表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
10さい:『序章』 破壊の足音を聞きながら
138/164

11-5.今日から戦闘民族★好戦派




 何故かトーラス先生に教祖と呼ばれました。

 何故だろうねー?

 理由はともかく、そんな呼ばれ方したもんだから、仲間達の物言いたげな眼差しが、メッチャ痛いです☆


「「「………………」」」


 うん、ぐっさぐさ突き刺さるの……。


「お前……マジ、この村で何やった」

「それは黙秘するしかないかな」

「……『隣の家の男の子』に合わす顔がねぇっての、関連してねえだろうな」

「……」

「そこで顔逸らすなよ」


 どういった経緯で、メイが教祖と呼ばれるに至ったのか謎だけど。

 チラッとトーラス先生を見てみたら、


「…………」


 なんだかすっごい、期待の籠ったキラキラおめめがメイちゃんを見ていました。

 ……なんて言って良いのかわかんないけど、好意的に接してもらえているのは確か…………なの、かな?


 この時、私は気付いていませんでした。

 信仰の在り処はともかく、結果的に見るとメイちゃんってばセムレイヤ様の『巫女』っぽいナニかになってるんじゃないっかなー……ってことに。

 例えば夢を通じて(レベルアップ的な)託宣もらっちゃったり、とか。

 いや、メイちゃんから『ゲーム』っていう託宣を出しもしてるけど。

 遠く離れた場所にいるのに、いつでもどこでも神様から念話で話すことが可能で、意思の疎通に齟齬もなく。

 なんだかんだ……神様と繋がってるのは、確実で。

 …………あれ、メイちゃん、いつの間に転職したんだろ?


 客観的に見て、メイちゃんの存在は宗教的なナニかと勘違いされてもおかしくない。

 だけどだからってトーラス先生が『教祖』って呼んでくるのはおかしいよね。

 困った顔で、へにゃっと耳を垂れさせて。

 見上げる私に、トーラス先生は清らかな微笑みをくれました。


「教祖様、いや、メイファリナ殿。貴女は……リュークを信奉する新宗教の旗印じゃ、と。尊い御方より聞き及んでおりましたが……間違っておりましたかな?」


 うわ、否定し難い!

 あながち間違ってないような気がする!

 結局、メイちゃんは何も言えませんでした。

 否定も肯定も、何も言えないよ。

 むしろ何を言えって言うんだろ……。


 ヴェニ君達の疑惑の眼差しは、そのまま放置で。

 トーラス先生の『教祖様』呼びも、結局そのまま放置しました。

 まだ10歳のメイちゃんに、他にどうしろって言うの……!




 メイちゃんを『教祖』と認識してるから、かな。

 トーラス先生の説得は思いのほかあっさりと終了しました。

 なんか先生も狼魔物のことは気になってたんだって。

 広範囲攻撃の集団と火力に乏しい私達に同行してほしいってお願いしたら、ほとんど二つ返事だった。

 話が早いのは良いんだけど、何か複雑になっちゃうのは何故だろう。


「この森は小さく見えますが、目で外周を測るよりも実際に潜れば随分と深いことに驚かされましてな」

「へえ……磁場でも歪んでんのかね。確かに、いざ足を運んでみるとちょっと驚くな。思っていた以上に『深い』」


 深い。

 そうとしか言いようのない違和感が、この森にはある。

 感覚的なもので、他になんて表現すれば良いのか、ちょっとわからないけど。

 森に入る前と入った後じゃ、感じる印象がガラッと変わる。

 まるで騙し絵みたいな森。

 歩いてるだけで、なんか騙されてるみたいな気がしてくる。

 ともすれば、獣人の鋭敏な五感じゃ歩くだけで気持ち悪さを感じるくらい。

 流石はラストダンジョン手前の森……不気味さが半端ない。

 こんな森で幼少期を過ごしたら、そりゃ精神力も鍛えられるよね。

 ううん、精神力だけじゃなくって他の感覚も諸々鍛えられるかも。


 メイちゃんの脳裏に、リューク様のお顔と。

 それから何故か、パパの笑顔がキラッと浮かんだ。

 此処が、パパの子供時代の遊び場か……。


「この猪チビとの繋がりがよくわからんが……何にせよ、地元民の案内があるのは助かるな」

「ふぉふぉ……教祖様の頼みではお断り出来ませぬのう。しかし儂も『地元民』と呼ぶには新参者になるんかの。ここの村に住むようになって10年程になりますか。生粋の村人に比べれば、案内にもちと不安がありましてな。そこはご容赦いただきたい」


 好々爺然としたトーラス先生。

 でもその足取りは、老齢とは思えないくらいに矍鑠としています。

 ずるずる長くって、動き難そうなローブ姿なのにね。

 それでも欝蒼と茂る森の中、全く支障なく歩けるのは、身体能力が高いってことなのかな……うぅ、ステータスとか見えたら良いのに。

 

 森の中、狼を追跡して先頭を行くのはスペード。

 この面子の中じゃ探索能力が頭1つ飛び抜けてるから、スペードが先頭になるのはいつものこと。

 それからミヒャルト、メイちゃんと続いて、殿(しんがり)にヴェニ君とRPGで言うところのまんま後衛職に当たるトーラス先生。

 本当は森に地の利があるトーラス先生を前にやった方が良いのかもしれないけど、今日は向かう先で戦うことが前提だし。

 魔法使いのトーラス先生は、後方から時々指示を飛ばして道案内です。


「トーラス先生、このヤバげな色合いの茸って食べられる?」

「教祖様、その茸は……加熱すると、幻覚症状の含まれる煙を噴き出す毒茸ですぞ」

「トーラス先生、メイ、『教祖様』は止めてほしいかな……メイちゃんって呼んでほしいよ!」

「メイちゃん、その毒茸、僕にちょうだい? ちょっと研究してみたいから」

「……ミヒャルト、笑顔がすっごく妖しいね」


 とってもキラキラ良い笑顔をしているミヒャルトに、8個目の毒茸を譲渡しました。

 ……うん、着々と戦利品が増えているようで何よりだよ。

 ミヒャルトの笑顔が眩し過ぎて、ちょっと目を逸らしたくなっちゃう。


 こんな感じで、森に入った最初の方は割と平和に和気藹々とした雰囲気だったんだけど。

 それも長くは続かない。

 空気がガラリと変わったのは、森に入って30分もしない内だった。

 スペードが、『覚えのある臭い』を嗅ぎ取ったから。

 

 植物や動物だって、環境によって微妙に臭いは異なる。

 食べている物や、毎日の習慣、暮らしている環境、あと遺伝。

 そんな幾つもの差異が重なって、人だって同じ民族だろうと血の繋がりのある身内だろうと体臭は違ってくる。

 それと同じように、森によって動植物の臭いには特徴がある。

 ……というのが、スペードの主張なんだけど。

 私達にはちょっと同意し辛いかな、その主張!

 はっきり言って、嗅覚の優れた『狼獣人』のスペードだからこそわかる違いだと思う。

 同じ獣人で五感は人に比べて高い方だけど、私もミヒャルトもヴェニ君も、スペードの感覚は理解できない。

 同じ菫の花の匂いを嗅ぎ分けて、これはあっちの森、それはこっちの森、なんて摘んできた場所の判別なんて出来ないよ。

 うん、ペーちゃんは私達の知らない世界に生きてるんだね。

 獣人でも種類によって得意不得意が分かれるんだから、これは仕方ないと思う。 


 この森にスペードが足を踏み入れたのは初めてのこと。

 当然、この森でスペードが感じる『臭い』は、はじめましてのものばかり。

 その中で、はっきりと『知ってる臭い』だって断言出来るもの。

 そんな物、ひとつしかない。


 ――前に遭遇した、狼の魔物。


 セムレイヤ様にも確認したけれど、魔物は繁殖じゃなくって、その血肉を取り込んだ生物の肉体を侵食して『同一個体』に作り変えることで増える。

 侵食して、作り変える。

 他の生物の肉体を乗っ取り、『同一個体』にしてしまう。

 つまりは広い意味でいうと、魔物というのは1つの種類全てが『同一個体』の『分体』ということになる。

 簡単に言うなら、強制的に増殖したクローン体……みたいな感じかな。

 だから生息する環境や習慣でちょっとは違いが出てきたとしても。

 大元の……根本的な臭いは、同種の魔物で全て同じになる。

 そういうニオイの生物として、もう肉体が『完成』してしまっているから。


 スペードは勘が鋭いし、覚えがあるって言うんならそうなんだと思う。

 これは当たり、ってことだよね。

 

「……お前ら、覚悟を決めろ」

「何の覚悟かな、ヴェニ君」

「長時間耐久、つまりは消耗戦の覚悟な。あの狼共の物量忘れちゃいねーだろ?」

「うわぁー……疲れ果てても武器は捨てられないね」

「馬鹿が。疲れてなくても、野外で武器(エモノ)手放してんじゃねーよ。教育的指導すんぞ、こら」


 今回は、あんな……情けない戦いにはしない。

 私達の胸中には、同じ決意。

 特に醜態を晒したとは思わないけど。

 だけど前に狼魔物たちと戦った時に負傷したミヒャルトや、病院送りになったスペード、そしてそんな私達……弟子の監督的な?立場から責任を感じているらしいヴェニ君は。

 それに、あまり役に立てなかった私も。

 前よりもずっと成長したんだと自分で知らしめる為に、仲間達に認めさせてやるんだって負けん気も強く戦意を高められるだけ高めまくった。


 1人だけ、今回のみ参加者のトーラス先生を心情面で置いてきぼりにして。


「これは……若さ、なんじゃろうかのぅ」

 

 うん、周囲はテンションMAXなのに1人だけついていけないとか。

 なんか物凄く疎外感ありそうだよね。

 でも許して、トーラス先生。

 今日は好戦的にも程がある戦闘民族になるって、前々から決まっていたの!


 今日は、戦いまくります。


 もう誰が何頭潰したとか、競うことも出来ないくらいに。

 私達が力尽きるか、狼が殲滅されるまで戦いまくります。 

 そりゃもう、どこの蛮族かってくらいに。


「ふふ……獣の血が騒ぐね」

「おう。狩猟に長けた肉食動物の本領見せてやらぁ」

「僕だって、狩りは嫌いじゃない。猫も肉食動物だって思い知らせてあげるよ」

「負けないぜ、ミヒャルト。俺の方が活躍してやるさ」

「足を引っ張らないでよ、スペード。狼の本領は群れでの狩りでしょ。森林戦は猫の真価の見せどころだよ?」


 ……うんとね?

 肉食動物系獣人のミヒャルトとスペードが、血に飢えた獰猛な顔をするのはわかるよ?

 うん、わかる。

 だけどね?


「――確かに、獣の血が疼くな。チビ共、てめぇら熱気に浮かれて油断すんじゃねえぞ?」


 ヴェニ君、さ。

 メイの記憶違いじゃないなら……君、草食動物(ウサギさん)だったよね?

 その肉食動物2匹にも負けない、ワイルドな笑顔は何か間違ってる気がするよ……。

 




メイちゃん、草食動物(ひつじさん)な自分を棚上げ!

傍から見れば五十歩百歩。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ