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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
10さい:『序章』 破壊の足音を聞きながら
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11-4.教え、導くひと



 物語の始まりを告げるのは、リューク様(少年期)の日常から。

 いつものように師匠2人に修行をつけられて(戦闘チュートリアル1)、アッシュ君と喧嘩して(戦闘チュートリアル2)。

 簡単なお使いをしてお家に帰ると、イベントが発生する。

 幼馴染のエステラちゃんが、もう日も暮れるのにお家に帰って来ないことを、リューク様は耳にします。

 エステラちゃんの居場所に心当たりのあったリューク様が師匠2人とアッシュ君を連れて森を探索する。

 そこでエステラちゃんと合流したリューク様は、正体の知れない謎の男(セムレイヤさま)と遭遇する――それが、いつもの日常から悲劇へと移り変わる転換点。

 逆にいえばそこまでは日常で、状況さえ整えば普段から起こり得る事態。

 セムレイヤ様の調整次第で、『序章』はいつでも此方に都合のいいタイミングで始められるってこと!


 この夏、リューク様は既に12歳……いつでも『はじまり』の欠片はすぐ足下に転がっている……けど、その前に。

 メイちゃんの用事を済ませなくっちゃ。

 そう、狼退治です!

 待ってろ、巨狼……!

 速攻で片付けて、リューク様の冒険の開幕をしっかりじっくりつぶさに見守っちゃうよー!


「なあ、女将さん。俺ら狼被害の状況把握と、獲物の規模を確認するってぇ目的で偵察に派遣されて来たんだけどよ。最近、この辺りを騒がせてる狼の魔物について何か知らねぇか?」

「あ、あと狼の目撃情報について情報提供してくれた人について知りてぇな」

「おや、アンタ達……こんな若いのに、賞金稼ぎの見習いなのかい? あんまり向いてるようには見えないけどねぇ」


 という訳で、早速だけど情報収集です。

 悲しいけど見た目が可愛らしいお子様の集団でしかない私達は、賞金稼ぎだなんて言っても見縊られるのがオチだし。

 これでも凄腕なんだよー!?とか言っても信じてもらえる訳ないし。

 だからこういう、ちょっと遠出してメイちゃん達のことを知らない所に行く時は、偵察として情報収集の為に先遣させられた『見習い』を装うのが『いつもの手』です。

 はっきりと明言しないけど、なんかさも後からベテランの本隊が来るよー?みたいにうっすら勘違いさせるのがポイントかな!

 誰もそんなこと言ってないんだけどね!

 偵察に来たとは言ったけど、偵察しかしないとは言ってない。

 偵察後、事態の収拾(賞金首の確保)の為に動くことを言っていないだけです。

 というかこういう動き回る対象を相手に仕事するんだから、ちゃんと動く前に情報収集するのは当然だと思う。


 ただただ闇雲に、勘とかそういう不確かなものを根拠に追いかけても獲物は捕まえられない。

 それが特定の個体を狙ってのことなら、尚更のこと。

 事前に情報を集めて、行動の分析をして、大体の辺りを付けてから対策仕込んで初めて行動!

 これが賞金稼ぎの……ううん、『狩り』の基本だってヴェニ君は教えてくれました。

 これが熟練の狩人さんとかで、常に同じ狩り場で行動している場合だったら、長年の経験と勘で何とかなるだろうけど。

 メイ達はあくまで『賞金稼ぎ』。

 いつも同じ狩り場とは限らないし、狙った獲物も毎回違う。

 だから仕事に取り掛かる前の事前準備はとっても大事。


 賞金稼ぎの中にはそれを面倒がって、新米のひよっこを情報収集専任で飼殺す人もいる。

 メイちゃん達は若くて、しかも人に言わせれば『虫も殺せなさそうな、荒事には不向きに見える』外見らしいから……それと勘違いするのも仕方ないよね。うん。

 メイちゃん達の外見は、妙な説得力があるそうです。

 そんな私達のことを、人は『外見詐欺』と呼ぶ。

 メイに言わせれば、皆が勝手に外見で判勘違いしているだけだし。

 駆け出しの子飼いと勘違いされるのは不本意なんだけどね!


「賞金稼ぎって、荒っぽい乱暴者が多いだろう? アンタ達みたいな可愛い子に務まるのかい。……もしかして、悪い大人に上手いこと言いくるめられてこき使われてるんじゃないだろうね」


 メイちゃん達が、余程賞金稼ぎっぽく見えないのか。

 それとも子羊オーラで愛くるしく見えちゃっているのか。

 多くの人は、メイ達が賞金稼ぎの端くれだとわかると何くれとなくお世話したり、心配してくれたりします。

 そして大概の場合、大人に騙された被害者だと判断されます。

 ……うん、戦うのとか無理そうな可愛い子が、似合わない武器を持って「賞金稼ぎだよ!」とか言ったら、メイも心配になるかも。

 

「大丈夫だって、おばさん! 俺らの師匠はすっげぇ強いんだぜ。俺らのことも良く面倒見てくれっし、別に騙されてやしないから!」


 満面の笑顔で、素直さ全開のスペードが言いました。

 うん、スペードはおじちゃんおばちゃん達に好かれるタイプの元気っ子だと思う。


「とにかく何か情報があったら教えてくれない? 僕達も、早く仕事を終わらせられたら助かるから」

「そしたら師匠も褒めてくれるしな!」 

「アンタ達……なんて健気な良い子だよ。わかった、アンタ達がこの村にいる間、おばちゃんが協力してあげるからね! 仕事が終わって師匠んところに帰ったら言ってやんな。宿の女将が、『こんな良い子らを大切にしなかったら罰が当たる』って言ってたって」

「わあ、有難う。女将さん!」

「それでなんだったかね、狼の情報? ああ、そういや……」


 そして、とても協力的になってくれた女将さんが、いそいそと知っている限りの情報を提供してくれた訳だけど。

 ちなみに女将さんが伝言を頼んだ『師匠』は今、現在進行形でメイちゃんの隣に座ったまま、『金鶏亭』の特製シチューを黙々と口に運んでいます。味わうように目を細めて、堪能しているご様子。

 情報収集は、メイ達……というか主にミヒャルトに任せたっぽい。

 うん、誰も師匠が遠方にいるとは言ってないもんね。

 すぐ隣にいるとか、誰も言ってないもんね。

 嘘は言っていません、嘘は。

 ただ女将さんが勘違いしているだけです。

 誤解を解く必要もないし、ただ温情を有難く受け取るとしましょう。



 女将さんを筆頭に、何人かの村人(全て中年)に情報を提供してもらった結果、狼の存在は確定したようです。

 どうやらこの村の裏手に広がる森の奥に、ここ1年程で狼型の魔物が増えたとか。

 ボスらしい巨大な個体も確認されており、その額には……どうやらメイちゃんの元愛用の槍がぶっ刺さったままっぽい。

 ああ、うん……まだ抜けてなかったんだ。

 初心者(こども)向けの槍だったのに、思ったより頑丈だったのかな。

 古傷が痛むのか、ボスの動きはあまり活発ではないそうだけど……時折、狂ったように暴れることもある、と。

 一応、村の子供達に大人が言い含めてはいるみたいだけど……それでも子供にとって森は格好の遊び場だったらしく、大人の目を盗んで森に入る子もいるんだとか。

 今のままじゃ心配だから、と村人さん達は不安がっている様子でした。

 

 本当ならこういう村の危地に、ラムセス師匠やトーラス先生が立ち上がってもおかしくないんだけど……彼らの本分はリューク様の修行と保護です。

 リューク様を完全放置で森に討伐に、となると中々上手くはいかない様子。

 何しろ狼の数が馬鹿みたいに多いので、実力があっても少数で森の奥に入るには覚悟が必要だとか。

 ラムセス師匠が入るのを躊躇うくらいって、どんだけいるの。狼。

 それでも結構な数を既に減らしてくれてるらしいんだけど、減らす端から何故か増えているらしい。

 ……思い返してみれば、前もあの狼達の数はとんでもなかったけど。

 倒しても、倒しても。

 そういえばキリがなかった。

 多分それは、狼を集めて統率する『(ボス)』の存在が大きく影響していると思う。

 だったらやっぱり先にある程度の数を減らすとか、悠長な作戦を立てるんじゃなくて、(ボス)を潰して追い散らすなり残党狩りなりする方が建設的なのかなぁ。

 きっと群れの主軸となって統率する『頭』がいるからこそ、ここまで数が膨れ上がったんだと思うから。


 『頭』が大した力を持っていなかったら、きっと増えすぎて膨れ上がるにしても数に限界があった筈。

 狼の魔物も一匹一匹は雑魚でも、群れになって統率されると途端に強さが跳ね上がる。『個』よりも『全』となって集団の利を活かすのに長けた魔物だ。

 数が多いのに飽和しないとなると、難易度がどこまで跳ね上がるのか……ちょっとわからないや。


「……広範囲攻撃の手段が必要そうだな」

「ヴェニ君、それって魔法みたいな?」

「ばぁか、俺らに魔法は使えねえ。だったら他の手段しかねえだろ」

「というと、罠だね」

「うわ、ミヒャルトがメッチャ活き活きしてる!」

「ふふ……どこかに誘い出して、一網打尽。僕、そういうの嫌いじゃないよ」

「広範囲設置型の罠となると……発動の仕方にも工夫しねぇとなー。どの程度の重さに耐えられるのか、耐久実験もしねえと」

「スペード、てめぇも充分に活き活きしてやがるぜ……」


 罠で、一網打尽。

 むしろ魔法の使えない獣人が工夫するとなったら、それが妥当。

 相談するまでもなく方針が決定しちゃったみたいだけど。

 この村でなら(・・・・・・)、他の手段がなくはないんだけど……ちょっと、提案してみちゃおっか、な?


「ヴェニ君ヴェニ君」

「あ? どーした」

「メイ、この村でなら魔法使いの伝手があるんだけど。それも凄腕だよ! ね、ね、紹介しちゃう?」

「は!?」


 魔法使いで、それも凄い腕で。

 そう呼ばれる人は、ほんの一握りしかいない。

 魔法を使える人自体はいっぱいいるけど、魔法使い……『魔法の専門家』っていうのはそんなに多くない。

 その中でも凄腕。そう、凄腕だよ?


 何しろ、『ゲーム』の『メインキャラクター』だし。


 これがラムセス師匠だったら、アウトだけど。

 トーラス先生だったら紹介できないこともない。

 協力して☆ってお願いしたら、たぶん高確率で頷いてくれる気がする。

 なんてったって、私達、『リューク様の見守り(ストーカー)同盟』の同士だもん♪

 トーラス先生は同盟の名前知らないけどね!

 本人、同盟に入った自覚はないだろうけど、セムレイヤ様の御威光できっと何とでもなるよ!

 それに『序章』が終わったら本格的に加盟していただく予定なので、問題なし!

 ただ問題は、リューク様に気取られずにどう接触するかってことだけど……トーラス先生がリューク様から離れた隙を狙って接触すれば上手くいく気がする。

 

 『ゲーム』のシナリオで、火力は証明済み。

 そんな魔法使い、ちょっと狼退治に連れてってみましょーか。


 ……ってことで、隙を見て宿屋の部屋まで先生を拉致っちゃうことにしたんだけど。

 私の顔を見た途端、トーラス先生が叫んだ!


「――おお、なんと。教祖様! いつこの村においでで!?」

「めえっ!?」


 きょ、教祖???


 何故か出会い頭に行き成り、教祖様呼ばわりされました。

 え、メイ、教祖? 『教祖』!?

 何がどうなって、どんな経緯でそう呼ばれるに至ったの?

 トーラス先生……貴方の頭の中で、一体何が起こったの。




ちなみにクリスちゃんはまだ小さいので広範囲攻撃はできないらしい。


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