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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
10さい:『序章』 破壊の足音を聞きながら
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11-23.凶器の名は硝子瓶


奴を埋めろ。

メイちゃんはそう言った。




 メイが知る筈もない情報だから、地属性が効くとはハッキリ明言できないけど。

 それでも森に狼討伐に行って来た帰りで、物資が万端とは言い難い今。

 物がないことを言い訳に、私はこの場で1番物理的なコントロール力の高いヴェニ君にお願いしました。

 もうボウガンの矢が尽きてることは知っている。

 だからこそ、このお願いは不自然にならない。


「ヴェニ君、後ろから指示お願い。それからついでに……あの不審者に適度に石を投げつけて牽制してほしいな!」

「石? ああ、まあそこら辺に落ちてっけど」

「メイ、微妙にノーコンだから!」

「嘘つくな。まあ良いけどな……スペード、投石紐(スリング)貸せ」

「大事に使ってくれよ、ヴェニ君!」

「頻繁に家に忘れて作り直してるヤツが言うな。これ何代目の投石紐だよ!?」

「37代目だよ」

「数えてんのかよ、ミヒャルト……」


 今は大きな魔法の準備に入って静止しているトーラス先生。

 さっきまでトーラス先生がばんばん魔法を炸裂させまくっていたお陰で、足場は……程々に悪くなっている。

 うん、流れ弾が当たってところどころ捲れてたりとか、穴が空いていたりとか、衝撃で掘り起こされた土や石が散乱してたりとか。

 お陰で足元には石がたくさんあるね。

 ヴェニ君の抜群の投擲能力なら、きっと威力も望める。

 何より運命が狂ったとはいっても、ヴェニ君は元々『ゲーム』ではリューク様達の仲間になる筈だった隠しキャラ(チート)。

 彼の攻撃なら、きっと神々にも通じるはず。

 はず、はず……って推測ばっかりで不安になるけど。

 今はそれを信じなくっちゃやってられないから。

 魔法の準備をトーラス先生が、石礫の攻撃をヴェニ君が準備し始めるのを確認して。

 メイは、中ボス目掛けて突撃を開始した。


 足場は、悪いけど。

 この程度だったら偶蹄類の素敵脚力でどうとでもしてみせる……!

 メイに続くように、ミヒャルトとスペードも飛び出した。

 合わせなくってもぴったりのタイミングで、2人は散開して左右に回る。

 私達の間に、言葉は要らない。

 こと戦闘においては、もう何回も何百回も……6歳の時からずっと、修行の戦闘訓練で、あるいは賞金稼ぎとしての実地で何度も何度も息を合わせてきた。

 積み重ねが、経験が。

 私達の呼気を自然と合わせる。


「喰らえ、炸裂……!」


 今までの流れからして、ノア様(幻影)はすぐには手出しをしてこないものと判断しつつ。

 それでも油断はできないから。

 万全の体勢で挑めない私達は、工夫を凝らすしかない。


 ミヒャルトが懐から何かを取り出し、ラヴェントゥーラ神の手前あたりの地面めがけて投げつける。

 それは一見、何の変哲もない硝子瓶で。

 だけどミヒャルトがわざわざこの場で取り出すモノが、穏当なアイテムの筈がない。断言出来る。

 十中八九、何の変哲もないというには物騒な効果が――。


 硝子瓶が地面に接触して砕けた瞬間。

 カッと強い光が溢れた。

 

 ミヒャルトのことだからまずは目潰しに走ると思った……!

 戦闘において五感を1つでも封じられるのは痛い。

 それが目でも、耳でも、鼻であっても。

 だけどまあ、狙い所なのは目と耳のどちらかあるいは両方だよね。

 何の準備もなく耳を狙われると、メイちゃんやスペードも巻き添えを食らう。

 だから、目だと思った。

 その予想が大当たりだよ!


 展開が読めていた私とスペードは、その瞬間強く目を瞑ってやり過ごす。

 本当は戦闘中に目を瞑るとか、敵から目を逸らすのはご法度だけど。

 この瞬間だけは目を閉じないとこっちがヤバい。

 効果は、案の定。


「目が! 目がぁぁああああっ!!」


 目を開けると、そこに両手で顔面を押さえてのた打ち回るおにーさんがいた。

 うん、ドジっ子が華麗回避するとか夢のまた夢だよね!

 本来なら(・・・・)出来る男でも、今ではネタ枠ギリギリのスタイリッシュな神様は、視界が眩んだ拍子に足を滑らせて再び顔面からイった。本日2度目のド派手な転倒ありがとうございます。

 派手にすっ転んだが為に、ドジっ子神の衣服はどろどろだよ!

 ここぞとばかりにヴェニ君の投石が立て続けにヒットする。わあ、全部命中するとか流石ヴェニ君ー。

 一見無造作っぽく投げつけられた石礫が、ドジっ子神の両膝・両肩の関節に命中した。うん、どう考えても動きを封じにかかってるよ!

 だけど残念ながら、ラヴェントゥーラ神はドジっ子の呪いを受けていてもアレで神様だから。

 本当に残念なことに、あまりダメージは通っていない。

 今のところ、自爆ダメージが1番大きく喰らってるよう?


「く……目潰しとは卑怯な!」

「すっ転んで勝手にダメージ受けたのはアンタだけどな」

「私を愚弄するつもりか……!」

「ただの事実だろ!? アンタが転んだことにまで責任負えねーよ!」


 イケる……これなら、イケる! そんな確信がメイちゃんの胸に湧き上がる。

 だって攻撃全命中&自爆ダメージの自動加算が約束されてるようなものだもん。

 例え威力の望めない攻撃でも……怒濤のラッシュで動けなくしている隙に、埋めて証拠隠滅は出来なくもない。はず。

 でもこの抑えきれない不安はなんだろ……?

 それはたぶん、猶予の見えない制限時間が刻一刻と迫っているせい。

 わかっているけど、こんな大物の敵をメイちゃん達だけで瞬☆殺するのは無理がある。


「トーラス先生、後どのくらい時間稼げば大きいの1発いけそ!?」

「あと……そうじゃのう、10分くらいイケませぬか?」

「え?」

「マジかよ……爺さん、10分どうしても要る。そう、言うんだな?」

「あれ程の相手を、となりますと……10分、儂に預けていただきたい」


 マジで大きいのぶっ放す気だ。

 トーラス先生の返答に、村ごと灰燼に帰すつもりかと疑った。

 10分も時間をかける攻撃魔法なんて、実戦じゃ殆ど役に立たない。

 だって、どう考えても時間をかけてる内に殺されちゃうもん。

 だから攻撃魔法の中でも汎用性が高いのは、あまり時間を置かずに撃てるのばかり……だったと思うんだけど。

 そこを10分時間を使うってなると、絶対に術者が殺されないで発動までこぎつけるって前提がいる。

 そんなの……個人での使用じゃなくって軍隊で使う、決戦用とか攻城用とか、その辺りの魔法だよね!?

 そんなものを単独で使えるのかと戦慄しつつも、この高い能力がリューク様の師匠に選ばれた由縁かと納得する。

 でもさ、だけどさ。


「そんな大きい魔法、メイ達も巻き添え喰らうんじゃないかな――!?」

「そこは儂が結界で!」

「村が滅ぶよ!」

「犠牲を覚悟せずしてこの場を切り抜けられるとも思えませぬ。なに、住民達の避難は完了しておるのです。最低限、命だけは……」


 地属性魔法だったと思うんだけど、本当に地下に影響ないの?

 村人さん達が避難してるのって、地下に作った空間だったよね……?


「あ、あとあとあと! 森からこっちに戻って来る筈のリューク様達は!? 巻き添えになったら洒落にならないよ!」

「あちらにはラムセスがついております! あの男であれば皆を守り切るはず……!」

「ラムセス師匠は超一級の武人だけど魔法を前には無力じゃないの!?」


 ラムセス師匠って獣人だったよね。

 完全なる物理攻撃特化の直接戦闘専門で、魔法抵抗力は低めに設定されてたと思うんだけどメイちゃんの気のせいかな! 前世からの思い違いかな!?


 ちょっと頭の冷めた状態で、トーラス先生をまじまじと見る。

 特に、いつもは冷静なその瞳を。


 ………………トーラス先生の瞳は、渦を巻くような熱気で煮えていて。

 控え目に言って錯乱していた。

 わあ☆ 渦巻く狂気ー……

 

 なんてことでしょう!

 この場で中ボス撃退せねばとそればっかりに気が急いていて気が回ってなかったけど……気が付いたらいつの間にかシナリオとは別のところでリューク様達に命の危機が迫ってるよ……!?

 しかも味方の攻撃で! 

 やっべぇ、これどうにかしないと!?

 そう思っても、妙案が思いつかない。

 メイに出来るのは……暴走するトーラス先生がぶっ放す前に、この中ボスをどうにか始まt……撃退することかな!?

 それさえ出来れば、丸く収まる。

 その一心で、執念を燃やした。


「覚悟、ドジっ子☆おにーさん!!」


 だからメイちゃんは無茶な特攻にだって出るのー!!


 破れかぶれのもうどうにでもなれ精神で、蹄カバーがどろどろになるのも構わず突撃した。 

 いつもならもうちょっと気を使うんだけど、そんなこと気にしている段階じゃない。

 未だ目が痛むのか涙をだらっだら流しまくってる神様に向かって、土を蹴る。目潰しの継続を狙って……地面に転がっていた石も一緒に蹴り上げた。

 蹄を伝う、硬い感触。

 ……足に感じた『手応え』は、思った以上に固く硬質で……儚い感触がした。


 → 【獅子奮迅Gの空きビン】


「あ」


 蹴ったモノは、予想以上の凶器でした――――!?


 仕方のないこと、だけど。

 トーラス先生が戦いながら飲み捨てた獅子奮迅G(えいようドリンク)の空き瓶は、その辺に投げ捨てられていて。

 偶然、その1つにメイちゃんの蹄がヒットした。

 わざとじゃない。重ねて言うけど、わざとじゃないよ!

 わざとじゃないけど……

 丈夫で強い私の蹄は、硝子なんて物ともしない。

 蹴った衝撃で砕けた硝子片が、勢いそのままラヴェントゥーラ神に降り注g……いや、突き刺さる!

 一際大きな破片、というか割れ砕けた瓶の半分になった断面が、ラヴェントゥーラ神の眉間にぶっすりいった。

 額から瓶の割れた下半分を生やす形となってしまって、クールな顔立ちが台無しです。

 ……()に恐ろしきは、呪いの補正というべきか。

 狙った訳じゃないのに、最悪の結果がドジっ子神に降りかかるのは絶対に千年前の神様の呪いか何かだと思う。うん。

 

「く……っなんのこれしき!」

「どうしよう、ヴェニ君! まだメイ達まともに攻撃すらしていないのに、敵さんが勝手に損傷していくよ!? これって喜ぶべき、怖がるべき!?」

「あー……とりあえず、喜んどけ。そういう星回りの奴ってのは探せばどっかにいるもんだ。今は戦いやすい敵だったことに感謝してもバチは当たんねーぞ?」


 そう言いながら今が狙い目☆と石をせっせと投げるヴェニ君。

 そのドライな割切りっぷりが素敵です。


「そ、そうだよな! 敵に情けをかけてちゃ、こっちが足下掬われる……もんな!?」

「なんでスペードまでビビってるのさ。良いから、殺るよ」


 私と近い感性を持っているのか、スペードも驚いてドン引きしてたみたいだけど。

 相手がどんな状態でもミヒャルトは、敵に対してどこまでも非情に徹する方針みたいで。

 好機を逃がしはしないと、両手に握った剣を振るう。

 ……あれ? おっかしぃなー……ミヒャルトがまともに剣を振るうの、すっごく久々に見た気がするよ? そんなこと、ない筈なのにね?

 首を傾げながら、メイちゃんも追撃を狙って駆けました。

 

 片膝をついた状態の、ラヴェントゥーラ神に。

 その低い位置に合わせるように、駆け寄りざまミヒャルトの体勢がスライディングに切り替わる。

 ミヒャルトの武器は、細身の片手剣と短剣であまりリーチは長くない。

 極端に身長差が生まれる状況だと、斬りつける瞬間に屈むか足を止めるかといった余計な動作が滑らかな動きに綻びを作る。

 スペードみたいに蹴りを意識して鉄板入りの靴を履くとか、脚甲を付けるとかしておけば良かったのかも知れないけど、ミヒャルトの動きは身軽さを重視している。足だけで木に登ったりすることも多いし、そのこともあって足の武装は最小限。

 だから蹴り攻撃は最初から度外視しているところがある。

 ミヒャルトは威力の望めない蹴りより、刃物での攻撃を優先した。

 相手が(勝手に)ダメージを負っていても、油断は禁物。

 足を止めて隙を作ることのないよう、一瞬で。

 擦れ違う瞬間を狙ってミヒャルトの左手……なんか禍々しいデザインの短剣が、振るわれた。

 ……あれ、あんなデザインの短剣持ってたっけ!?

 刀身がどす黒い紫とか物凄く怪しいんだけど!

 

 ちょっとぎょっとしながらも、メイちゃんも攻撃すべく続く。

 私の武器は、槍。

 ミヒャルトみたいに無理のある体勢を取る必要はない。

 未だ屈んだ中ボスの状態を見ようと、接近しながらも目を凝らす。

 ……ただの下界の民(ニンゲン)の攻撃じゃ、ちっとやそっとじゃ傷つかない筈の、仮にもかみさまが。

 ミヒャルトの短剣で裂かれた首筋を押さえ、荒い息を吐いていた。

 肩は上下し、傷を押さえた手の下から紫色の蒸気(けむり)が上っている。


「チッ……浅かったか。咄嗟に避けられた」


 わぁお、躊躇わずに首狙いとかミヒャルト容赦ねー……じゃ、なくて。


 ちょっとミヒャルトくーん!?

 その得体の知れない短剣、なんなのかなぁ!

 物凄く、すっごくすっごく聞いてみたい。

 今が戦闘中じゃなければ聞けるのに!

 まあ聞いてもはぐらかされる気がするけど!


 あまりに驚いて、攻撃しようとした直前に動揺したからだと思う。

 槍を振るった瞬間、手元が狂った。


 どすっ


 ……得体の知れない短剣の謎ダメージが、どれだけ重かったのか。

 身動きが若干辛そうな中ボスの避けた、肩口に。

 手元の狂ったメイちゃんの攻撃は、金属製っぽい肩当てに直撃して穂先が逸れて……滑ったそのまま、攻撃は上体ごと流される。

 体勢の狂った瞬間を見逃さず、脂汗もそのままにラヴェントゥーラ神の手が此方に延びた。

 掴まれる……!


 捕まる、と思った。

 

 だけどやっぱり、頼るべきは息の合った仲間達だった。

 

 此方に伸ばされた腕、心持ち前傾になった中ボスの身体。

 いつの間にか背後に接近していた、白狼(スペード)

 遠慮無用のタックルが、ラヴェントゥーラ神の身体を押し潰す。

 ダメージは無くても、相手の動きを後押しするようなタイミングだったから。

 ドジっ子神はそのまま、三度(みたび)べちゃっと地面に熱い抱擁をかます羽目になる。

 今度は額に突き刺さった硝子瓶っていうおまけ付きで。


「――――――――――っ!?」


 なんか悲痛な声がした。


 



ドジッ子というか、なんというか。

小林の表現力不足のせいで、なんかイジメみたいになった……。


「お、おい……ミヒャルト、その怖い短剣どうしたんだ」

「これ? さっきまでいた森で見つけた短剣だけど。祠があったよね、あの裏側で半ば土に埋まった宝箱を見つけて……ね」

「その中に、その危険物が入ってたのか?」

「(え、なにそれメイちゃん知らない。もしかして……隠しアイテムだったり、する?)」

「……ここの茂みに潜んでいる間に、ちょっとした薬を塗っただけだったんだけどね? 僕の把握してなかった効果が出たんだけど、この短剣のせいかな」

「お前、また毒塗りやがったのかよ……それ、絶対変な相乗効果出てるって」

「おかしいね? これ自体は毒じゃなかった筈なんだけど……」

「……何塗ったんだよ?」

「竜神殿で貰った聖水。まずは毒を塗る前に清めとこうと思って。……ほら、余計なナニかがついていたりすると、混ざって毒が変質したりして面倒だから。狙った通りの効果が出ないと面白くないしね」

「結局塗るつもりだったんじゃねーか!」


 ミーヤちゃんはどうしてこんなに毒のあるキャラになってしまったんだろう。

 最初は「ストーカー猫男子」としか設定していなかったのに。



次回:「『ゲーム主人公』は見た!謎の怪人赤マント集団の正体とは!?」

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