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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
5さい:修行開始の鬼ごっこ!
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1-3.子犬の情報網



「わ、め、め、メイちゃんだぁああっ!!」


 ………アルイヌさんのお宅にて。

 私は、何故かペーちゃんのご兄弟に大歓迎を受けていました。

 え、なにこの歓迎ぶり。


「メイちゃんメイちゃんメイちゃん! いりゃっしゃいーっ」

「メイちゃんだ、メイちゃんだ、メイちゃんだーっ!」

「メイちゃんメイちゃん、いつ来たの! 今日はうちで遊ぶの!?」


 そんなに呼ばれたら、メイちゃんがゲシュタルト崩壊する…!

 ばたばたばたっと尻尾を振って、駆けよって来るこわんこ達。

 普段は全然全く関わらないどころか、接触もしてこないのに。

 なのにこの喜びようは何事?

 ………と、いうか。


「め、めぇぇええええっ」


 う、埋もれる…いや、溺れる!

 毛皮の海に、溺れるぅっ!


「あ、鳴いた」

「鳴いたね」

「うん」

「鳴いた、じゃないだろ馬鹿…!」


 すっぱかたーん …と。

 ペーちゃんがご兄弟の頭を順番にスリッパで殴り倒し始めたよ。

 その隙にミーヤちゃんが私を回収し、無事に救出と相成りました。


「ごめんな、メイちゃん……うちの兄弟、みんな馬鹿犬なんだ…」

「それはとっても切ない告白だね、スペード…」

「それにみんな犬ばっかりだから……実は羊が大好きなんだ…」

「うぅ…ペーちゃんがお家にメイを入れたがらない理由がわかっちゃったよ……」

「……… (それだけが理由でもないけど、な)」

「あれ? 何か言った?」

「ううん、何も言ってない」


 にっこりと笑うペーちゃんの顔は、なんだか深く聞くなと言っているように見えました。なんなんだろ?


「馬鹿犬なんてひでーよ、スペードー」

「そうだそうだ! ちょっと嬉しくってなんにも考えられなくなっただけだ!」

「スペードが、いつもメイちゃんに会わせてくれないからだろー」

「うるさい、黙れ!」

「――っ きゃいんきゃいん!!」


 ………普段あんまり見ないけど、アルイヌさん家のご兄弟って激しいなぁ…。

 驚くほどの弱肉強食ぶりで、ペーちゃんが弟さん達を蹂躙しています。


 ペーちゃんことスペード君は、狼獣人のママさんの血が濃い狼獣人。

 そしてペーちゃんの5人の兄弟中、4人が犬の獣人だそうです。

 喧嘩になったらペーちゃんの圧勝ですね。

 

 そんなアルイヌさんのお宅は、家庭内カースト順位が完全なる実力主義で決定しているそうです。わあ、ワイルド(笑)

 カースト断トツ1位は、言うまでもなく狼のママさんで。

 2位が犬獣人のパパさん。

 そして3位に、次男だけど狼獣人のペーちゃんが食い込んでいるとか。

 もう一人の狼は、3歳下の弟君らしいから争わなくても結果が見えてるしね。




「やっぱり、お外いこーぜ。家だと落ち着かないだろ。コイツら調子に乗るし」

「えーと…大丈夫だよ! だって揉みくちゃにされてもペーちゃんが止めてくれるし、ミーヤちゃんが助けてくれるもん」

「め、メイちゃん…よしわかった。俺に任せとけ☆」


 正直、ペーちゃんはちょっとちょろいと思います。


「それでね、今日ぺーちゃんのお家に来たのは他でもないの。みんなにちょっと聞きたいことがあるんだよ!」

「なになに、メイちゃん!」

「なんでも聞いてー」


 調子よ…快く、私のお願いを承諾してくれる犬さん達。

 溺れかけた時はとんでもないと思ったけれど、こうやって見るところころ懐いてきて、ちょっと可愛い。

 ………どうも、牧羊犬気分で私を追いかけたくなるみたいだけど。


「あのねぇ、メイね、大きくなったら強くなりたいのー」

「「メイちゃん!?」」


 あれ、なんかびっくりされた…。

 ミーヤちゃんとペーちゃんが、私を驚愕の眼差しで見つめています。

 え、私ってそんな『強い』って単語にそぐわない感じ?


「メイちゃん、強くなってどうするの。そんな必要ないよ」

「そうだ、そう、そうだよ。俺が守ってやる!」

「…僕だって、メイちゃんのこと守れるよ」


 え、ええと…にじり寄って懇願するくらい、メイちゃんって弱そうですか?

 ミーヤちゃんには労わる様に両手を握られるし、ペーちゃんには肩を掴んで引き寄せられるし…

 そんなに心配してくれなくっても、私だって強くなってみせますよ!


「うーんと、えと、でもね? メイちゃん、強くなりたいの!」

「でも…」

「強くなりたいの!」

「えーとさ…」

「強くなりたいの!」

「そうは言っても…」

「強くなるの!!」

「――わかったよ、メイちゃん。決意は固いんだね…」

「そうだ、な…そんなに強くなりたいんじゃ、仕方ないか…」


 秘儀、理由は語らずゴリ押し作戦。

 何故かこの2人相手には、大概この方法で我を通せます。

 やっぱり、この2人はなんだかんだ私に甘いです。

 多分、私がこの中で唯一の女の子だから譲ってくれてるんだよね。


「それでねぇ、強くなるためにお師匠さん探してるのー」

「師匠? そんなのいるか?」

「いるよー。だってメイちゃん、どうやったら強くなるのかわかんないもん」

「それなら身近な大人に…」

「ミーヤちゃんとペーちゃんのママは、メイがなりたい強さとは違うから!」


 2人のママは、獣人ということを差し置いても破格の強さだと思います。

 ミーヤちゃんのママさんは軍人さんで、軍服の凛々しいキリッとした女傑。

 ペーちゃんのママは前世で言う警察で、荒々しく苛烈な男前過ぎる女傑。

 2人とも戦闘職なので強いのは勿論ですし、あの強さには憧れますが…

 ………正直、あの2人は目立ち過ぎなんですよね。

 姿も勿論、覇気(オーラ)が人目を惹きつけます。

 あの2人に師事して、同じようになるとは限りませんが…

 でも傾向は似るよね?

 無駄に目立つような存在感は、私の望むところではありません。

 私の理想は、そのへんに普通に紛れそうな秘められた強さというヤツです。

 その点、ヴェニ君は一見ただの子供に見えるので理想と言えるでしょう。


「………えー…と、それじゃ仕方ないね」

「だからね、みんななら知ってるかなぁって思って」

「なにを?」


 丁度良く、みんなは私の話に関心を持ってくれた様子で。

 好奇心と疑問、興味が溢れそうな顔で私を窺っています。

 そんな彼らにはっきりと、よく聞こえるように私は言いました。

 今日の訪問の主目的、今一番知りたいこと。

 それが何なのかを。


「道場のヴェニ君の、評判を教えてほしいな」


 そう言った時の、彼らの顔は見物でした。




   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「め、メイちゃんが、他の男に興味を…」

「何でよりによって、年齢が近い相手を師匠に選ぶのかなぁ」

「強くなりたいなら別に、うちのかーさんやミヒャルトのかーさんでも、それこそメイちゃんの父さんでも色々いるじゃん」

「…でも、みんな忙しいよね。メイちゃんはそれを分かって言いだせないのかも」

「そんなこと言ったら、それこそ「水臭い」ってかーさんが暴れそー」

「うちの母さんもショック受けるかも」


「まあ、何だろうと危険だよな」

「そうだね、危険だね」

「俺ら以外の男に興味とか………」

「奇襲をかけようにも、ヴェニ君って僕らよりずっとずっと強いし」

「どうしたもんかな…」

「はあ………」


 切なげに溜息を吐くミヒャルト君とスペード君の心配事とか懸念とか、そんな物は露とも知らない私でした。



   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 男の子のことは、やっぱり男の子に聞くに限りますね!

 お陰で有益な情報を得ることが出来ました!

 私は意気揚揚とペーちゃんの家を後にします。

 ついてくるかと思われたミーヤちゃんとペーちゃんは、なんだか落ち込み気味のご様子で。ちょっと元気がなかったので、ペーちゃんのご兄弟に足止めしてもらって置いてきました。

 なんか背中で2人の私を呼ぶ声を聞いたような気もしますが…

 うーんと…でもいっつも一緒に遊んでるし、たまには良いよね!

 うん、ここは2人の体調の為です。

 何だかすっごく悲痛な声で呼ばれていましたが、心を鬼にして置いてきました。

 さてさて、1人きりの静かな時間です。

 ………思えば、こうして落ち着ける時間を持つのも久々な気が。

 まあ良いや。この時間に、わんわん兄弟から得た情報を整理しよっと!

 我が師匠候補のヴェニ君。

 彼について、皆が教えてくれました。

 その情報を私なりに整理して、わかりやすく整えてみました。



  本名【アルトヴェニスタ・クレイドル】

   戦士 LV.35(←推定) 

   近所の道場の跡取り息子で、父姉と3人暮し。

   格闘もこなすが、武器も一通り扱う天才児。

   6歳時に強盗まがいの道場破りを単独で撃破した記録あり。


 今年の春に初級学校を卒業。

 しかし実家の道場を継ぐ意欲が見られず、特に卒業後はふらふらしている。


 人格は無愛想で皮肉屋。

 身の程知らずに突っかかって来る者は格下でも容赦はしない。

 しかし筋を通す相手や真剣な者には何だかんだと相手をしてしまう点から、生来面倒見は良い方だと思われる。



 色々と、情報には無駄もあったけど、必要なことだけ整理するとこんな感じ?

 あと子犬達の意見に何故か「美味しそうな匂いがする」とか、意味不明な情報も混じっていたけど…まあ、私とは感覚の違う犬獣人の言葉なので、気にするだけ無意味でしょう。

 

 ちょいちょい気になる部分はあるものの、師と崇めるのに不足はなさそうです。

 真面目な態度を見せない浮ついた放蕩息子と化しつつあるそうだけど…

 子供は直感に優れている物。

 特に、面倒を見てくれそうな相手には。

 もう無意識に嗅覚で嗅ぎ分けているんじゃないかってくらい。

 特に甘え上手な子犬兄弟はその能力が強そうです。


 そんな彼らが、ヴェニ君のことを「面倒見が良さそう」と評した訳で。

 ………ここは、とりあえず突撃して様子を見た方が吉…でしょうか。

 うん、古来より言うよね?

 当たって砕けろ…って!!


 思い立ったら、即行動!

 実行力があるのが、メイちゃんの取り柄です…!

 

 子犬情報なら、今の時間は多分…

 私は我ながら5歳の子供とは思えない俊足で、得た情報を元に駆け出しました。

 ご近所さんって意外に見ている物ですね…己の行動を慎みたくなるよ。

 5人の子供達にしっかりばっちり行動を把握されちゃっている、うっかりなヴェニ君の姿を見つけるのに、そう時間はかかりませんでした。



「ヴェーニー君っ♪」

「うぎゃっ!?」


 そうして、私はヴェニ君のどてっ腹に突撃をかましたのでした。






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