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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
7さい:アカペラ第1初級学校の春
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4-3.豪華な父兄




 何だか意外な短時間で打解け、解け込んじゃったウィリー。

 ………この社交力、本当に2人に見習わせたい。

 2人が全く嫌な顔をしないので、私も一緒に4人でおしゃべりです。

 私とウィリーがちょっと遠いけど、ね。


「あ、そだ。ねね、知ってる?」

「主語を言おうね、ウィリー。何を知ってるかって?」

「やだなぁ…教室中、皆持ちきりで噂しちゃってんのに、ここに情報から隔絶された3人組がいるよ。もーちょっと周囲に耳を傾けたら? 君達」

「んー? メイ、お耳は良い方よ? 小さな噂もばっちりキャッチ!」

「…メイちゃんは、遠くの声は拾えても身近な声は見落としがちと見た」

「え?」

「うーん、何でもない。これ以上はちょっと2人に恨まれそうだし?」

「???」

「――それでウィリー? 何を知ってるって?」

「うわ、ちょっそんな怖い顔しなくっても良いじゃん」

「良いから、キリキリ吐けや」

「もー怖いなぁ…じゃあ教えてあげるけど、あのさ! 今日の入学式、あの『ひとり機動兵』バロメッツ大佐が保護者席に居たんだって!」

「…ん?」

「「………」」

「あれ、反応悪いなぁ…あのバロメッツ大佐だよ? あの!」


 ………わーお。パパってば有名人。

 うちの父は10歳にもならない子供の間でも知れ渡ってんですか。

 私としては「あの(・・)」と強調される内容の方が気になるんだけど。

 私の父には、一体どんな評判が付き纏って…?


「ほら、僕達の生まれるちょっと前の戦争で大活躍して、一躍出世街道を驀進したって噂の現場叩きあげ! 一般人としては憧れちゃうよー」

「おおぅ………予想以上の武勇伝。大人気だ、『バロメッツ大佐』」

「当然だよ? まだ若いから子供がいるとか思わなかったけど…入学式に来てたってことは、小さい兄弟か子供がいるってことだよね! 凄いなあ…どんな子だろ。このクラスには馬の獣人はいないからきっとコリアンダーかガラムマサラ、どっちかのクラスだよね」

「あ、あはははは…」


 ごめんよ、ウィリー…

 貴方が妄想逞しく夢想を巡らせているところ、悪いけど。

 それ、その子供、私なんだよー…?

 もう、乾いた笑いしか出ないや…。

 ああ、ほら、ミーヤちゃんやペーちゃんも微妙な半笑いになってる。


「しかもバロメッツ大佐だけじゃないんだよね!」


 まだ何かあるんですか。


「凄いよ! ネコネネ少佐とアルイヌ夫妻もいたって言うんだから!」

「「「……………」」」

 

 あ、ミーヤちゃんとペーちゃんも固まった…。


「本当、凄いよねえ…随分と豪華な組み合わせでさ。あの(・・)人達の子供が同学年とか、緊張するかも…どんな子かなって、他のみんなもずっと噂してるのに…本当に気付かなかったんだ、3人とも」

「……………あはは…」


 わー………メイちゃん達、ずっと噂されてたんだー…

 いつの間にか噂の渦中だー…

 きっと今、私の目は死んだ魚並の鮮度を誇っていると思います。


「ん? あれ、そう言えば君達も獣人だよね。見たとこ、猫と犬…」

「狼だ!」

「ごめん、冗談。でもそっか、もしかして2人が噂の子じゃないだろうね?」


 う、うふふふふふふ…☆

 冗談めかして尋ねてくるウィリーだけど、それ冗談にならないから☆

 ってか、2人じゃなくて3人全員が当人ですから。

 否定できない、でも肯定したくない。

 そんな気持ちの透けて見える2人は、微妙な顔をしています。

 その空気を、察したのでしょうか。


「え、マジで?」


 うん、察しが良いよね、ウィリー。

 空気の読める子は長生きしますよ。

 私達の微妙な笑顔。

 それが伝染したように、驚きでウィリーも何とも言えない顔をしています。

 不思議な沈黙、いらっしゃいませー。

 そう、したら。


「ねえねえ、貴方達! 何の話してるの? もしかしてネコネネお姉様の話っ?」


 今度は別の子に話しかけられました。


「え? お姉様?」

「あ、ごめん! いきなり話しかけてびっくりさせちゃったわね。私、ソラ。

ソランナ・コルベスタよ!」


 いきなり斜め後ろ…ミーヤちゃんの後ろの席から、声。

 話に割り込んできたのは快活な印象の女の子…ソラちゃん。

 両耳のピアスがカチューシャの飾りとお揃いで、おしゃれな印象の子です。

 それに種族!

 魔人の子ですね…魔人は魔法が得意な種族で、獣人よりも数が少ないんです。

 色々と印象が強いのですが、それらがいっぺんにやって来て、私はちょっと目を白黒させてしまいました。

 面食らった私に、彼女が申し訳なさそうな顔をします。

 聞き捨てならない話題を耳にして、思わず食いついちゃったって感じだけど…その食いついたネタが、『ネコネネお姉様』とな。


「………お姉様って歳でもないと思うけど」

「はあ!? 何言ってんのよ! ネコネネお姉様はいつまでだって『お姉様』よ!」

「はあ……『ネコネネ少佐』の信奉者(ファン)だね。たまにいるんだよ、こういう女のひと。母親ほども年齢が離れてるのに、『お姉様』とはね」


 うんざりした顔を、隠しもしないミーヤちゃん。

 確かに、ミーヤちゃんママは女の人にモテそうだよね…

 なんたって外見、キリリと凛々しい男装の麗人で。

 性格は女性に対して完璧な紳士の、女性優遇主義者だし。

 …この街にも何かの折に接触したとか姿を見たという理由で、ミーヤちゃんママに情熱を捧げるファンがたくさんいるそうです。

 ………毎日届くファンレターの処理に、困るくらい。

 ママさん自身には、『お姉様』になるつもりなんてなさそうなんだけどねー…。


「聞き捨てならないわね! どなた? お姉様を年増呼ばわりされた方は!」


 おっと…なんか、飛び火した。

 飛び火して、二次災害が………

 というか、誰もそこまで言ってないよ!?


 いきなりの苛烈な声に、たじっとなる私。

 そんな私の反応を見て、ミーヤちゃんとペーちゃんが苛っとした目を声の発生源に向けました。


 それほど大きな声で話していたつもりは、更々なかったのですが。

 私達の会話に食いついて、全然別のところから上がった声。

 場所はウィリーの前の席。

 教室ど真ん中の最前列、教卓の前を陣取るその場所。

 そこに、椅子から立ちあがって此方を睨みつける、『お嬢様』が1匹いました。

 うん、薄茶色の髪の毛を縦ロールにした、典型的『お嬢様』みたいな子が…。


「うわ…ローズメリア商会のロクシアーヌお嬢さんだよ」


 こそっと、私達にウィリーが耳打ちします。

 どうやらあのお嬢様のことを、ウィリーは知っているみたい。


「ウィリー、あの子どんな子?」

「けっこう激しい」

「OH…」


 見たところ人間の子みたいだけど、初対面の初っ端に獣人の子に喧嘩を売る当たり、確かに激しい…。

 獣人は子供でも人間より力が強いし、幼い分だけ自制心とか理性とかは未発達。

 子供同士の喧嘩で事故に発展する場合があるから、幼少期は同じ種族の子供で固まって遊ぶことが多いんだけど…あの子、その辺りのことわかってるのかな?

 …まあ、喧嘩を売られたミーヤちゃんは、自制も理性もしっかりしてるけど。


「…見た限り、猫獣人の子ね? 同じ猫の獣人ならネコネネお姉様の素晴らしさがわからないとは言わせませんわよ。年増と言ったその言葉、訂正を要求致します」

「誰も年増とまでは言ってないよね…? ちゃんと話、聞いてた?」

「まあ! 私は他人の話に聞き耳立てるようなはしたない子じゃないわ!」

「じゃあ他人の話に首突っ込まず、大人しく聞き流せば良いのに」

「それがネコネネお姉様の話となると、黙ってはいられないわ! 貴女のその、失礼な物言いだって我慢ならない!」

「貴()……………? どっちが失礼なんだよ」

「私が無礼者だとでも!?」

「少なくとも、不躾ではあるよね?」

「まあ…っ!!」

「――ちょっと止めなよ! 喧嘩しないで!!」


 おっと、更なる乱入が!

 …というか、仲裁かな?

 舌戦の苛烈さ増そうかという時に席を立ったのは、小柄な魔人の男の子。

 席はお嬢様の隣で、ペーちゃんの前。

 可愛い顔を困惑させて、お嬢様とミーヤちゃんを交互に見つめます。


「何が原因か、よくわかんないけどさ。僕たち今、先生を待ってるんだよ?

これから3年も同じ教室で過ごすんだから、最初くらい仲良くしようよ」


 あ、この子、多分良い子だ。

 喧嘩してる2人が怖いのか、喧嘩が怖いのか、仲裁するのが怖いのか。

 そこから勇気が出てくるとでも言わんばかりに、両手をギュッと握り絞め、勇気を振り絞っているみたい。


「どっちも譲れないモノがあるにしたって、何も初日から喧嘩することないよ。我慢できなかったのかも知れないけど、今はちゃんと座って先生を待とう」

「……………」

「……………」


 ぎゅっと力の入った眉間。

 必死なその顔。

 泣きそうな目。

 あまりにも懸命な、困った顔。

 あんな顔見たら、冷静になっちゃうよね。

 自分、何やってるんだろって。

 このまま喧嘩して、この子を泣かしちゃうのかって。

 いつの間にか教室中の全員が、喧嘩の行方に注目していて。

 固唾を呑んで、様子を窺っている。

 此処で踏み止まるだけの理性を2人が持ち合わせていたのは、きっと幸い。

 渋々という様子を隠しもせず、ロクシアーヌお嬢様が矛を収めて。

 ミーヤちゃんは何事も無かったとでも言うように、顔を背けました。


  ――ぱんぱんぱんっ


 教室の後方から、大きくはっきりと手を叩く音が聞こえてきました。

 ハッと、教室の全員が後方へと振り返ります。

 いつの間に、教室に来たのでしょう。

 ………喧嘩に気を取られて、クラスの大半の子は気付いていなかったけど。

 そこには、クラスメイトの保護者達がいて。

 保護者の列の最前列には、私達の保護者の姿。

 ペーちゃんのパパさんはいないけど、ダイヤ君の教室にいるのかな?

 私の両親は教室の様子を苦笑いで、ミーヤちゃんママは呆れ顔。ミーヤちゃんパパは困ったような様子で、ミーヤちゃんに手を振っています。

 中でもペーちゃんのママは、上機嫌に手を叩いているところ。

 そのご機嫌な眼差しは、喧嘩の仲裁に声を上げた少年へと注がれています。


「よく喧嘩を止めたな。この人数の中、それも殆どが初対面と言う中で、全く見知らぬ相手の喧嘩を止めるのは勇気が要っただろう。中々見所のある少年だ」


 そう言いながら、ミーヤちゃんママが進み出てきて…

 保護者の列を離れ、ずかずかと近づいてきて。

 そして。


「いたっ」


 ミーヤちゃんの脳天に、ママさんのチョップが振り下ろされました。

 わあ、痛そう…。


「子供であっても、女性への不遜な物言いは感心できないな? ミヒャルト」

「だからって子供の喧嘩で親が口を出すのは出しゃばり過ぎじゃない? 母さん」

「それもその通りだが、な…」


 いきなり大人が出てきたことで、教室の子供達は圧倒されています。

 その空気を気にすることなく、ミーヤちゃんママはミーヤちゃんの頭をぐいっと抑えつけて下げさせると、自分は真っ直ぐにロクシアーヌお嬢様へと柔らかな眼差しを向けました。


「私の愚息が失礼した。コレとて幼くとも獣人の男だ。貴女に失礼以上のことがないよう、今後は気をつけさせよう。だから君も、怒りを収めてくれないか」

「あ、あ、あ、あの…あ………」

「どうだろう、許してくれるだろうか」

「もっもっも、もチロんですわ!」


 あーあ………声、ひっくり返っちゃった。

 憧れの君に声をかけられて、お嬢様の正気が崩壊しかけてないかな…。

 顔が真っ赤で、むしろ可哀想なんだけど…

 しかし私の同情なんて、知らないミーヤちゃんママ。

 男装の麗人は、無自覚にお嬢様の心へとトドメを刺した。


 ふわっと。

 綿菓子みたいに甘く、微笑んで。


「しかし私の名誉の為に怒ってくれて有難う、お嬢さん」


 ミーヤちゃんママの声に、腰が抜けたのかな。

 ふらっと体を揺らしたお嬢様は即座に着席!

 そのまま耐えきれないとばかり、机の上に突っ伏しちゃいましたよ。

 異常に真っ赤になってしまった、その顔を両手で覆って。

 ミーヤちゃんママ………罪作りな人だ。

 だけどミーヤちゃんママは私の畏怖満載の眼差しには、とんと気付かず。

 うんうんと頷いて、どこか別の方を見た。


「さて、問題は解決したかな。お待たせしました、先生。もうよろしいですよ」

「え…?」


 その言葉に、皆が一瞬固まって。

 ミーヤちゃんママの視線を辿った先には…


 ………身を小さくし、困り果てて半泣きになった優しそうな女の人。


 わあ、担任のミルフィー先生がいるー…

 ………いつの間に、戻ってたんだろう。

 うるうると目を潤ませ、ぷるぷる震えています。


「み、み、みな、さん…喧嘩は、喧嘩は駄目です…なかよく、仲良くして…っ」


 今にも本格的に泣いてしまいそうな、担任の先生を前にして。



「「「「「ごめんなさい」」」」」


 私達…以外も、全員含んで。

 教室にいたクラスメイト全員は、ただ謝ることしか出来なかったというか。

 申し訳なさに、クラスは一丸。

 とりあえず「ごめんなさい」が、私達と担任の先生との交流における、生徒側の第一声でした。


 ああ、そっか…。

 担任の先生が困ってたから、だから大人(ママさん)が場を収めたのか。

 あのままだったら、気まずい空気で先生泣いてたかもね…。

 メイちゃん、すごく納得したー…。





ミーヤちゃん

「僕を女の子と間違えるなんて、失礼だよね」

ペーちゃん

「んじゃ、髪切れよ」

メイちゃん

「ミーヤちゃん女顔だけど、髪が長いから余計女の子に見えるよね」

ミーヤちゃん

「それもそうだけどね………せっかくこれだけ長くしたんだから、切る時は有効なタイミングを見計らって、効果的に扱いたいよね」

メイちゃん

「そんな来るとも知れない未来に備える必要、あるのかなー…」

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