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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
7さい:アカペラ第1初級学校の春
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4-14.オリエンテーリング10



 どうやらまだまだロニー君は今回の課題の真の姿に気付いていないみたい。

 うん、課題用紙をよく確認しておかないからそうなるんだよ。

 …ということで、気付かれる前にちゃっちゃとネタ明かしといきましょう。


「ね、みんなはクロスワードパズルって知ってる?」


 私の言葉に対する、皆の答えは同一のきょとん顔で返されました。


「なにそれ」

「わあ、簡潔なお答えありがとー、ルイ君」


 ああ、やっぱりみんな知らないみたい。

 ほとんど全員、首を傾げて問いかけるような視線をくれます。

 クレアちゃんとカルタ君だけ、ああ!みたいな納得顔してるけど。


 この世界の文字は、日本と同じ表音文字。

 まあ、ゲーム中のダンジョンなんかで(たま)にある、謎解きギミックなんかの都合でそうなってるんだと思うけど。

 でもお陰で日本と同じクロスワードパズルが成立する。

 する、んだけど…子供はあんまりそういうのって知らないよね。

 今回のそれ(・・)も、出題とセットになってる雑誌とかのアレとは違うし。

 1年生向けの課題ってことで、文字数も少ない単語を多用した、簡単なヤツ。

 前世の私も得意じゃなかったから、そこは大助かり、かな。


 ロニー君達に情報が流出しないよう、注意を払って行動です。

 私達は空中庭園に置かれていたテーブルセットを円陣組んで囲んで。

 そこにうちの班の課題用紙を広げました。

 私がせっせと札に書かれていた単語を書き入れた、裏面を。

 …最初は何かの裏紙かと思ったんですよね。

 ロニー君達もクロスワードパズルを知らないんなら、この升目いっぱいの『図形』が何かなんてわかる訳もない。

 …そして札は揃い、言葉も揃い。

 今なら先頭順位独占です…!


「だからね、ここに言葉を書き入れていくと…」

「えっと、あ! 横並びでも縦並びでも読める!?」

「そうそう、ドミ君はやっぱり賢いねー」

「ふぅん? それで指定の升目に該当する文字を抜きだす…と?」

「ミーヤちゃんも賢い、賢いー」

「ふふ、やった。褒められた」


 そうして15人で囲んで、出てきた答えは…

 ………うん、うちの学校の校訓でした。

 ここで校訓が来るあたりが…うん、オリエンテーリングって感じ。

 こじつけみたいな単語ばっかりだったのは、この答えに繋げる為だったのかな。


 何はともあれ、今この場には先生もいるし。

 ロニー君も難癖は付けられないと思うから。

 私達は3班揃って、記入の終わった課題用紙を提出しました。




 ――カーン、カーン、カーン



 鐘が鳴る。

 全課題達成を示す、空中庭園の鐘が。

 その音色が祝福するのは…当然ながら、メイちゃん達のこと。

 忌々しげなロニー君の顔に、性格の悪いミーヤちゃんはほくそ笑んでいて。

 アドルフ君が、ちょっと納得いかないみたいな顔をしていて。

 そして何故かペーちゃんが、獲物を狙う目つきでアドルフ君を見ている。

 ………ペーちゃん、狼なのに熊に戦いを挑むつもり?

 

 何はともあれ、こうして私達は課題の達成!

 ついでに、上位ランキング制覇を達成したのでした。


 ちなみにご褒美は校長先生のお店の商品券。

 うん、期待通りだよっ♪

 1人、玩具か武器のどっちか1つと交換できるんだって。

 ………校長先生、太っ腹過ぎないかな。

 まあ、交換できる武器は何でもという訳じゃないそうなので、そこまで高い武器や玩具じゃないんだろうけど。

 メイ的にも武器は今後を考えると嬉しいところだし、今度ヴェニ君の任務が終わったら、武器選びを手伝ってもらおうっと!


「皆さん、すごいです…っ! 先生、驚いちゃって…」

「せんせー…泣かないでよぅ。褒めてー」

「ごめんなさい、先生、びっくりしちゃって…!」


 首位独占したよ、って。

 笑顔でミルフィー先生にご報告したら、頑張りましたねって泣き出しちゃって。

 ほろほろ泣いてるミルフィー先生を慰める方が、ちょっと大変だった…。


 

 ――そんな、間に。

 私達がミルフィー先生にかかりっきりの間に、ちょっと離れたところで。

 私達の注意が逸れた隙を突くように、ミーヤちゃんに接触する子がいました。

 ミーヤちゃんってばミルフィー先生を慰めることもなく、面倒そうな顔を隠しもしないし。ミルフィー先生からちょっと遠ざけた方が良いかなって思ったから。

 だから、ミーヤちゃんは遠巻きにいる状態で。

 多分、接触しやすいと思ったのかな…?


 ミーヤちゃんの前に、改めて現れた子。

 それは、コリアンダー組のロニー君でした。


「――君」

「……………なに? 気安く僕に話しかけないでほしいんだけど」

「ははっ…手厳しいな」


 ロニー君は、姿だけを見るとやっぱり爽やかそうで。

 その清廉潔白そうな笑みで、お腹の中では何を考えているのでしょう。

 黒さを隠さないミーヤちゃんは不機嫌な顔。

 眉をしかめ、思いっきりロニー君が忌々しそうな顔です。

 飾り気のない態度というより、むしろ悪意を飾っています。

 露骨に嫌そうな顔をするミーヤちゃんに、でもロニー君は気にした素振りを見せません。鋼の心臓か、鈍いのか…。


「今回はどうやら、僕の負けらしい」

「らしいって、なに? どう見ても明らかに負けでしょ」

「ふふ…正々堂々と、今後も競い合っていこうじゃないか」

「正々堂々、ねぇ………」


 ミーヤちゃんの、めっちゃ胡乱な目。

 うん、言いたいことはわかるよ?

 正々堂々とか、ロニー君が言っちゃ駄目だと思うの。

 でも傍目には表面上、ロニー君が1人で爽やか路線な感じ。

 外面が良いって、お得だね?

 

 そう、傍目にのんびり傍観していた私。

 妙に感心しながら、ぺーちゃんと2人で手に汗を握ります。

 今にもバトルの勃発か、と。


 だけどそんな私達が吃驚するような、そんな感じの。

 ロニー君の、思いがけない台詞が炸裂しました。


「だけどね、君。女の子(・・・)が『僕』とか言うのは感心しないよ?」

「……………はあ?」


 あっはっはっはっはっはっはっはっは……………!

 ………いま、あのひと、何て言いました?

 思わず笑って誤魔化したくなっちゃったよ!!


 ぎこちない顔で、隣のペーちゃんに眼差しを向けます。

 うん、ペーちゃんからも胡乱なお目々でお返事が。

 ――あいつ、大丈夫か…と。


「勝気なのは良いけど、あまり後先省みないのは感心しないな。女の子だからっていうのもあるけれど…君、見た目によらず血の気が多いみたいだから心配だ」

「………お前、頭は大丈夫か?」

「ほら、言葉遣い。お前なんて乱暴な言い方は止めたほうが良い。男じゃないんだから言葉遣いには気をつけた方が今後の為だよ?」

「……………」

「その、今回は対立することになった。だから君が僕を敵視することもわからないではない。だけど…その、今後は同じ学校の生徒ということもあるし、出来れば次の機会にはもう少し友好的に話を進めても良いんじゃないかと思うんだが」

「何言ってんの、馬鹿…?」

「馬鹿とは酷いな。まあ、僕も少しそう思ったけど…」


 私は、衝撃的なものを見てしまいました。


「…………………ペーちゃん、メイ、怖いもの見ちゃった」

「奇遇だな、メイちゃん。俺も見ちまったよ」

「………ロニー君の頬が、その、気のせいじゃないなら薄っすら赤く…」

「それ以上は言わない方が良いって! 心臓に悪ぃから!!」


 とりあえず、1つはっきりしたことがあります。

 じれっと照れ照れな様子で、もじもじ頬を染めて薄い微笑み。

 そして目に宿る、なんかどっかで見たような気もする熱い眼差し…。

 ………うわー…これ、どうするの。

 ミーヤちゃんもロニー君も、両方かわいそうなことになってるよ。


 学校に入る前はあまり気にしなかったけど、同年代の子供と接触する機会が増えて、わかったことがあります。

 ミーヤちゃんのママがあんまりにも凛々しい男装の麗人だったから、なんか私達の感覚も狂ってたんだけど。

 

 ………ミーヤちゃん、よく女の子に間違われるんだよね。


 背中まである長い髪の毛も、きっと勘違いを増長させる要因の1つだとは思う。

 だけど顔そのものが、ミーヤちゃんはママさん似で。

 ちょっとツリ目だけど可愛くって、繊細な容貌。

 つまり、髪が長いと女の子にしか見えないんだよね…。

 それでも同じクラスの子達は自己紹介タイムのお陰もあって、みんなミーヤちゃんが男の子だってわかってるけど。

 他所のクラスまでは、カバーできてなくっても仕方ないよねー…


 とりあえず今回、1つはっきりしたことがあります。

 会話しながらミーヤちゃんの機嫌を急降下させていく、隣のクラスの学級長さんを見る限り、きっと間違いはないでしょう。


 ロニー君はクールビューティな女の子好き。


 多分、私の推測立てた彼の女の子の好みに間違いはないはず。

 ………だって、一見ミーヤちゃんがそう見えるんだもん。


 まさかのガチ惚れ事態。

 私とペーちゃんはミーヤちゃんの反応が計り知れず、無意識に肩を寄せ合って震えていました。

 割合、『笑い6:恐怖3:憐憫1』で。



 背中を向けていたミーヤちゃんがどんな表情をしていたのか、わかんないけど。

 言いたいことを言えたのか、それとも話している内に照れくささだか緊張だか何だかがMAX.突破したのか。

 やがて頬を赤く染めたロニー君は、そそくさと背を向けて自信の仲間達のいる方へと向かっていきました。ちなみに早足で。

 ああ、そーかー、そうですかー…

 だから、ミーヤちゃんがこっちにいるから、順位争いに負けたって言うのにあまり突っかかってこなかったのかな。

 言い掛かりの1つくらいは言ってくるかなって思ってたのに、想像以上に潔く去っていくのはミーヤちゃんを気にしてだと思う。

 だって時々、チラッチラッてミーヤちゃんを振り返ってる。

 そんな本気の眼差しを向けるなんて…危険だよ、ロニー君!

 ミーヤちゃんの反応が、どうなるのか。

 初めての事態で、私達も読めないのに…!!


「あー…と、えーと。ミヒャルトー? 大丈夫か?」

「ミーヤちゃん、気をしっかり…!」

  

 ロニー君が去ったのを見計らって、私とペーちゃんはおずおずとミーヤちゃんの背中に声をかけます。

 果たして、振り替えったミーヤちゃんは。




 ………めっちゃ 笑 顔 でした。




 どことなく漂う凄みに、一瞬で全身が総毛立ったよぅー!!?

 ペーちゃんもメイと似たような状況らしく、でも反応は私より顕著で。

 尻尾が一瞬でぶわって! ぶわって…っ!


「――あの野郎、羞恥と後悔のどん底に叩き落してやる…」

「み、みみみみみミーヤちゃあん!? 口調変わってるよ!?」

「待て、早まるな! キャラ崩壊は後に取っとけ!!」

「ふふ、なぁに、メイちゃんってば。スペードも、その人が暴走でもしているかのような反応! 取り乱しすぎだよね?」

「そう言うお前、目だけ笑ってねぇぇえええっ!」

「やっぱり髪の毛切ろう!? 切ろうよ、ミーヤちゃん! そうしたら少なくとも女の子には見えなくなるから!」

「やだなぁ…今はまだ、切る時じゃないよ。ここぞと言う時、あの野郎をどん底に叩き落す最良のタイミングでばっさりやってこそ効果があるんじゃないか。せっかくのイメージチェンジの材料はより有効な時機を見計らって使わないと、ね?」

「うわぁああああ…こいつ、男のプライド傷つけられた復讐する気だ!」

「そんなの当然じゃないか」

「さも当たり前のようにしれっと言い放っちゃったよ!?」

「2人とも慌てすぎだよ? 心配しなくても人道に反するようなことも、規則を破るようなこともしないってば。暴行沙汰は後々こっちが不利になっちゃうもんね?」

「それってつまり精神的に追い詰めるって明言してるようなもんじゃねーか!」

「わ、流石だね、スペード。僕の思考回路を理解してるみたいだ」

「嬉しくねー…!!」


 大慌てに慌てて、ミーヤちゃんを取り巻く私とペーちゃん。

 そんな私達に向けられたミーヤちゃんの顔は…

 ………今までに見たこともないくらい、冷たく嫣然としたものでした。

 怖っ!!





 アカペラ第1初級学校にご入学してから、一週間。

 春の麗らかな、陽光の下。

 学校案内を兼ねたオリエンテーリングを経て、私達が手に入れたものは新しいお友達との結束と、好成績によるご褒美に、担任の先生の笑顔。


 ………それから隣クラスとの敵対の理由。

 あとミーヤちゃんのロニー君に対する確執…隠しようのない、敵意でした。

 

 3年間に渡る、学校生活。

 始まったばかりなのにこれってどうなのかな…。

 先を思いやり、思わず遠い目をしちゃうメイちゃん7歳の春でした。





これにてオリエンテーリング編は終了となります。

次回は再びヴェニ君の状況を書いた後、次の学校行事に移ります。

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