1-11.勝利のポーズ♪
「ヴェニ君、つーかまーえたー♪」
私はとっても上機嫌♪
同じ言葉を何回も繰り返して、ヴェニ君に嫌そうな顔をさせています。
ちゃっかり自分だけヴェニ君を犠牲に投網から退避していたミーヤちゃん。
彼と、投網で捕獲に大きく貢献してくれたペーちゃんが祝福してくれます。
「おめでとう、メイちゃん!」
「やったな、メイちゃん!」
「2人ともありがとー!」
いえぃ♪
喜びを表すのに、言葉だけじゃとっても足りない!
私は両手を上げて構えてくれたミーヤちゃん、ペーちゃんとハイタッチ。
良い音を立てて、手の平に感じる衝撃が心地良い。
「2人が、特にミーヤちゃんがいなかったら、ヴェニ君捕まえられなかったよ!」
「メイちゃんだって頑張ったよ」
「でも、ま、今日のヒーローはミヒャルトだよなぁ」
「うんうん!」
「やだな、照れるからやめてよ。2人とも」
「それでもミーヤちゃんのお陰!」
「よし、それじゃ今日はミヒャルトがセンターな」
「うんうん、大賛成!」
「本当、照れちゃうなぁ…悪い気はしないけど」
ということで――
「「せーのっ」」
私とペーちゃんはミーヤちゃんを真ん中に置いて、声揃わせて!
「「「勝利のポーズ!」」」
瞬間、私とミーヤちゃん、ペーちゃんは声のタイミングに合わせて思い思いのポーズをビシリと決めました。
ちょっとちぐはぐ感はするけれど、それでも息はぴったり!
傍目のバランスだって、そこまで悪くないと思うよ?
ちなみに男の子の遊びの定番『英雄ごっこ』に戦隊ヒーローの要素をぶち込んだのは、勿論私です。
…うん、私って子供時代を満喫していると思います。
我ながらとても良い空気を吸っていました。
一頻りきゃいきゃいと、3人ではしゃぎ倒して。
そんな私をにこにこと見守るソフィアおばさん。
てちてちと顔を洗ったり丸まったり、くつろぐ犬たち。
「………それで?」
そんな中、投網の中から剣呑な声。
くりっと3人振り向くと、そこには網に囚われたままのヴェニ君。
見るからにじっとりとした眼差しが、私達に注がれていました。
「これどういうことか、そろそろ種明かししてくんない?」
「種明かしって、何がわからないのかな」
「――とりあえず、ソフィアさんもグルか?」
「うん」
ひくっと、ヴェニ君の口元が引き攣りました。
ミーヤちゃん、あっさり肯定し過ぎだよ!
「むしろどう考えても共犯じゃない。これで無関係はないよね」
「お、おまえ…」
「ふふ、ヴェニ君? いつもみたいに『みーちゃん』って呼ぶのは勘弁ね?」
「………~~~~~っ!!」
「ちなみに協力提供、ソフィア伯母さん☆」
「ごめんね、ヴェニ君。改めましてみーちゃんの母方の伯母、ソフィアです」
「な、ななな、な…っ」
言葉にならないという様子で、ヴェニ君が口をぱくぱくさせています。
うん、無理もないよね…。
私も最初に紹介された時、ソフィアおばさんがミーヤちゃんの伯母だとは全然思いませんでした。
だってソフィアさん、獣人じゃなくて人間だし…。
ミーヤちゃんのご両親は、どちらも猫の獣人です。
なのに伯母さんは人間とは、これ如何に。
種明かしは簡単です。
ソフィアおばさん、ミーヤちゃんの伯父さんのお嫁さんなんだって!
「あー………っ」
悶える様に呻く、ヴェニ君。
手足が自由だったら、きっと頭をかきむしっていたと思います。
やがて諦めたのか、疲れたのか。
ヴェニ君は深い溜息をついて、がっくりと肩を落としました。
でもそれで、全てに納得がいったわけでもないみたい。
今度はぎらりとペーちゃんに責めるような目を向けました。
「………それじゃ、そっちの犬どもは?」
「ん? ああ、こいつら?」
あ、それは私も気になる!
先ほど狼に変じていたペーちゃんが率いていたのは、20匹以上の犬たち。
ペーちゃんが獣化を解いてから、ずっと各々まったり寛いでいます。
でもペーちゃん、そのわんわん達…どっから連れて来たの?
あの一際大きいハスキー犬なんて、お隣さん家のエリザぺスじゃん。
犬の中には、よく見たら近所の飼い犬も混ざっていました。
「お前らー……集合!」
ぴゅいっと。
ペーちゃんが指笛を吹くと、犬20匹ちょいが途端にビシッと整列しました。
お、おお…抜かりなく躾けられている。
その中でも先頭に並んでいる3匹の子犬に、ペーちゃんが呆れた目を向けます。
「…お前ら、良い加減に獣化とけよ」
「あ、うん!」
「わん!」
「………ハート、ことばことば! 人の言葉わすれた!?」
「わ、忘れてないよ!」
…あ、成程。
うん、3匹の正体…わかっちゃった。
ペーちゃんに促されて子犬から人の姿に変じたのは、イヌちゃん家のご兄弟。
ペーちゃんの四つ子の兄弟くん達です。
「あれ? 双子の弟ちゃんたちは?」
「あいつ等、まだ獣姿になれねぇから留守番ー」
「そうなの?」
「…メイちゃんだって知ってるじゃん。獣化ってとっても大変なの」
「そういえばメイ、やり方わかんないや」
「わからないってことは出来ないってことだろ?」
「そっか、そんなに大変なの」
………良かった!
メイ、獣人なのに獣姿になれないからどっかおかしいのかと思ってました!
もしくは前世がただの人間だった弊害かと!
最近、ミーヤちゃんやペーちゃんがひょいひょい獣姿になるので、同じくらいの年頃なのに羊になれないメイは落ちこぼれかと思い悩むところでしたよ。
でもペーちゃんの物言いを見るに、どうも私くらいの年頃で出来ないのはおかしい事じゃなさそう…なのかな? ん? ミーヤちゃんもペーちゃん兄弟も簡単に化けるから、なんか基準がよくわかんないや…。
こてんと首を傾げて悩んじゃいます。
そんな私の悩みに、トドメを刺してくれたのはヴェニ君でした。
ヴェニ君はやっぱり呆れたまんまの顔で…
「………ったく。まさかその年で【完全獣化】が出来るチビがいるなんてな。獣人が獣性の支配を覚えるのは20歳頃ってのが定説じゃねーのかよ」
「ふふふー…これが今回の計画の要だったからね!」
「おお、今でも思い出したくねぇ悪夢だ………俺もミヒャルトも、母さん達にしごいてもらって、必死こいて出来る様になったからな」
「そうそう、スペードが余計なこと母さんに頼むから、俺らまで一緒にしごかれることになったしな!」
「巻き添えくらって、とんだとばっちりだよ」
「一生恨むぜ、スペード!」
「だーっ!! うっせぇな、この駄犬ども! お前らだって楽しそうだから参加したいとか言ってたじゃん。俺のせいだけじゃないだろ!」
「なんだよー! 俺らが駄犬なら、スペードなんて駄狼じゃん、この駄狼ー!」
「馬鹿狼ー!」
「色ぼけ狼! ふられちゃえ!」
「うっせぇっ 噛み砕くぞ馬鹿犬共!」
わー…相変わらず、ペーちゃんとこは兄弟仲良いなぁ。
メイは一人っ子だから、ちょっと羨ましくなってきちゃった。
狼と犬のご兄弟はあぐあぐ互いに甘噛みしたり手を引っ張ったり。
そんな光景を目にすると、思わず和みます。
ミーヤちゃんも嘲わr…微笑ましげに、兄弟喧嘩をほのぼのと眺めています。
だけどヴェニ君は逆に荒みきった表情をしていました。
「…それで? 犬どもの先頭引張ってたのがお前ら兄弟ってこたわかった。
それじゃそっちの他の犬どもは?」
「あ、この大きいのはうちの飼い犬な。アングロサクソン!」
「わふっ」
「アングロサクソン? なにそれ名前?」
「それで他の犬はご近所さんの犬を片っ端から…」
「おい、無視か? アングロサクソンに関しちゃスルーなのか?」
「…片っ端から、俺ら兄弟で個別に喧嘩吹っかけまくって雌雄を決し、軍門に下した舎弟どもな!」
「お前ら、ご近所の飼い犬に何やってんの!?」
「ペーちゃん、苦情来るよ、苦情!」
「大丈夫! 犬社会に関してならうちの一家無敵の信頼勝ち取ってるから! アルイヌさん家のことならってご近所さん達も首を傾げながら納得してくれたし!」
「首傾げてる時点で納得してないよな!?」
「がちゃがちゃ言ってる家もあったけど、母さんが黙殺してくれたから万事OK!」
「それ全然OKじゃねーよ!?」
ペーちゃんママ………あの狼の気迫で、文句の全てを封殺したんだろうなぁ。
あの大迫力なママさんに面と向かって苦情を申し立てられる猛者は、なかなかいないと思います。特にそれが、一般人なら。
その職業が職業だし、警備隊にも訴えられないしね。
泣き寝入りしただろうご近所の誰かを思うと、ちょっと切なくなりました。
結局、用意周到な罠(準備期間半年)にはまってしまったことを認めざる得ない、ヴェニ君(未だ投網の中)。
今回は私達の作戦勝ちだけど、ヴェニ君の判定はどうなるのかな?
約束した時は、ただ捕まえてみせろとしか言われていないはずだけど…
「ヴェニ君、ヴェニ君! 約束だよね、約束だもんね?」
「………っつうか、あれどうよ」
「でもヴェニ君、1人で頑張んなきゃだめとは言わなかったよ!」
「ああ…その辺、そういや決めてなかったな」
「うん、だから今更だめとは言わないよね! だって、1年あったんだよ?
その間にだめって言わなかったんだもん」
「あー…もう…………仕方ねぇなぁ……わかった。わかったよ!」
「本当っ?」
「約束は約束だ! 良いって言ったのは俺なんだ。義理は守る」
「や………っ」
「や?」
「やったやったやっっっっっっっったぁぁぁああああああっ!!」
私は喜びのあまり、昂った感情に叫ばずにはいられませんでした。
気分が高揚しまくっていたので全然気になりませんでしたが、我ながらキィィ…ンっと耳鳴りがします。
本当に全然、気にならなかったけどね!
「ぐぅっ……み、耳に響く!」
私は耳を押さえて悶絶するヴェニ君…いやさ『師匠』に飛びつきました!
まだ、投網の中に閉じ込めたままだったけどね!
「ヴェニ君ヴェニ君、ううん、師匠! これからずっとずっとよろしくね!」
「ああ、くそっ…二言はねえ! よろしくしごいてやらぁ!」
「僕からもよろしくね、師匠! その手腕、期待してるよ」
「ああ、そうだな。俺のこともよろしく、師匠! これからの毎日が楽しみだぜ」
「――ちょっと待て」
わあ、我に続けーっとばかりに。
便乗するタイミングで、私に続いてヴェニ君にしがみつくミーヤちゃん達。
その口から飛び出した驚異の台詞(初耳)に、ヴェニ君の顔から苦虫を潰したような表情が抜け落ちました。
「お前ら、なんつった?」
「うん? だからよろしくだってば。師匠」
「そうだそうだ、耳が遠くなるには早いぜ。師匠」
「誰がお前らの師匠だ、誰が!?」
「「アルトヴェニスタ・クレイドルさんが」」
2人の声は、タイミングを計ったようにぴったり同じ調子で放たれました。
ヴェニ君の顔が、盛大に引き攣ります。
「………俺の空耳じゃねぇよなぁ? どういうことだ、あ?」
「いやいや、どういうことも何もねぇって。な、ミヒャルト」
「そうだよ。ね、スペード」
「おいこらチビども。どういうことかお兄さんに詳しく説明してみろ。あ?」
「だって師匠、自分を捕まえられたら弟子にするって言ったじゃん」
「誰が師匠だ、おい。お前らに言った記憶ねーんだけど」
「でも師匠、メイちゃんしか弟子にしないとは言わなかったよね?」
「一体どこで聞いてた、お前ら。お前らには言ってねえし適用外だろ」
「え、師匠………メイちゃんしか弟子にしないの?」
「やらしい! 不潔! メイちゃん逃げてー!」
「潰すぞチビ共」
「でも実際さ、ヴェニ君を捕まえるのに僕らすっごい貢献したよ」
「あうー…それを言われるとメイ、何も言えないからヴェニ君の擁護はできないや。最初からするつもりないけど」
「おいこら、そこ、弟子!」
「この2人を説き伏せるの、すっごい大変だと思うけど頑張ってね」
「弟子に取った初っ端から師匠見捨てやがった、こいつ!」
「だけどヴェニ君を捕まえたのは俺ら3人力合わせてなんだから、俺らにも平等に権利は与えられてしかるべきだよな」
「そうだよね。それなのにメイちゃんしか弟子と認めないのは…不公平だよね。公平性の欠片もないぞって盛大にごねちゃおうか」
「こいつら話に整合性通ってて性質悪ぃ!!」
向こうに理がある場合、この2人に言い聞かせるのは本当に厄介で面倒です。
幼馴染みの私でも一苦労…というか、言い聞かせられないことの方が多いし。
………私の方が精神年齢上なんだけどな。
そんな相手に、大人びていても10歳児のヴェニ君が対抗できるかといえば………
勿論、そんな訳もなく。
最終的に言い負かされたのはどっちか考えるまでもありません。
結局この日、ヴェニ君は弟子入り希望者の要求を突っぱねることも出来ず。
1日で一気に、ヴェニ君には3人の弟子が出来たのでした。
ストーカー被害者が仲間(師匠)になった!
アルトヴェニスタ(Lv.40)
職業:戦士
HP760 MP5
攻撃力480 防御力270 敏捷300 幸運35
第1章5歳編はここまで。
第2章の投稿は1日あけて12/10になります。