だろ」
「「「……………」」」
「ま、まあ1人当たりノルマ13匹なら何とかならんこともねえよな!」
「ああ、そのぐらいの数ならどうとでもなるぜ!」
「だ、だな…っ!」
焦ったような顔で明後日の方向を向いて。
全然誤魔化せてはいなかったが、ヴェニ君は特に追及しなかった。
ただ、じっとりとした視線を注いではいたが。
そして敢えて逸らされた話題に乗ってみる。
「けどオッサンら、張り切るのは良いけどそのままで戦えんのかよ? 装備がやべぇとか言ってなかったか」
「………あ。そうだ俺、いつもの武器修理中だわ」
「俺も、とうとうガタが…」
「俺は大丈夫だけどよ、取り回しに隙が出るんだよなぁ」
オッサン達はそれぞれ、戦斧、戦鎚、大剣使い。
盾役なしに、その実力を十全に発揮できるのだろうか。
これは自分が頑張らないといけないかもしれない。
ヴェニ君は、そう覚悟を決めた。
だが実際、覚悟が必要だったかというと…ある程度は杞憂で終わった。
荒事を生業にしている男達だ。
その辺りの窮地も勘定に入れて動く方法というのも彼らはちゃんと知っていた。
ただし、それはやはり少々他人任せな部分もあったのだが。
「ソクラテスーっ!! おれ、すっげぇえ俺やばい…!」
「だったら死ね」
「おま…っ嫁以外にも優しくしろよ! 優しくしても罰は当たんねぇぞ!?」
「罰は当たらなくても、ケチがつく気がする」
「気のせいだから! 錯覚だから!」
魔人の男が土魔法を得意だと言うだけはあった。
彼の作った土の障壁を盾代わりに彼らは円陣を組み、遠・中距離を魔人と弓を持った豹獣人の夫婦が、近距離の敵を3人のオッサン達が撃破していく。
ヴェニ君は遊撃を買って出ると、その身軽さと敏捷性を活かし、魔物には補足しきれない身のこなしを発揮した。
壁役がいないから、壁を作る。
その戦法が当たりを出したと言えるだろう。
それもこれも飛行型の魔物がいなかったお陰である。
だからこそ彼らは上空への注意を最小限に抑え、攻撃に専念できた。
防御の不安が解消された途端に、快進撃ともいえる実力を発揮する賞金稼ぎ達。
彼らの働きを見て、ヴェニ君は思わずと呟いていた。
「賞金稼ぎって奴らも、中々やるじゃん」
ヴェニ君の声には、素直な称賛が。
そして滲みだす好意的な感情が混ぜられていた。
彼らを見直し、興味を持ったこと。
ヴェニ君の今後に大きな影響を及ぼすことを、果たして誰が気付いただろうか。
そうして魔法の使える魔人の男がドカンと打ち上げた狼煙が森に高らかと彼らの存在を示し…やがて救援に駆け付けた軍の別動隊と、彼らは合流を果たすことになる。
「い、命拾いした…!」
連戦続きで疲弊したオッサンの言葉には、口に出さなくても全員が心中で同意していたという。
賞金稼ぎ達は疲労困憊疲れ果て、怪我人は救護テントへと急ぎ運ばれた。
それを横目に、ヴェニ君自身もぐったりと疲れ果てて木の根元に蹲る。
怪我こそ無かったものの、戦闘に相次ぐ戦闘は彼の精神を磨耗させた。
「あ~………もう、無理! 絶対無理! 18時間くらい寝てぇ!!」
「お、お疲れだな少年…」
「ああ、もう! なんでオッサン達の面倒を俺が見ねぇとなんねーの!? 大人なんだから自分のことは自分でしろよなー!!」
「少年? その物言いではお前が賞金稼ぎ達の面倒を見ていたと聞こえるが…」
ぐったりとしたヴェニ君を案じて様子を窺っていた軍人の1人。
救護班の一員である衛生兵が、怪訝な眼差しをヴェニ君に注ぐ。
常識的に考えて、衛生兵には年端のいかない少年の方が足を引っ張り、面倒を見られていたのではと考えたのだが…
「ああ!? 俺があいつらの面倒見てたんだよ! 文句あるか、あ゛!?」
慣れない状況と追い詰められた包囲網を耐え抜いたことで、ヴェニ君の精神は本当に磨耗していた。
少年の苛々を増長させた衛生兵に、露骨に不機嫌なしかめっ面が向けられる。
「てめぇ、俺が嘘吐きだとでも言うのかよ、どうなんだ?」
その態度は、さながらチンピラ同然で。
お世辞にも品行方正とは言えない姿に、衛生兵もイラッと不機嫌を滲ませる。
敏いヴェニ君はそれをまた感じ取り、更に苛立ちに顔をしかめる。
「………っくそ! 無駄な運動も嘘吐き扱いもうんざりだ。俺は本当のことしか言わねぇよ。それで嘘吐き扱いするってんなら勝手にすれば良いだろ。俺のことは放っとけよ!」
心底うんざりしたと、そんな様子で。
もう全てが面倒に思えてきたヴェニ君は、衛生兵の存在も気にするのは止めた。
そのままごろんと大の字になり、移動の時まで勝手に仮眠を取るのであった。
この時、救援が駆けつけるまでにヴェニ君達が6名という少人数で打ち取った魔物の数は100匹を超えたという。
それだけ戦えば、必要以上の暴力にうんざりするのも仕方ないだろう。
尋常じゃない状況下で、数多くの魔物を撃破した。
このことで彼らはアカペラの賞金稼ぎ達にも一目置かれるようになるのだが…
そのことをメイちゃん達が知るのは、1年近く先のことである。
【アルトヴェニスタの運命『非行:暴力/虚言』が消滅しました】
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【アルトヴェニスタの運命に修正が入ります】
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【アルトヴェニスタの運命『非行』『有効:無職/自傷』】
ヴェニ君を中心にした幕間はこれにて閉幕。
次回からはメイちゃん達の学校生活に焦点を戻します。