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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
10さい:『序章』 破壊の足音を聞きながら
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11-27.夢の世界でメェと鳴く




 何がどうしてそうなったものやら、セムレイヤ様の懸命な説得が功を奏して仲間に引きずり込むことに成功したというラベントゥーラ神。

 ……『 ストーカー同 盟 』の、仲間に。

 名前だけ聞くと碌なものじゃねーなって気がする同盟です。

 そこに一体どんな気が違ったら加入しようなんて思えるんだろう。メイちゃん、全力で困惑してるんだけど。


『そも、この者は我らで抑えておくべきでしょう。ノア様に知られる前に』

「……あ」


 そうだよ、私達が余裕を持っていられるのは、私が『ゲームシナリオ』っていう『未来』を知っているから。

 だから準備も出来るし、用意も整える。

 でも、それと同じ情報を敵も知っていたら?

 『ゲーム』では幾多の苦難を乗り越えて大きく成長したリューク様に、ノア様は敗れる運命だと知ってしまったら?

 マズイことになるのは確かだ。

 それを思うと、リューク様が可愛いセムレイヤ様がラベントゥーラ神を味方に引き入れるのは正しい。

 ただ、素直に加入して働いてくれるなら、だけど。

 本当は口封じに消滅させてしまった方が確実かもしれないけど、それやったらノア様の警戒煽るし……こっちの陣営に引き入れる方がやっぱり良さそう。事情を知ってる分、協力を要請し易いし。

 ……っていうかこのヒト、なんで敵方にいるんだろう。

 『ゲーム』の『シナリオ』を知っているのなら、ノア様の陣営についていることがどれだけ危険かわかるのに。


 ついつい疑問に思って見つめるメイの言いたいことがわかったのかな。

 それまで気まずそうにそっぽを向いていた中ボスさんがぼそっと呟きみたいな声をくれました。


「――千年前の神々の戦……で、セムレイヤ様の陣営に封じられた後だったんですよ」

「え、何が?」

「………………前世の記憶が、蘇ったのは」

「……」


 うわぁ……記憶が戻った時は全部手遅れのパターンか。

 その時には既にがっつりノア様の陣営で、信頼を得て臣下働きしちゃってた後、と。

 しかも封じられているせいで、運命回避の為に動くことも出来ないね?


「ノア様の陣営に与した私が、今更セムレイヤ様の傘下に加われる筈もなく。前世の記憶によって先のことがわかる、故にお味方させて下さい等と言っても戯言にしか聞こえますまい。この上はせめてもの足掻きと試行錯誤で運命の改編を目論んでいたのですが……」

「うん、それすっごく困るかな!」

「ですが、こうして話が通るのであれば否やはありません。前世の記憶が戻った今となっては、栄光や権勢よりも平穏一択です。先の安寧をお約束いただけるのであれば、私の身柄を預けましょう。誓約だろうと血判だろうと隷属の魔法だろうと受けて立ちます。ノア様は恐ろしい方ですが……あの方への忠誠も気付けばさっぱりです。私も自分が可愛いので、理想の未来を掴む為でしたら幾らでもセムレイヤ様と御子(リューク)様の為に影働き致しましょう」

「ラベントゥーラさんはドジっ子ぶりに不安が残るので、あんまり頑張りすぎないようにお願いしたいかな!」

 

 自分がリューク様の手で完璧に、この上もなく入念に殺られちゃう未来を知ってしまった為でしょうか。

 中ボスは、保身に走りました。

 しかも宣言通りセムレイヤ様に逆らえないよう服従の魔法をかけるようにお願いまでしています。

 その状態でセムレイヤ様側に寝返ったことを隠し、ノア様陣営のスパイを買って出てくれる積極性まで発揮しちゃって必死です。

 まあ、このままなら消滅待ったなしですからね……中ボスですから。

 

 何にしても、敵陣営に内通者が出来るのは有益だとは思う。それが信用できる相手なら、だけど。

 この神様が信用できるかって言われたら微妙だけど……そこはおいおい、今後の働きとかを見て吟味すれば良いことです。

 信用できないなって思ったら、その時はセムレイヤ様にビームか何か出してもらおう。そうしよう。


「ところで、ノア様には話してないよね?」

「話す訳がないでしょう。頭がおかしくなったと思われて抹殺されてしまいます」

「あ、うん……」

「信じられても、反応が怖いですしね」


 中級神ラベントゥーラさん。

 何はともあれ事情通な新しいお仲間(スパイ)、ゲットです!

 ついでに名前が長ったらしくて呼び掛け辛かったので、あだ名呼びの許可も貰いました。

 ノア様にバレる確率を下げる為にも現世での名前からはかけ離れたモノが良いという御注文も受けたので、これからじっくりなんて呼ぶのか考えるつもりだよ。




『……メイファリナ、そろそろ私からの本題に入っても良いですか?』

「本題? え、中ボス紹介に来ただけじゃなかったの、セムレイヤ様」


 ラベントゥーラさんとの意見の擦り合わせも何と言うことなく終わり、話は全部済んだつもりでいたんだけど。

 そんな私にかけられる、セムレイヤ様からの声。

 あれ? これが本題じゃなかったの!?

 考えてみれば中ボスの存在について尋ねたのは私の方。

 セムレイヤ様から振られた話題じゃなかった……!

 うっかりしちゃったよ、メイちゃん!

 同志セムレイヤ様から何かお願いがあるってお話だったのに、今の今まで盛大にスルーしとりました。


「ご、ごめんね、セムレイヤ様! メイちゃんで良ければ何でも聞くよ!」

『そうですか、それは良かった……実は先程も申しました通り、貴女にお願い(・・・)があるのです』


 神様からのお願い。

 それってなんだろう?

 ごくりと生唾呑みこんで、神妙に待つ私に。


 神様は、思いがけない爆弾を投下してくれました。


『――実は、息子(リューク)が……精神的なショックが強過ぎたらしくて。夢の中に引きこもり、ずっと泣いているようなんです。現実を拒絶し、精神(こころ)を閉ざし――このままでは夢から目覚めなくなってしまうかもしれません』


 とんでもない大事でした。

 思った以上に深刻で重大な……『ゲーム主人公』が挫折の危機? え、心折れちゃったの!? 序章で!

 メイちゃんの知らない間に、なんてことに!

 っていうか、ていうかさ、セムレイヤ様……


「それもっと早く言ってぇぇええええええええっ!!」


 絶叫を上げるメイちゃんの手に、親子経験値が限りなく0に近い最高神様が縋ってかかる。

 おろおろと途方に暮れて、泣きそうな声で仰いました。


『お願いです、メイファリナ! あの子を……あの子を、どうか助けて下さい!』

「助けるって!? メイが、具体的にどうやって!」

『全力で慰めて!』


 セムレイヤ様、いっそ潔いよ……でもメイちゃんに丸投げはどうかと思うんだ!

 慰めるってどうやって!?

 心の中に引きこもってるのを、絶望しきった現世に呼び戻すレベルの慰めってどうやるの!?


『側に寄り添うだけでも良いんです! 心が弱ってる時は他者の人肌が意外と良く効きますから。立ち直らせろとまでは言いません、だけど甘えさせてあげてください!』

「それ親御さんの役目じゃないかな! とってもとっても責任重大なんだけど、何故にメイちゃんに!」

『今の私はあの子に恨まれてること確実じゃないですか! ←偽セムレイヤ様の功績

それに比べて貴女はリュークに気に入られています。絶対です』

「気に入られ……えぇっ!? 何がどうなったらそういうことになるの? メイとリューク様の面識、ほぼ0だよ!?」

『そんなことはありません』

「お願い、そんなことあるって言って!」

『私の方こそお願いします! お願いします、お願いします! うちの子を助けると思って!』

「言葉通りの意味だよね!? メイとリューク様には心の傷を乗り越えるような絆も何もないのに! ラムセス師匠を斡旋した方が確実だよ!?」

『夢の中で他者に会いに行くなんて、メイファリナでなければ出来ません! 自覚はない様ですが、夢渡りはそれなりに難しいんですからね? 他の人間では駄目なのです!』

「セムレイヤ様が導いても駄目なの? ラムセス師匠はリューク様の心の防壁(ユメ)を破れないの?」

『貴女でなければ駄目なのです!』

「駄目押しされた……!」


 そして、私は。

 メイちゃんは。

 ……セムレイヤ様に押し切られました。

 顔出しNGの身で、リューク様を現世に送り出すっていう重大な使命を背負わせられて。

 リューク様を慰めに、行くぞー……リューク様の、夢世界。

 人生2度目の、他の人の夢世界です。

 それがどっちもリューク様のだなんて、これって何かの因果なのかな。


 『そこ』に羊のめーちゃん姿で行ったのは、なけなしの抵抗ってヤツでした。




中ボス ラベントゥーラ神

 前世名:道下(みちした) (たつき)

 かつてとある世界のとある島国にて、とあるRPGゲームに傾倒した人間の生まれ変わり。

 前世でプレイしたゲームの世界に中ボスという役割を与えられる神として生まれ変わるが、前世の記憶が蘇ったのはここ数百年のこと。

 記憶が目覚めた時には既に詰んでいた。

 この上はノア様にとって都合の良い世界に改変して生き延びようとするも、遥かに格上のセムレイヤ様に捕獲されて諦めた。というか日和った。

 もう生き残れるんなら何でも良いやの心境に達している。

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