幕間.ヴェニ君の心労
その頃ヴェニ君は…
「今日はメイ達の入学式か…」
そう呟いた翌日。
俺はなんでか森に居た。
いや、なんでとか言ってるけど、理由が分かってないって訳じゃないけどな。
けど、この状況に溜息しか出ねぇ。
現実逃避だ、現実逃避。
「おい、この辺は思いっきり戦闘素人用の区域じゃねーの。本当にこっちかよ?」
「だから言っただろ…俺ら初心者用のエリアから出てないのに襲われたって」
「そりゃ、確かにそう言ってたが…この辺りに魔物なんて出るか? 今まで聞いたこともない」
「だから、出たんだよ。出たからこうして調査に来たんじゃねーのかよ」
「まあ、そりゃそうだが…」
現在。
本気で不本意極まりねーが………俺は魔物の異常発生が起きていないかを調査する目的で派遣された、アルジェント領軍と警備隊の混合調査隊に同行してる。
理由は簡単。
俺が魔物に遭遇した一行の1人で、どこでどう遭遇したのか詳しく案内できるのが俺だけだったからだ。
まさか初級学校に入学したばっかの、チビ共を同行させる訳にゃいかねーし?
俺もそこのところはちゃんと弁えてるんで、渋々だが大人しく同行していた。
それに万一魔物が出ても万全の体勢で迎え撃てるのは、あの面子で俺だけだろーしな。そう自負できるくらいには腕に自信があったし、シュガーさんにもその点は認めてもらえてたってところだろ。
あの人はあれで公私はきっちり分けてるから、嫌がらせで同行させられた訳でもねぇしな。まさか娘の師匠だからって、私怨で危地には送んねー…はず。
魔物の出現地点が街に近すぎるし、もしも魔物が大量にいたらさっさと始末しないといけねぇ点から、やむなくの選択だろ。
治安への協力は民の義務ってことで、俺も協力すんのは吝かじゃねえ。
けど、調査隊のメンバーがウザ過ぎた。
「ちょっと、自警団の…エドガー殿? 貴方は報告書にきちんと目を通されなかったんですか。常には考えられない非常事態が起きたからこそ、こうして自分達は派遣されたんですよ。そこは弁えていらっしゃいますか」
「チッ…俺はエドガーじゃなくってエディガルドだって言ってるだろ。毎回毎回…絶対にわざとだろ、あんた」
「失礼? 自分も物覚えが悪いものですから…今も、貴方が顔を覚えられないんですよ。有事の際に魔物と間違えて殺してしまわないかと冷や冷やしています」
「ははははは…奇遇だなぁ? 俺も物覚えが悪いんだよ。だからちょっと胸貸してくれや、アルジェント領軍魔物対策本部の少尉殿? なぁに、ちっと目印にナイフを刺すだけで返してやっからさ」
「ふふ…だったら自分は是非とも、エドガー殿の喉笛を貸していただきたいですね。穴の5つでも開けたら、それこそ笛らしくなって今よりずっと良い音色で鳴くようになるでしょう」
「おいこら殺す気か」
「それは逆に此方がお聞きしたい」
アルジェント領軍の魔物対策本部所属少尉、ルッツ・コルベスタ。
アカペラの治安維持部隊…通称警備隊所属、エディガルド・レイ。
なんでか喧嘩するんだよ、この2人がさっきから、さっきから!
お陰で凄ぇ空気悪くて、どんどん殺伐としてくる…。
事あるごとに衝突する2人に、調査隊に参加した全体がうんざりしていた。
「あれ、何とかなんねーの…?」
「諦めろ…アレで有能だから、みんな我慢してんだ。それにあの2人、顔を合せて張り合ってる間が1番役に立つしな。うぜーけど」
「上手く作用し合って実力以上の能力を発揮するのは歓迎する事態だが…あの険悪な空気を我慢するのは周囲の士気が下がるので、一緒に配属しないでほしいと上には頼んだんだがな…」
「ああ、うちの上司にも言ったわ、それ。けどどうせ返ってきた返事も、俺らんとこと大差ねえだろ?」
「毎回、同じ言葉で退けられるな…『この方が使えるんだから、我慢しろ』と」
「自分は一緒に行動しなくて良いからってよ…まあ、うちの姐さんにゃ逆らえん」
「自分達の方も、ネコネネ少佐が容赦なくてな…」
「うわぁ…弟子共の保護者からの嫌がらせかよ」
警備隊と、魔物対策本部…上司同士の仲が良く、訓練だ演習だと一緒にこなしているせいで、共に行動する機会がアルジェント領軍中1番多い組み合わせらしい。
お陰であの2人の仲の悪さは周知のレベルだと…勘弁しろよ。
実際に顔を合わせると手柄を競いあって凄ぇ勢いで活躍するらしーけどな…?
一緒に行動するこっちとしちゃ、マジで勘弁しろとしか言いようがねえ。
「あの2人、昔から仲悪ぃのかよ」
「昔からだな。なんか初級学校の同級生だったらしーぞ」
「…何でもエディガルドが告白されて初めて付き合った女性はルッツが秘かに想いを寄せていた幼馴染だったらしい。そして三角関係がこじれて、エディガルドと件の女性はすぐに破局したとか」
「あ? 俺はエディガルドの初恋の相手がルッツに告白して付き合いだした結果、三角関係がこじれて修羅場になったって聞いたぞ?」
「自分は2人が同時に1人の女性を好きになって三角関係がこじれて刃傷沙汰になりかけたって聞いてますけど」
「こっちは清純そうなお嬢さんに二股かけられて、相手が互いだったとかなんとか…そんで三角関係がこじれて決闘になったと」
「似たような噂なら私も聞きましたよ? 慕っていた女性に彼氏と別れたい旨の相談を受けて、対応したら…三角関係がこじれた、と」
「僕の方は…」
ちょっと尋ねてみたら、同行していた魔物対策本部と警備隊両方の奴らから似たような話が出るわ出るわ…
え、それ結局どれがホント?
というか、全部話の落ちは「三角関係がこじれた」なのな…。
っつうか、なんで全部三角関係必須なんだよ…
「結局、どれが本当の話かわかんねー…」
「「全部です」」
「「「「「!?」」」」」
自分達の憶測も含み、流れているらしい噂の報告会と化していた。
小声でやってたけどな…やっぱ、集団行動中なら聞こえるだろ。
聞き咎めたらしい2人が、こっちを見ている。
………っつうか、今あの2人、なんつった?
「え? ワンモア!」
「だから、全部です」
「………ぜんぶ…?」
「あー…13歳の時の逸話と17歳の時の逸話が抜けてたけどな」
「8歳と9歳、21歳の時の逸話も抜けてますよ。だけど今、ここで聞こえてきた噂は全部本当です」
「げ、マジかよ…」
………ああ、そりゃ仲悪くなるわ。
っつうか、アレ全部本当とか、何この2人。
逆に凄ぇ気ぃ合ってんじゃねーの?
しかもあれだけ△エピソードが募って、殺し合いに発展してねぇあたりはまだギリ友好的なのか? これで。
過去の逸話が掘り返されたせいで、2人の険悪さと辛辣さが鋭さを増す中。
俺らはこんなところでこんな話すんじゃなかったとげんなり後悔まみれ。
この上はさっさと仕事こなして帰りてぇ…。
だけど街周辺を隅から隅まで調べ倒す為、調査隊は明日も明後日も出動だ。
むしろ野営しながら1週間かける予定って話なんだよな…。
三角関係って点は同じだよな。
弟子共の方はあんな和気藹々として…って、そっちの方が異常か?
あっちはけどメイが気付かずスルーしてっからな…。
他人を巻き込んで気分を悪くさせねぇって点だけだが、なんか無性に弟子共を褒めてやりたくなった。
とりあえず恋愛絡むと人ってこんな面倒臭ぇのな。
恋愛こじれるとどうなるのか見本みたいだぜ。超怖い。
女に興味が出てきても、絶対に軽々しく手を出したりはすまい。
………壮絶な見本を見ることで、恋愛の怖さってやつを体感した俺は、12歳にして固く固く決意した。
迂闊に手を出して、泥沼にはまったら洒落にならねぇ…。
本当、この2人みたいにだけはなって堪るか…!
恋愛は慎重に、よく考えないと危険だ!
っつうか、この2人と一緒に集団行動とか。
こんなドロドロした因縁抱えた奴らと1週間とか。
本当に、マジ勘弁してくれよ………
【アルトヴェニスタの運命『非行:女遊び』が消滅しました】
【アルトヴェニスタの運命『非行:女遊び』の設定が無効になります】
【アルトヴェニスタの運命に修正が入ります】
【アルトヴェニスタの運命『非行』『無効:怠惰/不信/動物虐待/女遊び』】
【アルトヴェニスタの運命『非行』の有効設定は現在4つです】
【アルトヴェニスタの運命『非行』『有効:無職/暴力/自傷/虚言』】
メイのパパ、公私混同はしない男。
…公私が別れすぎてて、もはや仕事中は別人。