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2-6.子育て極論




 互いにそれぞれ辛いことがある。

 ううん、あった。

 お兄ちゃんが促してくれたから、私は行動できた。

 そのお陰で辛いことは消えちゃった。

 私の悩みは消えたけど。

 でもじゃあ、お兄ちゃんは?


 私はお兄ちゃんの話を聞こうとしてたのに、気付いてみれば慰められたのも励まされたのも、私の方で。

 やりたかったことも、返したい温かい気持ちも。

 私、何もやれてない!


 それに気付いたのもまた、唐突で。

 私は涙ながらにじっと、近くにいてくれるお兄ちゃんの顔を見上げました。





 私が泣きやむ頃には、慌てていたお兄ちゃんも穏やかになっていました。

 私につられて、お兄ちゃんも途中ちょっと泣いてましたよね。

 元々泣いていたせいで目元が赤かったけど…

 今も目が潤んでいるのは、私のせいかお兄ちゃん自身の問題か。


「お、おにい、ちゃん…いろいろ、ありがと……」

「うん…」

「だ、だから、今度はお兄ちゃんの番!」

「………え?」

「メイの悩み、聞いたもん」

「あ、うん。聞いた」

「それにメイの悩み、解決してくれた!」

「えー…っと、それはどうかな。俺、何もしてないけど…」

「でもね、メイは嬉しかったし、お兄ちゃんのお陰で悩みも消えたの!」

「それは、うん………君が、嬉しかったのなら、それで…」

「だから今度は、メイが聞くもん!」

「え、え…?」

「ね、お兄ちゃんもメイにお話ししよう?」

「うーん……………まあ、良いか」


 何となく戸惑いがちな声が、お兄ちゃんの口から。

 だけど今度は、絶対に言わないという感じじゃなくて。

 しょうがないなぁって感じで。

 それ程の抵抗もなく、お兄ちゃんも自分の悩みを話しだしました。



「今日、知ったんだけど……俺、父さんと母さんの本当の子供じゃなかったんだ」



 お、おおぅ………なんと。


 お兄ちゃんの悩みは、予想以上にヘビィな悩みでした。




   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・




 ――ここは、俺の夢の中だと言った。 

 この目の前にいる、見覚えのない女の子が。


 俺よりちょっと年下くらいの、獣人の女の子。

 今まで見たことも話したこともない。

 なのにしっかりした存在感で、目の前にいる。

 ここが本当に俺の夢だっていうなら、もっと不確かな存在感のはずじゃないか?

 よくわからないけれど、この子は他の夢から来たなんて言う。

 それが本当に出来ることなのか、出来ないのか。

 わからないけれど、その女の子にはしっかりとしたリアリティがあった。

 抱きしめたら温かいし、髪の毛はふわふわと柔らかかった。

 これ、本当に夢なのか?


 何故か強硬に俺の『泣いている理由』を聞き出したがる女の子。

 でも説得されている内に、何故か女の子が自爆した。

 先に泣いていた俺ではなく、何故か慰めにきたっぽい女の子の方が涙腺決壊。

 だばっと涙を流しながら縋りついてくる。

 むぎゅっとしがみ付いてくる様子は、年相応な小さい子って感じで。

 …可哀想だけど可愛かった。


 だからかな。

 ほだされた、って言うとちょっと違う気もするけれど。

 こんな小さな子でも、こんなに泣くくらい怖くて不安がっていて。 

 それなのに、大変な時なのにこの子は俺を気遣ってくれたのかと。

 俺が泣いていたってだけで、自分の怖さを抑え込んで近づいてきたのかと。

 それに気付いたら、なんだか放っておけなくなった。


 俺のことを心配して、自分だって大変だったのに。

 涙を拭って俺のことを気にしてくる顔を見たら…


 話してもいいかな、って。

 そう思えたんだ。

 もうとても、無碍には出来ないって気付いていたから。




「前から時々、変だなって思うことはあったんだ。髪の色も目の色も、家族の誰とも俺、似てなかったし…」

「うん」

「姉さんとも分け隔てなかったから、俺が気にし過ぎるのかなって」

「うん、だいじょうぶだよ、お兄ちゃん」


 声が震えたのに、気付かれたんだろうな。

 訥々と語る中、女の子は俺の手を握って励ましてくる。

 年齢に相応の飽きっぽさは見せずに、最後まで聞くよ、と。


「でも俺ももう、8歳で。これ以上黙っているのは甘えにつながって、修行の妨げになるって剣の師匠が言ったんだ。そうしたら父さんが頷いて……………

俺、父さんたちの子供じゃ、ない…って」

「お兄ちゃん…っ!」


 言われた時の、こと。

 思い出したら………目が熱くなって、感情ごと絞り出されるみたいな、涙。

 ぼたぼたと落ちるそれに、女の子が慌てて抱きついてくる。

 ぐいぐいと頭を擦りつけて来て、本当に動物が仲間を慰めるみたいな不器用さ。


「お兄ちゃん、ごめん………メイ、ハンカチ持ってきてない」

「夢の中にまでハンカチって持ってこれるのかな…?」

「あ、そうか」


 頷いた瞬間、女の子が手を振ると、その手には白いハンカチが握られていた。

 どこから出したんだろう。

 淡いピンクと緑で、花の刺繍がされた可愛らしい図柄。

 女の子が好きそうな図柄も気にせずに、ハンカチで強めに俺の顔を拭いだす。

 ……ちょっと痛い。

 

 止まらない涙をハンカチに吸わせながら、女の子は俺の顔を覗きこんでくる。


「お兄ちゃんは、ショックだった?」

「うん、凄く…」

「パパとママと、お姉ちゃん好き?」

「うん、物凄く………だけど、本当の家族じゃないって」

「…メイちっちゃいからよくわかんないんだけど、本当の家族ってなぁに?」

「え…」


  メイちゃんの攻撃!

  お兄ちゃんは混乱の状態異常にかかった!

  お兄ちゃんは動揺している!


「血のつながりがなかったら、家族じゃないの?」

「え、えっと………わからない」

「お兄ちゃんの家族は、お兄ちゃんのことを家族じゃないってしたの?」

「そんなことは、ないけど!」

「メイのパパとママ、血はつながってないけど家族だよ?」

「……………いや、パパとママと比べちゃ駄目だ」

「でも家族だよ? 血がつながってないと家族じゃないの? それなにが違うの?」

「ええぇ…な、なんかわかんなくなってきた………」


 どうしようか、この女の子の言っていることを聞いていると、血のつながりがあまり重要じゃない気がしてくる…!

 な、なんでだ…っ?


「赤ちゃんを育てるのって、とても大変なんだって」

「うん、それはわかる。わかるけど」

「お兄ちゃん、育てた恩を返せとかいわれた?」

「うちの父さん達は、そんなことを言う人じゃない!」

「じゃあそれって、無償の愛だよね! 身返りを求めないのが愛だそうだよ!」


  メイちゃんの会心の一撃!

  お兄ちゃんの精神にガツンと決まった!

  お兄ちゃんは狼狽えている!


「愛! え、あ、愛…!?」

「お兄ちゃん、パパたちに愛されてるね!」

「そ、そうかなぁ…? って、論点ずれてる!」

「ううん、ずれてないよ! 大事なことだよ?」

「大事なことだっていうのは、わかるけど…」

「ね、お兄ちゃん。自分のこととして考えてみようよ!」

「え? 何を…?」

「うん、子育てって大変なんだって聞くよ。でもその大変なお仕事を、自分がやるって考えてみたらどんな感じ?」

「自分が? 自分が………」


 考えてもみなかったことを、鼻先に突きつけられる。

 自分が、もしも捨て子を拾ったら。

 そんな埒もあかない想像。

 だけど、考えてみることで答えが出せるかもしれないこと。


 人の命を預かる。

 それは生半可なことで出来る事じゃない。

 女の子に促されて、俺はゆっくりとそれを考え始めた。

 それがどれほどの根気と覚悟を必要とするか、俺には分からなかったけれど。



 ――でもやがて、それが義父母への大きな感謝に育つんだ。




 この夜の、不思議な夢。

 そんな夢の中で出会った不思議な女の子。


 あんまりにも印象的で、沢山意表をつかれて。

 本当に、印象深かったから。


 彼女のことを、俺はずっと忘れないんだろうな。






   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・




 唐突に、目が覚めました。

 夢の中で不思議なお兄ちゃんと互いの悩みを打ち明け合って、話を聞いて。

 なんで夢の中で人生相談めいたことをやってるんだろう?

 ちょっと思ったけれど、重要なのはそこじゃない。

 

 夢の中にいる時は、欠片も気付きませんでしたよ…。

 夢の中では思い至らなかったこと、気付かなかったこと。

 目が覚めたことでよりクリアになった頭が、それに思い至る。

 やっぱり睡眠中は、頭の動きが鈍くなるんだろうか…。

 あんなに明らかに、わかりやすい特徴があったのに。

 この世界で、『彼』だけだと知っていた筈なのに。


 夢の中にいる時は、不自然なまでにソレに思い至りませんでした。

 だけど夢から覚めて、現実の中で目を覚ました途端です。

 頭が、弾きだした恐ろしい事実を喧々囂々と訴えてくる………。


 そう、目の覚めた今の私ならわかる。気付ける。

 夢の中で出会った、不思議な少年。

 あの少年は………



「……………あれ、ゲーム主人公(リュークさま)だ…」



 寝ぼけ眼をぐりぐりと擦りながら。

 私は気付いてしまった事実に途方に暮れた。

 私の執念なの? 根性なの? 最早、盲執なの?


 メイ、ゲームに出てこないキャラなのに………主人公に接触しちゃったよ…。


 夢の中のこと、と。

 アレが妄想だった可能性もあるけれど。

 不思議と目を覚ました私は、アレが『事実だ』と確信していました。



 この上は、ゲーム主人公が一刻も早くあの夢のことを忘れてくれますように…。






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