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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
7さい:アカペラ第1初級学校の春
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4-8.オリエンテーリング4


 

 お隣のクラスの学級長とミーヤちゃんの舌戦は、胆の冷えるものがありました。

 それはロニー君のお仲間さん達も同じだったみたい。

 ブリザード現象が巻き起こりそうな口論がますます激化する前に、私達は何とか2人を引き離したのです。

 でも近くにいたら、すぐにでもまた冷え冷えとした舌戦が再開しそう。

 だから、私達は引き離したそのままに、すぐさま場を離れることにしたんです。

 結局、なんだかダイヤ君達の班を引っ掻き回すだけの結果になっちゃったかなぁ………なんて、そう思っていた、の、ですが…


 そこで終われば、まだ良かったのに。


 コリアンダー組の皆さんもロニー君の背を押して場を離れようとしていました。

 このままここで喧嘩していたら、時間がなくなっちゃうと泣きそうな女の子が必死で宥めています。ロニー君はそれに「仕方がないなぁ」って顔をして、ちゃんと自分から歩き始めました。

 だけどね。


「ああ、そうだ」


 去り際に、余計な言葉を投入してったんですよ。

 この、ロニー君という男は。


「君達のあの地図、情報が半分以上間違っていたよ。幾つかはちゃんと合ってたから君達も中々やるんだろうとは思うけど、こういう時は正確な情報がモノを言うからね。もう少し思考力を磨いた方が良いんじゃないかな?」


 その情報の上前をはねようとした分際で、何たる上から目線…っ!


「取り敢えず地図には正しい情報を記入し直しておいてあげた(・・・)よ。良ければ活用してくれ」


 それを、さも嫌味そうに。

 もしくは皮肉げに、揶揄する顔で言ったのならまだ良い。

 ああ、これは私達への意趣返しなんだなって納得できるから。

 でも、あの子…!


 本気で親切心から、心配するような顔で言いやがりましたよっ!?

 

 私には、わかります。

 あれは本気です。そして素です。

 あの子からそんな物言いを受ける筋合いもありませんし、あの地図が本当に私達の班の実力だと思われるのは癪でしかありません。

 あの地図はフェイクだっていうのに…っ


「ああ、だけど2班以上で協力し合うのは良いんじゃないかな。僕達はしないけど、お互いに助け合ったら少しは課題達成の可能性も出てくるしね。それじゃあ、僕達はこれで」


 ………最後の捨て台詞は、それでした。

 あの男…火に油を注ぐだけ注いで立ち去りおった……。

 むしろメイ的には、この世界にはない筈のガソリンでもぶっ込まれた気分です。

 あまりにも心外過ぎる言葉の羅列に、私達の班員達は全員硬直。

 ミーヤちゃんに至っては、無意識に下に見られたという現実に屈辱を感じてか、手がぶるぶると震えて………ひぃっ 唇食いしばり過ぎて、血が!


 ロニー君は、たぶん空気が読めない子なんだと思います。

 ダイヤ君や、他の班員さん達。

 ロニー君のお仲間は、こちらの様子に気付いて顔を青褪めさせていたのに。

 ロニー君だけは鷹揚に構え過ぎて、私達が視界に入っていない。

 最後にひたりと、舌戦を繰り広げたミーヤちゃんを見つめていたけど。 

 屈辱に震えるミーヤちゃんの様子を、何か別の理由と勘違いしたのかな?

 ………なんか、自分の失態を指摘されて恥じてるとでも勘違いしてそう。

 あのまま余計なことを口走っていたら………

 その時、ミーヤちゃんの爪は赤く染まっていたかも知れません。

 私達は怒れる白猫に恐る恐る、腫れ物に触るような声音で様子を窺おうと…


「み、ミーヤちゃん?」


 あ、やべ。

 声がひっくり返っちゃった。

 

 だけどミーヤちゃんは、それを気にもせず…


「みんな?」


 首を傾げ、微笑む顔。

 だけどなんでかな。

 ………………………物凄く、怖かった。

 せ、せすじ、ぞわっとしちゃったよぅ…っ

 隣を見ると、ペーちゃんの尻尾がぶわってなってました。

 何その猫みたいな反応…ペーちゃんって、狼だよね?

 豹獣人のマナちゃんは私の背中に隠れてガタガタ震えています。

 ね、猫に怯える豹…っ ←おまけに羊が楯


 今この瞬間(とき)、私達は一つです。

 ミーヤちゃんが怖いって言う、恐怖の感情で。


「みんな、わかっているよね?」

「なっななななななにをだっ!?」

「か、かっ噛み過ぎだゅお、すぺーじょくん!」

「お前の方が噛み過ぎだ、ルイ…っ」

「そんなのどうでも良いよ。僕の話………聞いてる?」

「静かに拝聴させていただきます!!」

「うん、それで良いね。それで、僕の言いたいことだけど…」

「な、なんでしょーかーっ!!」


 もう誰もミーヤちゃんに逆らえない。

 そんな魔法が一時的にかかっているような状況下。

 ミーヤちゃんは、それはそれは麗しき笑顔で言ってのけたのです。


「あいつ、コリアンダーの学級長にはむかついたよね?」


 ミーヤちゃんの清々しい笑顔に、一瞬みんなが凍り付いた。

 確かに思うところはあったけど…っ

 だけど空気を読めるウィリーが、すかさず追従に走る!

 

「それもそうかな! うん、むかついたとも!」

「………あの自己陶酔自惚れ野郎に、目に物見せなきゃ気が済まない。よね?」

「そ、そ、その通りですーっ」


 泣きそうな顔で、ドミ君までが追従して。

 そうして、私達2つの班の方針が、改めて決まったというか…

 別に転換した訳じゃ、ないんだけど。

 燦然と輝く最優先事項が、追加されました。


 ロニー君にぎゃふんと言わせる、っていう。


「ふふふ…僕を侮ったこと、ハンカチを噛んで悔しがると良いんだ。15人の枠は、僕らで潰してあげるよ」

「やばい! ミヒャルトがうっとり微笑んでる!」

「放っといたら直接的妨害工作に走りそうな雰囲気だよ!?」

「わあ、危険信号だね! ミーヤちゃんのいじめっ子節が封印解除される前に!」

「それじゃ、行こう! 全力疾走大急ぎでーっ!!」

「うん!」

「ミヒャルト君が、非道に走る前に…っ」


 幸い、今は1年生全員がオリエンテーリングというイベントの中で1つのことを競い合っている真っ最中。

 全ての課題を達成し、そのタイムを記録する。

 あの偽情報の地図を手に入れたってことは、当てにしたってこと。

 偽の情報を掴まされて少なからず踊ったはずのロニー君達より、きっと私達が断然有利なはず…っ

 その一念で、私達は慌てて走ったのです。


 最後のチェックポイント…3年生の、教室に。




   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「ああ、そうだ。スペード?」

「あ? なんだよ、ミヒャルト。急ぐんだろ!?」

「まあ急ぐけど…それよりさ、次の課題は悪いんだけど僕抜けても良いかな」

「はあ?」

「言ったじゃない。15人(・・・)の枠を潰すって。そこでクイズだけど、僕らの人数は?」

「………10人。5人足りなねぇな」

「先着順に用意されたご褒美…確か全課題達成者が出る度にベルを鳴らすって先生が言ってたよね。でもまだベルは1度もなっていない」

「つまり、15人の枠が丸々残ってるわけな?」

「そう………だから、さ」

「………ロニーが万一にもご褒美を手にする確率を潰そうってことか?」

「流石はスペード。僕を理解してるね。話が早いよ」

「……………先生に叱られるようなことすんなよ」

「スペード、僕を何だと思ってるの?」

「性根の黒い白猫。直接暴力はミルフィー先生が泣くぞ」

「そんなことしないってば。妨害工作は発覚した時のリスクが高いしね」

「…じゃあ、なにすんの?」

「ちょっとした、支援活動?」

「………はあ?」

「ふっふっふ………残り5人の枠を、ちょっと引きずってくるよ」

「やべ。超不穏な気配がする!」

「法に触れることは何にもしないってば」

「拉致監禁だけは勘弁しろ…!」

「ちょっと僕を過大評価し過ぎじゃない? 5人もこんな短時間で拉致れないから」

「……………出来たらやんのか?」

「それじゃ、僕はちょっとした裏工作…じゃない、支援活動に行ってくるから! メイちゃんのことよろしくね? 万が一にも怪我なんかさせないでよ」

「当然だろ! 俺を何だと思ってるんだ!? メイちゃんには傷一本負わせねぇ!」

「ははは、頼もしいね! それじゃあよろしく!」


 そう言って、驚きのすばしっこさで仲間に何も告げずに離脱していくミヒャルトを、うっかりスペードは見送った。


「……………はっ 上手いこと言って逃げられた!」


 気付いても、後の祭り。

 ミヒャルトの姿はもう見えない…

 何故なら、校舎の窓から飛び降りちゃったから。


 幼馴染みを弄して北校舎2階の窓から飛び降りたミヒャルト。

 彼は見下ろす中庭の端に目的の人物を見つけ、ほくそ笑んだ。


「折角僕から奪って見せた地図を、呆気なくあんな奴らに奪われちゃって………さて、あの馬鹿熊は何をやっているのやら」


 セージ組の暫定ガキ大将☆アドルフの身に、危機が迫る…!

 邪悪な白猫が、空から襲い掛かろうとしていた。


 非戦闘、非暴力でも、言葉の暴力&精神被害は馬鹿にならない。

 迂闊な熊っ子アドルフ(8)は、教訓としてそれを学ぶことになる。




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