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番外編:獣人メイちゃん(8さい)のバレンタイン

バレンタインなので、特別番外編です☆

ただし、話の内容的にメイちゃん8歳となります。

話の展開に微妙に本編が追いついていないので、説明不足の点があります。

そこらへんは本編の展開で今後補足していくこととなるので、謎の部分は今後をお待ちいただけると助かります。

 前世でプレイした、RPGゲーム。

 私が何より大好きで、前世の記憶で一番鮮明なモノ。

 その世界に転生したって気付いた時は、血が滾ったの。

 これはゲームキャラのストーカーになることを決意した私、メイちゃんのお話。

 まだ幼い、8歳のときのバレンタイン。


 私が転生したゲーム世界は格好いい主人公が冒険する王道RPG。

 エンディングがマルチ入っていて、全部の結末を見るために何回もプレイした。

 仲間の好感度によって主人公のその後が変動するゲームだったから。

 1番好感度が高くて、条件をクリアしたキャラに合わせて変わるエンディング。

 同性キャラなら友情色強めで、異性キャラなら薄っすら恋愛っぽい色が漂って。

 全部を見ても好きなゲームだったから、何回もコントローラー握ってたけどね。

 

 そのゲームには好感度を確認できるようなステータス画面はなかったけど。

 何度か好感度が高いキャラを確認出来るイベントはあったんだよね。


 これは、そんなイベントの一つ。

 ゲーム終盤で登場する、辺境の村で発生するおまけイベント。

 一定以上の好感度を持つキャラクターがお祭に便乗して、主人公に甘いお菓子の贈り物をしてくれるの。

 友情でもありのイベントだったから、同性キャラもお菓子をくれたりして。

 主人公が男の子だったから、『腐』の入った友達がきゃーきゃー喜んでたっけ…

 

 でも主人公が受け取れる贈り物は、ひとつだけ。

 贈り物を受け取ったキャラの好感度が、ガツンと跳ね上がるんだよねー…

 好感度の最終調整に、このイベントは毎回重宝してた。


 そんなことをしみじみほのぼの思い出す、このイベント。

 その名はSt.バレンタイン。

 前世の世界でも私の国では幅を効かせていた、甘くとろける誘惑の日。

 うん、まあ…お菓子を贈るのは世界的は一般的じゃなかったらしいけど、ね!


 




 ………で、なんでこんなことを今更思い出しているかと言いますと。


「メイちゃん、ユウ君、エリちゃん」

「なぁに、ママ」

「なにー?」

「今日はお休みだし、ママと一緒にお菓子作りしましょうか!」

「なんでー?」


「だって、バレンタインだから!」


 そんな訳で、とっても懐かしいことだけど。

 メイちゃん齢8歳にして、この世界で始めてのバレンタインに遭遇です。

 

 というかこの辺にもあったんだ、バレンタイン。

 ゲームじゃ主人公も知らなかったから、地域独特のお祭り扱いだと思ってた。

 でも今まで8年生きてきたけど、1回もこれまで聞いたことありませんよ?

 去年まではママもそんな準備してなかったし…

 これってつまり、メイちゃんは知らないはずの事態だよね?

 だったら聞いても大丈夫かな?


「ママ、バレンタインってなに?」


 …と思ったら、弟のユウ君に先を越されました!

 こてんと小首を傾げる幼児! 可愛い!

 まだ2歳なんだけど、赤ちゃん期の成長が早い獣人だもん。

 もう赤ちゃんっぽさは見えなくて、3,4歳くらいに見えるユウ君。

 最近とんと賢しくなってきて、何故なに坊や化しつつあります。

 私が気になって聞けずにいることとか、率先して先に聞いてくれたりします。

 うん、お陰でモノ知らずぶりを露呈させずに済んでちょっと楽。

 ママもユウ君が疑問に思うのは想定済みだったみたい。

 うふふ、って慈愛の笑みを浮かべて教えてくれました。


「バレンタインはね、最近このアカペラの街に入ってきた異国の風習で…」


 要約すると、やっぱりバレンタインはバレンタインでした。

 贈り物を贈る相手が、恋愛的な意味で好きな人に限定されないってだけで。

 最近、他国の商人を通じてアカペラの街に入ってきた文化なんだって!

 世界的に見ると知名度の低いお祭だけど、お菓子を贈るって特性からアカペラの街で食料品を取り扱う販売店の元締めが「これはいける!」と飛びついたそうな。

 流石は交易で栄えた商業都市…。

 物流に乗って他国の良いとこ取りに余念がないね!

 集まる情報、目新しいモノにすぐさま飛びつく商人の性質がよく表れています。

 それで今、街を挙げて大々的に喧伝してるところなんだって。

 なんとか街に行事を定着させようと必死らしい。

 あまりに必死で、製菓材料のセット販売セールをやったりしてるそうな。

 普段よりもちょっと安いとかなったら、手を出しちゃう主婦も多いんだろうね。


 うちの母のように。


「………ママ、この山のようなお菓子の材料というか、チョコレートは…」

「うふふ。皆にあげようと思ったら、沢山材料が必要ねって思っちゃって」

「ママ…」


 私達は姉弟3人で、ジトッとした目を向けることになってしまいました。

 明らかに買い過ぎだよ、ママ…。

 パパが高給取りでがんがん稼いでなかったら、家計簿片手に詰め寄りたくなるくらいの事態になっていました。でもパパもママに甘いからねー…。


「3人も、自分達の配る分を作ったら良いんじゃないかしら。材料はたっぷりあることだし」

「そうだね、ママが買い込んだもんね!」

「ママ…僕らのおやつ、しばらくチョコレート?」

「うふふ…パパには何を作ろうかしら」

「笑顔でごまかした…」


 普段はしっかりしていて、無駄遣いなんかしないのに。

 想いを伝える行事っていう煽り文句がママの乙女心をくすぐったのかな?

 ママとパパ、今でも新婚さんみたいに仲良いもんね。


「あ、でもメイ、今日はソラちゃん達とお約束がー…」

「お家に連れていらっしゃい」

「え、ママってば即答!?」

「みんなで作ったら、きっと楽しいわよ❤」


 ………いつも通りにほわっとしたママの様子に気付かなかったけど。

 ママ、実はかなり必死…? 必死なの?


 結局、ママの押しに負けて約束していたお友達を家に呼ぶことになりました。

 ソラちゃんと、マナちゃん。

 私の大事な、女の子のお友達です。


「本当に良いんですか…? 材料を分けてもらっちゃう上に、指導まで」

「良いのよ、だってこんな素敵なお祭なら、女の子は張り切らなくっちゃね❤」

「メイちゃんのママって、優しくて素敵なおかあさんだね」


 はにかみ笑顔で嬉しそうに、いそいそとエプロンをつける2人。

 違うよ、違うんだよ…2人とも!

 これ、ママの無駄遣いの結果だから…!

 だけどそんなことを知らない2人は、きゃっきゃうふふと楽しそう。

 あれ、メイが気にしすぎ…?


「おねえちゃん、エプロン結んで」

「ちょーちょ、ちょうちょがいいの…」

「あ、うん! 2人とも後ろ向いて~」


 首を傾げていたら、幼い弟妹に服の裾を引っ張られました。

 何かと見ると、エプロンの紐が結べないんだって!

 最近は「ねえね」じゃなくって「おねえちゃん」って呼ぶようになってきたけど、まだまだメイのお世話が必要なんだなぁって思ったら頬が緩んできちゃう!

 うん、何か他のことはどうでも良くなってきたかな…!

 姉弟3人、ママの作ってくれたお揃いエプロンで完全装備です!


「それじゃあ何を、どのくらい作ろっか」

「マナちゃんとソラちゃんは?」

「私はパパとママと…お兄ちゃんに作ってあげようかな」

「あれ、ソラちゃんってお兄ちゃんいたっけ」

「お兄ちゃんって言っても従兄のお兄ちゃんだけどねー」

「あ………私も、ルッツおにいちゃんに作る…。いつも、お世話になってるもん」

「あれ、マナちゃんも知ってるひと…? って、ん? ルッツ?」

 

 なんだかどこかで聞いたような名前だけど、気のせいかな?

 2人は家族とその従兄のお兄ちゃんに作るんだって。

 恋愛直結イベントっぽいのに、見事に同級生の名前が誰も出ません。

 クラスの男子達の悲哀(笑)


「メイはどうするの?」

「んー…やっぱりパパとママと、ユウ君とエリちゃんに、かな」

「そうよね、家族の分は欠かせないわよね」

「ソラちゃんとマナちゃんにも作るよー」

「……………男の子達、には?」

「え、だって何人も何人にも作ってたら際限ないよー」

「スペード君と、ミヒャルト君、残念がるよ…?」

「んーと、確かにすっごくせがまれそう!」


 わあ、ヤダめんどい!

 あの2人、ここぞという時には梃子でも動かないし、しつこいし。

 ………仕方ないなぁ。

 でもあの2人に作るとなったら、もう1人欠かせないよね。


「それじゃあ2人と、ヴェニ君の分を作る!」

「ヴェニ君………メイちゃんの、お師匠さん?」

「うん、そう。いつもお世話になってるの、メイならヴェニ君かなって」

「そうよねぇ。毎日放課後、すっごいことになってるものね、メイの修行」

「最近は生傷も減ってきたし、昨日なんてヴェニ君の鳩尾掠ったんだよ!」

「それ、凄いの…?」

「メイ、日々腕の上達を実感してるの…。この充実した日々に感謝☆しなくちゃ」

「メイちゃん、危ないの…駄目だよ?」

「加減を分かってるから、大丈夫だよ! マナちゃん♪」


 こうして相談する間に、それぞれ何を作るのかが決まりました。

 ソラちゃんは家族の為にトリュフを大量生産するそうです。うん、素敵。

 マナちゃんは家族の為にチョコレート味のマカロンを作るんだって。

 …マナちゃん、女子力たけぇ。

 素で吃驚しちゃったよ、うん。

 それで2人とメイの3人で、ガトーショコラ作ろうって話になりました。

 お菓子作りが終わったら、紅茶を入れてみんなで食べるのよ。

 色気より、食い気。

 その現実を自分達で突きつけあっているような8歳児の春…。


 ママは、パパにフォンダンショコラを焼くそうです。

 それでメイとユウ君とエリちゃんに、チョコレートのシュークリーム。

 ユウ君とエリちゃんは家族と幼馴染に、型抜きクッキーを焼くって奮起してる。

 とはいってもまだまだ幼児なので、工程の殆どはママが手伝う予定。

 …ってことは、メイはそれに被らないモノを選んだ方が良いよね。

 家族に作る分が混ざっちゃったら、楽しみが減っちゃうし。

 何を作ろうかな…?


「決めた! 全部生チョコで!」


 差なんて付けたら後で煩くなるだけなので、これでいきましょう!



 そして…

   ~(作業工程、略)~



「わあ、メイちゃん器用…っ」

「あ、ホント…無駄に芸が細かいわね」

「~♪ ~~♪」

 

 後は切り分けるだけとなった、生チョコ。

 そのままあげても良いけど、ちょっと芸に凝ってみました。

 パパには拗ねないように、大きなハート型。

 ママにはヒツジさん型で、ユウ君にはお星様、エリちゃんにはお花の形。

 それぞれ切り分けた上にココアパウダーを(ふる)うんだけど…

 そっと綺麗なレースを上にかけて、粉砂糖を篩ます。

 それからレースをそっと外したら、レース模様が綺麗に出来ました。

 

 ヴェニ君のチョコはウサギさん♪

 ミヒャルトにはネコさん、スペードには犬の形で!

 切り分けて、ココアパウダーと粉砂糖で模様や顔がつくようにそれぞれ篩って…


「………メイ? これ、スペードの明らかに犬なんだけど」

「犬だけど?」

「スペード君、狼じゃなかったっけ…」

「はっ!」


 しまった…! けど、まあ良いや! 

 やっちゃったものは仕方ありません。うん、仕方ない仕方ない。


「切り分けた残骸はトリュフにしようっと!」

「メイちゃん…」


 物言いたげなマナちゃんの眼差しには、残念ながらメイも気付けませんでした。

 本当ですよ?


「………あら? メイちゃん、こっちはなんなのかしら?」

「ママ?」

「オーブンで何か焼いてるみたいだけど…」

「あ…」

「あれ? メイ、生チョコ以外にも何か作ってたの?」

「え、えーと、その、あはは…」

「メイちゃん…?」


 ど、どうしよう…。

 そりゃ、気付かれないで済むとは思ってなかったけど。

 空笑いで誤魔化せるかな……?


「妖しいわね」

「っ!」

「メイ、あなた…それ、本命でしょ」

「ひぇっ え、ええ!? ななななに言うの、ソラちゃん!」

「白々しいほど動揺しすぎよ、メイ」

「まあ、メイちゃんが本命…!? あらあら、誰かしら。パパが気にしちゃうわ」

「ま、ママ…! そういう訳じゃなくってね、あのね、えっとぉ!?」

「だから動揺しすぎだって、メイ」

「おねえちゃん、ホンメイってなぁに?」

「ほんめー…?」

「う、うぐ…っ 全員から注がれる疑惑の眼差しが痛い!」


 あ、あいたたた…っ

 本気で視線が突き刺さるようです。

 困った…どうしよう。

 うん、本気で誤魔化せるとは思ってなかったけどね、本当に…!


「素直に吐いた方が身のためよ、メイ」

「メイちゃん、好きな人いるの…?」


 そして、いつの世も、どこの世界も女の子って好きだよね…。恋バナ。

 キラキラと目を輝かせたお友達とママに詰め寄られて、メイ、窒息しそう…。


 結局、この時はメイも意地になっちゃって。

 というか、恥ずかしくって。

 口を(つぐ)んで絶対に話すものかと黙秘を続けました。


 ………ら、ソラちゃんが最後の手段に走っちゃったよ!

 よりにもよって、ミヒャルトとスペードを召喚しちゃったんです…!


「メイちゃん?」

「ええと? 俺たち以外に、特別な奴なんていたか? なあ、ミヒャルト」

「誰だろうね、そんな許せない奴は…。渾身の力で排除しないとね」

「そのためには、まず情報が必要だよなぁ…?」

「ねえ、メイちゃん………そのチョコタルト、誰にあげるの?」

「俺たちに教えてくれよ、メイちゃん」

「あ、あはははは…っ何だか破滅のニオイしかしないよ、2人とも!?」


 鬼気迫るというか、凄まじい迫力の2人。

 えうー…? なんで2人がこんなに怖い顔するのー…???

 何やら凄腕尋問官と化した2人。

 何だか黒いオーラを背負った2人に逃げ場も塞がれ詰め寄られ。


 とうとう、私は白状させられたのでした。


「あ、あぅ………その、ね」

「その?」

「あの、ね」

「あの?」

「………これ、ね、竜の神様へのお供えもの、なのー…」

「「は?」」


 嘘は言ってませんよ、嘘は…!

 うん、嘘は言ってない。


 あまり納得できていない様子の皆だったけれど。 

 最終的に本気で神様へのお供え物にしたところ、ようよう納得してくれました。

 各ご家庭にある竜神セムレイヤの祭壇(神棚感覚)に、そっとタルトをお供えして。

 清潔なハンカチで覆ってから、私は祭壇の前を離れました。

 神様………頼みましたよ。


 その時、祭壇の奥で。

 安置された竜神像の目が、キラッと光ったような気がした。




   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・




 翌日の、こと。

 アカペラの街から遠く離れた森林部の奥深く。

 木々に紛れて平和な毎日を営む村に、1人の男の子がいたのだけれど。

 蒼い髪の少年は、朝目を覚ますなり自室の窓辺に見慣れないモノを見つけた。


「……………タルト?」


 少年が手に取った、身に覚えのないお菓子。

 一体誰が置いたんだろうと、首を傾げる。

 明らかに不審物ではあるのだけど…


「美味しそう」


 何故か欠片も警戒心が湧き上がらなくて。

 少年はこっそり、切り分けられていた一切れを口に運んだ。




   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 その頃、アカペラの街では。

 神様にお供えされていたはずのタルトが朝起きていたら消失。

 消えたお皿に首を傾げる白羊の奥さんがいたとか、いないとか。

 

 ただ、その家の長女は素知らぬ顔で。

 だけど誰も見ていないところでこっそりと、嬉しそうに顔を綻ばせていた。






蒼い髪の男の子 ←ゲーム主人公


ちなみにチョコレートに篭ったメイちゃんの気持ち

 パパ、ママ → かけがえのない大切なきもち

 弟妹 → 可愛くって愛しいかんじ

 ミーヤちゃん、ペーちゃん → 大好きな『お友達』

 ゲーム主人公 → 憧れてやまないファン心理

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