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3-1.とりあえずの結論

メイちゃんたちの年が1つ上がりました。

 メイちゃん→7歳

 ミーヤ、スペード→8歳

 ヴェニ君→12歳



「うーん…」


 パステルカラーの夢の中。

 今日の私は珍しく、ゲームの夢に入り込みもせず。

 自分の夢世界の中でベースとなる、広々と可愛い景色の続く場所に、ぽつん。


「うぅぅーん………」


 羊型のぽわっぽわした雲に座って青空を漂いながら、考えていました。

 ひたすら考えていました。

 深く、ふかく考え込んでいました。


「うー………やっぱり、おかしいよね」


 考えているのは、ひとつのこと。

 『あの時』のことです。


 あの時。

 母が産気づいて病院に運ばれ、そうとは知らずに取り乱した夜。

 あの時に夢の中で起きた、『あの出来事』について。


 最近の日中は修行に弟妹の世話にとドタバタ忙しく、考える暇もなくって。

 だから夜、本来ならゲームの回想夢に浸っている時間。

 夢の中だと起きている時より頭の回転が鈍くなって、残念な感じになるけれど。

 それでも落ち着いて考えられる時間はこの時くらいだから。

 私は夢の中、何をするでもなくずっと考えごとに浸っていました。


 考えていることの要点は、2つです。

 即ち、あの夢はなんだったのか?ということ。

 どうして『ゲーム主人公(リュークさま)』と夢の中で邂逅を果たしたのか。

 どうして自分の『夢』から余所へと移動出来たのか。

 でも考えてみれば、考える程にわからなくなる。

 難しく考えたら余計に答えから遠ざかっているみたい。

 そもそもこれは2つに分けるべき問題でしょうか。

 もしかしたら双方、同じ理由で片付くんじゃないかな?


 そして、もう1つ。

 あれから何度も、メイは何度も試しました。

 でもあれ以来、1度も成功していない。

 …何が?

 何がって、『夢』からの移動ですよ。



 あの日の朝は、なんだか曖昧で有耶無耶のうちに目が覚めていました。

 夢の中でどうなったのかも、よくわからないまま。

 何となく、ぼんやりで目を開けたら目が覚めていたんです。

 お陰で、夢の中であの後リューク様がどうなったのかも全然わからない。


 でも、気になるじゃないですか。

 本当はもう、会わない方が良いだろうなって思うんですけど。

 下手に介入して、シナリオに狂いが生じたら駄目だろうなって思うんですけど。

 ………でも、気になるじゃないですか。


 だってあの、夢の中。

 あの人はあんなに悲痛に、切羽詰った泣き声をあげていた。

 たったひとり、他に誰もいない場所で泣いていた。

 

 泣く姿を誰にも見られたくなかったのかも知れない。

 側に誰にも居てほしくなかったのかも知れない。

 でもひとりだったら、誰にも慰めてもらえない。

 誰にも、自分が辛いんだってことを分かってもらえない。

 メイは甘ったれだから、そんなの嫌なんです。

 リューク様がそう(・・)なのも、嫌なんです。

 ただの勝手な、我儘だけど…。

 

 だから、凄く気になる。

 夢の中で打ち明けてもらえたお話も、とっても深刻だったから。

 放っておくのは胸がちくちく、痛むから。

 

 会っちゃいけない。

 でも気になる。

 だからこっそり、姿を見られないように様子を探ってみようと思ったんです。

 ここは夢の中。

 慣れたメイなら、体を透明にするのも難しくない。


 でもでも、でもね。

 いざ会いに行こうと思っても、上手くいかない。

 それって当然かもしれないけれど。

 どうやっても一度行けた、リューク様の夢に行くことができなかったんです。

 だから、気付きました。

 目が覚めた後で、気付きました。


 ………考えるまでも、気付こうとするまでもなく。

 あの『夢』を見た日から、それは当然だったけど。


 ――嗚呼、あの『夢』は特別だったんだなって。

 

 今更ながら、それを理解したんです。

 あれはあの夜限りの魔法みたいなもので、もう私がやろうとしても会いに行くことは出来ないんだなって。


 そう悟ったら、こうも思った訳なんです。

 だったらあの夜は、どうして『夢』を移動出来たんだろう…?って。


 考えて、考えて。

 頭が痛くなっても考え続けました。

 でも考えるほどにわからなくなって。

 あの夢を見るに至った原因は何だろう、って。

 そこに思い至るまでに時間をとても費やしたんです。


 あの『夢』の特異点。

 何よりも特別なこと。

 それはやっぱり、『ゲーム主人公(リュークさま)』以外にありません。


 

 私が夢を渡った、発端はなんだった?

 ――リューク様の泣く声です。

 私が移動出来た夢は、どこだった?

 ――それはリューク様の、夢の中。

 現実を垣間見た時、それを指導したのは?

 ――リューク様の声が、それを全て可能にした。


 私1人ではできないこと。

 私だけでは不可能だったこと。

 それはリューク様が鍵となって、初めて可能になった。

 私は声に呼ばれてリューク様の夢へ降り、リューク様の言葉通りに現実を見た。

 すべてすべて、リューク様がいたからこそのこと。


 それに思い至ったら、納得は早く訪れたんです。


「――そっか、あれってリューク様の『力』なんだ」


 私が何かをした訳でも、何かの力を発現させた訳でも、なかった。

 あれは全部全部、リューク様が招いたことだった。


 …なんでリューク様の声に呼ばれたのが、私だったのかはわからないけれど。

 それももしかしたら、私がこの世でいちばんリューク様のことを考えていたから、気にしていたから―とか、その程度の理由なのかもしれない。



 リューク様はこの世界…RPGゲームの世界の『主人公』。

 ここが単なる世界観の似ているだけの世界なら、ゲームの登場人物なんて存在するとは思えない。

 ゲームに設定された人物がいるのなら、きっと。

 その背景や辿る物語にも、共通するものがあるはず。

 

 ………そう、設定。

 当然だけど、『ゲーム主人公(リュークさま)』にも設定がある。

 RPGゲームの主人公に相応の、常人離れした設定が。


 あのゲーム通りの特異な出生を持ち、大きな力と不思議を持つというのなら。

 夢の中で、空間を凌駕する力を発現させてもおかしくはない。

 そんな常人離れしたことが出来ても納得できるだけの、特殊な生まれと能力を彼は持っているんですから…。


「……………うん、きっとそういうことだよね」


 そう考えたら、私はやっと納得できました。

 ゲームの中では…他人の夢に干渉する能力なんて、出てこなかったけど。

 それでも、きっと。

 ゲームの『主人公』なら、と。

 

 私は1つ納得すると、それ以上の追及は考えず。

 より深く考えることもなく、全てを『そういうこと』として片付けたのです。

 その答えの正否も、どちらであろうと構わない気持ちで。


「なんだかメイ、疲れちゃった…。もう今日は夢も見ないで眠ろうっと…」


 ふあぅ、と。

 夢の中なのに、夢の中で大きな欠伸一つ。

 むにゃ、もにゃと。

 夢の中で訪れた眠気みたいなものに抗うことも止めて。

 私は自分の座っていた羊型の雲に突っ伏すと、そのままぐっすりと深い眠りに落ちて行きました。


 夢の中なのに、夢で寝るとか。

 人が聞いたら、笑うかもしれないけれど。

 でもこの形こそが、私にとっては『熟睡』の仕方。

 こうして眠れば、夢も見ずに朝までぐっすりだから。




 パステルカラーの、夢の中。

 私はゆっくりと眠りの泉に沈んでいきます。

 ぷわっぷわした雲に、全身を預けて。



 そんなメイの、寝姿を。

 目を細めて見ているひとがいるなんて……

 眠りに落ちた私には、全くわかりませんでした。




   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「………お前、何か今日はやけにつやっつやしてんな」

「メイ、昨日の夜はぐっすり眠れたから…!」

「羨ましいよ、メイちゃん………昨夜は僕の家、妹の夜泣きが煩くってさ…

2人そろってぎゃん泣きだよ」

「ミヒャルト…てめぇはやけに疲れてんな……」

「師匠も子供ができれば分かるよ」

「俺まだ12歳なんだけどな!? 早ぇよ! あと、お前も子持ちじゃねーだろ」

「7歳違いの妹なんて、子供みたいなもんだよ」

「いや、充分に兄弟の年齢差だろ…」


 夢の中でぐっすりすやすや眠ったら、見事に疲れが吹っ飛びました。

 これ、良いかも…。

 今までは夢を見るのに忙しくしていたけれど、本当に限界まで疲れたら夢を見るのは控えるようにしようかな。


「…お前ら、そんな疲れた様子で大丈夫か? 今日は次の段階に移るから、コンディションは整えとけって言っただろ」

「そうは言ってもね、師匠…子供はこっちの事情を斟酌してくれないんだよ?」

「そうだな、お前も子供だけどな。実際にお前ら俺の事情は斟酌しねぇもんな」

「もう、ヴェニ君ったらー! メイのこと、弟子にする賭けを持ち出したのはヴェニ君の方なのに!」

「お前がしつっっこかったからだろうが!!」

「メイね、いまお耳がお留守なの」

「お前のその獣耳は飾りか…! しっかりくっついてんじゃねーか!」

「まあまあ、ヴェニ君。師匠。その辺で良いじゃん。それで結局、今日は何をするんだよ?」

「あ? ああ、今日は狩りだ」

「「「狩り?」」」


 思いもかけない、修行内容。

 それを告げられ、私達は顔を見合せました。






現時点での各レベル

 メイ → Lv.15

 ミーヤ → Lv.13

 スペード → Lv.14

 ヴェニ君 → Lv.42

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