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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
幕間 9さい:友情クエスト
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10-12.見当違いな聖獣疑惑



 

 まだ生まれたばっかりだから、空気を読むとか出来なくっても無理ないし。

 ある程度の行動は、事前に私が読んで抑制する必要があったかな?

 そう思いはするけどね?

 

 まさか赤ちゃんなのに火を吹けるとか予想外です。


 いや、ドラゴンだってことはちゃんとわかってた。

 わかってたけど、ほら……外見が始祖鳥にしか見えなくて。

 そっちのイメージが強過ぎたんだと思う。

 当然予測しておくべきだったのに、外見の印象で頭っから可能性がスポーンっと抜け落ちていたみたい。


 その結果が、皆の目の前でドラゴンブレスというこの暴挙。

 お陰でクリスちゃんの正体に対する不可解度が急増中だよ……。


 メイちゃんの内心は、やべぇという言葉で埋め尽くされちゃいそう。

 顔面は冷汗でしっとり気味に潤っています。

 もう、この懸念で頭の中はいっぱいいっぱいだったと言って良い。

 だから、気付くのが遅れたんだけど。


 ベアーグミが、まだ御存命だったことに。


 その身体の大部分は、クリスちゃんのブレスで消滅していた。

 身を削る、って感じではなく本当に消滅していた。

 むしろぷるぷるのスライム部分が全部蒸発しちゃうような勢いで。

 そんな、中。

 本体はスライム部分なんだろうけれど……

 熊の目がブレスの勢いを見て、反応したとでも言うのか。


 体の大部分を失いながらも、頭部だけが存在を残していた。

 

 恐らくスライムとしての核を、保有して。


 だって核を失っていたら、もう滅んでいたはず。

 滅びていないってことは、核が熊頭の中に移動していたってこと。

 狂気を帯びた熊はガチガチと牙を鳴らし、だらだらと唾液を溢れさせ。

 まるで鬼火のように目を爛々と輝かせ……


 私は腕にそこそこ大きさのあるクリスちゃんを抱えていて。

 いきなり視界から消失したベアーグミのことも見失っていて。

 足下への注意が疎かになっていた。

 腕に抱えたクリスちゃんが、大きな死角を作り出していたから。

 

 ガチガチ、ガチガチ。

 噛み鳴らされる牙の音に気付くのが、ほんの僅かに遅くって。

 

 私の注意が向くよりも早く。

 ベアーグミ(頭)が、足元の近距離から私に牙を向ける。

 体を失いつつも、スライムとしての特性か。

 独特の弾性を感じさせる動きで、首だけだろうと飛びかかって来た。


 だけど私が気付いていなくても、傍から見ていた皆様と……

 それと、クリスちゃんは気付いていたみたいで。


 反応の遅れた私が、何をするよりも早く。

 まるで無造作に後片付けでもするような軽さで。


 クリスちゃんが私の腕の中から、追撃を発動させた。


「きゅわあ~!」


 愛らしい余韻を残して、響く子竜の声。

 キラキラと輝きを帯びたかのような、不思議な抑揚が聞こえる。

 そんなクリスちゃんの声と、一緒に。

 熊の頭にキラキラと……明らかに視認可能な、謎の輝きが降り注いだ。

 キラキラ、キラキラ。

 まるで万華鏡の中身をぶちまけたみたい。


「ぎゃあああああああああああああああああああっ」


 綺麗な光を浴びた熊の頭から、断末魔の叫びが上がる。

 うん、綺麗な光景が台無しだった。

 見れば熊の頭は、削れるでも溶けるでも、抉れるでもなく。

 文字通り、光を浴びる端から『消滅』していく。

 まるで消しゴムで消されていく落書きみたいに。

 割と無残な最後です。


 後には何の痕跡も残さず、ベアーグミは滅んだ。

 文字通りの意味で、滅された。


 その光景を見ていた全員が、無言で動きを止めていた。

 何とも言い難い沈黙が広がってるんだけど……何この沈黙!?

 腕に抱えたクリスちゃんの危険度が、ぐんぐん上がっている気がする。

 やがて茫然とした口調で、ぼそりと呟く声が聞こえた。

 それはこの場で最も戦闘に関しては経験豊富な、ヴェニ君の声で。


「今のは……救術?」


 唖然とした声が、にわかに信じ難いと心情を滲ませていました。

 ああ、そう言えばヴェニ君……前にスペードに付き合って浄化される光景を間近にじっくり見てるよね?

 その記憶を刺激する何かが、今のクリスちゃんの行動にあった……ってこと?


「神様への信仰を源とする、救術……ですか」

「薬師のおっさん、アンタも見たことくらいあるだろ? 経験の浅いチビ共とは違って、長く生きてりゃ」

「私はまだ42歳です」

「40年以上生きてんなら、それなりに見てんだろ」

「……確かに先程の光は、神の御威光を感じました」

「魔物は魔力を使うヤツもいるが……神の信仰を力にするヤツはいねぇ。そこは、絶対だ」

「ということは……」


 あれ?

 あれあれ、あれ?

 何やら深刻な、なんだか訳知り顔で顔を突き付け合わせるヴェニ君と薬師のおじさん。

 だけど会話の内容は、断片的に考えたとしても……なんだか、私やクリスちゃんにとって都合の良い展開に傾いているような!

 そんな気が、する訳なんだけど!

 え、これって良い方向に進んでる!?


 先程のクリスちゃんの一撃が、神の力を帯びていた?

 そりゃ神様の端くれなんだから、そんな芸当が出来ても当然だけど。

 それを知らないからこそ、ヴェニ君達は何かを深く勘繰っていて……

 

 取敢えず魔物疑惑だけはさっきの熊頭と一緒に消滅したっぽい。


 引き換えに、ヴェニ君達の知識と照らし合わされた結果、何やらおかしな『予測』が飛び出したけど。


「もしかして、このと……とり……鳥? とり、は、……古代神ノア様の御使いじゃ!?」

「それってつまり、聖獣【不死鳥(フェニックス)】のことか!!」


 Oh……何故そこに行き着いた。


 いや、ヴェニ君達の発想がそこ(・・)に行きついても、別におかしくはない。

 おかしくはないんだけどね……?

 でも真実(・・)を知るメイちゃんとしては……事実との大きな隔たりに、思わず脱力して頭を近くの木に打ちつけそうになっちゃったよ!


 古代神ノア様……神々の戦争の発端であり、セムレイヤ様と最後にガチなタイマンで敗北を喫した、かつての最高神。

 神々の世界で最上位に位置した神様だけに、セムレイヤ様に倒されながらも滅ぶことはなく。

 セムレイヤ様も滅ぼしきることは出来ずに、力を奪って地上に封印するのが限界だったっていう凄い神様。


 そんな凄い神様の象徴とされるものは、鳥。

 ノア様が殊の外愛した生物が鳥だったとされています。

 だからこそ地上で最も美しいとされた鳥を天界に召し上げ、【聖獣】の位を与えて己の御使いにしたんだとか。

 神に比べると劣るけど、地上のどんな生き物よりも神聖な存在として強い力を持つ。

 戦争の果てに神々が姿を消していっても、【聖獣】自体は地上で生き延びた。

 彼らは人の足が届かぬ地上の【聖地】で、今でも自分達の主……古代神ノア様が復活するのを、ひっそり待ち続けているんだとか。


 ……と、そんな話を私も聞いたことがあります。


 というか『ゲーム』で見ました。

 

 実物のヴィジュアルを知ってるだけに、クリスちゃんとの差異がクリティカルで私の腹筋を襲います。

 似てないよ。

 全然、似てないから……!


 私の腕の中にいるのは、鱗の代わりに羽毛を生やした真っ白ドラゴン(小)。

 鳥に見えなくもないけど、やっぱり姿のベースは爬虫類系。

 鳥の祖先は恐竜だっていうから、似てないこともなさそうだけど。

 いざ実際に2つの存在を見較べると、あまりに違って腹筋が痙攣します。


 だけど聖獣は【聖】と名に付く通り、神様方には及ばないものの聖なる力を使いこなす。

 神様から救術という手段を与えられた人々を例外として除けば、神々に通じる力を行使できるのは聖獣くらい。

 だから、さっきのクリスちゃんの攻撃を……明らかに神聖なナニかを感じさせたアレを、聖獣の力と誤解したんだろーね。


 ぶっちゃけ『神の端くれ』クリスちゃんの方が、赤ちゃんでも格としては聖獣より上じゃないかな。

 神々の戦争以来、誰も直接見たことがないとされる聖獣の力量なんて、ヴェニ君達が知る由もないから勘違いするのも仕方ないけど。


 今はこの勘違い、メイちゃん達にとって好都合も好都合だよね?

 この勘違いを、正さずにおいた方が遙かにお得です。

 だってそうしておけば、魔物疑惑だけは綺麗に払拭できるんだもん。

 多少有難い生物と勘違いされている方がまだマシじゃないかな。

 少なくとも危険な生物って思われることはなくなるよ……!


「おい、メイ」

「めっ? なぁに、ヴェニ君!」

「そのとり……鳥、の、親は?」

「知らないよ?」

「おい。どっから攫ってきた!」

「攫ったんじゃないもん。拾ったの!」

「何処でだよ、何処で」

「この森? クリスちゃんは拾った時、1人きりだったよー」

「あ、頭が痛ぇ……」

「大丈夫だよ、ヴェニ君! 親らしき姿は…………特に、気にならなかったから」

「おい、今の間と微妙な含みのある言い回しはなんだ」

「クリスちゃんも納得して一緒にいてくれてるから大丈夫だよ!」

「不安しかねぇよ!!」


 あ、ヴェニ君が頭抱えちゃった。


「どうすんだよ、こんなん……問題にしかなんねぇだろ。救術っぽい何かを使う、得体の知れねぇナニかとか。親とか捜しに来たらどーすんだよ」

「その時はその時だよね!」

「黙れ、馬鹿チビ」


 何にしても、こんな生物は騒ぎの元だとヴェニ君が頭を抱えます。

 魔物じゃないってことは認めてくれたけどね!

 でも聖獣(笑)かもしれないって疑惑があれば、それだけで大騒ぎ。

 億足に過ぎないことだし、クリスちゃんの能力の詳細や疑惑に関しては黙っておこうってことで話が纏まりました。


 実質、一緒にいることは黙認してくれるってことだよね!


「わぁい、ヴェニ君から許可出たー!」

「きゅぅい、きゅ!」

「出してねぇ!!」


 これからも、セムレイヤ様からお迎えが来るまではずっと一緒だよ、クリスちゃん!

 こうして私は、新しいお友達を無事に手に入れたのでした。

 まだまだ、おうちのパパとママを説得するっていう試練が残ってたけどね!

 魔物疑惑を払拭する為の後押しを、師匠や幼馴染も引きずり込んでお願いしようと思います。



 幼竜、クリス。

 本来であれば規定された『運命』に存在しなかった筈の竜。

 母親の懐奥深くで守られたまま、生まれる筈がなかった。

 メイちゃんの望む将来(ストーカー)へと至る一助となるべく、彼女はこの世に生まれ落ちた。メイちゃんが、そうさせた。

 この幼い竜の誕生が、小さな羊娘が知らず運命に干渉した結果であり……羊娘の未来をまた一歩、彼女の望むモノへと近づけた。

 まだ確定は、していないとしても




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