2-1.将来の展望
メイちゃんたちが1歳年が上がりました。
メイちゃん→6歳
ミヒャルト、スペード→7歳
ヴェニ君→11歳
ふかく、ふかく。
私は今夜も、夢の奥底に潜り込む。
この手は見たいと思う前に夢を手繰り寄せ、引き寄せる。
無意識って、こわい。
私は今日も、自覚するよりも先に憧れた世界へと飛び込んだ。
夢の中で鮮明に再現することの出来る、『ゲーム』の映像を模した夢へと。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
夢の奥のおく。
ふかい、深い森の闇。
木々のはざまで梟が鳴くけれど、反響して声の出所はわからない。
そんな暗闇の夜を、男の子が歩いていた。
焦った、深刻そうな顔で。
思いつめた、心配そうな顔で。
男の子の後について歩く黒い毛皮のひとは闇の中に溶け込みそう。
だけど夜の中に消えようとはせず、先に歩く小さな背を見ている。
どことなく、心配そうな顔で。
白くてふさふさの、まるで膨らんだ毛糸玉みたいなおヒゲのお爺さん。
灰色のもっさりと分厚いローブからちらりと見える足をちょこちょこと動かして、男の子について行く。
手に持った樫の杖が、地面に突かれる度にこんこんと良い音を立てる。
それはまるで自分の存在を示すよう。
今にも呑まれそうに深い夜闇の中で、呑まれまいと自分を示すよう。
3人はとても急いでいる様子で。
男の子の駆け出しそうになる足は今にも躓きそうで。
見ているだけでも、はらはらとしてしまう。
だって男の子はまっすぐ、前だけを見ている。
脇目も振らず、前だけを。
――そんなにひとつのことに気を取られていたら、危ないよ?
だって夜の闇はあんなに真っ黒く深いんだもの。
その中に、何が潜んでいるかわからない…
今にも横手の茂みの中から、何かが襲ってきそう。
そんな恐怖を、感じずにはいられないのに。
そんなことには構っていられないといった感じで。
男の子は高々と掲げた松明の赤い光を、まるで盲信するように。
赤く照らされた道の先だけをひたすら求めていて。
そのまっすぐで強い眼差しは、男の子の強固な意志を感じさせた。
ただの頑固とも違う、真に迫る決意というものを。
――ああ、そうだよ。
男の子のあの様子は、だって仕方ない。
だって、あの夜の闇の向こうには………
男の子の幼馴染の女の子が、膝を抱えて蹲っている。
おうちに帰れないって、泣いているはずなんだもん。
早く迎えに行ってあげて?
慰めて、涙をとめてあげて?
きっと、夜の深い闇の中。
森の恐ろしい暗闇の中。
心細くて、不安で、怖い思いをしているはずだから。
『あなた』はいつだって、泣き虫さんの味方。
大粒の涙を流して泣いている人の、涙を止めにいくんだもの。
小さい子や女の子を、泣かないで済む様にしてあげられる人なんだもの。
泣いている子を、放っておけない。
優しいひと。
つよいひと。
思いやりのある、あたたかいひと。
――『主人公』がそんなひとだってこと、私は前から知っていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ふぁ…ぁぁあっ」
大きくお口を開けて、あくびをひとつ。
ねむー…。
「おはよう、メイちゃん。今日もおねぼうさんね」
「ママぁ、ミルクー」
「うふふ。メイちゃんの朝は一杯のミルクから始まるものね」
食卓の上、母がミルクをついでくれたジョッキが重々しい音を立てて存在を主張します。ちなみに中身は山羊ミルク。
「ミルクー!」
臭みがあるけど、意外に美味。
前世では身長ちっさめだったから、今生は長身の美女ってやつになってみたい。
そんな欲望から、毎朝のミルクが私の習慣です。
でも山羊乳って、身長伸びるのかなぁ?
そもそも牛乳で身長が伸びるのは迷信とか聞いたような気もするし…
悩ましいけれど、もしかしたら効果あるかもしれないし!
中々やめるにやめられない習慣と化しています。
「………マリ、流石に大ジョッキは飲ませすぎじゃないか?」
「あら? そうかしら?」
「一度にあんなにたくさん飲んだら、お腹壊さないか…?」
「パパー、メイ、丈夫な子だよー」
「いやいや、メイちゃん。まだ6歳だし無茶は駄目だ」
「パパ、しんぱいしょー」
「お父さんっていうのはね、心配症なものなんだ」
…なんか昔、そんな少女漫画が前世にあったような気がする。
まあ、うちの父はあの漫画のお父さんよりは普通だけど。
「ママ、パパ、あのねー」
「うん? どうした」
「メイね、ヴェニ君の弟子になったのー」
「え!?」
「あ、あら? あらあらあら???」
「だからねぇ、メイ、今日からヴェニ君に修行してもらうのー」
「メイちゃん、早まらないで!」
「そ、そうだね。考えなおそうか、メイちゃん」
「えー?」
どうも女の子に幻想を見ちゃってるらしい、両親。
私のことも女の子らしく育てたいと思っている思考が前々から透けていました。
そんな愛娘が、6歳の愛娘が。
いきなり、武術家の少年に弟子入り。
修業宣言発令!
…前々から、弟子入りする為に頑張っているのは知っていたでしょうに。
とうとう弟子入りに成功したと聞くや、特に父がおたおたしています。
「め、メイちゃん? どうして修行するのかな」
「メイ、強くなるの」
「どうして???」
「メイ、おっきくなったら 隠 密 になるのー!」
「「まだ諦めてなかった!?」」
子供とは押し並べて飽き性なもの。
口にしなくなったから、もう飽きて止めたモノと思っていたのかな?
ですが甘いです、父母よ。
今も変わらず、私の執念はめらめら燃えちゃってます。
前世で大好きだった、ゲームの生再現をこの目に焼き付ける為に!!
――今日の朝だって夢に見ちゃったし。
こうも夢に見て思い出したりするんだから、やっぱり今でも好きなんだよね。
夢に見るくらいに、生まれ変わっても覚えているくらいに、あのゲームが。
私、どんだけはまってたんだろう。
ここまでくると、現実として忘れるのは無理だと思うんだよね。
なのでメイちゃんの将来の夢『隠密』は今もって継続中です。
「…だからね、ヴェニ君! じゃなかった師匠! メイに師匠のその素晴らしい身のこなし、その極意を伝授してください!」
「朝っぱらから不穏な将来の目標語ってんじゃねーよ!」
いつもの…というか、毎度私がヴェニ君を襲撃していた森林公園にて。
私とミーヤちゃん、ペーちゃん、ヴェニ君は円になって座っていました。
今後の修行計画の具体的な予定を立てようと、話している最中。
ついでに、強くなりたい理由を聞いてもらおうと思ったんですよ。
そこで熱意のほど、将来の抱負を語ってみたんだけど。
そうしたらヴェニ君に頭を小突かれた。
あれー?
「将来の夢『隠密』ってなんだ、『隠密』って! 後ろ暗さ満点じゃねーか」
「メイ、悪い隠密にはならないよ。良い隠密になる! 尾行対象者に余計な横入りもしないし! 存在をちらりとも感じさせない、ストレス圧迫しない隠密だよ!」
「良い隠密ってどんな隠密だよ! 隠密に良いも悪いもねーよ! っつうか、尾行するって時点で犯罪だ。悪さに使うつもりなら、容赦なくデコピンすんぞ」
「えー…」
「あはは、メイちゃんってば。うちの母さんに捕まるぞ」
「あうー…ペーちゃんのママ?」
「ほら、うちの母さんって警備隊の総長だから」
けろっと語る、ペーちゃん。
…言われてみれば確かに、ペーちゃんのママはそんな感じの職業にひた走っているアマゾネスだったような気がします。
でも総長かぁ…いつ聞いても、警備隊じゃなくて暴走族を連想しちゃうなぁ。
でも警備隊総長の身内が目の前にいるとなると分が悪い。
ここはあまり強固に主張しちゃうと、目をつけられちゃうかも!
うん、気をつけなくっちゃ!
「うぅん、と。将来の夢は置いておいて」
「いや、置くなよ。捨てろ」
「ヴェニ君! じゃない師匠! 夢見るのは自由なのよ?」
「それが犯罪に関わらなければな!」
「あはは、師匠も頭固いなぁ。捕まらなければ犯罪者にはならないんだよ?」
「ミヒャルトはお前で怖いな、おい!? 思考が完全犯罪をもくろむ玄人の思考じゃねーか」
「やだな、師匠。玄人なんて…僕、犯罪歴も前科もなしだよ?」
「どうしてだろう…俺には「まだ捕まってないからカウントされていないだけで」って副音声が聞こえる……」
「信用ゼロだね、僕。ただの7歳児が補導されるような悪さ出来る訳ないのに。僕の罪科はこの毛並みみたいにまだ真っ白なんだよ?」
「そうとは言い切れない計り知れなさがミヒャルトにはあるけどな。毛色の白さで良い子だって決まるんなら、この場にいる全員が毛色白いじゃん」
「言われてみれば、確かにみんな白いねー?」
私は白い羊の獣人で、髪の毛の色も当然ながら白。
ミーヤちゃんは白猫の獣人で、ペーちゃんは青灰がかった白毛の狼獣人。
ついでにヴェニ君も髪色は綿毛みたいに真っ白です。
よくぞ揃いも揃って、みんな若白髪か…。
何だか揃えたみたいな偶然に感じられました。
【現時点での各レベル】
メイファリナ(メイ) Lv.5
HP45 MP3
攻撃力18 防御力13 敏捷30 幸運20
ミヒャルト Lv.4
HP30 MP3
攻撃力13 防御力7 敏捷29 幸運15
スペード Lv.4
HP40 MP1
攻撃力19 防御力15 敏捷25 幸運7
アルトヴェニスタ Lv.40
HP760 MP5
攻撃力480 防御力270 敏捷300 幸運35




