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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
7さい:アカペラ第1初級学校の春
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4-13.オリエンテーリング9



 久々の、前後から私を挟みこむ様に形成された幼馴染サンド。

 メイちゃん、具じゃないんだけど…。

 食パン(おさななじみ)達はすりすりと懐いて擦り寄ってくるけれど、正直ちょっと暑苦しい。

 ほら、さっきまで運動してたからー… 

 でも強い力でここぞとばかりにしがみ付いてくる幼馴染2人。

 その全力を、メイ1人では振り払えそうにありません。

 なんでそんな全力でしがみ付いてくるのかなぁ…。

 そう思いつつも、これって慣れでしょうか。

 なんか、あんまり気にならなくなってきた。


「それでミーヤちゃん、これって何事?」

「何のこと、メイちゃん」

「とぼけるの止めよーよ」


 なんでこんな場面でとぼけられるのかなぁ、ミーヤちゃんは。

 私達ってばいま、すっごく空気読めない感じになっています。

 だってちょっと先、庭園の真ん中に作られた高段には審査の先生方。

 その手前で睨みあってる、2組の班は。


 コリアンダー組の学級長の班と、セージ(うちの)組の熊さんガキ大将。


 ロニー君とアドルフ君が、険悪な空気で睨みあっています。

 でもさ、ちょっとおかしいよね。

 確かに私達は、鹿を相手の大立ち回りで結構な時間を浪費しちゃったけど。

 でもロニー君やアドルフ君に追い付かれるほどの遅れだったかと言われると、首を捻っちゃう。

 ロニー君がどこまで課題達成していたか、知らないよ?

 でも確実に、ダミーの地図で少なからず踊っていたはず。

 それにアドルフ君達は最初から自力での課題達成を投げてたし。

 そんなアドルフ君がダミーとはいえ幾らかは正解も交えられてた地図を奪われて、こんなに早くここに到達する?

 いま空中庭園にいるのは私達の合同2班と、ロニー君達やアドルフ君達。

 合計4班しか未だ辿りついていない点でも、トップの攻略だったんだと思う。

 その中にアドルフ君達が食い込んでいる事実が、ちょっと納得できない。


「ミーヤちゃん、何かしたんでしょ?」

「これといって特別なことはしてないよ? 強いて言うなら…対抗馬を舞台上に上げたくらいで」

「嫌がらせ目的に、だろ。ロニー達への…な」

「その通りだよ」

「清々しいくらい自分に正直だよな、お前。だけどアドルフが、よくお前の協力を受け入れたもんだ」

「そこはそれ、やり方ってやつがあってね…?」

「怖いぞ、ミヒャルト…」

「……………2人とも、メイを間に挟んでお話するの止めよーよ」

「ごめんね、メイちゃん」

「ごめんな、メイちゃん」

「お、おおう…至近距離からめっちゃ笑顔」


 お、落ち着かない…っ!

 なんでこの2人、こんな体勢でめちゃくちゃ自然にふるまってるんだろう!?

 不自然だよね。

 この体勢、不自然だよね?

 まるでこれで正しいとでも言わんばかりなんですけど…

 どうやら簡単には手を離すつもりのないらしい幼馴染達。

 メイ、ちょっと疲れちゃった。


「んーと、アドルフ君がここにもう到着しちゃってるのは、ミーヤちゃんが画策したからなんだよね?」

「ナチュラルに陰謀説を展開しようとしてるな、メイちゃん」

「馬鹿言わないでよ、スペード。僕はちょっと一緒に行動して、ちょっと(・・・・)手助けしただけだよ。素晴らしいクラス愛だよね?」

「えっとー…ツッコミは入れないけど、でもなんで睨み合いになってるのー?  まだどっちもゴールしてないみたいだし」

「ちょっとね…。最後の課題が解けなくて、睨みあいになっちゃったんだよ」

「最後の課題?」


 ここに到着したら、オリエンテーリング達成じゃなかったっけ?

 身守る先生達も沈黙したままだし、これって何事…?

 私の疑問にミーヤちゃんは、何か微妙な顔をするばかりだし…。


「――む、セージ組の生徒か」


 首を傾げていたら、睨みあうロニー君やアドルフ君に冷めた眼差しを注いでいた先生がこちらに向きました。

 学年主任で、コリアンダー組担任のサリエ先生!

 …あの、オリエンテーリング説明の時の、淡々早々と説明を切り上げて下さっちゃった先生です。

 わー…ゴールで本当に待ち構えてたよ、この先生。


「丁度良い。こちらの2班は思考が停滞してしまったようだからな。貴様らに改めて問うとしよう」

「わーお。この先生、生徒のこと『貴様』って言っちゃったよ!」

「しっ…ウィリー、黙らないと目を付けられるわよ!」

「無駄口は必要としていない。同輩だろうが先輩だろうが後輩だろうが師弟だろうが、私の二人称は常に『貴様』だ」

「…あれ? 律儀に説明してくれた。意外に親切?」

「だから黙りなさいよ、ウィリー!」

「無駄口は必要ないと言っている。それよりも此処に上って来たということは、貴様達も他の全ての課題を終えているのだろう」


 おお…相変わらずスパスパ切り込んで、サクサク話を進めていく先生です。

 サリエ先生は私達が他の課題を達成したかの確認を取ることもなく、ですが此処に来たという一事に即して話を進めて行きます。


「それではこの空中庭園へと到達した貴様らに最後の課題だ。貴様ら、課題達成の度に札は集めて来ただろうな?」

「ばっちり10枚あるよー」

「よし。では最後の課題を告げる。


 ――ここに、11枚目の札がある。そこに書かれた言葉は何だ? 」


 言って、ひらひらと最後の札を掲げるサリエ先生。

 その札はご丁寧に袋に入れられていて、表面に何と書いてあるのか読み取ることは出来ない。

 そんな状況で、札の文字を当てろと。

 サリエ先生はそう仰る訳ですが。


 当然ながら、ヒントは何も示してくれない訳で。


「え、えええええーっ!!」

「そんな…わかる訳ないわ!」

「サリエ先生のケチ! いけずー!」

「わあ…ウィリー君って本当に良い度胸」

「煩いぞ! 今までの札を見ていれば、おのずと答えは湧きあがってくるはずだ」

「そんなもの湧きあがってくる訳ないって! だって何の脈絡も関連性もないじゃん、この札ー!」

「そこを考えるのが、貴様らの課題だ!」

「何たる無茶ぶり!」


 非難囂々の、班員達。

 そんなみんなを尻目に、ひょいっと肩を竦めるミーヤちゃん。


「………まあ、つまりはこういうことだよ。その答えがわからないから、ロニーもアドルフも睨みあいになっちゃってるのさ」

「なるほどー。そんな訳なの」


 きょるっと見回してみれば、どことなく疲れた顔のロニー君達。

 悔しそうな顔の、アドルフ君達。

 そしてやっぱり口を尖らせて抗議を重ねる、仲間達。

 そんなみんなを見回して…私はそれを言っても良いものかどうか、ちょっと迷ったけれど。

 でも言わなきゃ、どうにもならないよね。

 うん、11枚目の札の言葉………私、もう見当ついてるんだ。


「……………ミイラ?」


 ぴたりとその瞬間、みんなの動きが止まりました。

 同じ班のみんなは、「唐突に何を言い出すんだコイツ」という目で見ています。

 ミーヤちゃんやペーちゃんも首を傾げて「?」を飛ばす中。

 サリエ先生が、動きました。


「正解だ、バロメッツ」


 そう、サリエ先生が力強く、でもどこか面倒臭そうに宣言して。

 その瞬間の、居合わせた皆の反応は…ちょっと、見物でした。


 答えを聞いてしまったから、ということで。

 サリエ先生がその場にいた4班全てに11枚目の札を渡します。

 でも、これで終わりじゃないんだよね。


 11枚目の札を渡したきり、サリエ先生は沈黙。

 あれ?っと。

 これでオリエンテーリングは全部クリアかと思っていた皆が顔を見合せました。

 なんで先生は沈黙したきり、なんの動きもないんだろう?と。

 

 この場にいるのは、4班。

 ご褒美をもらえるのは、3班まで。

 そして手を貸すなら…地図を盗られた恨みはあるけど、ロニー君よりは同じクラスのアドルフ君だよね。


 私はてこてこ、足を動かして。

 不貞腐れた顔のアドルフ君の隣まで行くと、その袖をつんつんと引張りました。

 

「アドルフ君、こっちにおいでよ」

「は? なにいってんだ」

「いいから、一緒にやろ。ね?」

「はあ!?」

「まだ肝心の最終回答が終わってないの。だからね、ほら」

「何いってんの、お前」


 わあ、正直そうな顔!

 より詳しく言うと、露骨に嫌な顔をされました。

 でもメイちゃんはめげません!


「ミーヤちゃん、ペーちゃん、手伝ってー」

「了解」

「良いよ」

「ちょ、おい、こらっ 待て!!」


 3人がかりでずるずると、他の皆の所まで引きずります。

 アドルフ君の配下達が途端に顔をしかめて、私達に食ってかかろうとしました。

 …が。

 次の瞬間、私達が開示した情報によって足が急制動。


「あ、そうだ!」

「ッ!? なんだ!」

「アドルフ君、3年生にお姉さんがいるんだね! 同じ熊の獣人の」

「!!?」

「お姉さんがよろしくって言ってたよー」

「なっ て、ちょ、おい!? 姉ちゃんに会ったのか!?」

「うん。アドルフ君をよろしくって言ってたから、よろしくしちゃうのー」

「………っ!! なんてこった!」


 熊の獣人、アドルフ君。

 そのお姉さんもまた、熊の獣人で。

 さっき3年生の教室を出る時、熊のおねえさんが言ったんだよね。

 ――「セージ組に弟がいるから、よろしく」って。


 ちなみにセージ組に熊の獣人は1人しかいません。


 そしてアドルフ君の手下(おともだち)の皆も、反応を見るにお姉さんのことはよく知っているみたい………うん、面倒見のいい素敵なお姉さんだもんね!


「へえ、姉がいるんだ…その反応を見ると、随分と良好(・・)な関係みたいだね?」

「しまった! 女男(ミヒャルト)に知られた…!」

「誰が女男かな。お姉さんに地図の強奪の件とか、あることないことないことないこと、ついでにないこと暴露してほしいの?」

「ほとんど事実無根の無責任な嘘吹き込む気だ、こいつ!!」

「ミーヤちゃん………脅迫ネタ掴むと、本当にイキイキするね」

「おい、バロメッツ! この女男どうにかしろよ…!」

「だから人のこと、女男って呼ぶの止めてくれない?」

「煩ぇ、男女の息子は女男って馬鹿じゃねーの!?」

「――さて、男女と女男。その違いはどこにあるんだろうね?」

「あ…?」

「言葉はより正しく使おう。男女と女男、その違い、その真の性別はどちらなのか…それを論理的に説得力を持って語れたら、別にそう呼んでくれても良いよ? でも根拠なく変な呼び名を使うんだったら………どうしてくれようか、この熊男」

「…っ!!」


 にた…っと笑うミーヤちゃんの笑顔は、戦慄モノでした。

 うん、アドルフ君が息を呑んでも仕方ないと思うな。

 でもミーヤちゃん…女の子扱いされたくないなら、それなりの対策立てようよ。

 背中まである髪の毛、本当に切れば良いのに。





 何だかんだで、ミーヤちゃんに口で負けてすごすごと付いてきたアドルフ君。

 うん、彼がミーヤちゃんの協力を受け入れた過程がなんか見えた気がする!


「それで? 英雄の娘様が俺らなんぞ取り込んで何する気だよ」

「英雄? だれ?」

「「メイちゃん家の親馬鹿」」

「メイのパパって英雄だったの!?」

「うわ、今ので通じたよ…」

「メイちゃんも親馬鹿だと思ってたんだな」

「え、むしろパパって親馬鹿以外のなんなの?」

「……………もう嫌だコイツら気が抜ける」


 あれ? 何故かアドルフ君がぐったりです。

 なんだろ、オリエンテーリングで疲れたのかな?

 いつもは元気に横暴に、何となく昭和のガキ大将を思い出してほのぼのさせてくれる、アドルフ君。

 まるで劇場版ジャイ●ン様を見ているような気分になれて、メイの日常の面白和み要素のアドルフ君。

 そんなアドルフ君の元気がないと、なんだか心配。

 私はそっとアドルフ君の投げ出された拳を手に取り、そっと両手で包む様に握りしめました。


「な、なんだ…っ!?」

「アドルフ君、メイの身勝手でごめんね…」

「!?」

「でも、メイ、悔しくって………あのロニー君にだけは負けたくないの」

「………それは俺もそうだけどよ」

「お願い、アドルフ君。メイ達のためなんて言わないよ。アドルフ君自身の仇だと思って、力を貸して。メイ、アドルフ君の助けが必要なの…」


 真摯に誠実に、お願い事をする時は何より真剣に!

 力を貸してほしいから。

 手助けさせてほしいから。

 何より、ロニー君にちょっとムカッてしちゃったから。

 全部の目的を混ぜこぜて、1番良い勝利を得るために。

 アドルフ君が必要なんです。頭数として…!


 そんな気持ちを込めて、私はじっとアドルフ君を見上げました。

 獣人の子は発育が良い方だけど、熊の獣人だからか体格が良いんだよね。

 ペーちゃん達と同じ8歳児なのに、10歳くらいに見えるアドルフ君。

 身長差があるから、見上げないと真っ直ぐお顔が見えないや。

 上目遣いになっちゃうけど、真剣に、真剣に…!


 ………瞬きするの忘れて、目が潤んできちゃった。

 でも今は真面目な時間。

 目を擦る訳にもいかなくって、むず痒くなってきちゃう。

 じっと見上げつづけると、なんだか視界がぼやけるー…


「な、し、しか、仕方ねぇな…!」


 やがて、待ち続けた答えが。

 アドルフ君の色良いお答えが、大きなお声ではっきりと! 


「俺がいなきゃどうにもならないってんだったら、仕方ねーから助けてやるよ!」

「本当…!? わあ、ありがとう!」


 にこっと。

 本当に嬉しかったから、顔は自然と笑顔になって。

 アドルフ君の手を握ったまま、ぴょこぴょこ飛び跳ねちゃった。

 うん、パパなんて馬だし、嬉しさに跳ねちゃうのは仕方ないよね!


「………!!」


 あれ、アドルフ君から何か息を呑む音が…

 ………何か興奮してるのかな、緊張してるのかな?

 そういえば声が上擦ってたし、手は細かく震えてたし。

 あ! これって、武者震いってヤツだよね!

 流石はガキ大将…決着を前に血沸き肉踊る!?


「アドルフ君、メイちゃんにどーんと任せてね!」

「…っもう良いから、手、離せ!」

「あう…っ」


 笑顔のままアドルフ君に首を傾げてみると、何故か手を振りほどかれた。

 あれ、何か気に障ることしたかな…?




   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「メイちゃん………なんて小悪魔なんだ」

「くそ、アドルフの奴! ノーマークだったぜ」

「迂闊だったね。あんなイラッとする奴にまで、メイちゃんがあんなに可愛い笑顔を振りまくなんて…ああ、勿体ない!」

「ちっ…後で見てろよ!」


 いらいら、いらいら。

 隠しもしない苛立ちに落ち着かない様子の猫と犬。

 そんな2人に、苦笑いを浮かべてウィリーが宥めようと声をかける。


「2人とも、メイちゃんはただの天然だと思うんだ。そう目くじら立てなくても」

「ウィリー、俺らが腹を立ててるのはメイちゃんにじゃない。アドルフにだ!  畜生、あの熊め…羨まし過ぎる!」

「妬ましい、あの手! 両手で握ってぎゅってされたんだよ? 真正面から笑顔の首傾げだよ!? その代償は身をもって払ってもらわないとね…!!」


 激昂する2人の勢いは、目を覆いたくなるほど酷いものがあった。

 何が酷いかというと…見苦しい、言いがかりをつける男の嫉妬が。

 何をするかわからない様子の2人に、ウィリーの顔が引き攣った。


「駄目な感じの男の嫉妬だ…! 駄目だこの2人! 落ち着け!」

「落ち着けるかっての!!」

「メイちゃんは絶対に渡さないからね…!!」





 ………あれ?

 なんか、またミーヤちゃんやペーちゃんが騒がしいなぁ。

 こんな時まではしゃぎ倒せるなんて本当に仲良しさんだけど…

 でも、やっぱりメイは仲間外れ?

 出会ったばかりのウィリーだって仲間に加わってるのに…。

 ………男の友情ってのに、女の子は勝てないのかなぁ




 そんな、当人達が聞いたら全力否定しそうなことを思いながら。

 メイは全く、本当に全く、2人の嫉妬になんて気付く由もありませんでした。





オリエンテーリング編が長々続いております。

一応、次回でオリエンテーリングを終えられれば…と思っていますが。

それが終わったら、一旦単身赴任中のヴェニ君視点でしょうか。

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