1-2.必要なもの→
ストーカー予備軍、現役ストーカー、どちらも始動!
ストーカーになるため、必要なものは何かな?
未来への準備として、まずは手に入れるべき要素を考えてみました。
お絵かき用の画用紙に、クレヨンで箇条書きにしていきます。
・強靭な肉体
・何物にも折れない心
・ラストダンジョンでも挫けない戦闘能力
・気取られず、先回りを可能とする用意周到さ
・Lv.カンスト主人公にも気取られない隠密技術
「えーと…あと、何が必要かなぁ」
「め、メイちゃん? 何をしているのかしら~?」
「あ、ママ! あのね、メイね!」
「うんうん、どうしたの?」
「隠密になるために大事なことかんがえてるの!」
「まだ諦めてなかった!?」
がーん、と。
そんな効果音が付きそうな顔で、母。
ストーカーなんて、両親にとっては心臓破り以外の何物でもない単語だし。
親の心臓に負担をかけないため、私は両親に将来の夢は「隠密」だと主張することにしたんだけど…十分、母には受け入れがたい将来の展望だったみたい。
「あのねぇ、ミーヤちゃんとペーちゃんと、かっこいい隠密になるの~!」
「メイちゃん…今度、獣人の女の子達がいるところに遊びに行きましょうね……」
「うん!」
とりあえず、現在は本気ではなく友達間の遊び…
……を装って準備を進めるつもりでいます。
まあ、本気なんだけどね!
母は肩を落とし、ふらふらと庭に向かいます。
多分、お花のお世話に行ったんじゃないかな。
その隙に、5歳児らしからぬ真剣な顔で思案する私。
「うーん………取り敢えず、必要なのはこんなところだとして。これだけ手に入れれば後は追々何とかなりそう…かな?」
全部手に入るかは怪しいけど、努力するだけなら無駄にはならないよね!
それが何かしらの結果に繋がると信じて、行動するのみ!
でも…
「必要最低限、外せないのは武力……
………これを手に入れる為には、やっぱり絶対に必要…だよねぇ」
効率的な訓練方法、だとか。
強くなるための戦闘技術、だとか。
戦う時の心構えと必要な知識、だとか。
どう考えても、それらを単独で手に入れられる気がしません。
気が遠くなるほどの努力と勉強で補えなくはなさそうですが…
でも単独で頑張るのは効率が悪そう、だよね?
というかそれらを独力で…となったら無駄なことばかりして空回りしそうで。
きっと結果が出るまでに、時間は10年じゃ足りなくなっちゃう。
でもそれじゃ、意味がないんです。
だから、やっぱり。
私には必要なんです。
そういった物を指導して、授けてくれる。
私がストーカーになる為の道を、示してくれる。
私自身が強くなるための、【師匠】が。
師匠とか、どこの少年漫画だという感じもするけど。
「……………うん、こんなところで悩んでも意味ないよね」
時間は有限、残り時間はたったの10年!
悩むくらいなら、まず行動しなくっちゃ…!
「ママー」
「あらどうしたの、メイちゃん」
「メイ、遊びにいってくる~」
「5時には帰ってくるのよ、メイちゃん」
「うん!」
麦藁帽子から覗く白いお耳を、ぴこぴこと揺らしながら。
母が私に手を振ってくれます。
私も手を振り返しながら、お気に入りのポシェットを肩に歩き出しました。
以前、師匠を頼むなら誰が良いかな…と考えた時。
何人か思い浮かぶ人はいましたが、全員何かしら都合が悪くって。
最後に思い当たった人は、噂じゃ強いらしいよ~って感じですが。
でもその真偽のほどを、私は知りません。
だからまずは、それを確かめるところから始めましょう。
ついでに、師匠を引き受けてくれるかどうか…簡単な身上調査も。
まずは男の子情報が必要です。
こういう、誰それが喧嘩強いとか、面倒見良いとか。
やっぱり男の子のコミュニティで手に入る情報の方が、精度が高いから。
だからまずは、左に二軒お隣の家へ!
そこにはお友達のペーちゃん…スペード君が住んでいます。
ペーちゃん以外とはあまり遊ばないけれど、ペーちゃんは男兄弟ばっかり5人もいるからバッチリ!
男の子情報を手に入れるなら適任です。
私は情報を入手する目算を立てながら、意気揚揚と左二軒お隣のアルイヌさん家に足を向けました。
「めーい、ちゃん!」
その途中で、声をかけられました。
振り返れば、そこには白い毛並みの猫耳…じゃない、本体はその下その下!
いつもついつい、耳にばっかり目が行っちゃうよ。
「あ、ミーヤちゃん!」
「こんにちは、メイちゃん」
「うん、こんにちは!」
えへへ、と笑うとうふふ、と柔らかい笑みが打ち返されてきます。
卓球のラリー並に素早い反応を、いつも返してくれる。
ミーヤちゃん…ミヒャルト君は、白い猫獣人の男の子。
私の家の右二軒お隣に住む、お友達です。
のったりと白い尻尾をゆらゆらさせながら、ミーヤちゃんは首を傾げます。
思わずついつい、その尻尾の動きを目で追っちゃうよー。
「ねえ、メイちゃん? どこに行くの?」
「あ、うん。ペーちゃんのおうちに行くの」
「スペードの? ………チッ」
「…うん?」
何か今、不穏な……うん、ミーヤちゃんが舌打ちなんてする訳ないよね!
だってまだミーヤちゃん、6歳だし!
それにこんなに白くて可愛いし!
「ねえ、メイちゃん。スペードのとこに行くのに、僕はさそってくれないの?」
「え? さそう?」
「うん。スペードとだけ遊ぶつもりだったなんて…妬けちゃう、な」
ちら、とこちらを上目に見ながら、足下の小石を蹴るミーヤちゃん。
もう、6歳児が何を言ってるんだか。微笑ましいなぁ…。
「でもミーヤちゃんも、ペーちゃんも、お約束しなくてもいつも集まってるし…
呼ばなくても来ると思ったし」
「じゃあ、僕も行って良いよね?」
「え、と…メイに許可はいらないよ?」
「僕もついて行きたい、な!」
「うん、それじゃあ一緒にいこー」
男の子の情報を探るんだし、意見を言ってくれる子は1人でも多い方が良いよね♪
ミーヤちゃんはアルイヌさん家の兄弟とは趣が違うし、違った意見が聞けそう!
うんうん、私の目的にも適っています。
「メイちゃん、おててちょうだい?」
「うん!」
ミーヤちゃんが自然に手を出してきたので、それに私も手を重ねて。
2人で仲良く、ペーちゃんの家を目指しました。
白い子羊の獣人と、白い子猫の獣人がお手々繋いでちょこちょこと……
傍目にはとってもほのぼのしちゃう光景だろうなぁ…
何だか、私までほのぼのしてきそう。
「~~♪」
「メイちゃん、ごきげんだね」
「うん!」
「そんなにスペードと遊ぶの楽しみ?」
「んーん? 今日はねぇ、ペーちゃんの兄弟にもご用なの」
「ふぅん…? スペードの兄弟? ………どの子?」
「みんなー」
「え、全員? スペードも入れたら6人だよ?」
「うん。今日はね、聞きたいことがあるのー」
「へえ? 何を聞くの…?」
「えっとねー………あ、ついたよ!」
そうこうしている内に、到着!
やっぱりご近所さんなので思いっきりすぐそこです。
ペーちゃんの家、アルイヌさんのお宅。
犬獣人のパパさんと狼獣人のママさん、それから6人の男の子が住んでいます。
あはは、羊の獣人にとってはラストダンジョン並に危険な場所に感じるよー…?
私は木造建築の上り口によじ登り、呼び鈴を引張りました。
カランカランと、可愛い音が響きます。
「ペーちゃん、あーそーぼっ!」
「…ッ メイちゃん!」
途端、バンっと開かれる扉。
わあ、タイムラグがありませんでしたよ…?
窓から私達の姿にでも気付いていたんでしょうか。
「メイちゃんメイちゃん! いらっしゃい」
「はーい、いらしました!」
「やあ、スペード。こんにちは」
「…なんだミーヤも一緒か」
「もう、御挨拶だなぁ…」
「まあいいや、いらっしゃい!」
ペーちゃんの尻尾が、ぶんぶんぶんぶん犬のように揺れています。
おかしいなぁ……ペーちゃんはママさん似の、ワイルド狼獣人の子供の筈なんですけれど…この反応は完全に、孤高の狼というよりは犬です。
「待ってて! すぐに出かける用意する。今日はどこに行こっか!」
「あ、ペーちゃんまってまって。今日はね、ペーちゃんのお家がいいの」
「え゛…っ うち?」
ぴたっと。
それまで喜びを盛大に表していた狼の尾っぽが動きを止めました。
わあ、露骨にあからさま。
顔も何だか嫌そうな感じです…。
やばい…お家に上げてもらえなかったら、目論見がご破算です!
「だめぇ…?」
子供って、涙腺緩いよね。
ちょっと悲しくなったら、それだけで目がうるうるしちゃう。
中身は結構な年でも、私だって体は5歳児。
ついつい涙目になっちゃって、でもそのままペーちゃんをじっと見上げます。
良いよね、良いよね、駄目なんて言わないよね…と。
そんな思念を眼差しに込めて。
「う、うぐ…っ」
何故か、ペーちゃんが胸を押さえました。
どうしたんだろう??? 不整脈?
まだこんなに若いのに、どこか悪いのかな…?
それから程無くして、ペーちゃんは快く私を家に招き入れてくれました。
顔が引き攣ってたけど、やっぱり何か駄目だったんじゃないのかなぁ…?
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「スペード、いいよって言っちゃうんだもんな…」
「し、しかたないだろっ!? だって、だってメイちゃんが!」
「むー…ちょっとムッとしちゃうけど、仕方ないか」
「ああぁぁぁ…家には入れたくなかったのに」
「いいよって言ったの、スペードじゃないか」
「だってメイちゃんが!」
「だからそれはわかってるよ」
「うぅぅぅぅ…」
「唸らないでよ、毛が逆立っちゃうじゃないか!」
「はあ…うちの野郎共に、メイちゃん見せたくないなぁ……」
「もう諦めるしかないよ…」
「何でうち、男ばっか6人兄弟なんだろ…」
不満げな会話を、こそこそ交わして。
私の見ていないところで溜息を吐く、2人のお友達。
そんな彼らの姿を完全に見逃し、私は彼らの不満に全く気付きませんでした。
メイちゃん(Lv.2)
職業:ストーカー見習い
HP15 MP3
攻撃力5 防御力3
敏捷15 幸運7