表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
10さい:『序章』 破壊の足音を聞きながら
143/164

11-10.知らない間にLet’s バタフライ!

彼女達自身の行いが、彼女達をこの時、この場に導いた。


今回は前半リューク様視点でお送りいたします。



「強い……」


 目を見張るほどの驚きで、そう思った。

 相手は同年代――確か、1つ年下――だと聞いていたのに。

 もしかしたら自分よりも強いかもしれない相手。

 年齢の近い相手の中では初めて遭遇する強さに、俺は驚きと警戒と……それから、奇妙な高揚を感じていた。


 凄い、俺だけじゃないんだ。

 自分と同じくらい強い相手は、同年代にだっているんだ――と。


 この村にいる限り、井の中の蛙だってことはわかっていた。

 村の中じゃ、ラムセス師匠とトーラス先生がダントツに強い。

 だけど俺だって、なかなかのものじゃないかって。

 師匠と先生に鍛えられて、この年齢にしては凄く強いんだと思っていた。

 実際に、村の『子供』で俺より強い相手はいなかった。

 年齢の近い相手との喧嘩で、負けたことがない。

 五十歩百歩だったのかもしれないし、俺も天狗になったただのひよっこだったのかもしれないけど。

 それでも漠然と、やっぱり自分はこの年にしては強いんだろうなって思い込んでたんだ。

 だけど2人……いや、3人、年齢も実力も近い相手が、いま目の前にいる。

 彼らはこの村の外からやって来た、賞金稼ぎだ。

 まだまだ若手の、見習い同然だって聞いた。

 これでまだ、見習いなんだ。

 世界は本当に広いんだ、と。

 相手の強さから、今初めて理解した気がする。

 この村を離れて遠出なんてしたことがなかったから、今まで知らなかっただけで、俺はただの世間知らずで。

 強いと自分で思い込んでいただけの、ただのガキだった。

 それを自覚して、恥ずかしいような、むず痒いような気持ちになる。

 だけどそう思うと……何故か、力も湧いてきた。

 ……変な話だけど、嬉しいっていうのがまず思ったことだった。

 どうして嬉しいのか、自分でもよくわからないけど。

 

 こんなところで、『恥ずかしい』で終わらせる気はない。

 自分はもっとやれるんだと、もっともっと高みを目指せるんだと。

 外からやって来た子を相手に、自分の力を試してみたい。

 自分が外の相手にも通用するんだって、試してみたい。

 戦意が、漲った。


「……! これも避けるのかよ!」


 スペード、だったかな。

 目の前の彼は、俺よりも機動力で勝る。

 それを補うのは、せっせと毎日ラムセス師匠相手に鍛錬を積んで培った……強者を相手にした時の、勘。

 これが中々侮れないんだ。

 瞬間瞬間、妙に巧みに気配を消してくるから、目を離さないようにしようと思っていても見失ってしまうことがある。

 だけどその度、何となく狙われている箇所と狙ってくる方向がわかって気を巡らせると……攻撃を食らう前に、相手を見つけることができた。

 凄い、ラムセス師匠との修行が、ちゃんと身になってる!

 日々の成果がどれだけ積まれているか、条件の近い相手との試合だからこそ実感した。


 だけど毎回毎回、見失ってばかりいる訳にはいかない。

 だって情けない。翻弄されるばかりの受け身じゃ駄目だ。

 相手の速さに追い付けずにいたけど……目が、速度に慣れてきた。

 目が慣れたら、そっちに身体の動きを合わせる!


「な……っ速度が、上がった!?」

「いつまでも、やられっぱなしじゃいられないからねっ」

「ぐぅ……っ」


 相手の意表をつけるような、ここぞというタイミングを見計らって。

 スペードの蹴りを避けると同時、体の反応速度を上げてその懐に飛び込んだ。

 距離の近い相手との戦いで、長剣は扱い難い。

 それでも使い方次第ってところはあると思う。

 使うのは刃ではなく……柄。

 手首を返し、柄の方を相手に向けて。

 今までラムセス師匠に成功したことはないけど、殴打を試してみることにした。

 まさか、斬る訳にはいかないからね。



   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「凄い、リューク様……!」


 ラムセス師匠とトーラス先生に鍛えられて、強いんだろうなぁとは思っていました。

 そして、この目で目にした。

 戦いの中で相手に適応し、急成長する姿……!


 見間違いじゃないし、勘違いでもないと思う。

 最初はもっと、スペードに翻弄されて動きがぎこちなかったもん。

 だけどそれが、攻防を繰り返す内に……ハッと気づくと、激変していた。

 あれはとても「緊張がほぐれたから本来の動きを取り戻した」なんてものじゃなかった。

 メイだって日々、ヴェニ君という達人の動きを見てきたから。

 これでも、戦闘に関して目は肥えているつもり。

 その私が断言するよ。


 リューク様の動きは確かに、戦いの中で進化した。


 戦いながら自分の動きを最適化させる、とか。

 土壇場で相手を凌駕する、とか。

 ゲームの主人公を張るに相応しい雄姿を見させていただきました!

 リューク様凄い! 主人公っぽい!

 満足満足大満足で、メイちゃんとしては思わずキャーキャー叫んで跳ね回りたいくらい。

 スペードも良い働きしたね!


 惜しむらくは。


「……でも、スペードと引き分けかあ」


 うん、そうなの。

 リューク様が勝った!って思ったんだけどね。

 結果を見れば……引き分け、だったんだよね。


 スペードの放った回し蹴りを華麗に避けて、足の間を縫うような最小限の動きでリューク様はスペードの懐に潜り込みました。

 接近しながらの、近距離での駆け引き。

 残念ながらその間合いは……スペードの得意とするところ。

 リューク様の剣の、柄頭がスペードの米神へと寸止めの一撃を放ち……でもそれを、スペードは掌で受け止めて。

 交差するように、短剣を捨てたスペードの拳がリューク様の鳩尾を狙い……それをリューク様がガードして。

 今にももつれ合いそうな密着姿勢で、決着はつかぬまま。

 勝負はこれまでと、ヴェニ君とラムセス師匠が彼らを引き離しました。


 幼馴染みとして、スペードには悪いなって思うけど。

 でもでも、だけど。

 リューク様が華麗に勝つところ……見たかったな!

 まさかあの2人が、攻防において互角のままに終わるとか………………互角のままに、終わるとか?


「……ん? けど、あれ……?」


 …………はれ? リューク様とスペードが、引き分け。

 それつまり……あれ?


「あれ、あれ……あれ?」

『メイファリナ? どうしたのです』

「あ、あう……なんか、思い至っちゃいけないことに至りそう!」


 人型形態のスペードが、たった今リューク様と互角であることを証明しました。

 だけどスペードの本来の戦闘スタイルは、人型と狼型を交えながら目まぐるしく相手を翻弄するもの。

 動きの緩急つけ方だって、人型だけで戦うのとは随分と違う。

 ……つまり今のスペードは、本気を出していない。

 手加減状態のまま、恐らくは様子見の戦いで互角だった。

 

 そしてヴェニ君の3人の弟子の中で、メイちゃんが1番強いんだよね。


 他の2人、スペードとミヒャルトには負けたことありません。

 危なかったことは何度もあったけどね!

 それでも何とか、いつも最後には私が2人を制してきたんだけど。


 え?っと……これつまり、今のメイちゃんとリューク様が戦うってなったら…………


「………………」

『………………』


 私とセムレイヤ様は無言で顔を見合わせて、暫し。


「今日も良いお天気だよね!」

『そうですねー……』


 メイチャンハ、ナニモキヅカナカッタ。

 

 うん、メイちゃん何にも知らないよ!

 ゲームの主人公の凄いとこは、あの成長速度にあると思うの!

 そう、さっき目にした、戦いの中での急成長とかとか進化とか!

 実際ゲームのキャラって凄いよね? 最初は「ひのきのぼう」装備で雑魚モンスターにえいえいって殴って苦戦とかしてたのに、気付いたらどんどん強くなってて。

 ゲーム終盤にさしかかる頃には最初は苦戦したモンスターに遭遇しても素手の一撃でオーバーキルとか決めちゃうんだから。

 敵の攻撃だって最初は一撃でHPの四割とか減ってたのが、気付けばどれだけ喰らっても「1」換算になっちゃうんだよ?

 ゲーム内での時間軸でも、一年と経たずにそうなっちゃうんだよ? 凄いよ。凄いなんて言葉で済ませて良いのかわからないくらい凄いよ。

 うん、現実の武道家さん達は泣いて良いと思う。

 メイちゃんも此処まで獣人の身体能力って素養はあったものの、結構コツコツ頑張って鍛えてきた方だからちょっと……ううん、すっごく羨ましい。ヴェニ君が嫉ましくなっちゃいそうだよ!

 この世界とリンクしていた『ゲーム』にはドはまりしてたから、実際にリューク様やヴェニ君に嫉妬はないけどね!


 メイちゃんは、『ゲーム』の登場人物(キャラ)じゃない。

 『ゲーム』で展開した歴史(ストーリー)を世界が辿り始めたとして、短期間で急成長を遂げるリューク様やその仲間達の成長率に追いつけるとは思えない。

 短期間であんなに強くなるのは、常人には無理だと思うんだ。

 人間が人間(?)になるような、むしろ人間やめちゃってるような。

 そんな劇的な進化は得られない。

 だからこうして、『ゲーム』の『ストーリー』が始まる前に。

 頑張って強くなって下地を作って、最後までリューク様達を追跡(ストーキング)出来るだけの実力を養わないといけない。

 それを思うと、最初はリューク様達よりも『すごくつよい』くらいで最終的な帳尻は合うんじゃないかって思うんだけど。

 それを思うと、今回発覚した事実は……歓迎すべき、ことなのかなぁ?


 ああ、でも。

 将来を思うとやっぱり不安。

 今は実力が伯仲していたとしても……あと5年で、ラスダン突入時のリューク様達並の実力を得ることは出来るのかな。

 『ゲーム』の『ストーリー』が始まったら、到底体を鍛えて修行する時間なんて得られそうにないのに。


 大丈夫、たぶん大丈夫。

 きっとメイちゃん、伸び代はある方だから!

 そう自分に言い聞かせて、そっと不安に蓋をする。

 いざとなったらセムレイヤ様の支援もあるし、大丈夫だよね……?


 そのセムレイヤ様も、ゲームの中盤から後半くらいで死んじゃう宿命だけど。

 他ならぬ、息子(リュークさま)の手にかかって。


『リュークは本当に素直な頑張り屋さんに育ちましたね。戦いの中、実力が足りぬと腐ることなく……足りないのであれば今すぐにでも足していこうと土壇場でも諦めずに足掻く。私の息子はなんと眩しいのでしょう。良い若子だと思いませんか、メイファリナ』


 当のセムレイヤ様は、そんな宿命を気にした素振りもなく。

 ほうっと息を吐いて息子の成長ぶりを純粋に喜んでおられます。


「うん、私もそう思うよ。セムレイヤ様! リューク様は本当に努力家さんだよね。……実力に不足がないと証明しちゃったから、尚更森への同行を断る口実に(ヴェニ君が)困りそうだけど」

『森への同行……? そう言えば、メイファリナ。私が連絡をするよりも早く、それも師と同輩を伴って来ましたが、何か理由が?』

「えっ」

『え?』


 …………そういえば、セムレイヤ様はノア様の気配を気にして、最近引籠り気味で。

 全然意思の疎通が出来ていない状況で、メイ達来ちゃったんだよね。


 つまり、セムレイヤ様はメイ達の目的を把握していない。


 情報の共有に支障があったことに気付いて、私は慌てて理由と目的をセムレイヤ様に説明しました。

 以前私達に苦い体験を味わわせた巨狼を倒す為。

 私達自身の手で決着を付けて、敗走経験によって残った心のしこりを溶かす為に来たんだということを――。


 だけど説明を終えた時。

 きょとんとした顔で、セムレイヤ様が首を傾げました。


『この村の裏の森に、巨大な狼…………』

「うん、前にメイ達を追っかけてきたやつ」

『……メイファリナ? 私の思い違いかもしれませんが……この時期に、あの森に、大きな狼。この条件で思い当たるモノがありませんか?』

「えっ?」


 どこか困ったような顔で、鳥に擬態したセムレイヤ様がメイの顔を見上げてきます。

 本当に困っているように、見えたので。

 メイは素直に言われた通り……頭の中にキーワードを並べ上げました。


 この時期に。

 あの森に。

 ……大きな狼。


「――………………あ。やべっ」


 セムレイヤ様の言わんとしたことを、私が察したのはすぐのこと。

 元々情報は……特に『ゲーム』関連の情報は共有していたので、セムレイヤ様がわかって前世で『ゲーム』を何度もやり込んだ私が気付かない訳はない。


 そうだよ、うん。

 そうなんだよ……。

 思い至っちゃった、ん、だよね。

 むしろ何故、もっと早く思い出さなかったのか。

 この狼討伐の為にアカペラの街を出立する前に、どうして思い出せなかったのかと……ちょっと、自分の頭をぽかぽか叩きたくなりました。


「あの狼……森のエリアボスだよっ!」

 

 『ゲーム』で『主人公(リュークさま)』が最初に魔物との戦闘を経験する、裏の森。

 そこはエステラちゃんが迷い込み、リューク様が仲間と一緒にお迎えに行く場所でもあり……

 ……『ゲーム』内では、最初のダンジョンとも言えます。

 

 エステラちゃんが迷子になってくすんくすん泣いているのは、現時点で到達できる森の最奥部。

 そこに辿り着く為には、『大きな三つ目の狼(エリアボス)』を倒さないといけないっていう。


 ――復唱してみましょう。

 大きくてー、 (←どこかで聞いた気がする)※心当たり

 三つ目のー、 (←どこかで見たような気がする)※心当たり

 ……おおかみ。 (←なんだか記憶が疼く気がする)※隠しようのない心当たり


 あ、はははは……なんかどっかでそんな感じのイキモノを見たような気がするー…………って気のせいじゃないよー!? 

 森にやたら狼が多いなって状況になってるけどそうですか、アレ『ゲーム』にも出てきた最初のエリアの雑魚敵ってことですね!?

 というかあの狼が最初のエリアボスとか、リューク様の運命の過酷さ半端ないね。

 その難易度を思うと、メイちゃんもストーキングの難易度高いんだろうなって身が引き締まります。


 そもそもエステラちゃんが森の奥でぷるぷる震えて帰ってこられなかったのも、帰り道にどっかりと狼が鎮座していたせいだったはず。

 つまりあの狼は、物語を円滑に進めるにあたって『いなくちゃいけない障害』ということで。

 ……うっわ、危な。

 もしも何かの間違いで、前に遭遇していた時に倒せていたら。

 いや、実際は倒すだけの実力が足りなかったんだけどね?

 もしも、倒せていたとしたら。

 …………危うく、序章の段階で物語が破綻していたかもしれない。

 序章でとか、初っ端から躓き過ぎだよ!


 ですけど、困った。

 ですけど、どうしよう。

 森に再チャレンジする前に、アレがエリアボスだってわかったのは良かったんだけど……そもそも、メイちゃん達はあの狼を倒しに来た訳でして。

 これがメイ1人だけの挑戦だった、とかならまだ良いよ?

 メイの個人的な都合で挑戦を止めることが出来るもん。

 だけど今回は師匠のヴェニ君をはじめ、あの苦戦を共に潜り抜けたミヒャルトとスペードもいる訳でして。

 そして3人が3人とも、すっごくやる気ってところが。

 ……うん、厄介な。


 エリアボスってことは、当然ながら本来の展開ならリューク様達が倒す運命で。

 そんな地味に重要な位置付にある魔物を、私達が倒しちゃっても良いの――!?


 倒せる倒せない云々の前に、あの狼に関わることでまた誰かの運命が捻じ曲げられるんじゃないか。

 そんな不安が、メイちゃんの胸の奥で小さくとぐろを巻きました。

 まるで、蛇みたいに。





元々のゲームでの狼の動き

 大規模な群れを率いてアルジェント伯爵の令嬢が乗った馬車を襲撃 

 → それを受けて、現地の領主が討伐隊を結成。

 狼の数を減らし、ボスにも何とか手傷を負わせる。

 → 元々の縄張りから追い立てられ、体を休める場所とより大きな力を求めてノア様が封じられた森(リューク達の村の裏)に落ち延びる。

 → 深手を負って弱っていたところを、リューク様達御一行に遭遇して狩られる。


 令嬢への襲撃に居合わせる筈のなかったメイちゃん達が狼とエンカウントした結果、ゲームの中よりも深い傷を負わせています。

 だけどお嬢様が無傷で回収されたため、領主軍による討伐がゲームよりも温いものに。

 (本来は恋するご領主がお嬢様の傷ついた姿に怒髪天ついてスーパーな某宇宙人を彷彿とする苛烈さで狼を狩りまくった為、群れの規模は壊滅的に減っていた)

 弱体化はしているけれど、ゲームとは弱体化するにも違いが数点。

 手下狼の数 → ゲームよりかなり多い

 ボスの弱体化具合 → ゲームより弱っている

 ……総合的に見るとトントンなのかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ