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2-10.お姉ちゃんな日々

第2章6歳編はここまで。

第3章の投稿は1日あけて12/22を予定しています。



 私に兄弟が出来て、早々と半年が過ぎました。

 こちらの暦は流石ゲーム世界。

 前世の暦法が準拠されていて、1年12か月365日!

 ただし月が3つあります。

 お陰で月の運行がややこしい為、太陰暦が使い難いということも太陽暦の普及に一役買っているのかも知れません。


 前世と同じ暦法で、月日を数えて毎日。

 明日で丁度、ヴェニ君に弟子入り成功してから9カ月になります。

 

 毎日、毎日。

 戦闘に適した体作りと組手の毎日。

 肉体の運用法を徹底的に体に教え込むとのヴェニ君の宣言通り、日に日に機敏な動きや的確な運動がこなせる様になってきました。

 ………僅か1年足らずで実感が出来るって、普通に凄くないですか?

 ヴェニ君の指導手腕が、予想以上に凄すぎる…。

 11歳の少年は、前評判以上に天才だったようです。

 まさか戦闘能力だけでなく、その指導まで易々とこなせるとは。

 頼んだのは私ですが、本当に予想以上。

 これは良い方向で、予測を裏切られました。

 お陰で毎日が充実しているのを、私は感じています。

 確実に強くなっているという、確信に心が満たされていました。

 

 でも私達の動きはどれだけ変わったのかな。

 確実に変わったことは分かるけど、それがどのくらいのレベルに達しているのか…それは、自分のことなのでイマイチよくわからない。

 

「ねぇた、ねぇたん。どーったの?」


 首を傾げてぼんやりしていたら、私の前でぐいーと体を伸びあがらせて見上げてくる子。小さい子。

 左手で双子の妹と手を繋ぐ、私の弟。

 ………生後若干半年足らずの、ユウ君が私を見上げていました。


「なんでもないよー。ユウ君はどったのかな?」

「ねえたん! ぎゅうして?」

「ねぇね…っ え、えりもぎゅぅ……っ」


 目線を合わせてあげると、ぎゅぅぅっと。

 双子が私の首にしがみ付いてきました。

 勿論、手加減なしです。


「し、しまるしまる…っ ふたりとも、苦しいよ」

「くーしぃ?」

「るしぃー…?」


 きょとんと見上げてくるおめめは、まるっきり理解していませんね。

 ええ、わかっていましたとも。


 私の弟妹、ユウ君とエリちゃん。

 その成長は目覚ましい物があるというか、目覚まし過ぎて「早過ぎじゃね!?」と内心でツッコミの日々です。

 獣人の赤ちゃん期は成長が早いそうですが、いくらなんでも生後半年で意思疎通が出来るようになるとは思ってもみませんでした。


 ………思い出してみれば、私自身の赤ちゃん時代も自分の成長の早さに吃驚した記憶が微かにありますけど!

 掴まり立ちにおしゃべり、よちよち歩きと。

 1歳になる前にマスターしてしまった己に慄いた記憶がそういえばあります。


 あの時はもしやこれって転生チート!?と自問自答したものです。

 しかし私が異常な成長を見せても両親が全く驚いていない…

 むしろ喜んで当然と受け入れるので、自分であるぇ?と首を傾げたんですよね。

 ……その動作も可愛いと、両親は大はしゃぎでした。

 幼馴染み達は1歳年上だったので比較対象もなかったし。

 疑問が解けたのは、2年後です。

 ペーちゃんの双子の弟君が生まれた時。

 やっぱり会わせてもらった赤ちゃん達の成長が異常で、私はその育ちの早さに驚いたものでした。

 まあ、外で遊び回っていた私はペーちゃんの弟君達にはたまにしか会わなかったので、こうして毎日身近に接する弟妹の成長に改めて驚きの連続ですけど。

 この子達、生後1か月で掴まり立ちするようになったんですぜ?


 なんのことはありません。

 獣人の赤ちゃんが人間よりも早く育つというだけです。

 大体3歳くらいまでは、人間よりも早い成長を見せるとか。

 それからは成人までは、人間の発達段階と同じペースで成長するそうだけど。


 獣人は、獣の属性を持つ人間です。

 その強靭な肉体は過酷な環境にも適応し、本人達も自分の属性元となる獣の生息地域で生活するのに適しているそうです。

 最近は都市部に住む獣人も増えていますが、一昔前までは自然そのままの辺境地域や山奥なんかに住む獣人が多かったとか。

 私の母も、峻厳な山岳地帯の獣人の里出身だそうだし。


 でも環境が過酷と言うことは、その分だけ危険が多いってこと。

 特に外敵となる獣や魔物への警戒が必要で、子供も素早く逃亡したり危機回避に少しは気を付けられる程度に成長しないと、生存率ががったがたに低くなるとか。

 つまり、過酷な環境で生活するうちに、更に適応して進化した結果。

 走って逃げたり叫んで助けを求めたり、危険に気付いたり。

 それが出来る様に急ぎ足で成長を遂げる様になり、獣人の赤ちゃん期は人間よりも短くなったとか。

 その代り、幼児期が人間より長い感じになってますけどね!

 

 ………そんな訳で、メイの弟妹も自我が最近しっかりしてきました。

 いや、産まれたばかりの頃もそれなりに個性っぽい物はあったけど。

 ユウ君は要領の良いちゃっかりさん。

 ちいちゃいながらもお兄ちゃんで、引っ込み思案なエリちゃんをぐいぐい引っ張って行動します。

 ……自分のしたいことに、いちいち妹を付き合わせているとも言います。

 一方エリちゃんは、引っ込み思案の臆病で繊細な子です。

 お兄ちゃんに比べて、ほんのちょっと不器用な子でもあります。

 中々お兄ちゃんに反抗も出来ず、欲求に忠実な赤ちゃんとは思えないくらいに兄の顔色を窺っている節が垣間見えます。

 ………乳児なのに、既に兄弟間の上下関係が出来てるような。


 あ、ちなみにまだ2人とも栄養補給の大部分は母乳に頼っています。

 その姿を見ると、自分もお乳を与えられたことを思い出して居た堪れない……。


 馬の獣人も羊の獣人も一度に産む子供の数は1人が基本。

 なのに双子ちゃんが生まれて両親は驚くやら喜ぶやら。

 でもちょっと、母が大変そうです。

 専業主婦なので子供とつきっきりなんだけど、赤ちゃんが2人もいると世話をするのも苦労が多いみたい。

 私は相変わらず日中はヴェニ君の元へ修行に行っているんだけど、お乳を欲しがって泣く赤ちゃん2人に振り回される母を見ると身につまされる物があります。


 ………メイもこうやって育ててもらったんだよね。

 私は1人で生まれましたが、初子だったし。

 苦労してもらった恩返しとばかり、修行の時以外は積極的に弟妹の世話を請け負うことにしています。

 

 ………とはいっても、まだまだ不器用な6歳。

 ちゃんとお手伝いになっているかは微妙なところです。

 私がいると母は双子だけでなく、私にも注意を払わなきゃいけないし、お手伝いでも足手まといになったりするし。

 オムツ替えをちゃちゃっと出来る様になったのは、双子が生まれて3ヶ月後。

 いや、大人ほどの体格差がないから、オムツ替えも大変なんだよ。

 …でもその頃には、双子のトイレ特訓が始まってました。

 いや、まだまだオムツのお世話になってますけどね、2人とも。

 でもオムツのお世話になる日々が残り少ないのを察して、冷汗たらたら。

 せめてお姉ちゃんとして、弟妹と遊ぶのは全力で頑張ろう…っと。



 毎日くたくたになるまで修行するのは、効率が悪いと。

 ヴェニ君はそう言って、必ず自分が設定した休養日を私達に守らせます。

 …とはいっても、家に赤ちゃんがいる時点で私やミーヤちゃんには休養日でも何でもないんですけど。


「メイちゃん、いるー?」


 あ、噂をすればミーヤちゃんだ!

 首にしがみ付いて離れない双子を抱え、私はぱたぱたと玄関に向かいました。

 ……赤ちゃんとは言え、もう結構大きいんだけどね、双子。

 それでも軽々抱っこ出来ちゃうのは、獣人故かヴェニ君の修業の成果か…。

 メイは結構、腕力があると思います。見た目によらず。

 

「ミーヤちゃん、どうしたのー………って、ああ」

「あ、あはは…ごめんね、メイちゃん」

「「おじゃーしみゃす」」

「ほんとごめんな、メイちゃん。ミヒャルトの奴へたってたからさ…」

「限界だからメイちゃんの家に行こうって言いだしたのは、スペードじゃない」


 遊びの誘いかな、と。

 玄関を開けてその姿を見て、私は一瞬で悟りを開きました。

 そこには途方に暮れた感じでへにょりと耳と尾っぽを垂らした、ミーヤちゃん。

 それに気まずそうな顔にホッとした色を混ぜ込んだ、ペーちゃん。

 そんな2人の腕には、うちの双子と同じ年頃の赤ちゃんが抱えられていました。

 

 その子達も、双子。

 ミーヤちゃんの妹の、ユフェイネちゃんとコーネリアちゃん。

 ちいちゃなちいちゃな黒猫獣人の、女の子。


「ミーヤちゃん…」

「本当に、ごめんね………2人が、メイちゃんとこの双子ちゃんに会いたがって」

「ゆーくん、ゆーくん!」

「えりーちゃーん!」

 

 ぱたぱた、ぱたぱた。

 うちの双子に飛びつこうとぱたぱた暴れる子猫ちゃんズを、ミーヤちゃんとペーちゃんが結構強引に抑えつけています。

 見た目は可愛いけど、この子猫ちゃん達は意外に強引なので仕方ありません。

 いつも全力で飛び付かれ、何故か問答無用に懐かれている我が弟妹が、また全力で私にしがみ付いてきました。

 目には、若干の怯えが垣間見えます。特にエリちゃん。 

 その様子を見て、ミーヤちゃんが何とも申し訳なさそうな顔をしました。


 ………ああ、ミーヤちゃん…。

 またご両親に妹ちゃん達のお世話押し付けられたんだね。



 ミーヤちゃんのところの、妹ちゃん’s。

 彼女達はうちの双子のなんと1日違いで生まれました。

 ………母の見舞いに来てくれたミーヤちゃんママが、帰り道で産気づきまして。

 そのまま病院に大慌てでとんぼ返り、そのまま入院。

 そして夜が明けぬ内に産声を上げたのが、この双子の猫ちゃんという訳で。

 一気に身近に4人も赤ちゃんが生まれて、私やミーヤちゃん、巻き添え食ったペーちゃんは大いに振り回されました。

 特に割を食ったのが、ミーヤちゃん。


 ミーヤちゃんのお家は共働きで、特にママさんは職業軍人さんだそうです。

 勿論、出産前後には産休をいただいていたみたいですけど。

 でもママさんは、職場復帰の準備に余念がありません。

 まだ早いよ、無茶だよ、と。

 泣いて止める旦那さんを振り切り、出産1ヶ月後には剣を取りました。

 そのまま産休が終わるまでに体を作り直して出産前の状態に戻ると、男らしく宣言なさった結果。

 ここのところは毎日、赤ちゃんの世話の傍ら戦闘訓練に余念がないとか。

 赤ちゃんがちょろちょろ動く様になったら、目も離せない筈なのにどうやっているの?と。首を傾げた私に、ミーヤちゃんは疲れた顔で言いました。


「毎日、1日の大半は僕が妹達の監督を任されてるんだ…」


 ミーヤちゃんは毎日、サボることなく私と同じ修行をこなしています。

 毎日、7歳児とは思えない過酷な運動でくたくたです。

 なのにお家に帰ったら、双子のちびっ子ギャングが待ち受けていると…

 聞くところによると、私以上に子供の世話で忙殺されているようです。

 私の場合は母のお手伝いだけれど、ミーヤちゃんは『監督』ですからね…。

 メイ、ママが専業主婦で良かったー!

 聞いた時は思わずそう言っちゃいましたよ。

 ミーヤちゃんはがっくり項垂れていましたけどね!


 それでもやっぱり限界は来て。

 ミーヤちゃんは暴れる双子に途方に暮れて。

 1人では面倒を見切れないと、暇そうなペーちゃんを仲間に引きずりこ……

 …引き込んで。

 でも7歳児が2人で頑張ったところで、乳児様達は屈しませんでした。

 それを見かねた私の母が、少年達に言った訳です。

 それはもう、優しい慈母の頬笑みで。



 ――困ったら、うちに連れていらっしゃい、と…



 聞いた瞬間、思いました。


 まま、すてきぃぃぃいいいいいいっ!!


 黄色い声が出そうになっちゃったよ。


 

 結果的に、我が家に2組の双子4人が集結する毎日がやって来ました。

 大人は、母1人。

 だけどお手伝いにメイの他、手際の良い2人の少年がいます。

 ペーちゃんもなんだかんだ、6人兄弟の2番目です。

 下には3つ年下の双子がいます。

 …まあ、上4人は四つ子ですが。

 ………ペーちゃん達兄弟を育てた犬さん夫婦すげぇ。

 弟の世話を日常的に焼いている狼少年と、生来の器用さ要領のよさで妹達の世話をこなす猫少年。

 私の母と2人がいるからこそ、4人の赤ちゃんのお世話も出来るというものです。


 ん? メイ?

 メイはやっぱりただの単なるアシスタントだよ?

 最近、パシリはお手の物なの。任せて☆


 ………言っていて、虚しくなってきました。



 好奇心旺盛で、やんちゃで。

 悪戯が大好きな双子の子猫ちゃん。

 …小悪魔キャラになる未来が見えるような女の子達は自由奔放。

 うちの長男は2人がかりで押し倒され、負けています。

 うちの末っ子は2人がかりで振り回され、人見知りが増長している気がする。


 それでもなんだかんだ、仲良くしているのは母の努力の賜物でしょうか。

 いつもみんなで赤ちゃんのお世話にてんやわんや。

 でも母から見たら、メイも赤ちゃんと変わりないのかも。

 母の大らかな笑みを見ていると、時々計り知れない懐の深さを感じる…。


「ね、ねぇね…っ」


 よたた、と。

 子猫達に追い回された黒い子羊ちゃんが私の背後に回り込みます。

 それを追ってくるのは、にんまり笑顔の子猫ちゃん。

 ………わーお。生後半年で、なんて顔で笑うの。


「えりちゃん、えりーちゃん! ねぇね、えりちゃんちょーだい!」

「ごめんねー、こーちゃん。エリちゃんはあげられないのー」


 妹が、本気で怯えているのを感じ取ります。

 というか、私の背中にしがみ付いてぶるぶる震えていたら明らかです。

 私はぎゅむっとコーネリアちゃんを抱き上げ、ぎゅぎゅっと抱きしめました。

 いくら悪戯っ子でも、6歳の『お姉さん』に抱っこされたら身動きも出来まい!

 

「エリちゃんの代ーわーりーにっ メイの抱っこの刑だよー!」

「きゃーあっきゃっきゃっあははははっ」


 コーネリアちゃん、大喜び!

 それを背中から見ていたエリちゃんが、何故かショックを受けた顔でこちらを見上げてきました。

 あれ、目に涙がにじんでる…。


「ね、ねぇね! ねぇね…っめぇ! こーちゃ、ねぇねはエリのねぇねなのーっ!」

「きゃははははっ やーだー! ねぇねはみんなのねぇねだもーん!」

「やぁ! エリのねぇね…!」


 ち、ちびっ子に取り合われてる…!

 メイちゃん、ちびっ子なのに自分よりもちびっちゃい子に取り合われてますよ!

 ど、ど、どうしよう…っ 可愛過ぎる!

 特に涙目で必死になっている、うちの妹が!


「ねぇた、ねぇたん! どーったの?」

「にぃに…っ こーちゃっが、エリのねぇねとった…!」

「やぁあん! こーちゃん、とってにゃーも! ねぇねがこーちゃ、ぎゅってしちゃんだもー!」


 私の肩の上に上半身を寄せて、ごろごろと喉を鳴らす小悪魔にゃんこ。

 その目が、鼠を甚振(いたぶ)る猫の目に見える…!

 エリちゃんは涙を流しそうな目で、弱々しく肩やら耳やらを震わせています。

 泣くのをぎゅっと我慢した顔で、私の足にしがみついてきました!

 うるうるのおめめで、必死に私を見上げ、ふるふると首を振っています。


 可愛い。

 めっちゃ可愛い。

 うちの妹、最高に可愛い。


 お、お姉ちゃんに鼻血を出させるつもりなのかな…っ!?

 でもここで鼻血を出したら、お姉ちゃんの面目丸潰れです。

 一瞬鼻の奥がカッと熱くなった気がしましたが、きっと気のせい。

 うん、きっと気のせいです…!


「ねぇたん、ねぇたん」


 私達の様子を見て、状況を察したのでしょうか。

 要領がめちゃめちゃ良いユウ君は、時々鋭く空気を読みます。


「ねぇたん、ユウしゅきぃ?」

「…ぐはっ」

 

 ぎゅっと。

 ぎゅっと、メイの服の裾を引張りながら何を言うの、この子…!


「ねぇた、ユウとエリのねぇたん、ね?」

「う、うんうん…っ メイはふたりのねえたんだよー!」

「ユウ、しゅき?」

「うん! メイねえたんはユウ君が大好き!」

「エリも、しゅき? ねえたん、エリも?」

「ふたりとも大好き…っ!!」

「にゃぁ、ねぇねー、こーちゃは?」

「こーちゃんも好きよー」

「………むぅぅ。そーじゃにゃいにょー!」

「あ…っ」


 弟妹に対する時よりも理性的に返したのが、気に食わなかったのかな。

 この子猫達も聡いからなー…

 コーネリアちゃんは私が微笑みながら好きと言うと、それが不満だと全身で示してきました。

 そのまま不貞腐れたような顔で、ぴょんと。

 私の腕の中から飛び降りて、ててっと駆けて行ってしまいました。

 ………ちょっと、腕の中が寂しい。

 でも、そう思う隙も与えないというくらいに。

 即座に動いたのはうちの双子。


「ねぇね…っ!」

「ねぇたん!」


 双子が、私の胸に飛びついて来ました。


「ねぇたん、しゅきー!」


 そう言って、晴々と笑う私の弟。


 …0歳児に、うまく乗せられた気もしますが。

 私は弟の望むまま、操り人形の如く2人に大好き宣言。

 それを受けてか、エリちゃんが少しほっとした顔を見せました。

 ユウ君はエリちゃんの手を引っ張って、頭を撫で撫で。

 慰めるような声で、話しかけます。


「ねえたん、ユウもエリもだいしゅきーって」

「うん…っ」

「ねえたん、ユウとエリのねえたん、ね?」

「うん!」

「めえめぇ、めっ! なきやみゅ、の!」

「うん、エリ…なかにゃい……っ」


 そう言って、小さな両手でぐしぐしと顔を拭いだすエリちゃん。

 ユウ君も妹が顔を拭いだしたのが満足なのか、満面の笑顔です。

 笑顔で、ぎゅうっとエリちゃんを抱きしめました。

 でも抱きしめながらも、いつの間にか双子は私の服の裾を掴んでいて…

 う、うちの弟妹が可愛過ぎる…っ





 ……………新しい毎日は、おおむね平和で幸せでした。


 可愛いは、正義。

 前世でよく聞いた言葉の本当の意味を、私は弟妹との日々で掴んだ気がする…。






 直後、バロメッツ姉妹が互いにぎゅうぎゅうしあった後の、居間にて。


 むぎゅ、と。

 気が付いたらメイは、前後から挟むような形で抱き込まれていた。

 背後からのミヒャルトと、正面からのスペードに。

「あ、あれ? ミーヤちゃん、ペーちゃん?」

 きょとんと首を傾げるメイ。

 背後のミヒャルトが、そんなメイの首筋にすりすりと頬を擦り付けた。

 まるで本物の猫のような動作で、メイの大きな耳に囁きかける。

「ねえ、メイちゃん。僕のことは…?」

「え?」

「僕も、メイちゃんのこと大好きだよ」

「俺だってメイちゃんが大好きだ」

 そう言って、前後の2人がメイを抱きしめる腕に力を込める。

「え、えうー?」

 戸惑うメイに、ミヒャルトはうっそりと笑う。

 忍び笑う微かな声が、羊の形状を描く耳を密やかにくすぐった。

「ね、僕とスペードはメイちゃんが大好きだけど………メイちゃんは?」

「俺も聞きたい。な、俺達のことどう思う…? ほんの少しでも好きか…?」

「え、え、うええ…っ?」

 2人は一体どうしたのだろう。

 空転する頭で、メイは混乱を抑えきれない。

 2人はすりすりとすり寄って来て、スペードなんてメイの耳をパクリと咥えた。

「ひゃ、ひゃぅぅっ? やだ、メイのお耳はみはみしないでぇ…っ!」

「じゃあ答えようね、メイちゃん。僕達はメイちゃんが大好き」

「そうだな、俺達はメイちゃんが大好きだ。で、メイちゃんは?」

「あ、あうぅぅぅ……好きだよぅ! メイも2人のこと、好きだからぁ!」

「――好き、か…」

「だってさ。残念だな、ミヒャルト」

「え、ええぇっ? メイ、ちゃんと2人のこと好きだよ? なのに残念なのっ?」

「僕達はメイちゃんのこと、『大好き』なのに…メイちゃんは違うんだ」

「こんなに大好きなのになー…メイちゃんは俺達のこと『大好き』じゃないんだってさ」

「残念だね、スペード」

「あ、あうあうあうぅぅぅっ うわぁんっ! 大好き! 大好きだよぅ! 2人のこと大好きだからーっ!」

「やった。嬉しいな」

「俺達も大好きだぜ、メイちゃん」

「ふふ…嬉しいから、大好きなメイちゃんの右頬に――ちゅっ」

「俺も、メイちゃんの左頬に――ちゅう」

「!!?」

「お礼だよ? 大好きだって言ってくれた、そのお礼」

「俺達も大好きだって決意表明? メイちゃんの白いほっぺた気持ちいー…」

「あ、あうあうあうあうあうあうあうあうぅぅぅぅぅ…っ」


「うふふふふーっ もう、うちの子たちったらすっごく可愛い…って、あら?」


 自分の子供達の可愛さに悦ってたママさんがやっと事態に気付いた時。

 メイちゃんは目をぐるぐるさせて混乱の極致。

 好き放題しちゃってる男児達はごろごろとメイちゃんの細い首筋に懐いていて。


 ママさんは、無言ですちゃっと弓矢を取りだした。


「あらあらあららー? 坊やたち?」

「「っ!」」

「それ以上は、うちのパパを倒してからにしましょうね? でないと私、結婚以来久々に弓の稽古をしなくちゃならなくなっちゃうわー………的は、貴方達で❤」

「………離れようか、スペード」

「そうするか、ミヒャルト…」

「あ、ままぁ! 2人がメイのお耳とほっぺ、食べたぁ…!」

 獲物を捉えた肉食獣の瞳だった、とメイは思う。

 至近距離からガチで見つめられて、草食動物の本能か。

 まさか本気で食われるんじゃないだろうかと、恐怖を感じたと…。

「あらあら、可哀想に…後で2人のママ達にはお仕置きしてもらいましょうね」

「うんっ!!」

「そ、そんな…!」

「そりゃないぜ、メイちゃん…!」

「ふ、2人の自業自得だもーっ!!」


 ――この日、2人のことを改めて末恐ろしいと実感したメイちゃんでした。




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