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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
10さい:『序章』 破壊の足音を聞きながら
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11-24.謎の手際で即撤収

今回はちょいちょいリューク様視点が入ります。




 ――村が、燃えている。

 赤々と夜空に踊る炎は、暖炉であたたかく俺達をほっとさせてくれる火と同じものなのに。

 なんでこんなに不吉で、恐ろしい。

 なんでこんなに……絶望的な気持ちにさせるんだ。

 

 火が、恐ろしい物だということ。

 それを忘れていたんだと、目の前の光景が俺達に突き付けた。

 まるで俺達の少年時代を丸ごと燃やしつくして嘲笑うような、苦しさと一緒に。


「どうして、どうして……っ」


 とうさん、かあさん、ねえさん……!

 家族の顔が順番に頭に浮かんで、俺は、俺は……!


 破壊された村。燃やされる家々。土が抉れて大穴の出来た道々。

 これは、襲撃だ。

 誰かに襲われた痕跡が、隠されもせず曝されている。

 誰もいない。誰の姿も見えない。

 見慣れた村人は、どこにもいなかった。

 そのことにほっとして、無事に逃げているんじゃないかって期待する。

 ……だけど、これだけの破壊を前にそれが希望的な物の見方だってことはわかっていた。

 逃げてくれたんじゃないかって、願うけれど。同時に、恐れが湧きあがる。

 村の人達は、もしかしたら……あの瓦礫の下で、燃え盛る家の中で。

 物言わぬ躯になって、燃えているんじゃないかって。

 家の一軒一軒、中を確認したい気持ちと、見たくない気持ち。

 両方が胸の中で渦を巻いて気持ち悪い。

 走りだしたい。走って、走って、家に帰りたい。

 みんなの無事を確認したい。だけど、確認したくない。現実なんて見たくない。

 こわい。


 俺はきっと、この燃えている家々の中を確認しなくちゃいけないんだ。

 それで、それで……人を捜して、助けて、それでっ


「リューク!」

「っ」

「村長の家に向かうぞ」

「し、しょぅ……みんなは、」

「……生きていれば、村長の家に向かうはずだ。あるいは、村の外の森の中か」


 俺のぐるぐるごちゃごちゃになった気持ちを見透かすように、ラムセス師匠が強い口調で俺の意識を引き戻す。

 燃えている家はたくさん。俺達は少数で、確認している時間はないと。

 切羽詰った状況だからこそ、行動には目標と優先順位が要る。

 ずっと、そう教わっていたのに。

 俺は冷静になんてなれなくて。衝動と混乱でつまずきそうになっていた。

 心を落ち着けないといけない。こんな、非常時だからこそ。

 周囲がちゃんと見えていなかったことを、俺はラムセス先生に名を呼ばれたことで思い知った。


 エステラが、泣きじゃくっている。

 今にも駆け出しそうなエステラの手を、アッシュが握って引きとめていた。


「いま1人で行くのは駄目だ、エステラ! 危ないって、わかるだろ!?」

「でも、でも……! やだ、離してよぅアッシュ! おかあさんが、お父さんとお母さんが!」

「だから駄目だっ! お、れ……俺だって、家に行きたいよ!」

「あ……」

「でも駄目だ、から。だから、我慢してんだ……俺、怖いよ。家族に会いたいよ。だけど、エステラが危ないのも嫌なんだ。ラムセスさん達と一緒にいた方が、安全だ。だから、いっちゃだめなんだっ」

「う、うぅ……ごめん、ね、アッシュ」


 アッシュも、エステラを諭しながら泣いていた。

 多分、この場でラムセス師匠以外に冷静な奴なんていなかった。

 アッシュだって家には家族がいるんだ。それにおばあちゃんが寝たきりだったはず。

 ……こんな状況で、もし家族が逃げていたとしても。

 寝たきりのおばあちゃんは…………

 アッシュは、情に厚い。家族のことだって大好きだから。

 俺も、きっと今はアッシュと同じ気持ちだ。

 きっと辛い気持を、アッシュはエステラを守りたいって気持ちで我慢している。

 エステラがいたからこそ、アッシュは踏みとどまった。……エステラが一緒じゃなかったら、いの一番に駆けだしてただろう。

 

 焦る気持ちも、逸る気持ちも、怖い気持ちも。

 自分ひとりでねじ伏せるのは難しい。

 情けないけど、手が。かたかたと、手が。

 ……震えていた。


「……急ぐぞ」


 師匠の声に、頷いて。

 俺達は、村の奥……村長さんの家を目指した。

 一瞬、なんで村長さん?って思ったけど。

 非常事態だから、もしかしたら避難の陣頭指揮を村長さんが執ってるかも知れないとか。そういうことかな。




 村長さんの家と、俺の家は近い。

 真っ直ぐ向かう道は炎に塞がれていたから、少し迂回しながら進む。最短ルートを行けないのは、今の俺達には少し辛かった。

 徐々に近づく距離。 

 じりじりと焦る気持ち。

 暴走しようとする感情に引きずられて、俺やアッシュがそれに気付くのは、ラムセス師匠より随分と後で。


「……? なんだ、この音」

「っ戦闘音!」


 近い。

 道の先で、誰かが戦っていた。

 それがわかって、咄嗟に走りながら足音を殺す。

 ……誰が戦っているのか、わからない。

 自分達の存在を示して、不利な状況を招かないとも限らなかった。

 ラムセス師匠には、戦闘を行っている片方の正体がすぐにわかったようだったけれど。


「――トーラスか」

「先生が……?」

 

 先生が、誰かと戦っている。

 いや、誰かなんて考えるまでもない。

 この状況で、他の『誰か』である筈がない。


 トーラス先生が戦っている相手は、十中八九、この村を焼いた犯人だ……!!


 思い至ったと、同時に。

 胸の奥で炎が燃え上がった気がした。


「様子がおかしいな……トーラス、だけではない……?」


 初めて胸の奥に感じる炎があまりに熱くて、激しくて。

 だから俺は、ラムセス師匠の困惑が混じった呟きを聞き逃していた。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




「……はっ 誰かが接近している!」


 ぴこーんと頭に思い浮かんだのは、リューク様のご尊顔。

 メイちゃんのよく聞こえる(ケモ)耳に、はっきりと聞こえた誰かの足音と息使い。

 それを察知したのはメイちゃんだけではないようで、というかメイに聞こえたんなら他の子にも聞こえてるよね。

 だってミヒャルトは猫の獣人だし、スペードは犬の獣人。

 更に更にはヴェニ君なんてうさぎさんの獣人だよ? 聞こえない筈がない。


「ヴェニ君、誰か来たよ!」

「誰か来たな……新手か、援軍か」


 援軍です。

 援軍、ではあるんだけど……まずい。

 私は鋭く、中ボスのラヴェントゥーラさんを見て。

 そして仮面を付けたまま好き放題の自分達を見て。

 ……うん、逃げるっきゃないよね!


 逃走を決意しました。


 だけど、ただで逃げる気はないよ!

 だってこの場に中ボスを放置して行ったら……修正できないくらい、話がずれる気がする!

 少なくとも中ボス初登場時のイベントは消えるね、まず間違いなく!

 だから。


「突撃ぃー!!」

「なんだってー!?」


 私達が「誰か来た!」と叫んだことで、そっちに注意が向いていたらしいラヴェントゥーラ神。

 そのお腹めがけて、メイちゃんターックル!

 

 鳩尾(いいトコロ)に入った感触がした。


 でもそれで済ませる訳にはいかないから。

 最低でも、この場から中ボス神を引きずり出す……ううん、引き離さなくっちゃ!

 私は声を張り上げ、仲間達を急かしまくった。


「ミヒャルト、スペード、確保確保!」

「確保!?」

「おお、確保ぉお!!」


 半分以上、ノリと勢いだった。



 いや、だって仕方ないよ……。

 戦う時って、さ、頭に血が上るって言うか興奮するって言うか、さ……。

 ……テンション、ハイになっちゃうよね?




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 戦いの場は、村の広場だった。

 祭の時には櫓が立って、誰かが結婚する時にはそこで式を挙げて。

 楽しい思い出がいっぱいあった。

 みんなが賑やかに、楽しそうに笑っていた場所。

 そんな場所に、奴等はいた。


 ……うん、いた。

 いるにはいたが……俺の予想を超えた光景に、一瞬思考が止まった。


 だって、そこには、さ……?




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 あ。やっべ。


 やばい、リューク様だ! 見つかった!?

 やばいやばいやばい、やばい……! 早く撤収しないと!!


 見られたということに、すっごく焦った。

 顔は仮面で隠してるから、ギリセーフ!? セーフ? アウト?

 ………………セーフだよね! セーフ、ということにしてお願いお星様! ←混乱中。


 びくっと震えて、かたかた震える手で。

 メイちゃんは思いました。

 正体がばれちゃう前に、早々と風の如く!

 急いで撤収しないと……! ラヴェントゥーラ神諸共!!




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




「な、なんなんだアイツらは……」


 愕然とした、アッシュの声。

 俺も、きっと今はアッシュと同じ気持ちだ。(2回目)


 目の前に開けた、そこには予想通りトーラス先生がいて。

 そしてトーラス先生と相対する、金の髪の……俺がさっき遭遇したのと、全く同じ姿の男がいて。


 そして、相対する2人の、丁度中間地点に。

 ……小柄で赤いマントを付けた仮面と隈取りの4人組(不審者)と、額に硝子瓶を生やして泥塗れになった見覚えのない男がいた。

 男の左右の腕には猫耳と犬耳?の少年がぶら下がり、男の背から回した腕で、年嵩の赤マント少年が羽交い絞めにして。


「そっち、足持て! 足!」

「めっ! 暴れちゃ駄目なの!」

「ミヒャルト、ロープ貸せ! ロープ!」

「……関節外しちゃおうか」

「く……っ貴様ら! やりたい放題しおって……! 『天地を分かt……」

「呪文なんぞ唱えてんじゃねーよ!! 悠長にそれを誰が許すかってんだ」

「喰らえ、呪文封じ(物理)!」

「ふぐっ!?」

「口の中に吸水性ばっちりな綿を詰められた気分はどう?」

「よし、今の内だ! 梱包しろ、梱包!」

 

 男と赤いマントの集団は、敵対しているのか。

 なんか揉み合ってるんだが……これは一体どういう状況なんだ。

 彼らが敵対しているとして、この場で暴れてるってことは村の惨状とも無関係じゃないと思うんだけど。

 関係してるにしても、俺達にとって敵なのか? 味方なのか!? どっちなんだ!

 こんな変な光景を前にして、トーラス先生は全く動じて……な、い? いや、違う!

 良く見たら、トーラス先生の目に狂気が! 狂気っぽいナニかが!

 ぶつぶつ唱えてる呪文は聞き覚えがない。だけど聞こえてくる断片から、読み取れるものはある。


「待て、トーラス! 村を更地にするつもりか!?」

「えぇっ!?」

「師匠、やっぱりそうですよね! あれ、絶対に危険な魔法ですよね!?」


 トーラス先生が唱えている呪文は、絶対に人里(ここ)では使っちゃ駄目な類だ!

 ラムセス師匠の「更地」という言葉も(あなが)ち間違ってない。

 その結果を招くくらいの威力はあると、まだ未熟な俺でもわかった。

 そんな魔法の行使に走るくらい、追い詰められているのか? あの(・・)トーラス先生が!?

 信頼を置く師の未だかつてない姿に、敵はそれほど強大なのかと戦慄が走る。

 俺やラムセス師匠の言葉に、アッシュやエステラも息を呑んでトーラス先生へと注意を向けた。


 そう、注意が逸れたんだ。


「――て、っしゅぅううううううううっ(撤収)!!」

「!?」


 突如空気を裂いた鋭い声に、バッと振り返った先は。

 ……さっきまで、謎の男と赤マント四人組が揉み合っていたはずなんだけど。

 

 まるで狐につままれたような気分だ。

 視線を戻した、その先には。

 もう誰の姿もなかったんだから。


 あの一瞬で、彼らはどこに行ったんだ……?




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 咄嗟の判断って、正確出るよね。うん。

 一刻も早くリューク様達から離れなきゃって。

 間違っても、視界に入っちゃ……視界に入ったとしても、正体を気取られちゃいけないって。

 その一心で。


 思わず中ボス拉致って撤収かましちゃったんだけど。


 うん、これからどうしよう!

 後先考えない、完全なる無計画(ノープラン)での行動で。

 だけど目を逸らしても存在が消えることなく、現実のものとして私の目の前に……拉致被害者(ラヴェントゥーラ)さんがいる訳で。

 言い方は悪いけど、始末に困るよね!

 これから本当、どうしよう……良い方法なんて思いつく筈もなくって。

 しかも無責任にも、ラスボスの幻影と対峙しているだろう……序章のクライマックスそのものの場面(と言い切るには語弊がある)に直面している、リューク様の様子を見に行きたくて、仕方がなくて。

 動揺と混乱と困惑と。

 自分のやっちゃった結果に、頭を抱えた。


「メイちゃん、勢いで連れて来ちまったけど……こいつ、どうするんだ?」

「んぐっふぐぅ! ぐぐぅぅぅううううっ!!」

「く……っまだ抵抗しやがるか! ミヒャルト、縄追加!」

「対魔物用の縄は特殊だから、本来人に使用しちゃいけないんだって、ヴェニ君知ってる?」

「捕縛用の縄なんざ他にねえだろ! そもそも、ちょっと縛った程度じゃ足りないから寄越せっつってるんだよ!」

零落した神(マモノ)用の縄を使うので正解だよ、ヴェニ君……」

「なんか言ったか、メイ」

「ううん、なんにも言ってないよ!」


 目の前の神様は弱体化してるけど、完全に『堕ちた』訳じゃない。

 それでも魔物ととても近い存在であることに違いはなくて。

 多分、今こうしてラヴェントゥーラ神を拘束出来てるのも、魔物用に特別に神殿で作られた縄を使っているからだ、と思うんだけど。

 本来の実力差的にも、私達と元々神だった中ボスでは開きがある筈……まだ中ボスが調子を取り戻していないとしても、開いている筈なのに!

 ミヒャルトの持っていた反則っぽい短剣と、魔物用の縄でどうにかなってしまった……これが、策を弄するということ!?(違)

 そんな裏知識を知る由もないヴェニ君達は、必要に迫られて代替しているくらいの気持ちだと思う。

 ……対人用の縄だけで縛ってたら、きっととっくに拘束を振りきられてると思うんだよね。

 そうと知らずにぎっちぎちに縛り上げるミヒャルトの手際のみごとさよ……うん、対魔物用の縄を使ってるからだよね! 間違っても、ミヒャルトの緊縛技術が神様の対処能力を超えたとかじゃないよね!

 ……っていうか何処で覚えてきたの、ミヒャルト。亀甲縛りなんて。

 え? ママさんに習った?

 ああ……軍人さんが捕虜を尋問する時用の技術の一貫、かぁ。

 前世の知識が微妙にあるせいか、普通に捕虜用のきっつい縛り方法の筈のそれが、何故かとってもいかがわしく見えちゃうよ!

 止めて、メイちゃん、まだ思春期前なんだから!


 ゲームで、ドジっ子ぶりに溢れた言動はともかく、ビジュアルはとっても格好良いって言われていた中ボスさんは……

 ただいまとっても無残なことに、亀甲縛り+猿轡というコアなお姿に成り果てておいでです。


「これ、どうしよう……」

「はあ? 村の襲撃犯だろ。主犯じゃなさそうだが、共犯ならそれなりの場所に突き出すに決まってんじゃねーか」

「あ」

「っつうか、それが俺らの仕事(バイト)だろ。俺ら賞金稼ぎなんだから」

「賞金がかけられる前の現行犯でも、突き出せば罪状に応じてそれなりの報奨金が出るしね」


 ヴェニ君から常識に満ちた正論のお答えが……!

 それは、考えつかなかった。

 相手は『ゲーム』の『中ボス』だって、固定観念ぶっ壊された気がするよ!

 っていうか、『中ボス』を拘置所送りにしちゃうのか……。

 それは間違ってない筈、なのに。

 なんでだろう。

 『ゲームファン』的に、何かがとっても間違っているような気がした。


 多分、拘置所送りにしても、魔物用の縄から解放された途端に牢破りか何かして自由を取り戻すとは思うんだけど。

 間違っても、『ゲーム本編』の時までずっと牢の中とか、そんな事態にはならないと……信じたいんだけど!

 ソレをやって良いのかっていう葛藤が、私の胸の内に吹き荒れた。





次回、有耶無耶の内にリューク様を取り巻いて強引に進む『ゲーム序章』の『ボス戦』イベントが……!

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