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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
7さい:アカペラ第1初級学校の春
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4-6.オリエンテーリング2

今まで溜めていたストックを予約投稿していたのですが………


  ストックが、切れました。


よって次回以降は申し訳ありませんが、不定期更新になります…。



 さてさて、オリエンテーリングの制限時間はまだまだたっぷりあるけれど。

 私達は順調にチェックポイントを回ります。

 課題はそれぞれ楽しいものが多くて、概ね楽しんでいます。


 1番目に行ったのは、屋外運動場…まあ、普通の運動場です。

 そこには何人かの先生が、にこにこ顔で立っていました。


「ここの課題は長縄だよ。みんなで一緒に、50回跳べるかな?」


 …それは挑戦と受け取って良いですね?

 

 そうして始まった長縄は、意外に強敵でした。

 おっとりさんのクレアちゃんが引っ掛かったり、引っ込み思案なマナちゃんが入りそびれて引っ掛かったり。

 マナちゃんはタイミングさえ取れれば問題なさそう。

 そつのないウィリーとソラちゃんが手を繋いで、一緒に跳ぶことになりました。

 問題はクレアちゃんです。

 ………クレアちゃん、運動神経鈍い。

 なので私がおんぶしました。


「え、ちょっ…それで跳ぶのかい!?」


 先生からツッコミが飛んで来ましたが、個人的に問題に感じなかったのでぐっと親指を立てて頷いてみました。

 特に背負っちゃダメとか言われてないし!

 

 先生は難しそうな顔をしていましたが、大丈夫だと言い張って押し切りました。

 ヴェニ君との修行のお陰で体力も腕力もUPしたから大丈夫…!


「え、えーと、それじゃ…ゆーうびんやさん♪ゆーびんやさん♪」

「「「「「はがきが50枚おーちまーしたー♪」」」」」


 落し過ぎ。

 落し過ぎですよ、郵便屋さん!


 こんな感じで、私達とミーヤちゃんやペーちゃんの班は運動音痴さんを出来る子がカバーする形で仲良く長縄を終えました。

 ペーちゃん達の班はドミ君だけが飛べなくて、一番年長のカルタ君がおんぶしてあげたそうです。

 メイがクレアちゃんを背負ってる姿を見て、真似することにしたんだって!

 お陰で手早く終わったって褒められちゃった。えへへ♪


 課題クリアの証に、私達はそれぞれ同じ言葉の書かれた札をもらいました。

 書かれた言葉は『政治』。

 …オリエンテーリングのテンションが下がりそうな言葉です。

 なんなのかなって首を捻ったけれど、各班に1枚ずつ配布されている課題用紙の裏を見てピンときました。

 このよくわからない、四角を連ねた図形!

 えーと、課題番号が『1』だから、1の升目に縦書きで『せいじ』…っと。

 それじゃ次の課題に行きましょう!


 第2の課題は、南館にある温室での宝探し。

 探すのは、『マンドラゴラ』です。

 各班1つ苗を確保しないといけないんですけど、この苗、放っておいたら自力で移動するという厄介な植物さん。

 暫くバラバラに分かれて探したけれど、上手く見つかりません。


「むー…マンドラゴラって、どんな場所が好きなのかなぁ」

「好きな、植生…?」

「ん? ドミ君、どうしたの?」

「そういえば、マンドラゴラの好む環境って…」


 本を読むのが好きだっていうドミ君が、マンドラゴラの生育条件を思い出してくれました。それまではマンドラゴラがどんな植物かも曖昧だったんだけど、ドミ君の知識のお陰で何とか捕獲できました。

 うん、この課題もスムーズにやれたかな♪


 第2の課題で貰った札には、『仮設』と書かれていました。

 やっぱりオリエンテーリングの楽しい空気にそぐわない…。

 誰でしょうか、この札を用意したの。

 ………なんとなく、サリエ先生の様な気がします。偏見かな?


 私は課題用紙の裏の升目に、『かせつ』とさらさら書き込みました。


 その後も資料室で資料を元に簡単な暗号を解いたり、中庭で沢山の胸像の中から今のご領主様の像を探したりと、楽しげな課題をこなしていきます。

 大体の場所にはチェックポイントを示すマークのついた旗と、その下に課題を記した看板が設置されていました。

 でも保健室に行った時は、保健室の先生がいただけ。

 課題は、保健室の先生から出題される衛生クイズ10問でした。

 ドミ君やミーヤちゃん、カルタ君が大体の答えを知っていたので難なくクリア!

 課題達成の札を貰いながら、ふとミーヤちゃんが質問を投げかけます。


「先生、他のチームの進捗状況って聞いても大丈夫ですか?」

「あら? やっぱり気になる?」


 ミーヤちゃんの質問に、保健室の先生は笑って首を傾げます。

 さらさらと肩を流れた髪が、物凄く綺麗。

 思わず見蕩れる、私たち女の子。

 だけど男の子たちは全く頓着しないんだよね…。


「今のところ、目立って先行している子達はいないみたいよ? 保健室に辿り着いたのは貴方達が3番目ね」

「ちなみに、僕らより先に来たのって熊の獣人じゃありませんでした?」

「アドルフって名前で、鳥の獣人とか鼠の獣人を子分に引連れた…」

「あら、お友達? よくわかるわね。1番目に来たのがその子たちよ」

「ああ、やっぱり…何も考えず、無計画に動いてるみたいだね」


 そう言うミーヤちゃんは、何だか凄くつまらなさそうなお顔。

 よくよく話を聞いてみると、地図のチェックポイントの効率とか考えないアドルフ君に苛々しているんだって。

 ………地図の1番上に『保健室』って書いておいたから、素直に上から順に巡っているんだろうなってことみたい。


「全く…せっかく汚い手を使ったくせに張り合いがなさ過ぎる」

「ミーヤちゃん基準での張り合いを求めるのは、ちょっと酷じゃないかな…」

「先生、他に来たもう1組っていうのはどこなんですか?」

「貴方達、確かセージ組の子達よね? 貴方達の前に来たのは…確か、コリアンダー組の級長達じゃなかったかしら」

「学級長…つまり、ドミ君と同じポジションか。隣のクラスの級長は頭が良いって聞いた覚えがあるし、そんなに早く保健室がチェックポイントだと割り出したのなら………少しは使えるのかな? 張り合いがある相手だと楽しいんだけど」

「ミヒャルト、顔、顔。邪悪さが隠しきれてねーぞ」

「邪悪だなんて失礼なこと言わないでくれる、スペード? 僕はただ、オープンに黒いだけなんだから。黒いなりに、状況を楽しんでいるんだよ」

「少しは隠せよ、8歳児」

「ミーヤちゃん、まだ見ぬ強敵を求めてるなんて、向上心ばっちりだね!」

「メイちゃん、その反応はどうなんだ…?」


 私達は情報の提供にお礼を言って、保健室を後にしました。

 課題をこなすごとに集まる札も、気付けば5枚。

 全部で10枚あるそうなので、気付けばもう半分も集まっています。

 ちなみに書かれた言葉はそれぞれ『生き血』『澱み』『苦無』…なんでもっとオリエンテーリングっぽい、キラキラでわくわくな言葉にしてくれないのかなぁ。

 ラインナップが不穏過ぎて、肩が下がります。

 そういえばどうでも良いことですが、サリエ先生の武器は苦無だとか何だとか…いえ、やっぱりどうでも良いですね。

 課題の半分をクリアして上がるテンションと、課題達成を示す札の言葉で下がるテンションが、どうにもチグハグで気持ち悪…。

 さっさとこんなオリエンテーリング、クリアしてやる!

 そんな気持ちで意気揚揚、私は次の課題を求めて歩を進めます。


「あら、姉さん」

「あら、クレア」

「………エレナ従姉さん、何してるの」


 意気ごみ込めて、歩きだしてそんなも経たない内に足は止まりました。

 ぴたり立ち止まったクレアちゃんの正面には、クレアちゃんによく似た女の子。

 会話の文脈と名前から察するに、どうやらクレアちゃんの姉のようです。

 年齢は、クレアちゃんの1歳上。

 だけど学年は2年生なんだそうです。


 ………うん、エレナちゃんも、2回留年したんだって。


 ソフィアさんによく似た、おっとりお姉さん。

 何だか見ているだけで眠くなりそうなほのぼのお姉さんは、にこやかな笑顔でミーヤちゃんを抱きしめます。


「まあ、みーちゃん。かわいいかわいい」

「うわっ ちょ、やめてくれない!?」

「かいぐりかいぐり~」

「やめてって言ってるでしょ!?」


 本物の猫そっくりに、ミーヤちゃんが喉から威嚇音を高く上げています。

 だけどエレナちゃんは全然気にした様子もゼロで。


「あらあら、みーちゃん? 女の子がはしたないわよ?」

「僕、男だよっ!」

「あら? そうだった? でも可愛いんだもの。女の子ってことにしましょ?」

「絶対に嫌だ」


 ………エレナちゃんって、ある意味無敵かもしれない。


 あの性格のきついミーヤちゃんを相手に、この態度。

 特に入学以降ミーヤちゃんと関わる様になった皆は一様に衝撃を受けた!って顔をしています。うん、戦慄し過ぎじゃないかな。


「ところで皆は何してるの~?」

「それは僕が聞きたいところなんだけど。エレナ従姉さんこそ、何してるのさ」

「私はね、2年生になったから~」

「…?」

「2年生の半分は、1年生のオリエンテーリング中は学校の色んな場所に潜むのよ~。2年生から1年生への課題は、毎年『かくれんぼ』なの❤」

「かくれんぼ?」

「あ、そう言えばクレアもみーちゃんも1年生よね!」

 

 ぽん、と両手を合わせて。

 いま思い出しましたという様子で、エレナちゃんが微笑む。


 オリエンテーリングのチェックポイントに、『2年生』『3年生』って言葉があったけど…『2年生』の課題が、かくれんぼ?

 どうやら学校中に潜む2年生を2人以上見つけ出すというのが課題のようです。


「かくれんぼの子以外にも、ほら、私と同じ腕章をつけた子が学校中にいるのよ」


 エレナちゃんが示したのは左腕の緑の腕章。

 そこにはわかりやすく、『2年生』の文字。

 そういえば、今までにもちらほら校舎内で見た気がする。

 迷子の誘導をしていたし、特に用もなかったからスルーしてたけど…


「ほら、1年生ってまだ学校に不慣れで、迷っちゃう子もいるから。私達2年生が校舎内に散らばって、迷子をお助けしちゃうのよ」

「それはご苦労様だけど、エレナ従姉さん、ここで油売ってて良いの?」

「大丈夫。実はね、私達もチェックポイントの1つなの♪」

「「「「「え」」」」」

「校舎内にいる私達に、ちゃんと1年生として丁寧な態度を取れた子とか、この班なら良いかしらって思えた班に、札を渡すことになっているの」

「………つまり、2年の先輩方は僕らの行動を見て計る、審査員みたいなものか」

「私達が認めた子には赤い札を渡すの。それからお助け情報をあげちゃうのよ。例えば、他に2年生が隠れていて、その子達が黄色い札を持っていることとか❤」

「つまり、用もない必要ないからってスルーばかりしていたら、情報を得られず全部の課題をクリアできない…?」

「そういうことになるかしら。みんながまだ赤い札を持っていないのなら、エレナおねえさんがオマケしてあげる♪」


 そう言って私達に渡してくれた札には、『リラ』と書かれていました。

 それを受け取るミーヤちゃんの顔は、とっても複雑。

 貴重な情報を感謝しながらも、完全に効率重視でいたら完璧に見落としていた状況に、微かに眉間へと皺を寄せています。

 計画では、途中で2年生の教室に行ってみようってことになってましたが…

 その場合は、エレナちゃんがくれたのと同じ情報を渡されるだけで、札は1枚も収穫できなかっただろうとのこと。

 それは………下手したら、物凄いタイムロスを招いていたかも。


「それじゃあ、頑張って2年生を見つけ出してね❤ 時間が経つと2年生も1人ずつ教室に帰ることになってるの。時間が経つほど見つけ難くなるから注意してね」

「……貴重な情報ありがとう、エレナ従姉さん」

「ううん。みんな、それじゃあ頑張ってね❤」


 時間が経つ毎に、持ち場を離れる2年生…。

 もしかしたらこのオリエンテーリング、制限時間は私達が思うよりずっと短いのかも知れません。


「どうする? 隠れてる2年生を探さなきゃならないって…」

「でも隠れてる人を探して無暗にうろうろしても、無駄に時間が過ぎちゃうよ」

「…2年生なら、持ち場が重ならないように配置図を用意してるんじゃねーの?」

「「「「「……………」」」」」


 今度は何を言い出すのかと、何事か言いだしたペーちゃんに皆の視線が集まります。だけどミーヤちゃんだけが、流石の息の合いっぷりで意を得たものと当然の如く悪い笑みを浮かべました。


「よし、それじゃあ2年生の先生の所に持ち場の配置図を強奪に行くよ」

「ちょっと待ってー!?」


 肉食な笑みで先生を襲撃に行こうとするミーヤちゃんとペーちゃんの物腰は、物凄くナチュラルでした。ちょっと、そこの肉食獣2匹ー!

 そんな物騒な2人の腰に、思わずといった体でドミ君がしがみ付きます。

 ドミ君1人で止められるものでもなく、結局は全員がかりで羽交い絞めです。

 ………無茶をしないようにと2人の腕を抱え込んだら、何故かうっとりとした笑みを向けられました。

 え、2人とも何その反応…!?

 一瞬、Mのひとが降臨したのかと背筋を悪寒が走りました。


「ねえ、2人とも! なんでそう、無茶な解決法に走ろうとするの!?」

「それが一番手っ取り早いから?」

「うちの母さんは欲しいモノは奪いとれって言ってたぞ」

「さ、流石アマゾネス………って、それは君のお母さんのことでしょ。でも学校は協調性が必要なんだよ! 欲しいからって奪ってたら、皆に嫌われるよ!?」

「大丈夫だ。TPOは弁えてるし、そうそう簡単に強奪なんてしねぇよ」

「今まさに山賊の如く先生を襲いに行こうとしてたよね!?」

「俺、TPOは理解できる狼だけど、ミヒャルトとは盟友だから」

「………2人とも、冷静に見えるから性質が悪いなぁ」

「ドミ君、ドミ君、ミーヤちゃんもペーちゃんも素だから」

「メイちゃん…君も止めてよ」

「止めてるよ、物理的に!」


 失礼な。

 こんなに一所懸命引き留めてるのに、見えないんでしょうか。


「説得手伝ってよ」

「みゅ? あ、そうだね! うん、メイ頑張る!」


 ドミ君があんまり疲れて見えたので、とりあえず指示に従います。

 確か、ママはこうやってこの2人を止めてたよね…

 ママの真似をして、2人のおでこを指でツン!


「ミーヤちゃん、ペーちゃん、めっ!」

 

 ………効果は劇的でした。


「ごめんな、メイちゃん! これからはミヒャルトが変なことしても止める!」

「ごめんね、メイちゃん! 僕も、もう先生に悪いことしない!」


 ………なんだろう。なんか喜ばれた。

 何だか意図した方向とは全然違う効果が出ました。

 いえ、効果自体は高かったんですよ?

 2人も心の底から思い直してくれたっぽい気はするし。

 でも何か、腑に落ちない………

 なんだか軟体動物(くらげ)みたいになった2人に、私は正直気持ちが冷めていくのを感じていました。





保健室の先生 26才独身(♂)

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